コラム
行政書士の書類作成・業務処理はAIで効率化できる?【行政書士×開業×AI】
Q:前回の線引きを守ると、行政書士の書類作成・業務処理はAIで効率化できないのでしょうか?
A:「案件の中身を入れない」運用でも、速くできる作業は十分に残ります。AIは法的判断の代わりではなく、固有情報を抜いた文書の型づくり、構造整理、抜け漏れ確認を補助する位置づけが安全です。最後は人が一次情報(法令・告示・公式ガイド等の原典)で裏取りして仕上げれば、速度と正確さの両立に近づきます。
前回記事では、「学習されない」前提でも入力内容が記録・保守の対象になり得ることから、「第三者に見られて困る情報は入れない」という1本の線引きを推奨しました。
ただ、線引きを強く意識するほど、「結局、AIは使えないのでは」という不安が出やすいのも実感です。私自身、開業初年度に「入れない」を徹底しようとして、結果的に全作業を手作業に戻し、締切前に消耗した時期がありました。
そこで本記事では、案件の中身を入れずに使える範囲に絞って、「それでも速くなる作業」を業務プロセス(準備→構成→検証)で整理します。AIを万能視せず、どこを人が担うかを先に決めたうえで、負担を減らす考え方を押さえます。
1. AIと人の分担線を引き、業務を3段階で整理する
人が最後に何を担うかを先に決める
最初に決めたいのは、「AIに何を任せるか」よりも「人が最後に何を担うか」です。
開業初年度の私の失敗は、AIの出力を"完成に近いもの"として扱い、結局は確認の手戻りが増えたことでした。以後は、AIの役割を「構造の補助(整理・不足の指摘)」に固定し、法的判断・要件充足・最終確認は必ず人が行う前提に変えました。すると、作業速度だけでなく、心理的な負担も落ち着きました。
分担線のイメージ:
- AIが担う領域:論点の洗い出し、見出し案、順序整理、チェック観点の提案
- 人が担う領域:一次情報の確認、依頼者から得た事実の確定、要件判断、提出物としての最終責任
この分担を曖昧にすると、「AIが正しいはず」という期待が生まれ、確認が甘くなりがちです。
業務を3段階に分けて考える
速くするには、業務プロセスを「準備→構成→検証」の3段階で捉えると整理しやすくなります。
【準備】文書ひな形・入力項目・手順を標準化する
速度向上の土台は、「毎回ゼロから考える部分」を減らすことです。ここは案件の中身を入れずに進めやすい領域でもあります。
- 文書ひな形(構成だけの枠)を整える
- 入力項目(確認すべき項目の一覧)を揃える
- 手順(受任〜提出までの段取り)を共通化する
準備の標準化が弱いと、忙しい時期ほど抜けが出て、補正や差戻しで結局遅くなります。
【構成】論点・見出し・順序のたたき台で検討漏れを減らす
AIが役立ちやすいのは、内容そのものの正しさよりも、「どう並べれば分かりやすいか」「論点が欠けていないか」という構造面です。
申請文書の骨組みを早めに固められると、依頼者への追加確認が前倒しになり、後半の詰まりが減ります。ここでも、AIは"たたき台"までで止め、案件への適用と判断は人が握ります。
【検証】多角的チェック観点で形式的ミスと見落としを減らす
検証は、速度と品質が両立しやすいポイントです。開業初年度は、日付の不整合、表記ゆれ、添付の抜けなど「細かいが致命的」なミスに時間を取られました。
AIには、こうした形式的ミスを拾うための"観点"を増やす役割を持たせると、最終確認が楽になります。ただし、指摘が正しいかは人が確認します。
2. 案件情報を入れずにAIを使う2つの方法
方法1:入力データを機密度レベルで区分する
「入れない」を守るには、気合いより設計が重要です。実務で回しやすいのは、情報を機密度レベルで分けて、抽象化・置換の強さを揃える方法です。
※以下は本記事内の整理例です(業務・契約・規程に合わせて調整してください)。
レベルA(公開情報) 法令・公開情報・一般的手順など、入力しても問題が出にくい範囲。
レベルB(内部情報) 事務所の共通手順、チェック観点、ひな形の枠など、案件固有情報を含めない範囲。
レベルC(秘密情報) 氏名・住所・識別子、依頼内容の具体、証憑、未公表条件など、原則として入力しない範囲。
ポイントは「レベルCを入れない」だけでなく、「レベルBを厚くする」ことです。レベルBが薄いと、現場ではついレベルCに寄りやすくなり、線引きが崩れます。
たとえば、「建設業許可申請のチェックリスト(一般論)」はレベルBとして整備し、「A社の申請における具体的な経営業務管理責任者の経歴」はレベルCとして入力しない、という形です。
方法2:出力を案件に適用するプロセスを固定する
AIの出力は、そのまま提出物にしません。出力は"整理された候補"として受け取り、次の順で人が適用します。
ステップ1:一次情報で裏取りする 要件・提出先の運用・最新の扱いを確認。日付や改定履歴も見ます。
ステップ2:案件の事実に当てはめる 依頼者から確定した事実に基づいて判断します。
ステップ3:最終的な整合を確認する 日付、数値、添付、表記の統一性をチェックします。
この「適用の型」を固定すると、AIを使っても誤認が増えにくくなります。
3. 効果が出やすい4つの実務場面
案件の中身を入れずにAIを活用できる場面を、業務プロセスに沿って4つ挙げます。
【準備】チェックリストの整備
チェックリストは、いちど作ると繰り返し効きます。案件の中身を入れずに整備しやすく、差戻しの減少に直結しやすい領域です。
たとえば、「建設業許可申請に必要な書類の網羅的リスト」「一般・特定の区分ごとの要件確認項目」などは、AIに観点を提案させ、人が一次情報で精査して固定できます。
「最低限の要件」「例外的なケース」「提出先で扱いが揺れやすい点」など、観点を増やすほど、後半の焦りが減ります。
【構成】申請文書の骨組み作成
骨組みが固まると、依頼者への追加確認が前倒しでき、全体が速くなります。
AIは、見出し案や論点の並べ方など"構造"に強みが出やすい一方、内容の正しさは保証しません。そのため、「骨組みのたたき台をAIに作らせる」→「人が要件と事実で確定する」という順に固定するのが安全です。
たとえば、「経営業務管理責任者の経歴を説明する章立て」「技術者の実務経験を整理する順序」などは、AIに構成案を出させ、人が法令要件に照らして調整できます。
【検証】形式的ミスの差分検出
差分の検出は、疲れているときほど人が弱くなります。
- 記載漏れ(記入欄の空白、添付の不足)
- 日付不整合(作成日・提出日・契約日などの矛盾)
- 表記ゆれ(法人名・住所表記・番号の桁)
こうした形式的ミスを拾う観点をAIに提案させ、人が最終確認する流れは、速度と品質の両方に効きます。
【検証】周辺規制・ガイドラインの観点洗い出し
実務では、要件だけでなく「周辺の注意点」や「運用上の留意事項」が抜けてトラブルになることがあります。
AIは、別の視点からの指摘(多角的チェック)を出しやすいので、周辺規制・ガイドラインの観点を広げる用途と相性がよい場面があります。
ただし、AIの出力は最新性や正確性を保証しないため、候補の洗い出しに留め、必ず一次情報で日付・根拠を確認したうえで採用します。
4. 安全に速度を上げる実践原則
AIを使って速度を上げつつ、事故を防ぐための実践原則を4つ挙げます。
原則1:根拠を一次情報で照合する
AIの出力は、根拠が省略されているか、不正確な場合があります。要件・提出先運用・最新の扱いは、一次情報(法令、告示、行政の案内、公式ガイド等)で確認する前提にします。
「根拠が取れないなら採用しない」を基準にすると、安全側に倒れます。
原則2:ハルシネーション(もっともらしい誤り)を検出する
AI特有のリスクは、「もっともらしく見える誤った情報」を出力することです。これをハルシネーション(幻覚)と呼びます。実務での事故を減らすには、検出の型を持つのが有効です。
検出の型:
- 複数情報源で照合する(1つの説明に依存しない)
- 断定表現に警戒する(「必ず」「絶対」などは要注意)
- 重要キーワードで一次情報を検索する(該当箇所へ直接当たる)
- 複数のAIモデルで照合する(結論だけでなく前提の揺れを見る)
※照合をする場合でも、入力する材料はレベルA/B中心に留め、線引きを広げない運用が安全です。
ここでも決めるのは人です。AIは「疑う材料」を増やす補助、と捉えると運用が安定します。
原則3:利用環境ごとに扱える情報範囲を区分する
同じAIでも、契約形態・設定・運用(連携の有無、ログの扱い等)によって管理の前提が変わり得ます。
前回の線引きを守る意味でも、「この環境ではレベルBまで」「レベルCは不可」といった形で、環境ごとのルールを決めておくと混乱が減ります。
原則4:停止基準を設計する
安心して速くするには、「止まれる基準」が必要です。次のような場合は、出力を採用しない、再確認に戻す、レビューへ回す、といった例外対応を決めておくと事故を避けやすくなります。
- 一次情報で根拠が見つからない
- AIの指摘が提出先運用と噛み合わない
- 重要な要件判断が絡むのに、前提事実が確定していない
- 違和感が消えない(経験則と乖離する)
5. 改善を続ける仕組みづくり
AI活用を一時的な効率化で終わらせず、継続的に改善する仕組みを3つの観点で整えます。
KPI(評価指標)を3軸で設定する
「速くなった気がする」だけだと、忙しい時期に崩れます。最小限でよいので、3軸で測定します。
速度:1件あたり工数、初稿までの時間、追加確認の回数 品質:補正・差戻し件数、形式的ミスの件数、やり直し時間 安全性:線引き違反(入力禁止情報の混入)件数、例外対応の発生数
まずは「工数削減」と「補正・差戻し」を押さえるだけでも、改善の方向が見えます。
資産を共有して更新する
個人の工夫に依存すると、忙しいときに再現できません。次の3つは、事務所の資産として共有・更新できる形にしておくと、「速さが続く状態」になります。
- 文書ひな形(枠)
- チェック観点(検証の観点)
- 指示文書(AIへの依頼時の共通の言い回し・禁止事項)
組織的管理の3層を整備する
継続的に安全性を担保するには、技術・運用・統制の3層で管理を分離します。
技術層:アクセス制御・ログ管理・保管方針 「誰が・いつ・どの環境で使ったか」が追えると、事故対応が現実的になります。アクセス制御、ログ管理、保管方針(残す範囲・期間)は、利用規約・委任契約・事務所内規程と整合する範囲で、最低限でも決めておくと安心です。
運用層:承認フロー・教育・利用環境の棚卸し 守れる形に落とすのが要点です。承認フロー(迷ったときに誰に確認するか)、教育(線引きと停止基準を共有する)、棚卸し(利用環境と適用ルールの一致を確認する)を整えます。
特に開業初年度は、運用が曖昧だと「忙しい日ほど破る」状態になりがちなので、最初に薄くてもルール化しておくとブレにくくなります。
統制層:記録・例外管理・継続的な確認 統制は"固める"より"続ける"が重要です。例外対応が出たときに記録し、次回の停止基準や指示文書へ反映する。これを繰り返すと、速度と安全性が一緒に育ちます。
まとめ
前回の線引き(案件固有情報を入れない)を守ったままでも、AIは「準備→構成→検証」のうち、とくに準備と検証で力を発揮します。
本記事のポイント:
- AIと人の分担線を明確にする(AIは構造支援、人は法的判断と最終責任)
- 情報を機密度レベルで区分し、レベルBを厚くする
- チェックリスト・骨組み・差分検出・規制観点の4場面で活用
- ハルシネーション対策と停止基準で安全性を確保
- KPI・資産共有・組織的管理で改善を続ける
人が法的判断と最終責任を握る前提で、文書の枠・観点・確認を資産化すると、速さが"続く形"になります。
実践編では、案件固有情報を入れずに回すための指示文書の作り方や、資産の更新手順を、より具体的に整理します。
免責
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、法的助言を行うものではありません。具体的な案件への適用可否や運用設計は、個別事情・委任契約・守秘義務・利用規約・設定等により変わり得ます。重要案件では一次情報を確認のうえ、必要に応じて専門家へご相談ください。
HANAWA行政書士事務所
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