コラム
不動産の相続で起きやすいトラブルとその対策
「自宅をどうする?」「実家を誰が継ぐ?」—— 相続財産の中に不動産がある場合、その分割は特に複雑で、家族間のトラブルに発展しやすい傾向にあります。預貯金のように明確に分けられない不動産は、相続人の間で意見の対立を生みやすく、「争族」の大きな原因となりがちです。
この記事では、不動産の相続で起きやすい具体的なトラブル事例と、それらを未然に防ぐための対策について、行政書士の視点から詳しく解説します。大切なご家族が将来困らないよう、ぜひ参考にしてください。
不動産の相続で起きやすい3つのトラブル
不動産は、その性質上、他の財産とは異なる特有の問題を抱えやすく、相続トラブルの原因となることが少なくありません。
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評価額をめぐる対立 預貯金は金額が明確ですが、不動産の価値は複数の基準(固定資産税評価額、路線価、実勢価格など)があり、それぞれで評価額が異なります。
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トラブル例: 相続人の一人が「この土地はもっと価値があるはずだ」と主張したり、逆に「そんなに価値がないものを引き継ぎたくない」と拒否したりすることで、公平な分割が難しくなります。特に、自宅など売却せずに特定の相続人が引き継ぐ場合、その評価額をどう設定するかで意見が割れがちです。
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分割方法をめぐる対立 不動産は「分けにくい」財産です。複数の相続人がいる場合、どのように分けるかが大きな問題となります。
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トラブル例:
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「長男だから実家を継ぐべきだ」 vs 「介護してきた私が住むべきだ」:誰が不動産を取得するかで意見が対立し、感情的なもつれが生じます。
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「不動産はいらないから現金がほしい」 vs 「現金はない」:不動産を相続する人が他の相続人に現金(代償金)を支払う「代償分割」を希望しても、支払う側にその資金がない場合、話し合いが膠着します。
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共有名義の選択:とりあえず共有名義にするという選択もありますが、これは将来的な売却や建て替え、修繕などの際に、共有者全員の同意が必要となり、さらに複雑なトラブルに発展する可能性が高いです。
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相続登記の放置による問題 不動産の所有者が亡くなった後、その名義を相続人に変更する手続きを相続登記といいます。この手続きは、これまで義務ではありませんでしたが、2024年4月1日から義務化されました。
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トラブル例:
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名義変更をせずに放置: 相続登記をせずに放置すると、罰則の対象となる可能性があります。また、時間が経つにつれて相続人が増え、関係性が複雑になり、手続きに必要な書類集めや合意形成が非常に困難になります(数次相続)。
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売却や担保設定ができない: 名義が変更されていない不動産は、売却や担保に入れてローンを組むことができません。これにより、相続人が不動産を有効活用できない事態に陥ります。
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不動産相続トラブルを未然に防ぐための対策
上記のようなトラブルを避けるためには、生前の準備と、相続発生後の適切な対応が鍵となります。
1.生前の対策が最も重要
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遺言書の作成: 最も有効な対策です。遺言書で「この不動産は誰に相続させる」と明確に指定することで、原則として遺産分割協議が不要になり、相続人の間の争いを未然に防ぐことができます。
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ポイント: 不動産を指定する際は、登記簿謄本に記載されている地番や家屋番号を正確に記載するなど、具体的に特定できるようにすることが重要です。また、他の相続人の遺留分にも配慮した内容にしましょう。
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種類: 公正証書遺言であれば、形式不備で無効になるリスクが少なく、公証役場で保管されるため安心です。
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家族会議・生前の話し合い: 相続について生前に家族と話し合う機会を設けましょう。特定の不動産を誰に引き継いでもらいたいか、その理由なども含めて共有することで、相続人の理解を得やすくなります。
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ポイント: 早い段階から話し合いを始めることで、時間をかけて解決策を探ることができます。
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不動産の事前評価・資産整理: 生前に不動産の価値をある程度把握しておくことで、将来の遺産分割協議の目安となります。また、不要な不動産は生前に売却しておくなど、資産を整理しておくことも有効です。
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ポイント: 不動産を共有名義にする予定がある場合は、**「共有物分割の特約」**を遺言書に盛り込むことで、将来の分割を円滑に進めることも可能です。
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「代償金」の準備: 特定の相続人に不動産を単独で相続させ、他の相続人にはその代償として現金を渡したい場合、代償金を支払う側が十分な資金を持っているか確認し、必要であれば生前に準備を進めておくことが重要です。
2.相続発生後の対策
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相続人・財産の正確な調査: 不動産の相続においても、まずは相続人全員を正確に特定し、不動産を含むすべての相続財産を漏れなく把握することが重要です。戸籍謄本や登記簿謄本、固定資産税納税通知書などを活用し、正確な財産目録を作成しましょう。
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専門家への相談: 不動産が絡む相続は複雑になりがちです。相続人同士での話し合いが難しいと感じたら、早めに専門家(行政書士、司法書士、税理士、弁護士など)に相談しましょう。
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行政書士: 相続人調査、財産調査、遺産分割協議書の作成など、書類作成や手続き全般をサポートします。
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司法書士: 不動産の相続登記の専門家です。
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税理士: 相続税の計算や申告をサポートします。
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弁護士: 相続人同士の争いになった場合の代理人として交渉や訴訟を行います。
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相続登記の早期実施: 2024年4月1日からの相続登記義務化に伴い、相続(不動産の所有権取得)を知った日から3年以内に相続登記を申請することが義務付けられました。正当な理由なく怠ると、10万円以下の過料が課される可能性があります。相続が発生したら、速やかに手続きを進めましょう。
まとめ:不動産は「争族」の火種になりやすいからこそ、事前の備えを
不動産は、その価値の高さと分割の難しさから、相続において最もトラブルになりやすい財産の一つです。しかし、適切な事前の対策と、相続発生後の迅速な対応によって、これらのトラブルは十分に回避できます。
特に有効なのは、あなたの意思を明確に残せる遺言書の作成です。これにより、残されたご家族が不動産をめぐって揉めることなく、スムーズに次のステップに進むことができるでしょう。
当事務所では、不動産を含む複雑な相続手続き全般について、お客様のご状況に応じた最適なサポートをご提供しております。相続人調査、財産調査、遺産分割協議書の作成から、必要に応じて他士業との連携まで、きめ細やかに対応いたします。
「実家をどうすればいいか分からない」「相続人が多くて不安」「将来のために今からできることを知りたい」など、不動産相続に関するお悩みがありましたら、どうぞお気軽にご相談ください。