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行政不服審査法:処分に対する審査請求 - 特定行政書士試験学習ガイド

はじめに

行政不服審査法における「処分に対する審査請求」は、特定行政書士試験の最重要論点の一つです。行政処分によって不利益を受けた私人が、裁判所での訴訟によらずに、行政内部での救済を求める制度として、実務上極めて重要な役割を果たしています。

本章では、処分に対する審査請求について、その制度的意義から具体的な手続まで、体系的に解説していきます。前章で学習した行政行為の基本的な効力(公定力、不可争力等)や行政手続法の知識を踏まえ、次章で扱う不作為に対する審査請求との違いも意識しながら、理解を深めていきましょう。

第1節 制度の意義と目的

1.1 行政不服審査制度の存在理由

行政不服審査制度は、国民の権利利益の救済と行政の適正な運営の確保という二つの目的を有しています。

権利救済機能 行政処分によって権利を侵害され、または法律上の利益を害された国民にとって、裁判所への提訴は時間的・経済的負担が大きく、必ずしも適切な救済手段とはいえません。行政不服審査制度は、より簡易迅速で費用のかからない救済手段として機能します。

行政統制機能 行政機関が自らの処分について再検討する機会を設けることで、違法・不当な処分を是正し、行政の適正な運営を確保します。これは、行政の自己統制機能として位置づけられます。

1.2 司法審査との関係

行政不服審査は、原則として司法審査の前置手続ではありません。国民は、行政処分に対して、行政不服審査を経ることなく直接訴訟を提起することができます(自由選択主義)。

ただし、例外的に法律で行政不服審査を前置することを定めている場合があります。このような場合を「審査請求前置主義」といいます。

審査請求前置主義の例

  • 所得税の更正・決定処分(国税通則法115条1項)
  • 労働保険料の決定処分(労働保険の保険料の徴収等に関する法律46条1項)

第2節 「処分」の概念

2.1 行政不服審査法上の「処分」

行政不服審査法2条1号は、処分を「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」と定義しています。これは行政事件訴訟法3条2項の処分概念と同じものです。

処分の要件

  1. 行政庁の行為であること
  2. 公権力の行使に当たる行為であること
  3. 国民の権利義務を形成し、またはその範囲を確定する行為であること

2.2 処分に該当する行為の具体例

許可・免許関係

  • 建築確認(建築基準法6条)
  • 営業許可の拒否処分
  • 運転免許の取消処分(道路交通法103条)

税務関係

  • 所得税の更正・決定処分(所得税法150条、151条)
  • 固定資産税の賦課処分(地方税法359条)

社会保障関係

  • 生活保護の開始決定・廃止処分(生活保護法24条、26条)
  • 国民年金の不支給決定

その他

  • 公務員の懲戒処分
  • 補助金交付決定の取消し

2.3 処分に該当しない行為

事実行為 行政指導、情報提供、相談業務など、法的効果を生じない事実上の行為は処分に該当しません。

私法上の行為 国や地方公共団体が私人と対等の立場で行う契約行為等は、公権力の行使に当たらないため処分に該当しません。

内部行為 上司が部下に対して行う職務命令など、行政組織内部の行為は原則として処分に該当しません。

第3節 審査請求の対象となる処分

3.1 原則的な対象

審査請求は、行政庁の処分に不服がある場合に行うことができます(行政不服審査法2条)。ここでいう「不服」とは、処分が違法であるか不当であるかを問わず、処分によって自己の権利利益が侵害されたと考える場合を広く含みます。

3.2 除外される処分

行政不服審査法は、一定の処分について審査請求の対象から除外しています(同法7条)。

裁判所または裁判官の裁判により無効とされた処分(1号) 裁判所の判断により処分の無効が確定している場合、改めて行政機関が審理する必要性に乏しいためです。

他の法律に審査請求ができない旨の定めがある処分(2号) 個別法で審査請求を排除している場合です。

例:

  • 人事院の処分(国家公務員法90条2項)
  • 公正取引委員会の処分(独占禁止法85条1項)

他の法律に行政不服審査法による審査請求ができない旨の定めがある処分(3号) 行政不服審査法による審査請求を排除し、特別な不服申立制度を設けている場合です。

3.3 特別な不服申立制度

一部の行政分野では、行政不服審査法とは異なる独自の不服申立制度が設けられています。

人事院への不服申立て 国家公務員に対する処分については、人事院への不服申立てができます(国家公務員法90条以下)。

公正取引委員会への不服申立て 独占禁止法違反事件については、公正取引委員会への不服申立てができます(独占禁止法49条以下)。

第4節 審査請求の要件

4.1 形式的要件

書面主義 審査請求は、原則として書面により行わなければなりません(行政不服審査法19条1項)。ただし、処分庁等に対して口頭で審査請求をしたときは、処分庁等は審査請求書を作成し、審査請求人に確認を求めなければなりません(同条2項)。

記載事項 審査請求書には次の事項を記載する必要があります(同条3項):

  1. 審査請求人の氏名または名称及び住所または居所
  2. 審査請求に係る処分の内容
  3. 審査請求に係る処分があったことを知った年月日
  4. 審査請求の趣旨及び理由
  5. 処分庁の教示の有無及びその内容
  6. 審査請求の年月日

4.2 実質的要件

当事者能力 審査請求をすることができるのは、処分の相手方その他処分により自己の権利利益を害された者です(同法2条)。

処分の相手方 処分の直接の名宛人は当然に審査請求をすることができます。

第三者 処分の相手方以外の者であっても、処分により自己の権利利益を害された場合には審査請求をすることができます。この場合の「権利利益」は、法律上保護された利益である必要があります。

4.3 審査請求期間

原則 審査請求は、処分があったことを知った日の翌日から起算して3月以内に行わなければなりません(同法18条1項本文)。

絶対的期間制限 処分があった日の翌日から起算して1年を経過したときは、正当な理由がある場合を除き、審査請求をすることができません(同項ただし書)。

期間の起算点 「処分があったことを知った日」とは、処分の存在を現実に知った日をいいます。処分の内容を詳細に知る必要はなく、処分がなされたこと自体を知れば足ります。

正当な理由 正当な理由の有無は、個別具体的な事情を総合的に考慮して判断されます。

例:

  • 天災地変により審査請求ができなかった場合
  • 処分庁の誤った教示により審査請求期間を誤信した場合
  • 重篤な疾病により審査請求ができなかった場合

第5節 審査請求先

5.1 審査請求先の決定原理

審査請求先は、処分庁と審査庁の関係により決まります。これは、行政組織内での統制機能を適切に発揮させるための制度設計です。

5.2 審査請求先のパターン

処分庁の直近上級行政庁(原則) 審査請求は、原則として処分庁の直近上級行政庁に対して行います(同法4条1項)。

例:

  • 市長の処分 → 都道府県知事
  • 税務署長の処分 → 国税局長
  • 都道府県知事の処分 → 各省大臣

処分庁(例外) 上級行政庁がない場合、または法律で特別の定めがある場合は、処分庁に対して審査請求を行います(同条2項、3項)。

例:

  • 各省大臣の処分(上級行政庁がない)
  • 独立行政法人の処分(個別法で処分庁に審査請求することとされている場合)

5.3 上級行政庁の意義

指揮監督関係 上級行政庁は、下級行政庁に対して指揮監督権を有する行政機関をいいます。単なる所管関係では足りません。

具体例

  • 市町村長と都道府県知事:地方自治法上の指揮監督関係
  • 税務署長と国税局長:国税庁組織令上の指揮監督関係
  • 労働基準監督署長と労働局長:厚生労働省組織令上の指揮監督関係

5.4 誤った審査請求先への対応

振り分け規定 審査請求が適当な審査庁以外の行政庁に対してなされた場合、当該行政庁は速やかに事件を適当な審査庁に移送しなければなりません(同法21条)。

審査請求人への通知 移送をした場合、移送をした行政庁および移送を受けた審査庁は、その旨を審査請求人に通知しなければなりません(同条2項、3項)。

第6節 審査請求の手続

6.1 審査請求の提出

提出先 審査請求書は、審査庁に提出します。ただし、処分庁を経由して提出することもできます(同法20条1項)。

処分庁経由の効果 処分庁を経由して審査請求書が提出された場合、処分庁は速やかにこれを審査庁に送付しなければなりません(同条2項)。

6.2 審査請求書の補正

補正命令 審査請求書の記載事項に不備がある場合、審査庁は相当の期間を定めて補正を求めることができます(同法23条1項)。

補正がなされない場合の効果 審査請求人が定められた期間内に補正をしない場合、審査庁は審査請求を却下することができます(同条2項)。

6.3 審理の開始

審理員の指名 審査庁は、審査請求がなされると、その職員のうちから審理員を指名し、審査請求に係る審理手続を行わせなければなりません(同法9条1項)。

審理員の除斥 次に掲げる者は、審理員となることができません(同条2項):

  1. 審査請求に係る処分に関与した者
  2. 審査請求に係る処分の根拠となる法令の立案に関与した者
  3. その他審査請求人の申立て等により公正な審理の実施に支障があると認められる者

6.4 反駁書の提出

処分庁の応答義務 審理員は、処分庁に対し、審査請求に係る処分に関する事実関係及び法令の適用について反駁書の提出を求めなければなりません(同法29条1項)。

反駁書の記載事項 反駁書には、次の事項を記載する必要があります(同条2項):

  1. 審査請求に係る処分の内容及び根拠
  2. 審査請求人の主張に対する見解
  3. その他必要な事項

第7節 審理手続

7.1 審理手続の基本原理

当事者主義的要素 行政不服審査法は、審査請求人と処分庁を当事者として位置づけ、双方が主張立証を行う当事者主義的な手続を採用しています。

職権探知主義的要素 同時に、審理員は職権により事実の調査を行うことができ、職権探知主義的な要素も併有しています。

7.2 書面審理と口頭審理

書面審理が原則 審理手続は、原則として書面により行われます。

口頭審理 審査請求人または処分庁の申立てがあったとき、その他審理員が必要と認めるときは、口頭で意見を述べる機会を与えなければなりません(同法31条)。

7.3 証拠調べ

審理員の調査権限 審理員は、必要があると認めるときは、審査請求に係る事件に関し、処分庁等に対して資料の提出を求め、または職員に対して説明を求めることができます(同法33条1項)。

第三者からの情報収集 審理員は、必要があると認めるときは、審査請求人、処分庁以外の者に対しても、資料の提出および説明を求めることができます(同条2項)。

7.4 審理関係人

参加人 審査請求に利害関係を有する第三者は、審理員の許可を得て、審理手続に参加することができます(同法13条1項)。

代理人・参加人 審査請求人および参加人は、代理人を選任することができます(同法12条)。

7.5 審理の終結

意見書の提出 審理員は、審理を終結したときは、審査庁に対して意見書を提出しなければなりません(同法40条1項)。

意見書の内容 意見書には、次の事項を記載する必要があります(同条2項):

  1. 事実関係の整理
  2. 法的な検討
  3. 結論(審査請求を認容すべきか、棄却すべきかの意見)

第8節 執行停止

8.1 執行停止制度の意義

審査請求は、処分の効力を停止しません(同法25条1項本文)。しかし、処分の執行により生ずる著しい損害を避けるため、一定の要件の下で執行を停止することができます。

8.2 執行停止の要件

職権による執行停止 審査庁は、必要があると認める場合には、審査請求人の申立てにより、または職権で、処分の効力の停止その他の措置をとることができます(同条1項ただし書)。

執行停止の判断要件 執行停止の判断に当たっては、次の事項を考慮します:

  1. 処分の執行により生ずる回復困難な損害
  2. 処分の適法性に対する疑いの程度
  3. 公共の福祉に及ぼす影響

執行停止が認められない場合 次の場合には、執行停止をすることができません(同条2項):

  1. 処分の効力の停止が公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがある場合
  2. 処分の効力の停止が困難である場合

8.3 執行停止の効果

手続の続行 執行停止がされても、審査請求の審理手続は続行されます。

取消・変更 審査庁は、執行停止をした後においても、必要があると認めるときは、これを取り消し、または変更することができます(同条4項)。

第9節 裁決

9.1 裁決の意義

裁決は、審査庁が審査請求について下す終局的な判断です。裁決により、審査請求に係る争いは行政内部において決着します。

9.2 裁決の種類

認容裁決 審査請求に理由があると認める場合、審査庁は処分を取り消し、または変更する裁決をします(同法46条1項)。

棄却裁決 審査請求に理由がないと認める場合、審査庁は審査請求を棄却する裁決をします(同条2項)。

却下裁決 審査請求が不適法である場合、審査庁は審査請求を却下する裁決をします(同条3項)。

9.3 裁決書

記載事項 裁決書には、次の事項を記載しなければなりません(同法50条):

  1. 主文
  2. 事案の概要
  3. 審理関係人の主張の要旨
  4. 理由
  5. 裁決をした年月日
  6. 審査庁の名称

送達 裁決書は、審査請求人、処分庁その他の審理関係人に送達されます(同法51条)。

9.4 裁決の効力

確定力 裁決は、行政庁に対しても審査請求人に対しても拘束力を有します。

不可変更力 審査庁は、裁決をした後は、同一の事件について再び審査することができません。

執行力 認容裁決がなされた場合、処分庁はこれに従わなければなりません。

第10節 再審査請求

10.1 再審査請求制度の意義

再審査請求は、審査請求に対する裁決に不服がある場合に、さらに上級の行政機関に対して不服を申し立てる制度です。

10.2 再審査請求の要件

法定主義 再審査請求は、法律に再審査請求をすることができる旨の定めがある場合にのみ行うことができます(同法5条)。

主な例

  • 国税に関する処分(国税通則法115条2項)
  • 労働保険料に関する処分(労働保険の保険料の徴収等に関する法律46条2項)

10.3 再審査請求の手続

再審査請求の手続は、審査請求の手続に準じて行われます(同法6条、58条以下)。

第11節 教示制度

11.1 教示制度の意義

教示制度は、処分の相手方等に対して不服申立ての方法を教示することにより、適正な権利救済の機会を確保する制度です。

11.2 教示義務

処分時の教示 行政庁は、不利益処分を行う場合には、処分の相手方に対し、審査請求をすることができる旨及び審査請求先等を教示しなければなりません(同法82条1項)。

申請拒否時の教示 行政庁は、申請により求められた許認可等を拒否する処分を行う場合にも、同様の教示を行わなければなりません(同条2項)。

11.3 教示の方法

書面による教示 教示は、原則として書面により行われます。

記載事項 教示書面には、次の事項を記載する必要があります:

  1. 審査請求をすることができる旨
  2. 審査請求先
  3. 審査請求期間

11.4 教示を怠った場合の効果

審査請求期間の延長 教示をしなかった場合または誤った教示をした場合において、処分の相手方がそのことを知ったときは、処分があったことを知った日から1年以内に限り、審査請求をすることができます(同法82条5項)。

第12節 特別な審査請求

12.1 処分の取消しを求める審査請求

一般的な審査請求は、処分の取消しまたは変更を求めるものです。処分が違法または不当であることを理由として、その効力を否定することを求めます。

12.2 義務付けを求める審査請求

申請拒否処分に対する審査請求において、単に拒否処分の取消しを求めるだけでなく、申請に対する許可処分を求めることができます。

12.3 金銭の給付を求める審査請求

損失補償や損害賠償の不支給決定に対して、金銭の給付を求める審査請求を行うことができます。

第13節 審査請求と訴訟の関係

13.1 自由選択主義

前述のとおり、審査請求は原則として訴訟の前置手続ではありません。国民は、行政処分に対して審査請求と訴訟のいずれを選択することもできます。

13.2 審査請求係属中の訴訟提起

原則 審査請求中であっても、取消訴訟を提起することができます(行政事件訴訟法10条3項)。

審査請求前置の場合 法律で審査請求を前置すると定められている場合は、審査請求を経なければ訴訟を提起することができません。

13.3 裁決を経た後の訴訟

裁決を争う訴訟 認容裁決に不服がある処分庁は、裁決の取消しを求める訴訟を提起することができます。

原処分を争う訴訟 棄却裁決を受けた審査請求人は、原処分の取消しを求める訴訟を提起することができます。この場合、裁決の存在にかかわらず原処分を直接の対象とします。

第14節 具体的事例による検討

14.1 建築確認処分に関する審査請求

事例設定 A市建築主事が、Bによるマンション建築確認申請を許可した。これに対して、近隣住民Cが審査請求を提起する場合を考えます。

審査請求の可能性 Cは建築確認処分の相手方ではありませんが、マンション建築により日照被害等を受ける可能性があるため、「処分により自己の権利利益を害された者」として審査請求をすることができるかが問題となります。

権利利益の判定 近隣住民の日照権等が法律上保護された利益と認められるかは、建築基準法その他の関係法令及び条例等を総合的に判断して決せられます。

審査請求先 A市建築主事の上級行政庁である都道府県知事が審査庁となります。

14.2 税務処分に関する審査請求

事例設定 税務署長が、個人事業主Dに対して所得税の更正処分を行った場合を考えます。

審査請求の前置 所得税の更正処分については、国税通則法115条1項により審査請求が前置されています。したがって、Dは審査請求を経なければ訴訟を提起することができません。

審査請求先 税務署長の上級行政庁である国税局長が審査庁となります。

審査請求期間 Dは、更正処分があったことを知った日の翌日から起算して3月以内に審査請求を行う必要があります。

14.3 行政指導に関する審査請求

事例設定 市長が、事業者Eに対して営業の自粛を求める行政指導を行った場合を考えます。

処分該当性 行政指導は事実行為であり、法的効果を生じないため、原則として「処分」には該当しません。したがって、審査請求の対象とはなりません。

例外的場合 ただし、行政指導の名目で実質的に処分と同様の効果を有する場合(事実上の強制を伴う場合等)には、処分性が認められる可能性があります。

第15節 審査請求の効果と実務上の意義

15.1 権利救済の実効性

迅速性 審査請求は、訴訟に比較して迅速な解決が期待できます。標準的な審理期間は設定されていませんが、多くの事件で6月から1年程度で裁決がなされています。

費用負担 審査請求には手数料等の費用負担がなく、国民にとって利用しやすい制度です。

専門性 行政庁による審理は、当該分野の専門的知識を活用した判断が期待できます。

15.2 行政の自己統制機能

適正手続の確保 審査請求制度は、行政機関に対して処分の根拠や理由を明確にすることを求め、適正手続の確保に資します。

法令適用の統一 上級行政庁による審査は、下級行政庁における法令適用の統一を図る機能も有します。

15.3 実務上の留意点

証拠の散逸防止 審査請求を提起することにより、関係証拠の保全を図ることができます。

和解的解決 審理の過程で当事者間の話し合いにより和解的な解決が図られることもあります。

訴訟への準備 審査請求の審理により争点が明確化され、後の訴訟における主張立証の準備に資することがあります。

第16節 最新の法改正と今後の課題

16.1 平成26年改正の意義

平成26年の行政不服審査法改正により、審理員制度の導入、行政不服審査会の設置等、制度の充実が図られました。

審理員制度の導入 処分に関与していない職員が審理を担当することにより、公正性の向上が図られました。

行政不服審査会の設置 第三者機関による答申制度が導入され、客観性・専門性の確保が図られました。

手続の充実 口頭意見陳述の機会の拡大、証拠書類等の閲覧・謄写の制度化等により、手続保障が強化されました。

16.2 情報公開・個人情報保護との関係

証拠書類の開示 審査請求人は、処分庁の保有する関係書類の閲覧・謄写を求めることができますが、個人情報保護や営業秘密の保護との調整が必要となります。

第三者の権利利益への配慮 証拠書類に第三者の個人情報が含まれている場合の開示範囲について、適切なバランスを図る必要があります。

16.3 デジタル化への対応

電子申請の推進 行政手続のデジタル化に伴い、審査請求についても電子申請の活用が検討されています。

AI・データ解析の活用 大量の審査請求事件を効率的に処理するため、AI技術やデータ解析の活用可能性が議論されています。

第17節 特定行政書士試験における出題傾向

17.1 頻出論点

処分概念の理解 行政処分に該当するかどうかの判断は、毎年のように出題される基本的な論点です。特に、行政指導との区別、私法上の行為との区別が重要です。

審査請求期間 審査請求期間の起算点、正当な理由による期間延長の可否は、実務的にも重要な論点として頻出します。

審査請求先の判定 処分庁と上級行政庁の関係を正確に把握し、適切な審査請求先を判定する問題が出題されます。

執行停止 執行停止の要件・効果についての理解が求められます。特に、公共の福祉との関係が論点となります。

17.2 事例問題への対応

事実認定の重要性 特定行政書士試験では、具体的な事例に基づく出題が中心となります。与えられた事実から法的問題点を抽出し、適切な法適用を行う能力が求められます。

複数論点の総合判断 一つの事例において、処分性、審査請求適格、審査請求期間、執行停止等の複数の論点が組み合わされることがあります。

他法との関連 行政手続法、行政事件訴訟法等との関連を意識した出題も見られます。

17.3 実務的な視点

代理人としての業務 行政書士が審査請求の代理人として活動する場合の留意点についても出題されます。

書面作成技術 審査請求書の記載事項、補正の必要性等、実務的な書面作成技術に関する出題もあります。

第18節 関連判例の検討

18.1 処分性に関する判例

最高裁昭和39年10月29日判決(病院開設中止勧告事件) 厚生省医務局長による病院開設中止勧告について、「相手方の法律上の地位に直接影響を与えるものではない」として処分性を否定しました。

最高裁平成17年7月15日判決(病院管理者変更命令事件) 都道府県知事による病院管理者変更命令について、法的効果を有するものとして処分性を肯定しました。

18.2 審査請求適格に関する判例

最高裁平成4年9月22日判決(新潟空港設置許可事件) 空港設置許可処分に対する近隣住民の審査請求について、騒音被害を受ける具体的危険性がある者の審査請求適格を認めました。

最高裁平成14年1月17日判決(ピアノ買取業許可事件) 競業者による営業許可処分に対する審査請求について、法律上保護された利益の侵害がないとして審査請求適格を否定しました。

18.3 審査請求期間に関する判例

最高裁平成6年5月31日判決(教示義務違反事件) 誤った教示により審査請求期間を徒過した場合について、正当な理由の存在を認めました。

東京高裁平成16年3月11日判決(処分の存在を知った時点) 処分の存在を推知させる事情があった場合でも、処分の存在を現実に知るまでは審査請求期間は進行しないとしました。

第19節 比較法的検討

19.1 ドイツ法との比較

異議申立て(Widerspruch) ドイツでは、行政処分に対する不服申立てとして異議申立制度があり、これが訴訟の前置手続とされています。

客観的訴訟との関係 ドイツでは、主観的権利の侵害がなくても一定の場合に不服申立てができる客観的訴訟制度があります。

19.2 フランス法との比較

上級審査(recours hiérarchique) フランスでは、上級行政機関に対する不服申立て制度があり、日本の審査請求に類似しています。

行政裁判所の役割 フランスでは行政裁判所が発達しており、行政内部での救済よりも司法的救済が重視されています。

19.3 アメリカ法との比較

行政手続法(APA) アメリカでは連邦行政手続法により、formal hearingとinformal hearingの区別があります。

司法審査の範囲 アメリカでは、行政機関の専門性を重視し、司法審査の範囲を限定する傾向があります。

第20節 実務における審査請求の活用

20.1 代理人としての行政書士の役割

依頼者への説明義務 行政書士は、審査請求と訴訟の選択について、それぞれのメリット・デメリットを十分に説明する必要があります。

証拠収集の重要性 審査請求の段階で十分な証拠収集を行うことが、後の訴訟においても有益となります。

処分庁との交渉 審理の過程で処分庁との和解的解決を模索することも、代理人の重要な役割です。

20.2 審査請求書の作成技術

事実の整理 処分に至る経緯を時系列で整理し、争点を明確にすることが重要です。

法的構成 単に感情的な不満を述べるのではなく、法的な根拠に基づく主張を構成する必要があります。

証拠の添付 主張を裏付ける証拠書類を適切に添付することが求められます。

20.3 審理への対応

口頭意見陳述の活用 書面だけでは伝わりにくい事情について、口頭意見陳述の機会を活用することが有効です。

追加主張・立証 審理の進行に応じて、適切なタイミングで追加の主張・立証を行う必要があります。

和解交渉 審理員や処分庁との間で和解的解決の可能性を探ることも重要です。

おわりに

処分に対する審査請求は、国民の権利利益の救済と行政の適正な運営の確保という重要な機能を担っています。特定行政書士として実務に携わる際には、単に条文を暗記するだけでなく、制度の趣旨・目的を理解し、具体的事例に応じた適切な法適用ができることが求められます。

本章で学習した内容は、次章で扱う「不作為に対する審査請求」の理解にも不可欠です。また、行政事件訴訟法における取消訴訟との比較検討も重要な学習課題となります。

審査請求制度は、平成26年改正により大幅に見直されましたが、今後もデジタル化の進展や社会情勢の変化に応じて、さらなる制度改正が検討される可能性があります。常に最新の法改正動向に注意を払い、実務に活かしていくことが重要です。

特定行政書士試験においては、審査請求に関する出題が例年多数を占めており、確実な理解が合格への鍵となります。条文の正確な理解に加えて、判例・学説の動向、実務上の取扱い等についても幅広く学習を進めることをお勧めします。


参考文献・条文

  • 行政不服審査法
  • 行政不服審査法施行令
  • 行政不服審査法施行規則
  • 行政手続法
  • 行政事件訴訟法
  • 各種個別法における特則規定

重要判例

  • 最高裁判所判例集
  • 行政事件裁判例集
  • 判例時報・判例タイムズ

学習のポイント

  1. 処分概念の正確な理解
  2. 審査請求の要件・手続の体系的把握
  3. 執行停止制度の運用
  4. 裁決の効力と司法審査との関係
  5. 実務における書面作成技術

次章では、「不作為に対する審査請求」について詳細に検討し、処分に対する審査請求との違いを明確にしていきます。


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