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コラム

「社長」と書いただけでは契約は危うい?会社法が定める「正しい名乗り」と代表権の罠

Q:「社長」という肩書きで契約書にサインしても問題ないですか?
A:
直ちに無効になるわけではありませんが、権限の証明が困難となり、後日「権限のない者が行った」と争われる余地が残ります。

契約書の署名は「社長」では不十分な場合があります。株式会社において、会社を法的に代表できるのは原則として「代表取締役」だからです(合同会社などでは「代表社員」等が該当します)。 相手の肩書き確認を怠ると、契約が不安定になり、確認コストや手戻りが増大するおそれがあります。


「社長」は愛称、「代表取締役」は免許証

「代表取締役 社長 違い 契約書」の核心は"代表権を客観的に示せているか"にあります。呼称の印象に頼らず、法的な役職名で署名者を特定することで、後日の紛争や追加確認を減らすことができます。

会社法に「社長」という言葉は存在しない

契約書において「社長」だけでは代表権を示したとは言い切れません。会社法の条文に「社長」という語は登場せず、法的な役職名としては「代表取締役」が用いられるからです。

相手が「取締役社長」「執行役員社長」と名乗っていても、代表権があるとは限りません。社内での序列が高い肩書きと、対外的に会社を代表できる立場は別であり、混同すると確認漏れが生じやすくなります。

なお、「社長」という称号を名乗ること自体は自由で、商号や役職の呼び名として広く使われています。問題は、その呼び名だけでは"代表権がある人物か"を文書上で判別しにくい点にあります。

代表権の有無が契約の効果帰属を左右する

代表権の有無は、契約の効果が会社に帰属するかどうかに影響します。株式会社では代表取締役の行為が原則として会社の行為として扱われる一方、権限のない者の行為は会社に直ちに帰属しないことがあるためです。

誤解しやすいのは、「社長と書いたら即無効」という極端な理解です。実際には、署名者が真に代表権者であり、会社の意思に基づいて締結しているなら、肩書き表記が「社長」でも直ちに無効になるわけではありません。

ただし、表記が曖昧だと「その人は代表権者だったのか」「誰が会社を縛ったのか」を後から説明することが困難となり、相手方・自社双方の証明負担が重くなります。署名欄で代表権者を明確にする運用が有効です。

例え話:レストランの「店長」と営業許可証の「設置者」の違い

契約では"誰が名義人として責任を負うのか"を切り分ける必要があります。現場の責任者に見える「店長」と、許可証の名義人である「設置者」が一致しないことがあるのと同じ構造です。

店長が現場を切り盛りしていても、名義人でなければ重要な契約を結べない場合があります。会社に置き換えると、「社長」はトップに見えても、代表権を示す法的名称ではありません。

署名欄に「代表取締役」とあれば、"会社を代表する権限を持つ者"として文書上の説明がしやすくなり、確認の起点が定まります。


契約書で「代表取締役」を省略してはいけない3つの理由

署名欄の肩書きを「社長」「CEO」などだけにすると、代表権の裏付けが文書上弱くなりがちです。「代表取締役」を省略しないべき理由を、確認のしやすさと紛争予防の観点から整理します。

理由1:会社に効果を帰属させるための法的根拠

署名欄に「代表取締役」を記載すると、契約の効果が会社に帰属する説明が安定します。株式会社の代表権者として代表取締役が制度上位置づけられているためです。

誤解を避けたい点として、「社長」と書いたからといって法的根拠が消えるわけではありません。署名者が実際に代表権者で、会社として締結しているなら、契約は有効に帰属し得ます。

それでも「社長」表記だけのリスクが残るのは、その人物が会社法上の代表権(登記された権限)を持つのか、単なる社内役職なのかを文面から客観的に特定しづらいからです。後日争いになった際、「代表権があったこと」を別途立証しなければならず、実務負担が増大します。

理由2:登記簿謄本(履歴事項全部証明書)との照合

「代表取締役」は登記事項であり、履歴事項全部証明書と照合できます。代表権者の氏名が登記で公示され、第三者でも確認しやすい仕組みになっているからです。

実務では、署名欄の「商号・役職名・氏名」が登記と一致するかを確認します。一致すれば、"代表権者本人の署名"として説明しやすく、社内の審査や取引先監査にも耐えやすくなります。

一方、「社長」「CEO」は登記にそのまま載らないことが多く、照合ルートが途切れがちです。確認負担を減らす意味でも、登記と一致する役職名を用いる方が合理的です。

理由3:「表見代表取締役」によるトラブル回避

代表権があるように見える肩書きは、誤解や責任関係の争いを招くおそれがあります。代表取締役ではない取締役に「社長」等の名称を付した場合、善意の第三者に対して会社が責任を負う場面があるためです。

重要なのは、これは「社長と書くと危ない」という単純な話ではない点です。会社がその外観を作ってしまうと、「彼に代表権はなかった」という反論が通りにくくなり、結果として会社が責任を負わされる可能性があります。

自社を守るためにも相手方を正確に把握するためにも、署名欄では登記上の役職(代表取締役)を基本とする運用が有効です。


【実務編】正しい署名・捺印のチェックリスト

契約書は「誰が・どの権限で署名したか」を証拠として残すほど強固になります。確認漏れが起きやすいポイントをチェックリストとしてまとめます。

理想的な署名形式:「所在地・商号・役職名・氏名」

署名欄は「所在地・商号・役職名・氏名」をそろえるのが基本形です。当事者の特定精度が上がり、同名企業やグループ会社の取り違えを減らせるためです。

実務での目安は次のとおりです。

  • 所在地:本店所在地(登記情報と合致する表記)
  • 商号:正式な会社名(「株式会社」の位置も含めて統一)
  • 役職名:代表取締役(必要に応じて「代表取締役社長」まで併記)
  • 氏名:フルネーム

社内ひな形は次の並びにそろえると運用が安定します。

記載項目 目的
所在地 東京都〇〇区… 会社の特定
商号 株式会社〇〇 当事者の確定
役職名 代表取締役 代表権の明示
氏名 山田 太郎 署名者の特定

サイン(自筆)と記名(印字)で変わる印鑑の重要性

本人性の示し方は「自筆」か「印字」かで変わります。印字だけだと作成者が本人かどうかを文書単体で説明しづらいからです。

自筆サインは本人性を示しやすい一方、読みづらく、後日の照合が難しくなることもあります。実務では、記名(印字)の場合は押印で補強し、証拠としての強度を上げる運用が一般的です。

社内で迷いを減らすなら、次のいずれかに統一すると事故が減ります。

  • 署名(自筆)+押印
  • 記名(印字)+押印

なお、肩書きが「社長」でも、実際に代表権者が署名し、代表者印(法務局届出印)等が押されているなら直ちに無効とは限りません。とはいえ、権限の説明が必要になりやすいため、最初から「代表取締役」を明記する方が安全です。

共同代表制の場合に注意すべき署名の数

代表者が複数いる会社では、署名者の扱いが誤解されやすくなります。会社法では代表権の行使は原則として各自代表であり、外部からは「何人の署名が必要か」を肩書きだけで判断しにくいからです。

補足として、旧商法にあった「共同してでなければ代表できない」共同代表(代理)の制度は会社法施行により廃止され、登記事項ではなくなっています。現在は「代表取締役が複数=通常は各自が単独で代表できる」と理解するのが実務の出発点です。

ただし、内部規程や稟議で「重要契約は代表者2名の承認が必要」といった運用が定められていることはあります。相手方の内部事情は契約書だけでは分からないため、重要案件では次の対応が有効です。

  • 署名者を契約書上で指定する(例:代表取締役A)
  • 代表者の氏名を登記で確認し、署名者が一致しているか照合する
  • 取引規模が大きい場合は、社内決裁や委任の根拠資料の提示を求める

「署名が足りない」という誤解は手戻りになりやすいため、制度(各自代表)と運用(内部承認)を分けて確認すると整理しやすくなります。


まとめ

  • 「社長」は呼称であり、契約書で代表権を示す名称としては曖昧になりがちです。
  • 株式会社では、会社を代表して契約できる立場は原則として「代表取締役」です(合同会社などは別の名称があります)。
  • 代表権の有無は「契約の成立」よりも「契約の効果が会社に帰属するか」に影響します。
  • 履歴事項全部証明書との照合は、相手の代表権確認を最短で進める手段になります。
  • 「社長」と書いたら即無効ではありませんが、曖昧な表記は争点化しやすいため、署名欄は登記上の役職名で整えるのが無難です。

次に契約書を回すときは、署名欄に「代表取締役」が入っているかをまず確認してください。重要案件ほど、登記照合まで実施すると後日の説明が容易になります。


脚注

※本記事は一般的な会社法と商慣習を前提にした解説です。詳細は専門家にご相談ください。

  • 会社法第349条の趣旨:株式会社では、代表取締役が会社を代表して対外的な行為(契約・交渉など)を行う前提で制度が作られています。
  • 会社法第354条の趣旨:代表取締役ではない取締役に「社長」等の名称を付した場合、相手が正当と信じたときに会社の責任が問題となる場合があります(実務上「表見代表取締役」と呼ばれる論点です)。
  • 共同代表(代理)制度について:会社法施行により共同代表(代理)は廃止され、登記事項ではなくなっています。

※本記事は一般的な会社法と商慣習を前提にした解説です。会社形態(合同会社等)や外資系企業、特殊な権限設計、海外契約などは結論が変わることがあるため、必要に応じて弁護士など専門家へご相談ください。

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