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コラム

任意後見契約における代理権目録の具体的記載例|財産管理・医療・介護の文例をやさしく解説

任意後見契約では、将来のトラブルを防ぐために「代理権目録」をどこまで具体的に書くかがとても重要です。財産管理や医療・介護に関する事務の範囲をあらかじめ整理しておくことで、任意後見監督人が選任されて任意後見が開始した後の誤解や行き違いを減らせます。

この記事では、任意後見契約に関する法律や関係する省令で定められた基本的なルールをふまえつつ、実務でよく問題になるポイントと分野別の文例を、法律を学んだことがない方にも分かりやすいように整理しました。


目次

  • 任意後見契約で押さえるべき「代理権目録の基本ポイント」3つ

    • 代理権目録が必要とされる理由
    • 財産管理と身上監護を区別して記載する重要性
    • 公証人がチェックする主な観点
  • 財産管理における代理権目録の書き方で押さえるべき3つの視点

    • 預貯金管理の典型的な記載内容
    • 不動産管理に関する記載内容
    • 日常的な財産行為の記載内容
  • 身上監護における代理権目録で整理すべき3つの領域

    • 医療に関する判断の範囲と注意点
    • 介護サービス利用に関する記載内容
    • 生活全般のサポートに関する記載内容
  • 実務で迷いやすい「医療同意」の書き方における3つの注意点

    • 法的限界
    • 記載可能な範囲
    • 避けるべき表現
  • 後見開始後のトラブルを防ぐために必要な3つの工夫

    • 代理権の範囲を広げすぎない
    • 家族間で事前共有しておく重要性
    • 任意後見監督人の役割と実際のチェックポイント
  • そのまま使える「代理権目録の文例セット」3カテゴリ

    • 預貯金・不動産等の財産管理に関する文例
    • 介護・医療・生活支援の身上監護に関する文例
    • 特殊事情に応じた文例

1. 任意後見契約で押さえるべき「代理権目録の基本ポイント」3つ

代理権目録は、任意後見人が代理できる行為の範囲を具体的に示し、任意後見開始後の判断を安定させるための基礎となる書類です。内容が曖昧なままだと、本人・家族・金融機関・介護事業者などの解釈がずれ、必要な手続きが進まなかったり、不必要な不信感やトラブルが生じやすくなります。

この章で扱う主なポイントは以下のとおりです。

  • 代理権目録が必要とされる理由(契約内容の明確化と紛争予防)
  • 財産管理と身上監護を区別して記載する重要性
  • 公証人がチェックする主な観点(曖昧表現・記載できない事項への配慮)

代理権目録が必要とされる理由(契約内容の明確化と紛争予防)

任意後見人が代理できるのは、原則として代理権目録に記載された「自己の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務」の範囲に限られます。具体的な権限が示されていないと、任意後見開始後に「これは任せてよいのか」「この支払いは任意後見人の権限か」と関係者の間で認識が食い違い、必要な手続きが進まないおそれがあります。

金融機関などの第三者は行為の正当性を厳格に確認する傾向があるため、どのような手続きについて代理できるかをできるだけ具体的に書いておくと、手続きがスムーズになりやすくなります。

財産管理と身上監護を区別して記載する重要性

任意後見契約で扱う事務は、大きく分けて「財産管理」と「身上監護(生活や療養看護に関する事務)」があります。預貯金の管理や不動産の賃貸・売却などは財産管理に当たり、介護サービスの契約や施設入所手続きなどは身上監護に当たります。

目的の異なる行為を一緒くたに記載すると、公証人や将来就任する任意後見監督人が内容を判断しにくくなるため、財産管理と身上監護を区分して整理し、章立てを分けて記載するのが望ましいとされています。

公証人がチェックする主な観点(曖昧表現・包括委任の回避)

任意後見契約公正証書を作成する公証人は、代理権目録が法律や省令に沿った内容になっているかを確認します。特に、以下の点が重視されます。

  • 代理権の対象が「生活・療養看護・財産管理に関する事務」に収まっているか
  • 「必要な一切の行為」など、範囲が不明確で過度に広い表現になっていないか
  • 単なる事実行為(介護行為そのものなど)や、医療行為の同意、死後の事務など、制度上代理権目録に記載できない事項を含んでいないか

このような観点から、具体的でありつつも、制度上認められた範囲に収まる表現に整えておくことが重要です。


2. 財産管理における代理権目録の書き方で押さえるべき3つの視点

財産管理は、任意後見人が日常的に行う場面が多い分野であり、文言の具体性が実務のしやすさに直結します。特に金融機関や不動産取引は第三者による審査が厳しいため、どのような手続きについて代理できるのかをできるかぎり明確に示しておく必要があります。

この章で扱う主なポイントは以下のとおりです。

  • 預貯金管理の典型的な記載内容
  • 不動産管理に関する記載内容
  • 日常的な財産行為に関する記載内容

預貯金管理の典型的な記載内容(払戻し・定期解約・オンライン取引等)

預貯金管理に関する代理権は、任意後見人が頻繁に利用する権限の一つです。普通預金・定期預金の払戻しや解約、口座振替の変更、振込、各種手数料の支払いなど、一般的に想定される手続きについて記載しておくと、金融機関での手続きが円滑になりやすくなります。

インターネットバンキングやオンライン口座を利用している場合は、その利用や設定変更なども必要な範囲で記載しておくと、実務上の負担を減らすことにつながります。

不動産管理に関する記載内容(売却・賃貸・管理委託・修繕)

不動産に関する代理権は、財産的な影響が大きく、慎重な検討が必要な分野です。管理・修繕・賃貸借契約の締結や更新、管理会社との管理委託契約、必要に応じた売却などについて、一つ一つの行為を分けて記載しておくと、任意後見人が判断しやすくなります。

一方で、本人の意思からかけ離れた不必要な財産処分が行われることを避けるため、どこまでの行為を任せるのかを事前に十分検討し、必要な範囲に絞って記載することも大切です。

日常的な財産行為の記載内容(光熱費支払い・税金対応・保険手続き)

生活に必要な支払いを任意後見人が適切に行えるようにするため、光熱費・通信費・家賃・介護サービス費用・保険料などの支払い、税金の申告や納税といった日常的な支出に関する事務も代理権目録に含めるのが一般的です。

これらの記載があることで、生活費の管理や各種契約の更新・解約などの対応を滞りなく行いやすくなります。可能な範囲で具体的な支払先の種類や費目を整理しておくと、任意後見人が迷わず対応しやすくなります。


3. 身上監護における代理権目録で整理すべき3つの領域

身上監護は、本人の生活や健康に密接に関わる分野であり、財産管理以上に慎重な検討が必要です。医療・介護・生活支援のそれぞれについて、法律上代理できる範囲と、本人の意思が尊重されるべき領域を整理したうえで記載します。

この章で扱う主なポイントは以下のとおりです。

  • 医療に関する判断の範囲と注意点
  • 介護サービス利用に関する記載内容
  • 生活全般のサポートに関する記載内容

医療に関する判断の範囲と注意点(医療行為同意の限界)

任意後見人に、医療行為そのものについて包括的な同意権限を与えることは、現行制度のもとでは一般的に認められていません。そのため、手術・延命措置など生命・身体に重大な影響を与える医療行為についての最終的な同意・拒否を代理する旨の記載は、任意後見契約の代理権目録に含めることができないと解されています。

代理権目録に記載できるのは、「医師からの説明を受けること」「入退院契約や医療費支払いなどの事務手続き」「医療機関との連絡調整」といった付随的な事務に限られる点に注意が必要です。

介護サービス利用に関する記載内容(施設入所・ケアプラン調整)

介護サービスの利用に関しては、介護保険の申請・更新、ケアプランの作成・変更に関する事務、介護事業者との契約、介護施設への入所・退所に関する手続きなどを代理権目録に含めることができます。

複数のサービスや事業者を利用する場合もあるため、「介護保険その他の介護サービス全般に関する契約および変更・更新手続き」といった形で、必要な範囲を網羅的に記載しておく方法もあります。本人の希望する生活スタイルや介護の方針を踏まえつつ、具体的なサービス利用に関する事務を整理しておくことが重要です。

生活全般のサポートに関する記載内容(住居変更・生活必需品の購入代理)

住居に関する契約や変更、日用品・衣類など生活必需品の購入、郵便物の管理・転送など、日常生活を維持するための事務も身上監護に関する代理権として記載することができます。

住居変更には、賃貸借契約の締結・更新・解約、引越し業者との契約、各種住所変更手続きなど様々な事務が伴うため、どのような手続きまで任せるのかを丁寧に検討し、整理しておくとスムーズです。


4. 実務で迷いやすい「医療同意」の書き方における3つの注意点

医療に関する事項は、本人の生命・身体に直結するため、法律上も慎重な取り扱いが求められています。付与できる権限と付与できない権限の境界を理解したうえで、代理権目録に記載する内容を検討することが大切です。

この章で扱う主なポイントは以下のとおりです。

  • 法的限界
  • 記載可能な範囲
  • 避けるべき表現

法的限界(医療行為に関する包括的な同意権は付与できない)

任意後見契約において、任意後見人に「すべての医療行為について包括的に同意・拒否する権限」を与えることは、制度の趣旨や現行の法制度のもとで一般に想定されていません。

特に、延命措置の中止や高度な医療行為の選択など、本人の生命・身体に重大な影響を与える判断は、本人の意思を可能なかぎり尊重して行うべきものであり、一律に代理人に任せる趣旨の記載は避ける必要があります。こうした点が不明確な場合、公証人から代理権目録の修正や削除を求められることがあります。

記載可能な範囲(説明受領・手続き支援・契約締結)

任意後見契約で一般的に記載されるのは、医療に関する事務のうち、次のような付随的な手続きです。

  • 医師や医療機関からの説明の受領
  • 入院・退院に関する契約や書類手続き
  • 医療費の支払い、保険金請求などの事務

これらは「治療内容そのものを決めること」ではなく、医療機関との連絡調整や、実務的な手続きの負担を軽減するための権限として位置づけられます。任意後見開始後に頻度の高い行為でもあるため、必要な範囲を具体的に記載しておくことで、任意後見人の事務負担を軽減できます。

避けるべき表現(医療行為そのものの同意を包括的に代理する旨)

「医療行為に関するすべての同意・拒否を代理する」など、医療行為そのものについて包括的な決定権を任意後見人に与えるような表現は、制度の趣旨や法制度上の限界から、代理権目録には記載すべきではありません。

こうした表現は、任意後見人の権限が過度に広く、医療機関や家族との間で大きな誤解や紛争を生むおそれがあります。医療に関する事項を記載する場合は、あくまで説明の受領や入退院契約、費用支払いなどの付随的な事務に限定した記載にとどめることが重要です。


5. 後見開始後のトラブルを防ぐために必要な3つの工夫

任意後見制度は、事前にどれだけ丁寧に準備したかによって、実際に任意後見が開始した後の安定性が大きく変わります。権限の範囲や家族との情報共有が不十分だと、任意後見開始後に「そこまで任せるつもりではなかった」といった不信感や紛争が生じやすくなります。

この章で扱う主なポイントは以下のとおりです。

  • 代理権の範囲を広げすぎない
  • 家族間で事前共有しておく重要性
  • 任意後見監督人の役割と実際のチェックポイント

代理権の範囲を広げすぎない(不要な財産処分のリスク)

代理権の範囲を必要以上に広げると、不動産の売却など重要な財産処分について、本人や家族の意向と異なる判断が行われるおそれがあります。

事前に本人の希望や生活設計をよく確認したうえで、本当に必要な代理権に絞って目録を作成すると、家族の不安を減らし、任意後見人の判断基準も明確になります。公証人による審査もスムーズになり、結果として任意後見開始後のトラブル予防につながります。

家族間で事前共有しておく重要性

代理権目録の内容は、本人だけでなく、将来任意後見に関わる可能性のある家族とも事前に共有しておくことが望ましいとされています。

家族が内容を知らないまま任意後見が開始すると、「なぜこの権限まで任されているのか」「自分たちには相談がなかった」といった疑問や不信感が生じやすくなります。事前に内容を説明し、疑問点を解消しておくことで、任意後見開始後の理解と協力を得やすくなります。

任意後見監督人の役割と実際のチェックポイント

家庭裁判所によって選任される任意後見監督人は、任意後見人の事務をチェックし、本人の利益が適切に守られているかを監督する役割を担います。

任意後見監督人は、任意後見人から提出される報告書や領収書、契約内容の資料などを通じて事務処理の状況を確認します。このとき、代理権目録の内容が明確であればあるほど、「任された範囲の中で適切に行われているか」を判断しやすくなり、制度を安全に運用するうえでの重要な基盤になります。


6. そのまま使える「代理権目録の文例セット」3カテゴリ

文例を整理しておくと、本人の生活状況や希望に合わせて代理権目録の内容を具体化しやすくなります。以下の文例はあくまで一般的なイメージを示すものであり、実際に利用する際には、公証人や専門家と相談しながら、制度上記載できる範囲かどうかを必ず確認してください。

この章で扱う主なポイントは以下のとおりです。

  • 財産管理に関する文例
  • 介護・医療・生活支援に関する文例
  • 特殊事情に応じた文例

預貯金・不動産等の財産管理に関する文例

【文例(趣旨)】

  • 本人名義の預貯金について、払戻し、振込、解約、口座振替の変更その他日常管理に必要な手続きに関する事務。
  • 本人名義の不動産について、管理、修繕、賃貸借契約、管理委託契約および必要に応じた売却手続きに関する事務。
  • 本人に関する税金その他の公租公課の申告および納付に関する事務。

行為内容を具体的に示すことで、金融機関や不動産業者などの第三者が権限の有無を確認しやすくなり、手続きも進めやすくなります。

介護・医療・生活支援の身上監護に関する文例

【文例(趣旨)】

  • 介護保険サービスその他の介護サービスの申請・更新、ケアプランの調整、介護事業者との契約に関する事務。
  • 入退院に関する契約手続き、医師等からの説明の受領、医療費の支払いその他医療に付随する事務。
  • 生活に必要な日用品・衣類の購入、住居の契約および変更、郵便物の受領・管理に関する事務。

医療行為そのものの同意について包括的な権限を与えることはできない点に留意し、説明の受領や入退院契約、費用支払いなど付随的な事務に限定して整理することがポイントです。

特殊事情に応じた文例(ネットサービス/事業管理/ペット管理など)

【文例(趣旨)】

  • インターネットバンキングその他のオンラインサービスに関する契約の更新・解約・利用設定に関する事務。
  • 本人が営む事業に関し、継続に必要な範囲内での契約更新や取引先への連絡などの事務。
  • ペットの飼育に関する費用の支払い、動物病院での説明受領、飼育環境の維持に必要な契約に関する事務。

このような文例を追加することで、本人の生活実態や希望をより具体的に反映した代理権目録とすることができます。ただし、事業運営やペットの世話などについても、あくまで「契約や費用支払いといった事務」に限られる点に注意が必要です。


7. まとめ

任意後見契約の代理権目録は、任意後見開始後に任意後見人がどの範囲で代理できるかを示す、非常に重要な書類です。財産管理・身上監護のそれぞれについて権限を具体化し、家族との事前共有や任意後見監督人の監督を通じて、将来の誤解やトラブルを減らすことが期待できます。

本記事の重要ポイントを以下にまとめます。

  • 財産管理と身上監護は区分して整理する。
  • 医療に関する事務は、説明受領や入退院手続きなど付随的な事務に限定して記載し、医療行為そのものの包括的な同意権は記載しない。
  • 家族や将来の任意後見監督人との情報共有がトラブル防止につながる。
  • 文例はあくまで一般的なイメージとして利用し、本人の生活状況や希望に合わせて調整する。
  • 権限を広げすぎず、本当に必要な範囲に限定することで、制度の運用が安定しやすくなる。

任意後見契約は将来の安心のための大切な準備ですので、迷う点があれば、公証人や司法書士・弁護士などの専門家に相談しながら、本人と家族が納得できる形に整えていくことが重要です。


本記事は、日本の任意後見制度および任意後見契約に関する一般的な仕組みや文例の趣旨を、分かりやすく紹介したものです。

実際の任意後見契約の内容は、本人の財産状況・家族構成・健康状態などにより大きく異なります。具体的な契約内容の可否や記載の仕方については、必ず公証人、司法書士、弁護士などの専門家にご相談ください。


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