コラム
【特定行政書士試験に向けた学習記録】判例学習で理解する裁量権・訴えの利益・処分取消
1. 前回のおさらい
前回は個別論点を整理しました。
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執行停止と仮の救済の違い
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行政指導の法的性質
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聴聞・弁明・意見提出の適用区分
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特別法優先や例外規定の整理
今日は、この知識を判例で確認し、条文との対応を意識しながら「実務的判断力」を磨きます。
2. 裁量権の逸脱・濫用の判断事例
行政庁が持つ裁量権は強力ですが、無制限ではありません。
判例では、裁量権の逸脱・濫用が判断される基準が示されています。
基本フレーム
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法律の範囲内であるか(法的限界)
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判断の目的が合理的か
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手続の適正が守られているか
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他の利益を不当に害していないか
比喩で言えば、裁量権は「自転車のハンドル」。自由に動かせるが、道の範囲を超えてはいけないし、歩行者にぶつけてはいけない、という感覚です。
具体例
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建築許可の裁量逸脱:近隣住民の生活環境への影響を全く考慮せず許可 → 違法
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営業許可の裁量濫用:競合他社排除を目的に許可拒否 → 違法
ポイント:裁量の判断理由・手続を条文と照合することが重要です。
3. 訴えの利益の認否事例
行政事件訴訟では、「訴えの利益」があることが前提です。
条件 | 内容 | 例 |
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具体的利益 | 原告の権利・利益が実質的に侵害されている | 許可取消による営業停止 |
直接性 | 行政処分と損害が直接結びつく | 建物建築停止命令で事業が中断 |
回復可能性 | 訴訟により回復可能 | 許可取り消し→再許可可能 |
ポイント:抽象的な不満や一般市民感覚では訴えの利益は認められません。
4. 処分取消・義務付けの判断基準
判例では、処分取消や義務付けの判断において以下が重視されます。
判断項目 | 内容 | 判例例 |
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違法性 | 処分が法律違反か | 無許可営業停止命令 → 違法 |
裁量権逸脱 | 判断が合理的か | 近隣影響を無視 → 逸脱 |
利害調整 | 他の公益・権利との調整 | 過度な制限は違法 |
手続保障 | 聴聞・弁明が適正に行われたか | 聴聞なしの処分 → 違法 |
比喩:処分取消は「違法建築の取り壊し」、義務付けは「安全対策の強制指示」のイメージ。
5. 判例と条文を照らして理解する
判例学習で最も大事なのは、条文と照らして理解することです。
法律 | 判例確認ポイント | 条文対応 |
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行政手続法 | 聴聞・弁明の適用 | 第14条・第15条 |
行政不服審査法 | 執行停止・効力停止 | 第27条・第28条 |
行政事件訴訟法 | 訴えの利益・裁量逸脱 | 第3条・第16条・第17条 |
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判例の事実背景と裁量判断理由を条文とセットで理解すると、応用問題でも迷いません。
6. 今日のまとめ
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裁量権の逸脱・濫用:条文と判例を照合して判断
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訴えの利益:具体的・直接的・回復可能な利益が必要
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処分取消・義務付け:違法性・裁量逸脱・利害調整・手続保障を確認
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条文照合の習慣化:判例学習は条文とのセットで理解すると応用力が高まる
今日の学習ポイント:判例を読むときは「条文・事実・判断理由・結論」の順で整理すると、短時間で理解が深まります。