コラム
チェックリスト:請負契約書に入れておきたい条項(支払・追加工事)(一次情報ベース)
請負契約書は作成していても、条項内容まで十分に精査できていないケースは少なくありません。支払条件や追加工事条項が不十分な場合、代金未回収や精算トラブルに発展します。本記事では一次情報(建設業法・廃棄物処理法等)を根拠に、実務で押さえるべき契約条項をチェックリスト形式で整理します。
【目次】
• 請負契約書の整備不足で起こりやすい3つの実務トラブル
• 支払条項の明確化で資金繰りが安定する5つの記載ポイント
• 追加工事トラブルを防ぐために決めておくべき4つの契約ルール
• 産廃処理・関連書類との整合で見落とせない3つの法令ポイント
• 契約書と許可・変更届実務を連動させる2つの管理視点
• 実務担当者がそのまま使える請負契約書チェックリスト
請負契約書の整備不足で起こりやすい3つの実務トラブル
この章で扱う主なポイントは以下のとおりです。
• 支払条件の不明確さによる未回収リスク
• 追加工事の口頭指示による精算トラブル
• 契約書未整備による建設業法違反リスク
契約書は形式的に作成するだけでは足りません。資金回収、追加精算、法令遵守に直結するため、条項の具体性が実務リスクを左右します。ここでは現場で発生しやすい典型トラブルを整理します。
支払条件の不明確さによる未回収リスク
支払時期や方法が曖昧だと、代金回収遅延の原因になります。建設業法第19条では、請負代金額、支払時期、支払方法等の書面記載が義務付けられています。
例えば「完成後支払」のみの記載では、次の解釈が分かれます。
• 完成日の定義
• 検査完了日
• 引渡日
• 請求締日
明記例:
• 検収完了日
• 請求書提出期限
• 振込期日
• 振込手数料負担者
ここまで定めることで、回収遅延や認識相違を防止できます。
追加工事の口頭指示による精算トラブル
現場では口頭指示が先行しがちですが、書面根拠がない場合、追加代金請求が認められない、または減額交渉を受けるリスクがあります。
特に以下の誤認が多く見られます。
• 元請は「契約内対応」と認識
• 下請は「追加工事」と認識
予防策として、契約条項に次の証跡保存を組み込みます。
• 変更指示書
• メール・電子承認
• 施工前写真
• 日報記録
書面または電磁的記録での合意が重要です。
契約書未整備による建設業法違反リスク
建設工事の請負契約は、建設業法第19条により書面交付義務があります。未作成や必要記載事項の欠落は、監督処分や行政指導の対象となり得ます。
特に下請契約では、元請に書面交付義務が課されるため、ひな形の流用ではなく、工事内容・金額・工期に即した契約整備が必要です。
支払条項の明確化で資金繰りが安定する5つの記載ポイント
この章で扱う主なポイントは以下のとおりです。
• 請負代金額・支払時期・方法(建設業法第19条)
• 前払金・出来高払いの設定方法
• 支払サイトと遅延損害金の定め方
• 相殺・控除条項の実務注意点
• 電子契約と収入印紙の要否整理
支払条項は資金繰りに直結するため、法令遵守と回収実務の両面から設計します。
請負代金額・支払時期・方法(建設業法第19条)
総額契約に限らず、単価契約でも算定方法の明示が必要です。
支払方法では次の具体化が重要です。
• 現金/振込区分
• 手形利用の有無
• 手形サイト
• 支払割合
条件不明確は、下請代金支払遅延等防止法上の問題に発展する可能性があります。
前払金・出来高払いの設定方法
資材費負担が大きい工事では前払金設定が有効です。出来高払いは検収基準が曖昧だと紛争化します。
出来高管理例:
• 施工写真
• 出来高報告書
• 現場立会確認
• 工程表対比
客観資料と連動させることが重要です。
支払サイトと遅延損害金の定め方
長期支払サイトは下請資金繰りを圧迫します。遅延損害金利率を明記すると、支払遅延抑止効果が生じます。
なお、商事法定利率・契約利率の範囲内で設定します。実務上は年14.6%を参考に設定される例が見られますが、契約自由の原則と利息制限法等との関係も踏まえ、個別検討が必要です。
相殺・控除条項の実務注意点
是正費、損害金、遅延金の控除は紛争原因になりやすい条項です。
明記事項例:
• 控除事由
• 算定根拠
• 事前通知義務
• 協議手続
一方的控除と評価されない設計が重要です。
電子契約と収入印紙の要否整理
印紙税は「課税文書」に該当する紙契約に課税されます。一方、電子契約は課税文書に該当しないため、印紙税は課されません(国税庁見解)。
契約件数が多い企業ほど、コスト削減効果が生じます。加えて検索性・保管性の向上にも寄与します。
追加工事トラブルを防ぐために決めておくべき4つの契約ルール
この章で扱う主なポイントは以下のとおりです。
• 追加・変更工事の定義範囲
• 金額算定方法と単価基準
• 書面合意のタイミング(変更契約)
• 工期変更・損害負担の整理
追加工事は利益機会である一方、紛争発生率が高い領域です。事前ルール整備が収益安定につながります。
追加・変更工事の定義範囲
区分例:
• 設計変更
• 仕様追加
• 数量増減
• 現場条件変更
「軽微変更」の金額基準・数量基準を定めると判断が容易になります。
金額算定方法と単価基準
次の整理が必要です。
• 当初契約単価準用
• 別途見積採用
• 市場単価連動
資材価格変動に備え、スライド条項(物価変動条項)を設ける方法もあります。
書面合意のタイミング(変更契約)
原則は着工前の書面合意です。緊急時対応として、
「着工後○日以内に変更契約締結」
と期限設定することで未締結防止につながります。
工期変更・損害負担の整理
追加工事に伴う論点:
• 工期延長可否
• 現場管理費負担
• 仮設費増額
• 労務費増分
間接費請求可否も含め整理します。
産廃処理・関連書類との整合で見落とせない3つの法令ポイント
この章で扱う主なポイントは以下のとおりです。
• 産業廃棄物委託契約との関係(廃棄物処理法第12条の3)
• マニフェスト制度との運用連動
• 排出事業者責任と契約書記載の整合
建設工事では産廃処理契約が並行します。請負契約と分離管理すると法令不整合が生じます。
産業廃棄物委託契約との関係(廃棄物処理法第12条の3)
産廃処理委託は書面契約義務があります。
必要記載例:
• 廃棄物種類
• 数量
• 収集運搬業者名
• 処分業者名
• 許可番号
• 処理方法
マニフェスト制度との運用連動
契約内容とマニフェスト記載内容は一致させます。
照合項目:
• 排出量
• 品目
• 運搬先
• 処分方法
不一致は行政指導対象となり得ます。電子マニフェストでも同様です。
排出事業者責任と契約書記載の整合
建設工事では元請が排出事業者となるのが原則です。最終処分まで責任を負います。
契約条項では次を明確化します。
• 排出事業者の帰属
• 運搬責任
• 処分責任
• 再委託禁止確認
契約書と許可・変更届実務を連動させる2つの管理視点
この章で扱う主なポイントは以下のとおりです。
• 許可業種・範囲と契約内容の一致確認
• 変更届が必要になる契約・体制変更例
契約内容は許可要件と密接に関係します。受注拡大時ほど確認が重要です。
許可業種・範囲と契約内容の一致確認
許可外工事の受注は無許可営業と判断される可能性があります。附帯工事の範囲も事前確認が必要です。
変更届が必要になる契約・体制変更例
主な届出例:
• 役員変更
• 営業所新設
• 専任技術者変更
• 商号変更
• 資本金変更
契約拡大に伴い体制変更が生じた場合は、期限内届出が必要です。
実務担当者がそのまま使える請負契約書チェックリスト
• 支払金額・支払時期・方法を明記
• 支払サイト・遅延損害金を設定
• 追加工事の定義と精算方法を記載
• 変更契約書の締結ルールを設定
• 印紙・電子契約区分を確認
• 産廃委託契約と内容整合
• マニフェスト運用と一致
• 許可範囲外工事の有無確認
• 変更届対象事項を把握
【まとめ】
• 支払条項は代金回収リスクを左右
• 追加工事は書面化で利益確保
• 契約書未整備は法令違反リスク
• 産廃契約との整合も必須
• 許可・変更届との連動管理が重要
契約書は作成して終わりではなく、運用と整合して初めて機能します。自社書式に不安がある場合は専門家確認を行い、実務リスクの予防につなげる視点が重要です。
【脚注】
本記事は建設業法、廃棄物処理法、印紙税法等の一次情報を基に、実務理解を目的として要点整理したものです。個別契約条項の適法性や有効性判断は、取引条件・契約形態により異なります。詳細設計や判断が必要な場合は、弁護士・行政書士等の専門家へご相談ください。
