コラム
チャットボットの人格設計｜HANAWAくんと学ぶAI活用ラボ第50回
チャットボットのAI設計では、「人格」と「口調」の一貫性がユーザー体験を左右します。回答精度と同様に「感じのよさ」「誠実さ」「信頼感」が評価の分かれ目となります。
本稿の焦点は、チャットボット人格と回答範囲の定義書を完成させることにあります。この記事を通じて、読者は人格設計・口調設定・回答範囲の整理を体系的に行い、自社のサポートAIに「一貫した声」を与えられる状態を目指します。
目次
- チャットボット人格設計の意義と基本構造
- チャットボットの口調・トーン設定の方法
- 人格と回答範囲を統合した定義書の作成手順
- 運用中に人格・トーンを維持・改善する方法
チャットボット人格設計の意義と基本構造
学習目標：チャットボットAI設計における人格設定の目的と構成要素を理解する。
Point：
チャットボット人格とは、AIが一貫した価値観・語り口・判断基準を持って応答するための設計指針です。これが曖昧だと、同一企業内でも部署や担当者によって口調が異なり、顧客体験が断片的になります。
Reason：
人格設計の目的はAIを「人に似せる」ことではなく、企業ブランドの一部として「応答方針を明確化」することです。例えば銀行のチャットボットがフレンドリーすぎる表現を使えば信頼を損ね、逆にECサイトが堅すぎる表現なら親近感を失います。
この「バランス」を明示するのが人格設計書です。
Example：
人格設計書には次の5要素を明記します。
1️⃣ 名前・役割（例：「HANAWAくん」／AIサポート担当）
2️⃣ 性格・価値観（例：「誠実・親切・正確」）
3️⃣ 対応スタイル（例：「まず共感→次に事実回答」）
4️⃣ 禁止表現（例：「〜してはどうですか」「ごめんなさい」など曖昧表現・擬人化を避ける）
5️⃣ 優先順位（例：「正確性＞スピード＞親しみ」）
Point：
この定義を明文化することで、どの担当者がAIを更新しても同じ人格・トーンを維持できます。人格設計は「運用ルール」ではなく「ブランドガイド」です。
チャットボットの口調・トーン設定の方法
学習目標：チャットボットの口調・トーンを企業ブランドに沿って定義できるようにする。
Point：
口調設計はAI応答の温度感を管理する実務プロセスです。顧客は内容より「どう言われたか」に印象を左右されるため、言葉遣いの一貫性は信頼形成の核心となります。
Reason：
口調（※1）とトーン（※2）はしばしば混同されます。しかし実際には、口調は言葉遣いの形式、トーンは感情の度合いを指します。AI設計では分離して制御することが望ましいです。
設計手順：
① 対象顧客層の特定（BtoBかBtoCかで敬語レベルが異なる）
② ブランドボイス定義（会社の公式文書・広告の言葉遣いを抽出）
③ 表現ルール作成（「語尾」「敬語」「句読点」「感嘆語」「話速」などを設定）
④ トーン・マトリクス作成（感情軸と文体軸の座標にAIの立ち位置をプロット）
⑤ 訓練データ反映（選定文例を訓練データとして登録しAIの出力傾向を微調整）
Example：
例えば、BtoB向けSaaS企業のチャットボットでは「です・ます調＋専門用語併用＋落ち着いたトーン」、アパレルECサイトでは「です・ます調＋親しみやすい表現＋明るいトーン」というように、顧客層に応じた設計を行います。
注意点：
訓練データの一貫性を欠くとトーンが崩壊します。API更新等による出力変化にも口調定義は常に明文化しておく必要があります。
Point：
人格と口調は一体であり、AIに"声"を与えることは企業文化を言語化する行為といえます。
人格と回答範囲を統合した定義書の作成手順
学習目標：人格・口調・回答範囲を統合した定義書を自社向けに作成できる。
Point：
定義書はAIの「設計仕様書」としてすべてのチャットボット構築プロジェクトの基礎資料となります。
Reason：
人格・口調明確化に加え、回答範囲を曖昧にすると誤解や不適切応答を招くため、範囲定義は必須です。
Example（定義書構成）：
1️⃣ 目的（例：「顧客サポート対応時間を短縮、顧客満足度維持」）
2️⃣ 想定ユーザー（例：「製品利用中の既存顧客」）
3️⃣ 人格設定（名前・性格・行動指針）
4️⃣ 口調・トーン（具体的な言い回し例・禁止語）
5️⃣ 回答範囲（FAQ領域／案内可領域／専門判断不可領域の三分類）
6️⃣ エスカレーション条件（人間担当への切替基準）
7️⃣ 更新管理ルール（定期見直し・責任者・版数管理）
安全注記：
訓練データ更新時は人格・口調への影響を抑え差分管理を行います。また、外部APIや生成AIのばらつきにはテストプロンプトによる検証を常に行います。
Point：
完成した定義書により、AI開発・社内運用が共通認識を持ち、継続的かつ一貫した人格で改善できる基盤が形成されます。
運用中に人格・トーンを維持・改善する方法
学習目標：人格・トーンの一貫性を維持しつつ改善可能な体制構築。
Point：
人格設計は一度で完成せず、運用中の会話ログ分析から逸脱を検知し再訓練で修正することが実務の鍵です。
Reason：
これは、問い合わせ内容は季節やキャンペーン、製品更新で変動し、応答範囲も変わるため頻繁なチューニングが必要だからです。
Example（運用フロー）：
① 会話ログ抽出・分類（トーン逸脱や曖昧応答の検出）
② 逸脱原因分析（訓練データ偏り、プロンプト冗長性）
③ 改善提案（人格・トーン定義書の更新）
④ 再学習・再テスト（安全確認後反映）
注意点：
トーン変化許容範囲を例示的に「±1ステップ以内」と定め、内製レビューで逸脱チェックリストを用い更新承認を明確化します。
Point：
人格設計書は固定文書ではなく生きたルールブックとし、企業文化の進化を支える重要文書と位置づけます。
まとめ
今回の焦点である「チャットボット人格と回答範囲の定義書を完成させる」は、単なる設定作業を超えて企業自身の言葉と態度を定義する行為です。本稿を通じて読者は人格・口調設計の意義と手順、ブランドに沿ったトーン・スタイルの文書化、継続的運用・改善の方法を理解し実行可能になります。
この定義書が整えば、AIは「顧客対応の一員」として信頼される存在となります。
自社へのAI導入や教育支援はHANAWA AIラボ公式問合せフォームからお問い合わせください。
※1 口調：語尾・文体・敬語表現など文法的特徴。
※2 トーン：文体に含まれる感情的温度や姿勢。例えば「穏やか」「情熱的」など。
免責および準拠
本稿は、2025年11月時点の法令・業界ガイドラインおよび一般的な中小企業運用を前提に執筆しております。各社での導入時には、最新の法令・業界基準や個別システム要件に即した対応、および必要に応じた専門家への確認を行ってください。また、本文中の事例や表現は参考指針であり、必ずしもそのまま適用できるものではありません。