コラム
契約・知財・秘匿の条項設計|HANAWAくんと学ぶAI活用ラボ第26回
はじめに
生成AIを使用する契約では、成果物の知的財産権の帰属先や秘密保持の範囲を明確化しないと、後に紛争や権利侵害リスクが発生します。生成AIが作成した文章・画像・コード等が著作物として法的にどう扱われるか不透明な点を踏まえ、契約書で「成果物の所有権」「利用範囲」「再利用の可否」などを詳細に定義することが必須です。
本稿では、生成AI活用に欠かせない契約条項設計の手順を示し、実務で即時活用できる条項サンプルを提示します。
契約条項と生成AIの関係
代表的契約類型としては、開発委託契約、利用契約、共同研究契約、成果物利用契約があります。それぞれに「知財」「守秘」「免責」「再利用制限」の4つの重要軸が存在します。
生成AIが成果物を生成する過程では、入力されたプロンプトや学習データが外部サービスに送信される可能性があるため、秘密情報の漏えいリスクが高まりもあり、契約条項で明確に権利関係と責任範囲を規定することが不可欠となります。
守秘義務・知財・帰属の基本設計
守秘義務条項のポイント
秘密情報の範囲を具体的に定めます。生成AI利用に伴い、以下すべてを秘密情報に含めることが望ましいです。
- プロンプト(AIへ入力するデータや文)
- AIの内部仕様や学習データ(可能な範囲で)
- 生成された出力情報(成果物)
また、使用目的を本契約遂行のみに限定し、契約終了後は保存データの消去や返却義務を明示します。
【条項例】
「甲及び乙は、本契約遂行に関連して知り得た相手方の業務上の情報を第三者に漏洩してはならず、秘密情報には生成AIの入力・プロンプト・生成結果を含むものとする。」
知的財産権と帰属条項
成果物の知財帰属は紛争防止の要です。以下のケースを想定し条項を設計します。
- 依頼者(甲)が成果物の著作権・利用権を全面的に取得
- 受託者(乙)が独自に開発したAIモデル・テンプレートなどは乙に帰属
- 双方が成果物を共有し、商用利用に制限を設ける共同所有
【条項例】
「生成AIを用いて作成された成果物の著作権は原則として甲に帰属する。ただし、乙の独自開発によるAIモデル、テンプレート、スクリプト等の権利は乙に帰属するものとする。」
知財帰属を明確化することで、後の商用利用や第三者への再許諾における混乱を防ぎます。
成果物と免責に関する条項
成果物条項
生成AIの特性上、成果物の「完全性」「独自性」「第三者権利非侵害」を契約上で限定的に扱う必要があります。同一または類似の生成物が他者からも生成されうる点を利用者に了承させます。
【条項例】
「乙は生成AIを利用して作成した成果物について、完全性、独自性、第三者権利の非侵害を保証しない。甲はこれを了承の上、自己責任で利用するものとする。」
この条項により、成果物の品質や独自性に関する過度な期待を抑制し、利用者側の確認義務を明確化します。
免責条項
生成AIの確率的生成による誤情報や第三者権利侵害リスクを踏まえ、委託先(乙)は故意または重過失がない限り責任を負わないことを明記します。
【条項例】
「乙は生成AIの出力に起因する損害について一切責任を負わない。ただし、乙の故意または重過失による場合はこの限りでない。」
免責条項の明示は、受託者側のリスク軽減と契約交渉の円滑化に寄与します。
条項設計の運用・リスク管理
運用体制の整備
契約条項はAI技術や利用環境の変化に対応して定期的に見直します。
- 6ヶ月単位の条項見直し
- 生成AIの入力プロンプトや成果物の保存・記録管理
- 利用者に対する契約内容・守秘義務・知財権利に関する教育実施
- 改訂履歴の共有と社内承認フローの明文化
定期見直しにより、法令改正や技術進化に即した条項運用が可能となります。
リスク検知と対応
中小企業では法務専門家が不在のことも多いため、外部法律顧問によるレビューと生成AI搭載ツールを活用した条項の差分分析併用が推奨されます。法務・技術・業務の三位一体で条項設計と契約運用を行うことが、安全なAI活用の鍵です。
契約締結前には必ず条項案を法務部門または顧問弁護士に確認させ、技術部門とも連携してリスクを多角的に検証します。
まとめ
本稿は生成AI活用に欠かせない契約条項設計の手順を示し、「守秘義務」「知財帰属」「成果物の取り扱い」「免責」の各条項サンプルを提示しました。これにより、AI利用契約のリスクを具体的に可視化し、中小企業でも安心してAIプロジェクトを進める法的基盤を築けます。
自社AI導入・教育支援のご相談はHANAWA AIラボ公式問合せフォームよりお知らせください。
※生成AI:大量データを学習し文章・画像・音声などを生成するAI技術。
※帰属:契約で定めた成果物の権利所有者。
※免責:一定条件下で責任を免除する取り決め。
【参考文献】
[1] 経済産業省「AI・データ利用に関する契約ガイドライン」
[2] IPA「AI倫理ガイドライン」
[3] 特許庁「著作権・商標法」
免責および準拠
本稿は、2025年10月時点の法令・業界ガイドラインおよび一般的な中小企業運用を前提に執筆しております。各社での導入時には、最新の法令・業界基準や個別システム要件に即した対応、および必要に応じた専門家への確認を行ってください。また、本文中の事例や表現は参考指針であり、必ずしもそのまま適用できるものではありません。
