コラム
任意後見契約における代理権目録の具体的記載例|財産管理・医療・介護の文例をやさしく解説
代理権目録は「できる手続き」を具体的に書くのが正解。書きすぎ(包括・曖昧)は銀行や家族で止まりやすく、後から揉めます。実務で詰まる文言と分野別の判断ポイントを、記載例付きで整理します。
任意後見契約の代理権目録とは?
代理権目録は、将来、任意後見が開始したときに「任意後見人が代理できる事務の範囲」を特定するための別紙です。ここが曖昧だと、金融機関・不動産会社・施設・役所が「権限不足」と判断して手続きが止まったり、家族が「そこまで任せたの?」と不信感を持つ原因になります。
さらに重要なのは、任意後見契約の公正証書を作るとき、代理権目録は省令で定める様式(付録第1号/第2号)で作成する扱いになっている点です。
任意後見 代理権目録の「書式」は2種類(第1号/第2号)
1)第1号様式(チェック方式)
あらかじめ用意された項目にチェックを入れる方式。漏れは減りますが、項目が細かく、実態に合わないと別紙追加が必要になりがちです。
2)第2号様式(包括記載方式)
「一、何々」のように文章で列挙していく方式。柔軟ですが、書き方を誤ると“広すぎる代理権”や“曖昧文言”になって事故りやすいのが特徴。附録第2号様式の注意書きでも、別紙に書く場合は記号参照ではなく全文表記する旨が示されています。
代理権目録(テンプレ)— まずは骨組みを作る
テンプレ骨子(第2号様式に落とし込みやすい並べ方)
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A 財産管理
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預貯金(払戻し/振込/解約/口座振替変更/残高証明 等)
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不動産(管理/修繕/賃貸借/更新解約/売却の要否)
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保険・年金・税金(請求/届出/申告納付)
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支払(光熱費・通信・家賃・施設費・医療費 等)
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B 身上監護(生活・療養看護に関する事務)
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医療(説明受領/入退院手続/費用支払 ※医療同意は別)
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介護(介護保険申請/ケアプラン/施設入退所)
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住まい(住居契約・解約/転居/住所変更)
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C 役所・各種手続
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住民票・印鑑登録等の届出、各種給付・減免申請
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コツ:テンプレは「見出し」ではなく、“第三者が見て通る粒度”まで落とす(特に銀行・不動産・施設)。
書き方の結論:実務で揉めない「3つの判断ルール」
ルール1:“行為”で書く
NG:「財産管理一切」
OK:「預貯金の払戻し・解約・振込、口座振替の設定変更、残高証明書の取得」
ルール2:広げすぎるなら“歯止め”もセット
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「不動産売却」まで入れるなら、
同意(承認)を要する特約や、売却条件の方針(例:自宅は原則売却しない、等)を別紙運用で検討
(特約目録の考え方は省令上も整理されています)
ルール3:できないことは書かない(書くほど揉める)
典型例:
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医療行為そのものへの包括同意
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介護そのもの(事実行為)
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死後事務(葬儀・解約・納骨など)
→ これらは別スキーム(死後事務委任、遺言、意思表示書等)で整理するのが安全です。
【分野別】判断ポイント+記載例
1)預貯金・金融機関
判断ポイント
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「払戻し」だけだと、解約・名義情報変更・各種証明の取得が別扱いになりやすい
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通帳・キャッシュカード・ネット銀行など、運用実態に合わせる
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施設入所・医療費で高頻度の振込が起きるなら、振込権限を明示
記載例(例文)
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「本人名義の預貯金について、払戻し、入出金、振込依頼、定期預金の中途解約を含む解約手続、口座振替の設定・変更、各種手数料の支払、残高証明書等の証明書類の取得に関する一切の事務」
NG例(広すぎ・曖昧)
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NG:「金融機関との一切の取引」
改善:「預貯金の払戻し・解約・振込・口座振替変更等(具体列挙)」+必要なら「証券・信託は別項目」
2)不動産
判断ポイント
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管理(修繕・更新)と処分(売却)は分ける
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売却を入れるなら「条件」「同意」など歯止め設計が要る
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賃貸中なら「賃貸借の締結・更新・解約」「明渡し」まで視野
記載例(管理中心)
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「本人所有不動産につき、管理、保存、修繕の手配、管理会社との管理委託契約の締結・変更・解除、賃貸借契約の締結・更新・解除、家賃等の受領、敷金精算、原状回復に関する事務」
記載例(売却まで含める場合)
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「本人所有不動産につき、前項に加え、売却の媒介契約締結、売買契約締結、登記手続に必要な書類の作成・提出、代金受領に関する事務」
※このとき実務上は「売却は監督人の同意を要する」等の運用設計を併置しないと、家族トラブルの火種になりがちです。
NG例
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NG:「不動産の処分を含む一切」
改善:処分行為を分解(媒介→契約→決済→登記)+歯止め
3)役所手続
判断ポイント
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介護保険、国保・後期高齢、年金、障害・福祉、各種給付は“窓口が違う”
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住所変更・世帯変更が絡むと書類が雪だるま式に増える
記載例
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「本人に関する官公署への届出・申請・受領に関する事務(例:住民票、印鑑登録、介護保険の申請・更新、医療保険・年金に関する届出、各種給付金の申請・受領)」
4)医療
判断ポイント
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書けるのは「説明受領」「契約・支払」「連絡調整」
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医療同意の包括代理は書かない(書くほど揉める)
記載例(安全に通る書き方)
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「本人の医療に関し、医師等からの説明の受領、診療・入院・退院に関する契約及び書類手続、医療費の支払、保険給付等の請求、医療機関との連絡調整に関する事務」
NG例(アウトの典型)
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NG:「手術・延命措置を含む医療行為の同意・拒否」
改善:同意部分を削り、説明受領+手続に限定
5)介護・施設入所
判断ポイント
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介護保険の申請・更新、ケアプラン、事業者契約、施設入退所は“セット”
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施設の入居一時金・保証人問題があるなら、財産管理側(支払・契約)も整合させる
記載例
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「介護保険その他の介護サービスにつき、要介護認定の申請・更新、ケアプランの作成・変更に関する手続、介護事業者との契約の締結・変更・解除、介護施設への入所・退所に関する契約及び手続、費用の支払に関する事務」
“広すぎる代理権”“曖昧文言”NG集
| NG文言 | どこがダメ? | 実務で起きること | 改善例 |
|---|---|---|---|
| 「必要な一切の行為」 | 範囲が特定できない | 銀行・施設で止まる/家族が疑う | 行為を列挙(払戻し・解約・契約・支払等) |
| 「財産管理全般」 | 具体性不足 | 大口処分の正当性が争点化 | 管理と処分を分ける+歯止め |
| 「医療同意」 | 制度外・紛争化 | 病院も家族も扱いに困る | 説明受領・入退院契約・支払に限定 |
| 「介護をする」 | 事実行為 | 目録に書いても権限にならない | 介護契約・申請・支払に言い換え |
ここで詰まる!実務Q&A
Q1. 銀行で手続きが止まる典型は?
A. だいたい次のどれかです。
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代理権目録が包括的すぎる/具体性が足りない(払戻しはOKでも解約・証明取得が読めない)
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登記事項証明書(成年後見登記)など、開始後に必要な書類が揃っていない
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本人の口座が多く、取引範囲(証券・信託・貸金庫等)の記載が追いついていない
→ 目録は「銀行員が読んで判断できる動詞」で揃えるのが最善です。
Q2. 家族間で揉めるのはどんなとき?
A. 代表例はこの3つです。
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不動産売却や高額解約(「そんな権限まで?」)
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施設選定(「誰が決めた?」)
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使途不明金の疑い(報告・領収の運用が曖昧)
→ 予防策は「権限の分解+歯止め+家族共有(説明)+記録運用」です。
Q3. “書きすぎ”がNGなら、漏れたらどうする?
A. 任意後見は、開始後に本人の判断能力が低下している前提なので、契約変更が難しくなりがちです。だからこそ、
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高頻度(預貯金・支払・介護契約)は漏れなく具体的に
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低頻度かつ重大(売却等)は歯止め付きで限定的に
という設計が実務的です。
行政書士に依頼するメリット
「書類を作る代行」ではなく、実務では次の事故を防ぐ価値が大きいです。
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銀行・不動産・施設で止まる文言を事前に潰す
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「払戻しはあるが解約がない」
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「施設入所はあるが保証や支払の整合が取れない」
など、現場の“詰まりパターン”を前提に設計します。
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“広すぎる代理権”を歯止め付きで設計する
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売却や高額処分を入れるなら、同意・報告・条件など運用込みでトラブル予防。
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家族に説明できる形(争点が残らない形)に整える
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権限の理由、本人の意思、優先順位(自宅は維持、施設は○○希望など)を文章化して共有し、後日の不信感を減らします。
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公証役場への落とし込み(様式・別紙運用)まで一気通貫
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第1号/第2号様式の選択、別紙全文表記、項目の整合など、差し戻しを減らします。
まとめ
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代理権目録は「できる事務」を目的語+動詞で具体化する
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包括・曖昧は、銀行・家族・施設で止まる(NG例を避ける)
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不動産・高額処分は歯止め設計が必須
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医療は同意ではなく手続(説明受領・入退院・支払)に落とす
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迷うなら、生活実態(口座・不動産・施設方針)を棚卸ししてから作るのが最短
本記事は、日本の任意後見制度および任意後見契約に関する一般的な仕組みや文例の趣旨を、分かりやすく紹介したものです。
実際の任意後見契約の内容は、本人の財産状況・家族構成・健康状態などにより大きく異なります。具体的な契約内容の可否や記載の仕方については、必ず公証人、司法書士、弁護士などの専門家にご相談ください。
最終更新日
2026年2月6日
