コラム
行政書士の相談対応で説明が苦手な人へ【行政書士×開業×AI】
Q:行政書士の相談対応で、何をどこまで・どの粒度で・どの順序で説明すればよいか分からず、口頭だけで終わってしまいます。文書・資料も用意したいのですが、どこから整えるべきでしょうか?
A: 一般的には、説明(提案)を「情報の整理+判断の提示」と捉え、口頭は補足、文書・資料で認識をそろえる形にすると安定しやすいように思われます。どこか1つでも認識が抜けたり食い違うと、あとから不安や迷いが戻りやすくなります。難語を日常語に置き換え、比較の枠を作り、抜け漏れをなくすところから始めてはいかがでしょうか。
開業当初の私は、相談対応で「口頭で丁寧に説明すれば伝わるはず」と考えていました。ところが実際には、話す量が増えるほど論点が散ってしまい、相談者から「結局、何をすればいいんでしたっけ?」と聞かれる場面が何度もありました。
いま振り返ると、課題は話し方というより、判断の根拠と次の一手が文書・資料として見える形になっていなかったことでした。相談者が知りたいのは制度の言い回しではなく、自分の状況で「要点は何か」「根拠は何か」「選べる道はどれか」「次に何をすればよいか」です。
この"説明(提案)の型"を毎回口頭だけで組み立てるのは負荷が高いです。そこで本記事では、まず直すべきポイントを絞って整理し、あわせてAIを利用するならどこが補助に向くかも、ご紹介します。
説明(提案)は「情報の整理+判断の提示」をセットで
説明不足は「喋りの下手さ」より「判断の根拠が文書化されていないこと」で起きやすい
相談対応で困りやすいのは、言い方の問題というより、判断の根拠が相談者に見えないことが原因になっているケースです。私も当初は制度を丁寧に話せば伝わると思っていましたが、制度説明が増えるほど、相談者が欲しい「結論と理由」が見えにくくなりました。
相談者が知りたいのは「何が要点で、何を根拠に、どう判断するか」
行政書士の説明(提案)の価値は、情報をたくさん並べることではなく、相談者の状況に合わせて「こう考えるとよい」という判断を示す点ではないでしょうか。ここで大事なのは、断定することではなく、選択肢を並べたうえで、おすすめ案まで添えられると良いと思います。
口頭は補足、文書・資料は共通認識と持ち帰り検討の土台
口頭は相手の反応を見ながら補足できるのが強みです。一方、文書・資料は認識をそろえて固定するのが得意です。
どこか1つでも認識が抜けたり、前提が食い違ったりすると、相談後に不安や迷いが戻りやすくなります。だからこそ、文書・資料で「要点・根拠・次の一手」を残す意味があります。
説明(提案)は2段階で進めてみては
第1段階:前提と状況をそろえる(要点の整理と確認)
最初にやるべきは、情報を増やすことよりも、前提をそろえることです。
「目的」「いまの状況」「制約(期限・予算・体制など)」を先に整理できると、後の説明が短くなり、認識のズレも減らしやすくなります。
第2段階:判断を比較できる形で提示する(選択肢+範囲+費用+時間軸+リスク)
比較できる形にするとは、「できる/できない」だけで終わらせないことです。
実務では「早いが追加の動きが増える」「時間はかかるが安心」など、判断が1本ではない場面がよくあります。そこで、選択肢を提示するときは、範囲・費用・時間軸・リスクをワンセットで並べます。
第2段階では「スピード・確実性・コスト」の優先順位を相談者とすり合わせる
相談者が迷うのは「全部ほしいけど決められない」状態のときです。
先に優先順位を確認すると、相談者は自分の基準で選びやすくなり、認識もそろえやすくなります。
「三すくみ(全部は同時に最大化しにくい)」を資料で提示
"できないこと"を伝えるのは負担が大きいです。そこで、三すくみを見せて終わらせず、「今の状況なら、このバランスがおすすめです」までセットで示すのがポイントです。
相談者は白紙から悩むのではなく、「提示された案を選ぶ・少し直す」だけで済みやすくなります。
※全部を同時に最大化しにくい前提を共有し、現状に合うおすすめ案を提示します。
最後に、次の行動を合意する(必要資料・期限・連絡方針を文書で明確化)
受任につながりやすいのは、ここだと感じています。納得しても次の一手が曖昧だと、検討が止まりやすくなります。
「必要資料」「期限」「連絡方針」を文書でまとめ、相談者が迷わず動ける形にします。
口頭だけより資料を併用した方がよい3つの理由
理由①「口頭だけ=助手席から口頭指示」「資料併用=カーナビを一緒に見る」という違いがあります
口頭だけの説明は、助手席から道順を口頭で言われるようなものです。聞き漏れや勘違いが起きやすく、相談者は不安になりがちです。
資料を併用するのは、カーナビの画面を一緒に見ながら進む感覚です。いまどこで、次に何をするかが見えるので、認識がそろいやすくなります。
理由②相談者が持ち帰って検討・共有でき、意思決定が進みやすくなります
「いったん考えます」は自然です。問題は、そのとき手元に材料が残らないことです。
文書・資料があれば、家族や社内と共有しやすくなり、検討が続きやすくなります。
理由③受任のクローズに必要な「根拠」と「手順」を文書で残せます(実績が少ない時期の安心材料にもなり得ます)
開業前後は実績やクチコミが十分でない時期も珍しくありません。そうした時期でも、判断の根拠と手順が整理された文書・資料は、安心材料になり得ます。
「任せた後の流れが見える」「準備ができている」と感じてもらいやすいからです。
説明が苦手な人ほど、1〜3章はAIで補うと4つの効果が出やすいです
まず比較表で全体像を見せる
まず違いを見える化します。AIは"時短"だけで終わらせず、相談者の検討が前に進む状態を作れるか、という観点で捉えると使いどころが明確になります。
| 比較項目 | 従来(口頭・メモ) | AI+資料併用(本提案) |
|---|---|---|
| 情報の伝達 | 口頭中心で不安が残りやすい | 見ながら確認でき、安心しやすい |
| 準備の再現性 | その場で悩みやすく、ぶれやすい | 骨格を整えやすく、一定以上に寄せやすい |
| 相談後の検討 | 記憶頼りになりやすい | 文書・資料が残り、共有・検討が続きやすい |
| 受任への距離 | 「検討します」で止まりやすい | 次の行動(資料準備など)へ移りやすい場合がある |
| 価格の印象 | 「高い」と感じられやすい | 整理の手間が見え、納得感が伝わりやすい場合がある |
効果①「何を・どこまで・どの粒度で・どの順序で」を整理
説明が苦手なときほど、論点が頭の中で混ざりやすいです。
AIは論点の整理や並べ替えが得意なので、骨格づくりの補助に向きます。結果として、話が散りにくくなり、認識もそろえやすくなります。
効果②行政の手引き等(難語)を、相談者の悩み(日常語)へ置換
説明が難しくなる原因の1つは、制度の言い回しをそのまま出してしまうことです。
AIはここでいう"翻訳"に向いています。つまり、行政の手引き等(難語)を、相談者の悩み(日常語)へ置換することです。目安として難語を半分程度に減らす意識を持つと、伝わり方が変わりやすくなります。
効果③1枚(1スライド)1メッセージの「伝わる資料」へ変換
資料作成が苦手な方ほど「1枚に全部入れる」→「結局読まれない」となりがちです。
AIは、情報を削って"1枚1メッセージ"へ寄せる作業の補助になります。
(概念図のイメージ:1枚1メッセージ)
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「1枚1メッセージ」の概念図
相談者は、長い説明よりも見取り図がある方が安心しやすいです。
概念図は「何を決めるか」「次に何をするか」も示せるので、認識のズレを減らす方向に働きます。
効果④あえて資料を出す手間の希少性
忙しさを理由に口頭で済ませがちな領域だからこそ、資料を出す"ひと手間"に価値が宿ります。
AIで下準備の負担が下がれば、他が面倒がる部分で差がつきやすくなる場合があります。
構造の8割はAIで整え、法的判断の2割は人が入れます
AIに任せやすい範囲(
AIが向くのは、構造づくりとたたき台です。
相談内容を整理し、説明(提案)の順序を整え、比較しやすい枠を作る——この部分は補助として相性が良いです。
人が必ず担う範囲
一方で、要件判断、個別事情の拾い上げ、守秘、リスクの伝え方は人が担う領域です。
AIの出力をそのまま使うのではなく、根拠の確認と、相談者の状況に合わせた調整が必要です。
最終表現は、相談者に寄り添う一言を添えて
AIのたたき台は便利ですが、冷たく見える文書になりがちです。
最後は「いちばん不安な点はどこか」を拾い、短い一言で安心感を添えるのが効果的です。ここは人が担うべき部分です。
比較資料を報酬の正当性を担保するエビデンスに
行政書士の報酬は、手続き代行だけではなく、「判断と整理の力」への対価でもあります。
比較資料を提示できると、その力が目に見える成果物になります。結果として、相談者に「この整理に価値がある」と伝わりやすくなり、価格の納得感につながる場合があります。
脚注
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本記事でいう「文書・資料」は、相談者が持ち帰って検討・共有できるように整理した要点(比較・次の一手を含む)を指します。
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「難語5割削減」は目安です。案件の性質により、正確性を優先すべき割合は異なります。
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「構造の8割/法的判断の2割」も目安です。事案の難しさや相談者の状況によって、人が担うべき範囲は増えることがあります。
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AIの出力は正確とは限りません。要件・根拠・表現は必ず人が確認してください。守秘義務・個人情報に触れる内容は入力の仕方を慎重に扱い、必要最小限に留めてください。
免責
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別事案への法的助言を行うものではありません。具体的な手続や判断は、事案の事情に応じて専門家として慎重に検討してください。また、本記事は特定の結果や効果を保証するものではありません。
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