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コラム

個人情報と生成AIの安全運用|HANAWAくんと学ぶAI活用ラボ第6回

生成AIと個人情報の取り扱いは、AI活用の法務・コンプライアンス分野で最も重要な領域です。生成AIは大量のテキスト・画像を処理できる一方で、個人情報の入力や保管を誤ると重大な情報漏えい事故につながります。

本稿では、個人情報の分類表と匿名化ルールの定義を中心に据え、自社で安全な生成AI活用基盤を構築できるよう具体的な実務方法を解説します。これにより、データ管理範囲が明確となり、法令遵守および実務リスクの低減に資する対応が可能となります。

目次

  1. 生成AIと個人情報の関係を正しく理解する
  2. 個人情報の分類表を設計する手順
  3. 匿名化と同意のルールを設定する
  4. 保管・削除ルールによるリスク低減策を確立する
  5. 自社に適した安全運用モデルを確定する

1. 生成AIと個人情報の関係を正しく理解する

学習目標:生成AI利用時の法的リスクと管理責任を理解する

生成AI※は、入力データを一時的に外部サーバーで処理する設計のため、個人情報※を入力する場合「第三者提供」に該当する可能性があります。したがって、利用前には必ず個人情報保護法等の関連法令との整合性を確認することが不可欠です。

多くの生成AIサービスでは、利用履歴やプロンプトが一時保管され、サービス改善等の目的で活用されることがあります。個人情報が含まれていると意図せぬ外部流出リスクが発生し、事業者に法的責任が生じる事態となります。

たとえば、ある自治体が生成AIに住民問い合わせ文を入力した際、回答文に他案件情報が混在した報告例があります。以降、その自治体は個人情報の入力を全面禁止し、「AI入力可能情報」を区分定義する運用へ切り替えました。

このように、生成AIの安全な利活用には、個人情報を扱う境界線を明確にした運用基準の策定が必須といえます。


2. 個人情報の分類表を設計する手順

学習目標:自社で扱う個人情報の分類基準を明確化し、生成AI入力可否を判定できるようにする

個人情報分類表は、社内で扱う情報を機密度や影響度別に区分し、AI入力の可否を一覧で示すものです。これによって、現場担当者が自律的かつ正確な判断を行える運用ルールとなります。

現場ではデータの性質判断が難しく、氏名や住所、社員番号等を誤って入力するリスクが存在します。統一された分類表により判断基準を明文化し、誤操作防止につなげることが可能です。

分類表の一例:

区分例 情報種別 AI入力可否 方針
A:特定個人情報 マイナンバー・健康情報 不可 絶対禁止
B:個人識別情報 氏名・住所・電話番号 原則不可 匿名化後のみ可
C:業務関連情報 部署名・役職・取引記録 条件付き 社内AIのみ利用
D:公開情報 プレスリリース等 自由利用

分類表作成により、生成AI運用時の情報管理範囲が明確化し、組織全体のセキュリティ水準を均一化できます。また、定期的な見直しを行うことで、法改正や業務変化に対応した運用が維持されます。


3. 匿名化と同意のルールを設定する

学習目標:匿名化処理と本人同意による安全なデータ運用基準を設計する

匿名化とは、個人を特定できない状態へデータを加工する施策です。生成AI利用では、匿名化処理と利用同意取得の両方を管理することが法令・倫理的観点から重要となります。

匿名化が不十分だと、AI回答から個人が識別される「再識別リスク」が残ります。また、収集データを学習目的で利用する際、本人同意なき利用は法的問題となるため注意が必要です。

運用例:

  • 匿名化例:「山田太郎→A001」「東京都港区南青山→都内在住」「080-XXXX-XXXX→非表示」
  • 同意運用例: データ収集時に「生成AI分析への利用」を明記し、記録を保管する
  • 補足: 匿名化スクリプト等の自動処理はAPI変更により誤変換が発生する可能性があるため、定期検証が必要です

匿名化と同意の運用はAI活用の両輪となり、文書化とプロセス明確化により外部監査にも耐えうる透明性の高い運用が実現されます。さらに、匿名化基準を部門間で統一することで、運用品質のばらつきを防ぐことができます。


4. 保管・削除ルールによるリスク低減策を確立する

学習目標:生成AIによる入力・出力・ログの保管リスクを把握し、低減策を構築する

生成AIで扱う情報は、入力データ・出力成果物・ログの3種に分類されます。それぞれの保管期間と削除ルールの明確化が、リスク低減の基本的なプロセスです。

AIサービスは一時的にデータを保持する場合があり、運用者が削除手続きを怠ると第三者による不正閲覧リスクが生じます。したがって、データライフサイクル全体を管理する体制が求められます。

運用例:

  • 入力データ: 処理完了後に自動削除設定
  • 出力データ: 業務成果物として保存時は分類ラベル付与
  • ログデータ: 3か月保管、監査後自動削除

この運用により、データ最小化(必要最低限の保有)とリスク低減原則が両立します。クラウド環境では「最短期間・最低量の保管」が推奨されるため、定期的な棚卸しと削除プロセスの自動化を検討することが有効です。

保管・削除ルールの整備が、生成AIにおける「見えないリスク防止」の最終防壁となります。


5. 自社に適した安全運用モデルを確定する

学習目標:分類表・匿名化・保管ルール統合型の自社版運用モデルを策定する

これまでの分類表、匿名化・同意、保管・削除ルールを組み合わせ、自社体制に応じた生成AI安全運用モデルを設計します。

ポリシー単体では現場実務に機能しないため、安全運用モデルとして体系化し、教育・監査・改善のサイクルを循環的に運用することが重要です。

運用体制例:

  • 情報分類表の作成(総務部主導)
  • 匿名化ルールと同意管理の文書化(法務部主導)
  • 保管・削除ルールを情報システム部が実施
  • 四半期ごとの運用監査の実施

こうして整備した安全運用モデルが、自社の生成AI活用の基盤を守りつつ推進するものとなります。また、運用開始後も現場からのフィードバックを収集し、継続的な改善を図ることで実効性の高い体制を維持できます。


まとめ

本稿では、生成AIと個人情報の安全な運用に向けて、分類表と匿名化ルールの策定、保管・削除設計といった法的・実務的手順を解説しました。これにより、データ管理範囲が明確となり、法令遵守および実務リスクの低減に資する対応が可能となります。

生成AIの安全運用には、技術的対策だけでなく組織全体での理解と協力が不可欠です。分類表・匿名化・保管削除の三本柱を軸に、自社に適した運用モデルを構築することで、安心してAIを活用できる環境が整います。

次回は「AI教育と従業員トレーニング」をテーマに、策定済みルールの現場定着方法を解説します。AI導入や教育支援については、HANAWA AIラボ公式フォームまでご相談ください。


生成AI: 大量のデータから新たな文章や画像などを自動生成するAI技術
個人情報: 生存する個人を識別し得る情報(氏名、住所、連絡先等)を指します。


免責および準拠

本稿は、2025年10月時点の法令・業界ガイドラインおよび一般的な中小企業運用を前提に執筆しております。各社での導入時には、最新の法令・業界基準や個別システム要件に即した対応、および必要に応じた専門家への確認を行ってください。また、本文中の事例や表現は参考指針であり、必ずしもそのまま適用できるものではありません。


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