資材価格が上がったとき工事代金を変更できる?
価格転嫁条項の確認ポイント
「材料費が上がったが、元請にどこまで相談してよいかわからない」「契約書に価格変更のルールが書かれているか不安」という建設会社へ。増額の可否だけでなく、次の契約から整えておきたい変更条件・通知・協議・変更契約までを整理します。
この記事の対象
資材価格の影響を受ける建設会社、長期工事を受注する元請・下請事業者を主な対象としています。価格転嫁条項があれば増額が当然に認められるという説明ではなく、契約内容と法令上の手続きを確認し、次の契約から備えるための実務を中心に整理します。
請負契約書、見積条件、約款から、価格・工期・仕様の変更方法を確認します。
資材価格、数量、工事原価、納期、工程、代替資材などへの影響を資料で確認します。
一方的に金額を変えるのではなく、契約と法令に沿って変更内容を協議します。
原則として変更工事等の着手前に、法令上求められる方式で変更契約を行います。
契約書を見ても判断がつかない段階でも大丈夫です。
まずは現在の契約内容、工事の進み具合、価格変動の状況を伺い、将来の契約書や見積条件で整理した方がよい内容を一緒に確認します。お手元に契約書や見積書があれば確認がスムーズですが、資料がそろっていない段階でもご相談いただけます。
資材高騰で工事代金を見直す前に確認したい3つの基本
この章で扱う主なポイントは以下のとおりです。
- 資材価格が上がっただけで請負代金が自動的に増えるわけではない
- 契約書に定めた「請負代金の変更方法」を最初に確認する
- 価格変更だけでなく工期や工事内容への影響も整理する
資材価格が高騰した場合、まず確認したいのは「いくら値上がりしたか」だけではありません。契約書にどのような変更ルールが定められているか、価格上昇が工期や工事内容へどこまで影響するかを整理する必要があります。法定制度の対象となる事象にも要件があるため、一般的な値上がりと区別して確認しましょう。
資材価格が上がっただけで請負代金が自動的に増えるわけではない
資材価格が契約時より上昇していても、その事実だけで請負代金が自動的に増額されるわけではありません。実際に代金を変更できるかは、契約書の定め、価格変動の原因や程度、工事への影響、当事者間の協議などを踏まえて個別に確認します。
たとえば、鋼材や木材の仕入価格が大きく上昇し、当初の見積額では採算確保が難しくなった場合でも、受注者が任意の金額を一方的に上乗せできるとは限りません。まずは、価格等が変動した場合に工事内容や請負代金をどのように変更する契約になっているのかを確認することが出発点です。
改正建設業法では、価格等の変動または変更に基づく工事内容・請負代金額の変更と、その額の算定方法に関する定めが契約書の法定記載事項として明確化されています。
法定の「おそれ情報」は、あらゆる値上がりを指すものではありません。
対象となるのは、主要な資機材の供給不足・遅延または価格高騰、特定の建設工事の種類における労務の供給不足または価格高騰であって、天災その他の自然的・人為的な事象により生じ、発注者・受注者双方の責めに帰することができないものです。
対象事象が発生し、法令上の要件を満たす場合には、受注者から契約変更の協議を申し出る仕組みがあります。この協議について、民間工事の注文者には誠実に協議へ応じる努力義務があり、公共工事の発注者には誠実に協議へ応じる義務があります。ただし、協議への対応と、希望した増額がそのまま認められることは別です。
契約書に定めた「請負代金の変更方法」を最初に確認する
資材高騰が生じたときは、請負契約書に記載された「請負代金の変更方法」を最初に確認します。価格転嫁の協議を進めるうえでは、契約上どのような条件や手続が定められているかが基本になるためです。
- どの価格・費用の変動を対象とするか
- どのような場合に変更を請求または協議できるか
- 変更額をどのように算定するか
- 相手方への通知方法や通知時期をどうするか
- 工期や工事内容の変更をどのように扱うか
- 合意後にどの方式で変更契約を行うか
請負代金額等の変更方法は、建設業法上の契約書記載事項です。そのため、単に「契約変更を認めない」と記載するだけでは、法定の変更方法を定めたことにはなりません。また、変更条項を削除して変更協議を一切認めない内容とすることは、建設業法上の契約書記載義務との関係で問題となります。
現在使用している契約書で価格変動時の取扱いが曖昧なら、今回の工事だけの問題として終わらせず、次回以降の請負契約書や見積条件を見直す材料にすると、将来の協議を進めやすくなります。
価格変更だけでなく工期や工事内容への影響も整理する
資材高騰への対応では、請負代金だけに目を向けず、工期や工事内容への影響も同時に整理します。資機材の価格上昇と供給不足・遅延が同時に起きれば、仕入額だけでなく施工時期や施工方法にも影響が及ぶ可能性があるためです。
予定していた資材の調達が難しくなり代替資材を使用する場合には、材料費だけでなく仕様や施工方法の変更が必要になることがあります。納入時期が遅れれば、作業員の配置や後工程、完成時期の調整が必要になる場合もあるでしょう。
建設業法上の「おそれ情報」の対象となる工期関係の事象についても、単に「資材が手に入りにくい」というだけでは足りず、主要な資機材の供給不足・遅延などで、発注者・受注者双方の責めに帰することができない事象であることが前提です。法定の対象となる場合、工期変更についても協議を申し出る仕組みがあり、民間工事の注文者には誠実協議の努力義務、公共工事の発注者には誠実協議の義務があります。
建設工事の価格転嫁で契約時に決めておきたい5つの項目
この章で扱う主なポイントは以下のとおりです。
- どの資材・費用の価格変動を対象にするか決める
- どの程度の価格変動で協議を始めるか基準を定める
- 見積書や価格指数など根拠資料の扱いを決める
- 価格変動を通知する時期と方法を明確にする
- 請負代金・工期・工事内容をどう協議するか手順を定める
価格転嫁条項を設けるなら、「価格が上がった場合は協議する」という一文だけで終わらせず、対象・基準・資料・通知・協議方法まで具体化することが重要です。なお、契約後の価格変更協議に用いる資料と、建設業法上の「おそれ情報」に添付する根拠情報は役割が異なります。
どの資材・費用の価格変動を対象にするか決める
最初に決めたいのは、どの価格変動を契約変更の対象とするかです。対象範囲が曖昧なままでは、値上がりが生じた際に「この費用まで含まれるのか」という認識の違いが生じやすくなります。
建設工事では、鋼材、木材、生コンクリート、燃料など、工事内容によって影響を受けやすい項目が異なります。労務費についても、工種、地域、施工時期によって影響の程度は変わります。
一方、法定の「おそれ情報」は、主要な資機材の供給不足・遅延または価格高騰、特定工事の労務の供給不足または価格高騰のうち、天災その他の自然的・人為的な事象に起因し、双方の責めに帰することができないものに限られます。自社の契約条項で定める価格変更の対象と、法律上の「おそれ情報」の対象範囲を混同しないことが大切です。
どの程度の価格変動で協議を始めるか基準を定める
価格が少し動くたびに変更協議を行う仕組みでは、双方の事務負担が大きくなります。一方、「著しく高騰した場合」とだけ記載していると、どの段階で協議を開始するのか判断が分かれる可能性があります。
工事内容や取引実態に応じ、特定の価格指数が一定割合以上変動した場合、当初見積と実際の仕入価格に一定以上の差が生じた場合、工事原価全体へ一定以上の影響が見込まれる場合など、協議開始の基準を検討できます。
ただし、数値を設定すれば常に適切とは限りません。どの指数を使うか、比較時点をいつにするか、価格下落時にも同様の考え方を適用するかも併せて整理します。価格転嫁条項は、一定以上上がれば必ず増額する約束ではなく、どの条件で協議を始めるかを双方で共有する仕組みとして設計することが重要です。
見積書や価格指数など根拠資料の扱いを決める
価格変更を協議する際には、「値上がりした」という説明だけでなく、変動の事実や工事への影響を確認できる資料が重要になります。
| 資料 | 主に確認できる内容 |
|---|---|
| 当初見積書 | 契約・見積時点の単価や積算条件 |
| 資材業者からの見積書 | 実際の調達予定価格 |
| 価格改定通知 | 仕入先の価格改定時期や改定内容 |
| 公的統計・価格指数 | 市場全体の価格動向 |
| 業界団体の統計資料 | 特定資材・業種の動向 |
| 発注書・請求書 | 実際の取引価格 |
ただし、これらの「契約後の価格変更協議に使う資料」と、法定の「おそれ情報」に添える根拠情報は同一とは限りません。「おそれ情報」の根拠情報は、受注者が通常の事業活動の範囲内で把握できる客観的な情報である必要があり、メディア記事、資材業者の公表資料、公的主体や業界団体等が作成・更新する統計資料などが例として挙げられます。
日頃から市場情報と案件ごとの原価資料を分けて保存し、「契約前に把握したリスク」と「契約後に実際に生じた影響」を追えるようにしておくと、確認がスムーズです。
価格変動を通知する時期と方法を明確にする
価格転嫁では、何を伝えるかだけでなく、「いつ、どのような方法で伝えるか」も重要です。
建設業法上、受注者は、法定の対象事象が発生するおそれがあると認めるときは、請負契約を締結するまでに注文者へその旨を根拠情報と併せて通知しなければなりません。これは任意の情報提供ではなく、要件に該当する場合に受注者へ課される義務です。
通知は見積書の交付時などに行い、通知書面やメール等を双方で保存しておく方法が考えられます。根拠情報には、通常の事業活動で把握できる客観的な情報を用います。
契約前に通知していなかった場合
契約締結前に「おそれ情報」を通知していなかった事象が契約後に発生した場合でも、事前通知がなかったという一点だけで直ちに協議の余地がなくなるとは限りません。国土交通省は、通知があった場合に準じて注文者が誠実に対応する考え方を示しています。ただし、通知した場合と全く同じ法的効果が当然に生じると断定することはできず、契約内容や具体的な事象の確認が必要です。
請負代金・工期・工事内容をどう協議するか手順を定める
価格変更条項があっても、協議の進め方が決まっていなければ実務で機能しにくくなります。変更の申出から変更契約までの手順をあらかじめ整理しておきましょう。
対象工事、発生事象、協議を求める内容を伝えます。
価格変動、原価、納期、工期、仕様への影響を確認できる資料を整理します。
請負代金だけでなく、工期・仕様・施工方法まで必要に応じて確認します。
合意内容を特定し、法令に沿った方式で契約内容へ反映します。
法定の「おそれ情報」を契約前に通知した対象事象が実際に発生した場合には、受注者から変更協議を申し出ることができます。民間工事の注文者には誠実協議の努力義務、公共工事の発注者には誠実協議の義務があります。
請負契約の内容を変更する場合は、原則として変更内容を書面に記載し、署名または記名押印して相互に交付します。法令上の要件を満たす場合には、電磁的方法によることもできます。
資材価格が上がったとき変更協議を進める4つのステップ
この章で扱う主なポイントは以下のとおりです。
- 契約書・見積条件から変更協議の根拠を確認する
- 値上がり額や影響範囲を客観的な資料で整理する
- 元請・発注者へ書面で変更協議を申し入れる
- 代金変更と工期変更を分けずに合意内容を書面化する
実際に資材価格が上がったときは、すぐに金額だけを提示するのではなく、契約内容の確認から始めます。契約上の根拠、価格変動の資料、工事への影響を整理したうえで協議し、合意した場合には建設業法上求められる方式で変更契約を行います。
契約書・見積条件から変更協議の根拠を確認する
変更協議を考えるときは、最初に請負契約書と見積条件を確認します。どのような価格変動を想定して契約したのか、変更方法がどこまで定められているのかを把握しなければ、協議の入口を整理できないためです。
請負契約書だけでなく、見積書、注文書、請書、仕様書、採用している約款、契約締結前のやり取りも確認します。特に、見積有効期限、資材価格の基準時点、未確定費用、価格変動時の協議条件、想定工期などが記載されていないかを見ていきます。
契約内容が具体的でない場合も、直ちに「変更できない」「必ず増額できる」と結論づけるのではなく、契約関係と具体的事情を確認することが大切です。すでに請求権、損害賠償責任、契約解除などが争いになっており、相手方との交渉・代理・和解が必要な場合には、弁護士への相談が必要です。
値上がり額や影響範囲を客観的な資料で整理する
契約内容を確認したら、価格変動の実態を資料で整理します。「材料が高くなった」と伝えるだけでなく、契約時から何がどの程度変わり、工事へどのような影響が出ているのかを説明できる状態にすることが重要です。
契約・見積時と現在の資材単価、対象数量、工事原価への影響額を整理します。
納期、供給状況、代替資材の有無など、施工開始や工程への影響を確認します。
工期、仕様、施工方法、後工程への影響を具体的に整理します。
元請として下請から価格変更を求められた場合も同様です。受け取った資料をそのまま発注者へ転送するのではなく、自社の請負工事全体への影響として整理しておくと説明しやすくなります。なお、ここで用いる見積書・請求書等は契約後の実際の影響を示す資料であり、契約前の「おそれ情報」に必要な客観的根拠情報とは目的が異なります。
元請・発注者へ書面で変更協議を申し入れる
資料が整ったら、契約で定めた手続に従って変更協議を申し入れます。口頭だけの相談では、いつ、何を伝えたのか後から確認しにくいため、書面やメールなど記録が残る方法を用いることが実務上重要です。
- 対象となる工事
- 発生した事象
- 請負代金・工期等への影響
- 契約上の変更に関する規定
- 根拠となる資料
- 協議を求める事項
法定の対象となる「おそれ情報」を契約締結前に通知し、その事象が実際に発生した場合、受注者から注文者へ契約変更の協議を申し出ることができます。この場合、民間工事の注文者には誠実に協議へ応じる努力義務があり、公共工事の発注者には誠実に協議へ応じる義務があります。
事前通知をしていなかった事象が契約後に発生した場合も、通知済みの場合に準じて誠実に対応するという国土交通省の考え方があります。ただし、事前通知済みの場合と同じ法的効果が自動的に生じると断定することはできません。また、「協議に応じること」と「受注者が希望する増額に合意すること」は別であるため、一方的な価格変更ではなく協議として進めます。
代金変更と工期変更を分けずに合意内容を書面化する
協議がまとまった場合は、請負代金だけでなく、工期、仕様、施工方法など変更した事項を具体的に特定し、法令に沿った方式で変更契約を行います。
建設業法第19条第2項では、請負契約の内容を変更するとき、原則として変更内容を書面に記載し、当事者が署名または記名押印したうえで相互に交付する必要があります。相手方の承諾その他の法令上の要件を満たせば、電磁的方法を利用することもできます。
変更工事等への着手時期にも注意します。
追加工事、仕様変更、工期変更などについては、災害時等のやむを得ない場合を除き、原則として変更対象となる工事へ着手する前に変更契約を行います。「先に施工して、金額や条件は後で決める」という運用を常態化させず、施工前に契約条件を確認できる仕組みを整えることが大切です。
変更金額だけでなく、変更理由、対象工事、変更後の工期、仕様、施工方法などを変更契約書・覚書等に具体的に記載し、法令上必要な署名・記名押印および相互交付を行います。単なる社内メモや、一方的なメール確認だけでは、建設業法上の契約変更の方式を満たさない可能性があります。
価格転嫁の協議で注意したい3つの誤解
この章で扱う主なポイントは以下のとおりです。
- 価格転嫁条項があっても増額が当然に認められるとは限らない
- 契約内容を確認せず一方的に工事代金を変更しない
- 公共工事のスライド条項を民間工事へそのまま当てはめない
価格転嫁を考える際は、「条項があるから希望額を請求できる」「価格が上がったから変更してよい」と単純化しないことが大切です。変更協議の制度と増額の成否は別であり、民間工事と公共工事でも法令上の取扱いに違いがあります。
価格転嫁条項があっても増額が当然に認められるとは限らない
契約書に価格転嫁や請負代金変更に関する条項があっても、それだけで希望する増額が当然に認められるわけではありません。
「一定の価格変動が生じた場合」「当事者間で協議する」などの条件が定められていれば、実際の価格変動が条件に該当するのか、どの金額を基準にするのか、工事費へどの程度影響したのかを確認します。
建設業法上の「おそれ情報」や変更協議制度にも対象要件があります。法定の対象事象について変更協議を申し出た場合、民間工事の注文者には誠実協議の努力義務、公共工事の発注者には誠実協議の義務がありますが、これは提示した増額額をそのまま受け入れなければならないという意味ではありません。価格転嫁条項は、価格変動時に何を基準として、どのように協議するかを明確にするための仕組みとして確認しましょう。
契約内容を確認せず一方的に工事代金を変更しない
資材価格が急騰して採算が悪化していても、契約内容を確認しないまま工事代金を一方的に変更する対応は避けます。建設工事は、請負代金、工期、仕様、施工方法など複数の条件が組み合わさって成立しているためです。
必要なのは、価格変動の事実と影響を整理し、契約に定めた変更方法や協議手続に従って話し合うことです。変更に合意した場合には、建設業法第19条第2項に従い、原則として変更内容を書面に記載し、署名または記名押印して相互に交付します。法令上の要件を満たす場合には電磁的方法も利用できます。
相手方との関係を重視するあまり、価格上昇を無期限に自社だけで抱えることが適切とも限りません。「値上げするか、我慢するか」の二択ではなく、契約に沿って協議できる状態を事前につくることが継続的な取引にもつながります。
公共工事のスライド条項を民間工事へそのまま当てはめない
価格転嫁について調べると、公共工事における「スライド条項」や「単品スライド条項」を目にすることがあります。ただし、公共工事で採用されている仕組みを、すべての民間工事や下請契約へそのまま適用できるわけではありません。
公共工事では、それぞれの契約約款に基づき、一定の条件のもとで物価変動等による請負代金変更を扱う仕組みがあります。一方、民間工事や元請・下請間では、実際に締結している請負契約書や採用している約款の内容を確認することが基本です。
価格変更協議への対応にも、民間工事の注文者は誠実協議の「努力義務」、公共工事の発注者は誠実協議の「義務」という違いがあります。制度名だけを見て判断せず、自社の契約にどのルールが適用されるかを確認することが大切です。
改正建設業法を踏まえて見直したい3つの契約実務
この章で扱う主なポイントは以下のとおりです。
- 請負代金や工期の変更方法を契約書に明確に記載する
- 契約前に把握している資材高騰などのリスクを共有する
- 契約後に事情が変わった場合の協議ルールを運用できる形にする
資材価格への対応は、個々の現場における価格交渉だけの問題ではありません。改正建設業法によって、変更方法の契約書への記載、契約前の情報通知、変更協議のルールがより明確になりました。制度を理解するとともに、自社の契約書・見積条件・社内運用へ反映することが重要です。
請負代金や工期の変更方法を契約書に明確に記載する
改正建設業法を踏まえるうえで最初に確認したいのが、請負代金や工事内容の変更方法です。2024年12月13日に施行された改正規定により、「価格等の変動又は変更に基づく工事内容の変更又は請負代金の額の変更及びその額の算定方法に関する定め」が契約書の法定記載事項として明確化されました。
どの事象を対象にし、いつ協議を開始するかを明確にします。
基準時点、指数、実際の調達価格など、算定方法を整理します。
通知、協議、工期・仕様との関係、変更契約の方式まで決めます。
請負代金額等の変更方法は建設業法上の契約書記載事項であるため、「契約変更を認めない」と記載するだけでは法定の変更方法を定めたことにはなりません。また、価格変動時の変更条項を削除し、変更協議を一切認めない内容とすることも、法定記載義務との関係で問題となります。
改正法の施行時期
2024年6月公布の改正建設業法等は段階的に施行され、残る改正規定も2025年12月12日に施行されました。国土交通省は同日を改正法の完全施行日として公表しています。古いひな型を継続して使用している場合は、現在の法令や取引実態に合っているか確認するとよいでしょう。
契約前に把握している資材高騰などのリスクを共有する
価格変動への対応では、価格が上がった後に初めて相談するのではなく、法定の対象事象について契約前に必要な情報を通知することが重要です。
建設業法上、受注者は、対象事象が発生するおそれがあると認めるときは、請負契約を締結するまでに注文者へその旨を根拠情報と併せて通知しなければなりません。対象は、主要な資機材の供給不足・遅延または価格高騰、特定工事における労務の供給不足または価格高騰であって、天災その他の自然的・人為的な事象により生じ、双方の責めに帰することができないものです。
根拠情報は、受注者が通常の事業活動の範囲内で把握できる客観的な情報を用います。メディアの記事、資材業者による公表資料、公的主体や業界団体等が公表する統計資料などが例です。一方、契約後に実際の値上がり額を示す仕入見積書や請求書は変更協議の資料として有用ですが、契約前の「おそれ情報」の根拠情報とは目的が異なります。
契約前に通知していなかった事象が契約後に発生した場合でも、国土交通省は通知済みの場合に準じて注文者が誠実に対応する考え方を示しています。ただし、通知した場合と全く同じ法的効果が当然に生じると断定することはできません。法定の変更協議については、民間工事の注文者に誠実協議の努力義務、公共工事の発注者に誠実協議の義務があります。
契約後に事情が変わった場合の協議ルールを運用できる形にする
契約書に適切な変更条項を設けても、営業担当者や現場担当者がルールを知らなければ、価格変動が起きた場面で機能しません。そのため、契約書の改定と社内運用をセットで考えることが重要です。
価格変動リスクと法定の「おそれ情報」の有無を確認します。
変更条項、算定方法、通知・協議方法を確認します。
価格改定、供給遅延、原価・工期への影響を社内共有します。
必要に応じて協議し、原則として変更対象工事の着手前に変更契約を行います。
契約内容の変更は、原則として書面へ記載し、署名または記名押印して相互に交付します。要件を満たす電磁的方法を採用することも可能です。契約書を一度修正して終わりにせず、実際の案件で運用できるかまで定期的に確認しましょう。
赤字工事を防ぐため次の契約から始めたい3つの対策
この章で扱う主なポイントは以下のとおりです。
- 請負契約書の価格変更条項を定期的に見直す
- 見積条件に価格の有効期限や前提条件を明記する
- 長期工事では価格・工期を継続管理できる仕組みをつくる
価格変動への対応は、発生後の交渉だけでは十分とはいえません。特に長期工事では、見積時、契約時、資材発注時、施工時で価格や供給環境が変化する可能性があります。次の契約から契約書・見積条件・社内管理を一体として見直すことが、予防につながります。
請負契約書の価格変更条項を定期的に見直す
自社の請負契約書を長期間同じ内容で使用している場合は、現在の価格変動リスクや建設業法に対応しているか確認します。大切なのは、単に「価格変更条項があるか」だけを見ることではありません。
- 価格等の変動に基づく変更方法
- 変更額の算定方法
- 協議開始の条件
- 通知方法と時期
- 工期・仕様への影響
- 変更契約の締結方法
元請として使用する契約書と、下請として取引先から提示される契約書では、自社の立場も異なります。普段どのような工事を受注し、どの費用が変動しやすいのかによって重点項目も変わるでしょう。実際の案件で「通知時期が分からなかった」「算定基準を決めていなかった」といった経験があれば、次回の契約書へ反映する材料になります。
見積条件に価格の有効期限や前提条件を明記する
価格変動への備えは、契約書だけで完結するものではありません。見積段階でどの価格・条件を前提としているのかも、相手方に分かる形で整理します。
- 見積金額の有効期限
- 資材価格の基準時点
- 現時点で未確定の費用
- 発注時期が遅れた場合の取扱い
- 価格変動が生じた場合の協議
- 想定している工期
半年後に着工予定の工事について現在の資材価格を前提に見積もるのであれば、その前提を相手方と共有しておくことが重要です。ただし、「価格変動時は増額する」と見積書へ一方的に記載すれば当然にその条件で契約が変更されるわけではありません。契約書との整合性や相手方との合意内容を確認します。
さらに、法定の「おそれ情報」に該当する事象を把握している場合は、見積条件への記載だけで済ませず、契約締結までに根拠情報と併せて注文者へ通知する義務にも注意が必要です。
長期工事では価格・工期を継続管理できる仕組みをつくる
長期工事では、契約時点で将来の価格や資材供給状況を正確に予測することは困難です。そのため、契約時の備えに加え、工事期間中も価格・納期・工期への影響を継続して確認する仕組みが必要になります。
主要資材の価格推移と実際の仕入単価を当初見積と比較します。
価格改定通知、見積書、発注書、変更資料を案件別に保存します。
納期遅延や代替資材が工期・仕様へ与える影響を早めに共有します。
社内では、「変化を把握する → 契約条件を確認する → 原価・工期への影響を整理する → 必要に応じて協議する → 合意後、原則として変更工事等の着手前に変更契約を行う」という流れを決めておくと実務的です。
契約管理を継続的に行うことで、資材高騰だけでなく、仕様変更、追加工事、工期変更などにも対応しやすくなります。
資材高騰への備えは契約締結前のルールづくりから始める
この章で扱う主なポイントは以下のとおりです。
- 問題が起きてからではなく契約前に変更条件を決めておく
- 契約書と見積条件を一体で見直す
- 継続的な契約管理が価格変動リスクの軽減につながる
資材価格そのものを正確に予測することはできません。しかし、価格等が変動した際に「何を対象とし、どの資料を確認し、いつ通知し、どのように協議し、どの方式で変更契約を行うか」は事前に決めることができます。価格転嫁への備えでは、値上がりを予測することより、変動時に適切な手続を踏める契約環境を整えることが重要です。
問題が起きてからではなく契約前に変更条件を決めておく
価格転嫁で避けたいのは、資材価格が大きく上昇し、工事が進んでから初めて「契約書には何と書いてあったか」と確認する状態です。すでに資材を発注し、施工が進んだ後では、受注者側は原価負担が膨らみ、注文者側も予算や工程を調整しにくくなる可能性があります。
次の契約では、価格変動の対象、協議開始条件、変更額の算定方法、根拠資料、通知方法、工期・仕様変更の扱い、変更契約の方式まで確認しておくことが重要です。また、建設業法上の対象となる「おそれ情報」がある場合、受注者は契約締結までに根拠情報と併せて注文者へ通知しなければなりません。
一度資材高騰への対応で困った経験があるなら、その問題を一件の工事で終わらせず、次の契約条件を改善する材料として活用できます。
契約書と見積条件を一体で見直す
価格転嫁への備えでは、請負契約書だけを修正しても不十分な場合があります。見積書と契約書の条件が一致していなければ、契約締結前後で認識の違いが生じる可能性があるためです。
たとえば、見積書には「見積有効期限3か月」と記載していても、契約書に契約後の価格変動について具体的な変更方法がなければ、実際の協議で確認事項が増えます。反対に、契約書には変更協議条項があっても、営業担当者が内容を理解せず、契約前に必要な情報通知が行われていないケースも考えられます。
価格の基準時点、有効期限、未確定事項を整理します。
法定の「おそれ情報」に該当する場合は根拠情報と併せて通知します。
価格・工期・仕様の変更方法と算定方法を明確にします。
価格・納期・工程への影響を継続して記録します。
必要な協議を行い、合意内容を法令に沿った方式で契約へ反映します。
請負代金だけでなく、工期、仕様変更、追加工事、支払条件など関連条項との整合性も確認してください。契約書・見積書・注文書などを一度並べて確認すると、どこに見直しが必要か把握しやすくなります。
継続的な契約管理が価格変動リスクの軽減につながる
資材価格の変動は、一度契約書を改定すれば終わる問題ではありません。法制度、市況、取引先、受注工事の内容が変われば、必要な契約条件や社内運用も変化します。
改正建設業法等は2025年12月12日に全面施行され、その後も国土交通省から建設業法令遵守ガイドライン、FAQ、標準請負契約約款などが更新・公表されています。契約書のひな型も、現在の制度と自社の取引実態に合っているか定期的に確認することが大切です。
- 法改正や最新の運用情報
- 契約書・見積書のひな型
- 「おそれ情報」の通知手順
- 案件ごとの価格・工期変更履歴
- 現場で起きた課題の次回契約への反映
- 営業・現場・経理・契約担当間の情報共有
契約管理の目的は、価格交渉を有利にすることだけではありません。当事者の認識を契約前からそろえ、「聞いていない」「想定していなかった」「先に工事をしたので条件が決まらない」といった行き違いを減らすことにあります。
現在の契約書を、次の契約に向けて整理したい方へ
相談内容がまとまっていなくても大丈夫です。まずは現在の契約書、見積条件、工事の進め方を伺い、将来の取引に向けて確認した方がよい内容を一緒に整理します。
請負契約書そのものの見直しも確認できます。
支払条件、追加工事、変更手続など、請負契約書で整理しておきたい基本事項は関連記事でも確認できます。
資材価格が上がれば工事代金を増額できますか。
資材価格が上がった事実だけで請負代金が自動的に増額されるわけではありません。契約書の変更条項、変動の原因や程度、工事への影響、協議内容などを確認します。
契約書に価格転嫁条項があれば安心ですか。
条項の有無だけでなく、対象、協議開始条件、算定方法、通知時期、工期や仕様との関係、変更契約の方式まで具体的かを確認することが重要です。
契約前に「おそれ情報」を通知していなかった場合はどうなりますか。
事前通知がなかった事象についても、国土交通省は通知があった場合に準じて注文者が誠実に対応する考え方を示しています。ただし、事前通知済みの場合と全く同じ法的効果が当然に生じると断定することはできません。
資料がそろっていなくても相談できますか。
ご相談いただけます。契約書や見積書があれば確認がスムーズですが、資料がまとまっていない段階でも、現在分かる工事内容や契約状況を伺い、確認した方がよい資料や今後の契約整備を整理します。
お手元にあれば確認が進みやすい資料
- 現在使用している請負契約書・基本契約書・注文書・請書
- 見積書、見積条件、当初の積算資料
- 資材業者からの価格改定通知や見積書
- 工期、仕様、施工方法の変更が分かる資料
- 相手方と価格・工期についてやり取りした書面やメール
すべてをそろえてから相談する必要はありません。まずは分かる範囲の状況を伺い、契約書の整備として確認する内容と、個別の紛争対応として弁護士へ相談した方がよい内容を整理します。
資材高騰への備えは「次の契約」を整えるところから始められます
- 資材価格が上昇しただけで、請負代金が自動的に増額されるわけではありません。
- 建設業法上の「おそれ情報」は、双方の責めに帰することができない一定の資機材・労務の供給不足や価格高騰等が対象であり、受注者は要件に該当する場合、契約締結までに根拠情報と併せて通知しなければなりません。
- 法定の変更協議について、民間工事の注文者には誠実協議の努力義務があり、公共工事の発注者には誠実協議の義務がありますが、希望した増額が当然に認められるわけではありません。
- 契約内容を変更する場合は、原則として変更内容を書面に記載し、署名または記名押印して相互に交付します。要件を満たせば電磁的方法も利用でき、追加・変更工事は原則として着手前に変更契約を行います。
- 問題が起きてから対応方法を考えるのではなく、請負契約書、見積条件、契約前通知、変更協議、変更契約までを一連の仕組みとして整えることが予防につながります。
資材価格そのものをコントロールすることはできませんが、価格が変動したときの対応方法はあらかじめ準備できます。特に長期工事を継続的に受注する建設会社では、一件ごとの判断に頼らず、請負契約書・見積条件・情報通知・変更管理の流れをまとめて確認しておくことが重要です。
行政書士への相談では、他の法律により制限されていない範囲で、将来の取引に備えた請負契約書・関連書面の作成や契約管理の仕組みづくりを検討できます。すでに相手方との間で請求権、損害賠償責任、契約解除その他の権利義務をめぐる紛争が生じている場合、または相手方との交渉・代理・和解が必要な場合には、弁護士への相談が必要です。
相談内容がまとまっていなくても大丈夫です。
まずは現在の状況を伺い、契約書や見積条件で確認した方がよい内容を一緒に整理します。お手元に資料があれば確認がスムーズですが、資料がそろっていない段階でもご相談いただけます。
公的な制度情報も併せて確認できます。
制度や運用は更新されることがあるため、契約書を見直す際は国土交通省の最新情報も確認してください。