コラム
行政書士のマニュアル業務をAI化するということ:問い合わせから事後分析まで「流れ」で軽くする発想【行政書士×開業×AI】
Q:行政書士の業務はAIでどこまで自動化できますか?
A:AIは「文書の下書き」だけでなく、フォーム・メール・外部サービスと組み合わせることで、問い合わせ受付→打合せ準備→打合せ後フォロー→書類作成のチェック→事後分析までを"業務フロー"として軽くできます。ただし、要件判断・法令解釈・最終的な対外文書の確定などは行政書士の責任領域です。AIに担わせるのは「判断材料の整理」や「構成案づくり」に寄せると、運用設計がしやすくなります。
開業前後は「AIで何ができるのか」がつかみにくく、まずは文書の要約や整形から触るケースが多い印象です。
ただ、行政書士のマニュアル業務のAI化は「言語化や整理」に限りません。AI単体で完結させるのではなく、フォームやメール、記録の置き場などと組み合わせることで、マニュアル業務が"点"ではなく"流れ"として整っていきます。
本稿では、問い合わせから事後分析までを俯瞰し、「どこにAIを置くと業務が軽くなりやすいか」を整理します(具体的な構築手順や細かな設定は実践編で扱います)。
【準備編】AI化の設計思想
1. 「何をAI化するか」を決める考え方を先に固める
目的から逆算する(速くする/漏れを減らす/品質を揃える/記録を残す)
AI化を始めるときは、最初に「目的の明確化」が効きます。
- 速さが欲しいのか
- 漏れを減らしたいのか
- 品質を揃えたいのか
- 記録を残したいのか
目的が曖昧だと、便利そうな機能を試して終わりになり、運用に乗りにくくなります。目的が決まると、必要な連携や作るべき型(フォーム項目、通知内容、保管ルールなど)が見えやすくなります。
入力・変換・振り分け・通知など「定型の動き」を探す
AIが得意なのは、情報を受け取り、整えて、分類して、関係者に届ける、といった定型の動きです。
実務上は、AIに任せる範囲を次のように絞ると、説明もしやすく運用も安定しやすいです。
- 判断材料の整理
- 構成案の作成
- 抜けの洗い出し
必要情報が揃うポイントを起点に設計する(前工程の整備が効く)
AI化は、後工程だけを触っても効果が頭打ちになりがちです。問い合わせの時点で必要情報が揃っていなければ、結局こちらが取り直します。
"必要情報が揃うポイン"を起点に、フォームやヒアリングの流れまで含めて設計すると、後ろの工程が軽くなりやすいです。
2. 「自動化の構築そのもの」をAIに補助させて形にする
業務フローを分解し、つなぎ方の設計負担を減らす
自動化は、いきなりツールを触るよりも、業務を次のように分解する方が失敗しにくいです。
業務の分解例:
- 受け取る(問い合わせ受付)
- 整える(情報整理)
- 判断する(要件確認)
- 作る(書類作成)
- 確認する(レビュー)
- 保管する(記録管理)
- 振り返る(改善分析)
この分解や設計のたたき台づくりをAIに補助させると、見落としが減り、構築の負担も下がりやすくなります。
【例え話】ミールキットの発想
行政書士業務のAI化は、「全自動調理機を買う」ことより、「下ごしらえ済みのミールキットが届く仕組みを作る」ことに近いです。
- 野菜の洗浄(問い合わせ受付)
- カット(情報整理)
これらを先に整えることで、最後の味付けや火加減の判断(要件整理・リスクの見立て・対外文書の確定)に集中しやすくなります。
手順・分岐・例外を洗い出し、ツール連携の構成案を作る
実務は例外がつきものです。
よくある例外パターン:
- 対象外の相談
- 添付不足
- 回答が途切れる
- 緊急度が高い
分岐を先に棚卸ししておくと、運用で止まりにくくなります。AIは、こうした分岐の洗い出しや、連携の"構成案"づくりに向いています。
運用ルールや型を文書化し、更新しやすい土台にする
自動化は「作って終わり」になりやすい一方、事務所は運用しながら改善する方が現実的です。
次のような要素を文書にしておくと、後述する事後分析やアップデートにつながります。
- 受付基準
- 例外時の扱い
- 確認の観点
- 保管ルール
【実務編】業務フローごとのAI活用
3. 問い合わせ対応:「受付の自動化」で早く正確に回す
相談内容を要約し、一次対応の文書を整える
問い合わせは情報が散らばりがちで、読み違い・転記ミス・見落としが起きやすい場面です。
AIに担わせる範囲:
- 返信文書そのものを確定させる ✗
- 相談の要点整理と一次対応の構成案づくり ○
たとえば、次の項目を先に整えておくと、返信の文書を組み立てやすくなります。
- 相談の要点
- 確認したい事項
- 必要資料の候補
- 次アクション候補
対象会社の基本情報の調査を補助し、要点を自分へメール通知する
問い合わせが来た段階で、対象会社の基本情報を調べる"きっかけ"を作り、要点を自分にメール通知する流れが考えられます。
注意点: 調査は一次情報(公的情報・公式情報)を確認する運用にしておくと、誤情報の混入を抑えやすいです。
返信遅れ・転記ミスを減らし、初動品質を安定させる
初動が整うと、相談者の安心感につながりやすく、その後の相談継続や受任に影響する場合もあります。
"早く返す"というより、"早く正確に整える"ためにAIを置く――これが現実的な位置づけです。
4. 打合せ準備:「事前情報の回収」でスムーズにする
ヒアリング文書を生成し、フォーム等で相談者へ自動送付する
ヒアリング文書をフォーム化し、相談者に自動送付する仕組みは、実務の安定に直結します。
設計のポイント:
- 必須項目の設計
- 回答しやすい順番づけ
- 入力の揺れへの対応
AIは、項目の洗い出しや、相談類型ごとの聞きどころ整理に活かせます。
回答を整理して論点を抽出し、当日の確認を減らす
フォーム回答をそのまま読むより、論点や不足情報を整理してから臨む方が打合せが進みます。
AIの活用場面: 長文の回答から次の要素を抜き出す
- 確認すべき点
- 矛盾しそうな点
- 追加資料候補
聞き漏れを防ぎ、打合せを判断中心に寄せる
事前回収ができると、打合せは"聞く時間"から"判断する時間"へ寄ります。
行政書士の価値が出やすいのはこの判断の部分のため、そこに時間を残す設計が大切です。
5. 打合せ後フォロー:「確認用文書」で抜け漏れなく進める
打合せ内容の要約文書を作成し、相談者へ確認依頼の通知をする
打合せ後の要約文書を相談者に確認してもらう流れは、認識ずれの予防に役立ちます。
AIを使う際の注意点:
- 断定が強すぎないか
- 責任の所在が誤解されないか
これらの点は整える必要があります。
次の作業・期限・担当を抽出し、タスクとして整理する
要約だけで終わらせず、次の要素をセットで整理すると、進行が止まりにくくなります。
整理すべき項目:
- 次の作業
- 期限
- 担当
- 相談者に依頼する資料
ここが整うと、事務所側の業務処理も読みやすくなります。
認識ずれを減らし、次工程の着手を早くする
認識合わせが早いほど、次工程(書類作成、追加資料の回収、申請準備)にスムーズに移行できます。
結果として、やり直しや確認の往復を抑えやすくなります。
6. 書類作成:「下書き+チェック」で品質と速度を両立する
下書きのたたき台を作り、作成の初速を上げる
AIは、ゼロからの作成より、たたき台を置く用途で力を発揮します。
自動生成で完結させるのではなく、「構成の具体化」を補助させる:
- 必要項目の並び
- 説明の順序
- 根拠に当たるべき資料の当たりを付ける
こうした"組み立て"を早くできます。
記載事項・添付書類の不足チェックを補助し、見落としを減らす
マニュアル業務で地味に効くのが、添付漏れ・記載漏れのチェックです。
AIにチェック観点を整理させたり、見落としやすい箇所を洗い出させたりすると、レビューの負荷が下がりやすいです。
整合性やリスク箇所の点検を補助し、レビュー負荷を軽くする
実務に落とし込む際は、「リスク」という抽象語のまま置くより、次のような具体的な観点で点検を補助させる方が明確です。
具体的なチェック観点:
- 形式的な不備
- 入力漏れ
- 前後の矛盾
- 固有名詞・数値の揺れ
重要な切り分け:
法的な評価や要件該当性の判断は、行政書士の責任領域として切り分けておくと誤解が生まれにくくなります。
【改善編】運用の継続と最適化
7. 事後分析:「経営の見える化」に使って改善につなげる
問い合わせ経路・相談類型・工数などを整理し、判断材料にする
「忙しいのに利益が出にくい」と感じるとき、原因は感覚だけでは掴みにくいです。
整理すべきデータ:
- 問い合わせ経路
- 相談類型
- 工数
- やり直し回数
これらを整理できると、改善の当たりがつきます。AIは、記録の分類や要点整理を助け、見える化のスピードを上げる用途に向いています。
ボトルネックを抽出し、改善の優先順位をつける
改善は全部やろうとすると止まります。
AIの活用場面:
- どこが詰まっているか
- どこがミスになりやすいか
これらを抽出し、優先順位を付けるところにAIを使うと、現実的に回りやすいです。
対応傾向を要約し、事務所運営のブレを減らす
対応の傾向(例):
- 質問が多い点
- 説明が長くなる点
- 資料不足が多い点
これらを要約しておくと、フォーム項目や説明文書、チェックリストに反映できます。"現場のつまずき"を運用の型に戻すという発想です。
8. フィードバック:自動化部分を「更新」して育てていく
テンプレ文書・チェックリストを見直し、運用に合わせて更新する
テンプレ文書やチェックリストは、一度作っても現場に合わない部分が必ず出ます。
AIの活用場面:
- 変更案の整理
- 矛盾の発見
- 追加すべき注意点の抽出
更新を前提にすると、自動化が"使われる仕組み"として残りやすいです。
連携範囲を見直し、例外対応を追加して破綻を防ぐ
最初から全部自動化しようとすると、例外で止まりがちです。
運用しながらの調整:
- 連携範囲を広げる/狭める
- 例外対応を追加する
ここでもAIは、例外パターンの整理や、運用ルールの文書化を支えます。
属人化を減らし、再現性を上げる
最終的に狙いたいのは、「誰がやっても一定の品質に寄る」状態です。AIはそのための補助輪になり得ます。
重要な考え方:
判断や責任までAIに寄せるのではなく、マニュアル業務を薄くして、行政書士が判断に集中できる形に寄せると、結果的に楽になりやすいです。
まとめ
行政書士のマニュアル業務をAI化する際の要点は次のとおりです。
設計思想
- 目的を明確にする(速さ/漏れ防止/品質統一/記録保管)
- AIに任せるのは「判断材料の整理」「構成案づくり」に絞る
- 必要情報が揃うポイントを起点に設計する
業務フロー
- 問い合わせ対応: 要点整理と一次対応の構成案づくり
- 打合せ準備: ヒアリング文書の自動送付と論点抽出
- 打合せ後フォロー: 要約文書とタスク整理
- 書類作成: たたき台作成とチェック補助
継続改善
- 事後分析で経営を見える化
- フィードバックで運用を更新
- 属人化を減らし、再現性を上げる
最も重要なこと:
AI化の目的は「AIに全部任せる」ことではなく、「行政書士が判断に集中できる環境を作る」ことです。マニュアル業務を薄くすることで、本来の専門性を発揮しやすくなります。
脚注
※1 生成AIの利活用では、情報管理・リスク対策・ガバナンスの観点から、公的な指針(例:AI事業者ガイドライン等)を踏まえて運用ルールを整備すると安全です。
※2 ベンチマーク例として、文書レビューを「支援」に位置づけるサービス(契約審査支援AI等)や、ワークフローと外部連携(電子契約・通知)を組み合わせる設計が参考になります。
免責
本稿は一般的な情報提供を目的としたもので、個別事案に対する法的助言ではありません。AIや外部サービスの利用可否・運用方法は、事案の内容、利用環境、各サービスの利用規約、情報管理方針等により異なります。実務に適用する際は、必要に応じて一次情報の確認や専門家としての判断を行ってください。
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