コラム
行政書士の初回相談の進め方:申込後に慌てないために【行政書士×開業×AI】
Q:新人行政書士です。初回相談の申込は入ったものの、当日の進め方や準備が分からず不安です。
A: 一般的には、初回相談は「ゴール・進行・確認」を先に設計し、慣れない時期はそれらを文書化しておくと迷いが減らしやすくなります。準備作業のうち、相談シートの骨子、想定質問への回答案、進行メモ、相談後フォロー文書などをドラフト(下書き)する部分は、状況にもよりますがAIで8割ほど整えることが可能です。ただし、法令判断や受任判断、守秘・責任は人が担う前提で、AIは整理の補助として使うのが安全です。
今回から【第2部】として、「初回相談の申込が入った後に、どう進めればよいか」を扱います。初回相談は、知識だけで乗り切るというより、当日の進行や確認の観点を整えておくことで、安心して運びやすくなります。
私自身、最初の申込が入ったときは「何から手を付けるべきか」が曖昧で、前日に思い出したことをメモに足していく形になり、準備物が散らかってしまいました。経験が少ない時期ほど、頭の中ではなく文書として残しておくほうが、抜け漏れや不安を減らしやすいと感じています。
そこで本記事では、申込後から当日までに必要になりやすい準備を「型」として整理し、AIをどこまで使えるか(どこから先は人が握るか)も含めて、落ち着いて進めるための考え方をまとめます。
初回相談の不安は整理から
所属会研修・民間の実務研修・市販の指南書という3ルート
初回相談の進め方は、独学だけで抱え込む必要はありません。一般的には、学び方として大きく次の3ルートがあります。
- 所属会の研修(基礎の型や注意点を体系的に確認しやすい)
- 民間の実務研修(現場寄りの進行を学ぶ選択肢になり得る)
- 市販の指南書(手元で繰り返し確認できる)
私の場合は所属会の研修を中心に進めました。どれを選ぶかよりも、「自分が使えるルートがどれか」を把握しておくだけで、準備の進め方が整理しやすくなります。
学び方は人それぞれでよく、まずは「初回相談」という場面に照準を合わせる
研修や書籍は情報量が多く、全部を一気に取り込もうとすると混乱しがちです。ここでは「初回相談」という場面に照準を合わせるのが現実的です。
初回相談は、結論を出し切るよりも、事実関係と論点を整え、次の手続や必要な動きを示すことが中心になりやすいです。まずは当日の運びが崩れない状態を作ることで、落ち着いて対応しやすくなります。
慌てないためにも「次の1回の相談で困らない最低限」を準備しておくことが望ましい
初回相談は、申込が入った時点で時間が動き始めます。慌てないためにも「次の1回の相談で困らない最低限」を準備しておくことが望ましいです。
ここでいう最低限は、完璧な文書を作ることではありません。「当日に迷いそうな点を先回りして、最低限の枠を文書化しておく」という意味で捉えると取り組みやすくなります。
初回相談は「4つの設計」を先に置くと運びやすい
初回相談の設計は、登山の「ルートづくり」に少し似ています。頂上(ゴール)を決め、休憩ポイント(区切り)を置き、必要な装備(確認の言い回し)をそろえ、最後に行程表(文書)として残す。これがあると、当日の進行が安定しやすくなります。
設計1:ゴールを言語化して共有する
初回相談が難しく感じる理由の一つは、ゴールが曖昧なまま始まりやすい点です。そこで最初に、ゴールを言語化して共有します。
- 今日の場で「整理できればよいこと」
- 今日の場で「決めたいこと」
- その場では決めず「持ち帰ること」
この区別があるだけで、相談者の期待値が整い、こちらも無理に即答しなくてよくなります。
設計2:進行を区切る
進行は、慣れないうちは特に「区切り」を意識していただきたいです。おすすめは、次の順で運ぶことです。
- 事実関係と論点を整理する
- 取り得る選択肢(方向性)を提示する
- 次の動き(追加確認・必要な文書・期限感)を合意する
区切りがあると相談が拡散しにくく、時間配分も安定しやすくなります。
設計3:確認の言い回しを固定する
初回相談では「分かったつもり」が起きやすいのは、相談者側も同じです。そこで、確認の言い回しを固定しておくと進行が安定しやすくなります。
たとえば、
- 「ここまでの要点は〇〇、〇〇という理解で合っていますか」
- 「現時点で未確定なのは〇〇で、ここは確認してから整理します」
- 「次は〇〇をご用意いただき、こちらで〇〇を確認してご連絡します」
このように、復唱→相違確認→次の動き、の順に置くと誤解が減らしやすくなります。
設計4:慣れないうちは文書化して残す
慣れない時期ほど、設計1~3を「その場の頭の回転」だけで回そうとすると、抜けやすくなります。そこで、設計1~3そのものを短い文書として先に用意しておくのが有効です。
- 設計1(ゴール共有)を、冒頭に読む一文として文書化しておく
- 設計2(進行の区切り)を、当日の進行メモとして文書化しておく
- 設計3(確認の言い回し)を、定型フレーズとして文書化しておく
さらに相談後は、次の4点を文書として残しておくとよいです。
- 前提(何を前提に話が進んだか)
- 決定事項(合意できた内容)
- 未確定点(何がまだ確定していないか)
- 宿題(誰が、何を、いつまでに)
この4点が残ると、相談後の連絡がスムーズになりやすく、後からの手戻りも抑えやすくなります。
この「4つの設計」は、AIで8割まで整えることが可能です
AIが担いやすい8割
ここでいう「AIで8割」は、準備時間の8割を削減するという意味ではなく、準備のうち「文書のドラフト(下書き)を作る部分」を広く支援できる、という意味です。精度は人が担保します(精度>効率)。
具体的には、状況にもよりますが、次のような"たたき台"はAIが整えやすい領域です。
- 相談シートの骨子(確認観点の枠)
- 想定される質問と、回答の方向性メモ(断定は避ける前提)
- 当日の進行メモ(区切り・時間配分の目安)
- 相談後フォロー文書のたたき台(要点・前提・未確定点・宿題)
人が握る2割
一方で、AIに任せないほうがよい領域も明確です。
- 個別事情の見極め(事情聴取の深さ、確認の優先順位)
- 法令判断(要件該当性、適法性、手続選択)
- 受任判断(受任可否、リスク説明、見積り前提の確定)
- 守秘と責任の線引き(情報の取り扱い、最終責任)
- 業務範囲の線引き(非弁リスクを含む判断)
AIは「相談対応を運べる形に整える」まで
AIの位置づけを一言でまとめると、「決める」ではなく「整える」です。AIを併用することで、初回相談の心理的ハードルが下がり、安定した運びをしやすくなる場面があります。
なお、AIに入力する情報は慎重に扱う必要があります。個人が特定され得る情報や守秘性の高い情報は、匿名化・伏せ字にする、そもそも入力しないなど、事務所の方針に沿って運用するのが安全です。
申込後から当日までの「5ステップ」
ここからの「5ステップ」は手順(How)です。一方、前章の「4つの設計」は概念(What)で、ステップ2~4の途中で出来上がる成果物(文書)として捉えると混同しにくくなります。
ステップ1:申込内容を読み替え、論点候補を仮置きする
申込内容は、そのままだと情報が足りないことが多いです。そこで、論点候補を「仮置き」します。
ポイントは、決め打ちしないことです。仮置きがあるだけで、当日の確認がしやすくなります。
ステップ2:当日のゴールと区切りを決める
ここで作る成果物(文書)は、次の2つです。
- 設計1:ゴール共有の一文(今日決める/持ち帰るの線引き)
- 設計2:進行の区切りメモ(整理→選択肢→次の動き)
これが決まると、準備の優先順位も自然に定まりやすくなります。
ステップ3:確認と記録の文書を「まず形にする」
ここで作る成果物(文書)は、次の2つです。
- 設計3:確認の言い回し(定型フレーズ)
- 記録用の枠(前提・未確定点・宿題が残る形)
また、AIで要件や手続の整理をした場合でも、関係官公庁の手引き・告示・Q&A等の一次情報と照合して、断定表現にならないよう整えるのが安全です。
ステップ4:当日の判断ラインを決める
ここは「何を保留し、何を確定させるか」を決める工程です。
- 即答できる範囲
- 保留して追加確認する範囲
- 受任可否を慎重に判断する範囲
線引きがあると、無理な即答を避けられ、安全に着地しやすくなります。業務範囲に関して迷う場合は、無理に踏み込まず、適切な専門職へつなぐ判断も含めて検討します。
ステップ5:相談後の連絡まで見越して、当日の着地点を用意する
初回相談は、相談後の連絡までがセットです。相談後に何を送るかを先に決めておくと、当日も迷いにくくなります。
「今日の整理結果」と「次の動き」が文書として残る前提で進めると、相談者にも伝わりやすくなります。
相談後は「24時間以内のフォロー文書」で次につなぐ
※ここでの「24時間以内」は目安です。可能な範囲で早めに送る、という運用が現実的です。
文書1:要点・前提・未確定点の共有
フォロー文書の1つ目は、認識合わせのための文書です。
- 要点(相談内容の骨子)
- 前提(どの前提で話したか)
- 決定事項(合意した内容)
- 未確定点(追加確認が必要な点)
これがあるだけで、「言った/言わない」や認識ズレが減らしやすくなります。
文書2:次に必要な文書と段取りの提示
2つ目は、次の動きを軽くする文書です。
- 次に必要な文書(何を、どの程度)
- 段取り(こちらが確認すること/相談者にお願いすること)
- 目安のスケジュール(急ぎかどうかの感覚)
加えて、制度に期限がある場合や、要件が変動し得る制度の場合は、「今このタイミングで着手したほうがよい理由」を一文添えると、相談者が動きやすくなります(断定や煽りではなく、前提を明示した上で伝えるのが安全です)。
脚注
- 本記事の「8割」「24時間以内」は、一般的に運用しやすい目安です。案件特性や業務量、相談形態により調整してください。
- 業務範囲に関して迷う場合は、非弁リスクを含め保守的に判断し、必要に応じて適切な専門職への案内も検討します。
- AI活用にあたっては、個人情報や守秘情報を入力しない/匿名化する等、事務所方針に沿った運用が安全です。
免責
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別事案への法的助言を行うものではありません。具体的な手続や判断は、事案の事情に応じて専門家として慎重に検討してください。
