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AI導入を検討するとき、多くの会社で最初につまずきやすいのが「現場に何を聞けばよいのか」という点です。業務の流れを知りたいと思っても、作業手順だけを聞いてしまうと、AIで支援できる範囲や、導入前に整理しておきたい課題が見えにくくなることがあります。資料がそろっていない段階でも、まずは現場の業務を一緒に整理する姿勢で聞いていくと、検討を進めやすくなります。

このセクションで学ぶこと

本セクションでは、AI導入の業務ヒアリングで確認したい項目を整理します。作業内容だけでなく、業務の目的、判断基準、使用している情報、成果物、例外対応、確認待ち、困りごと、発生頻度や件数まで確認することで、次回の業務棚卸や導入候補の整理につなげやすくなります。

基本解説:AI導入のヒアリングは「作業の聞き取り」だけではありません

AI導入のための業務ヒアリングとは、現場の作業内容を聞くだけではなく、業務の流れ、判断のしかた、使っている情報、例外対応、成果物を整理するための確認作業です。

たとえば、営業事務の受注処理を考えてみます。「注文内容をシステムに登録しています」と聞くだけでは、AI導入の検討材料としては少し不足します。実務では、どこから依頼が来るのか、誰が内容を確認するのか、何を見て登録可否を判断するのか、不備があった場合に誰へ確認するのか、最終的にどのようなデータや帳票を残すのかまで整理する必要があります。

AIは、文章の整理、情報の抽出、入力補助、確認項目の提示、問い合わせ対応の支援など、さまざまな場面で活用できます。ただし、どの業務にどのように使えるかは、現場の業務がどのように進んでいるかを理解してからでないと判断しにくいものです。また、AIの活用可否や効果は業務内容やデータの整備状況により異なるため、事前検証を行いながら確認していくことが大切です。

なお、ヒアリングの際には個人情報や機密情報の取扱いに留意し、社内規程や関連法令(個人情報保護法等)に従って実施する必要があります。実際の聞き取りでは、不要な個人情報を集めすぎないこと、共有範囲をあらかじめ確認すること、外部サービスへ入力する情報を慎重に扱うことも意識しておきましょう。

図解:業務ヒアリングで見るべき5つの流れ

AI導入前のヒアリングでは、「誰が何をしているか」だけでなく、情報の入口から成果物までをつなげて確認します。

入口 依頼・情報が入る

メール、フォーム、電話、チャット、紙資料など、業務が始まるきっかけを確認します。

確認 必要項目を見る

何を見て内容を確認しているか、確認漏れが起きやすい項目があるかを聞きます。

判断 処理方法を決める

誰が、どの基準で、通常処理・例外処理・差し戻しを判断しているかを整理します。

成果物 登録・通知・記録を残す

システム登録、帳票作成、通知メール、管理表更新など、業務の出口を確認します。

この図で読み取っていただきたいのは、AI導入の検討材料は「作業名」だけではなく、「情報が入り、確認され、判断され、成果物になるまでの流れ」にあるという点です。

業務の目的を確認する

最初に確認したいのは、その業務が何のために行われているかです。業務の目的が分からないまま作業だけを見てしまうと、本来残すべき確認や、人が判断した方がよい部分まで簡略化して考えてしまうことがあります。

たとえば受注処理であれば、単に「注文を登録する」ことだけが目的ではありません。顧客からの依頼内容を正確に反映すること、在庫や納期を確認すること、請求や出荷につながる情報を整えること、社内の関係部門へ必要な情報を渡すことも含まれます。

ヒアリングでは、「この業務の最終的な目的は何ですか」「この処理が終わると、次に誰が何をしますか」といった聞き方をすると、業務の位置づけを把握しやすくなります。

判断基準を確認する

前回までの内容では、属人化した判断基準や例外対応を言語化することの重要性を扱いました。今回のヒアリングでも、この視点は大切です。

現場では、「いつもこうしている」「この場合は担当者に確認する」「この取引先だけは別対応にする」といった判断が、明文化されないまま運用されていることがあります。こうした判断基準は、AI導入の前に整理しておくと、支援できる範囲と人が確認すべき範囲を分けやすくなります。

質問するときは、「どのような場合に通常処理ではなく確認が必要になりますか」「迷いやすいケースはありますか」「判断に使っている資料やルールはありますか」といった聞き方が有効です。現場を責めるためではなく、暗黙知を業務資産として整理するために聞く、という姿勢を大切にします。

実務での考え方:誰が、いつ、どの情報で、何を判断しているか

AI導入のヒアリングでは、業務を「担当者の作業」として見るのではなく、「情報と判断の流れ」として見ると整理しやすくなります。特に、誰が、いつ、どの情報を使い、何を判断し、どのような成果物を出しているかを確認すると、後から業務棚卸にまとめやすくなります。

さらに、AI導入の効果を考えるうえでは、発生頻度や件数といった定量情報も重要です。月に1回だけ発生する業務と、毎日100件発生する業務では、同じ作業時間であっても、改善効果の見え方が変わります。最初から正確な数字を出す必要はありませんが、おおよその件数や繁忙期の偏りを聞いておくと、後の検討が進めやすくなります。

確認する観点 聞きたい内容 質問例
誰が 担当者、承認者、確認先、関係部門 この処理は主にどなたが担当していますか。確認が必要な場合は誰に聞きますか。
いつ・どのくらい 発生タイミング、締切、繁忙期、待ち時間、発生頻度・件数 この業務はどのタイミングで発生しますか。また、1日または1か月に何件ほど処理していますか。
どの情報を使い メール、申込書、顧客情報、過去履歴、社内ルール 確認するときに見ている資料やシステムは何ですか。
何を判断し 登録可否、差し戻し、承認要否、例外処理 どのような場合に、そのまま処理せず確認しますか。
何を出しているか 登録データ、帳票、通知、管理表、報告資料 処理が完了した後、どのようなデータや書類が残りますか。

このように分けて聞くと、現場の説明も整理されやすくなります。AI導入を検討する側も、「文章から必要項目を抽出できそうか」「確認項目のチェックリスト化ができそうか」「問い合わせ文の下書きを支援できそうか」といった形で、具体的な導入候補を考えやすくなります。

営業事務の受注処理で聞く例

営業事務の受注処理を例にすると、次のような質問が考えられます。

  • 受注依頼は、主にどの経路で届きますか。メール、電話、営業担当からの連絡、フォームなど、複数ありますか。
  • 1日あるいは1か月あたり、おおよそ何件ほどの受注処理が発生しますか。繁忙期や曜日による偏りはありますか。
  • 依頼を受けた後、最初に確認する項目は何ですか。取引先名、商品名、数量、納期、価格、届け先など、決まった確認順はありますか。
  • 登録作業では、どのシステムや管理表を使っていますか。二重入力や転記が発生している箇所はありますか。
  • 内容に不備があった場合、誰にどのような方法で確認していますか。
  • 通常とは異なる処理になるのは、どのようなケースですか。
  • 処理後に、営業担当、出荷部門、経理部門などへ通知する内容はありますか。

ここで大切なのは、最初からAIで置き換える業務を決めようとしないことです。まずは現在の状況を整理してみましょう。業務の流れが見えると、AIで支援できそうな部分と、人による確認を残した方がよい部分が自然に分かれてきます。

図解:ヒアリングで拾いたい「通常処理」と「例外処理」

AI導入前の業務可視化では、スムーズに進む流れだけでなく、止まりやすい箇所や確認が必要な場面も確認します。

通常処理 決まった手順で進む業務

依頼内容がそろっており、担当者が迷わず処理できる流れです。入力補助や確認項目の提示などを検討しやすい領域です。

確認待ち 情報不足で止まる業務

依頼元への確認、承認待ち、他部門からの回答待ちなどです。どこで待ち時間が発生するかを確認します。

例外処理 通常と違う判断が必要な業務

特定顧客の個別対応、価格変更、納期調整、入力内容の不一致などです。人の判断が必要な範囲を整理します。

通常処理だけを見ると、業務は単純に見えることがあります。実際には、確認待ちや例外処理に現場の負担が集まりやすいため、そこを丁寧に聞くことが大切です。

よくあるつまずき:作業手順だけを聞くと判断が見えにくい

業務ヒアリングでよくあるつまずきは、手順を順番に聞くだけで終わってしまうことです。もちろん手順の確認は大切ですが、それだけではAI導入に必要な情報が十分に集まらないことがあります。

つまずき1:現場の説明が細かすぎて整理できない

現場の方は、日々の実務をよく知っているため、細かな例や個別事情を多く話してくれることがあります。これは貴重な情報ですが、聞く側が整理軸を持っていないと、何が重要なのか分かりにくくなることがあります。

その場合は、「通常の流れ」「確認が必要な場面」「例外的な対応」の3つに分けながら聞くと整理しやすくなります。話を遮るのではなく、「今のお話は、通常の流れではなく例外対応に近いですね」と確認しながら進めると、双方の理解がそろいやすくなります。

つまずき2:困りごとを聞くと責任追及のように受け取られる

「どこが非効率ですか」「何が問題ですか」と聞くと、現場によっては責められているように感じることがあります。AI導入のヒアリングでは、現場を評価するのではなく、業務を一緒に整理する姿勢が大切です。

たとえば、「日々の業務で確認に時間がかかる場面はありますか」「判断に迷いやすいケースがあれば教えてください」「資料や情報がそろいにくい場面はありますか」と聞くと、現場の負担感を尊重しながら情報を引き出しやすくなります。

つまずき3:例外処理を後回しにしてしまう

AI導入を検討するとき、まずは定型業務に目が向きやすいものです。ただ、実務上の負担は、例外処理、差し戻し、確認待ちに集まっていることも少なくありません。

例外処理をすべてAIに任せるという意味ではありません。むしろ、例外を整理することで、「AIが下書きや整理を支援する部分」と「人が最終判断する部分」を分けやすくなります。最初から完璧に分類する必要はありませんが、よくある例外を聞いておくと、社内で説明しやすくなります。

つまずき4:件数や頻度を聞き忘れてしまう

業務内容を丁寧に聞いていても、処理件数や発生頻度の確認が後回しになることがあります。AI導入を検討する際には、「できそうか」だけでなく、「どの程度の効果が見込めそうか」も確認する必要があります。

たとえば、1件あたり10分かかる作業でも、月に数件であれば優先度は高くないかもしれません。一方で、毎日多数発生し、確認待ちや差し戻しも多い業務であれば、入力補助、確認項目の整理、問い合わせ文案の作成などの支援余地が見えやすくなります。

聞き方のポイント:現場に対しては、「改善点を探すため」ではなく、「業務の実態を正しく理解し、支援できる部分を見つけるため」に聞くことを伝えると、協力を得やすくなります。

経営者・責任者向けの確認ポイント

経営者や部門責任者にとって、AI導入のヒアリングは、現場に負担をかけるだけの調査にならないよう配慮することが大切です。目的が曖昧なまま質問を増やすと、現場は「何のために聞かれているのか」が分からなくなります。

ヒアリングを始める前に、次の点を社内で共有しておくと進めやすくなります。

  • AI導入の候補を探す前に、まず業務の流れを整理すること
  • 現場のやり方を否定するのではなく、判断基準や困りごとを一緒に見える化すること
  • ヒアリング結果は、次回以降の業務棚卸や導入候補選定に使うこと
  • すべての業務を一度に調べるのではなく、対象業務を絞って確認すること
  • 処理件数、頻度、繁忙期など、効果を考えるための数字も無理のない範囲で確認すること
  • 現場から出た課題を、すぐに個人の責任として扱わないこと
  • 個人情報や機密情報の取扱いについて、社内規程や関連法令に沿った進め方を確認すること

特に重要なのは、ヒアリングの目的を「AIを入れるための聞き取り」に限定しすぎないことです。業務の流れや判断基準が整理されると、AI導入だけでなく、マニュアル整備、引き継ぎ、教育、行政手続き等に添付する「業務説明書」の作成や、社内規程(ルール)の整理・見直しにも役立ちます。

本記事は、AI導入を検討する際の一般的な業務整理・書類整理・情報整理の観点を扱うものです。個別の法的判断、紛争性のある案件、契約書の法的評価、権利義務に関する具体的な判断が必要な場合は、内容に応じて弁護士等の専門家へ確認することが大切です。

AI導入支援者としての着眼点

AI導入を支援する立場の方(コンサルタント等)や、社内でAI導入を支援する立場の方は、ヒアリングを「質問リストを消化する場」と考えすぎないことが大切です。相手の話を聞きながら、業務の流れ、判断、例外、成果物の関係を整理していく姿勢が求められます。

支援者としては、次のような着眼点を持つと、AI導入候補を考えやすくなります。

  • 繰り返し発生している確認作業はあるか
  • 文章やメールから必要情報を抜き出している場面はあるか
  • 判断基準が担当者の経験に依存している場面はあるか
  • 確認待ちや差し戻しが多い箇所はどこか
  • 複数のシステムや管理表への転記が発生しているか
  • 成果物の品質を確認するチェック項目があるか
  • 発生頻度や件数から見て、検証対象として扱いやすい業務か

ただし、ヒアリングの段階で「ここはAI化できます」と急いで結論づける必要はありません。まずは事実を整理し、現場の言葉を大切にしながら、次回の業務棚卸に使える形で情報を集めていきます。必要に応じて、業務説明書、議事録、社内ルール、運用マニュアルなどの作成・整理につながる情報として記録しておくと、後から社内で共有しやすくなります。

ミニチェックリスト:業務ヒアリングで確認したい項目

  • その業務の目的と、完了後に次の誰へつながるかを確認しましたか。
  • 誰が、いつ、どの情報を使って作業しているかを確認しましたか。
  • 1日または1か月あたりの処理件数、発生頻度、繁忙期などのボリューム感を確認しましたか。
  • どの場面で判断が発生し、判断基準として何を見ているかを確認しましたか。
  • 通常処理だけでなく、例外処理、差し戻し、確認待ちを確認しましたか。
  • よくある困りごとや、時間がかかりやすい場面を責めない聞き方で確認しましたか。
  • 最終的な成果物として、登録データ、帳票、通知、報告資料など何が残るかを確認しましたか。
  • 個人情報や機密情報の取扱いについて、社内規程や関連法令に沿って確認しましたか。
  • ヒアリング内容を、次回の業務棚卸やAI導入候補の整理に使える粒度で記録しましたか。

まとめ:現場と一緒に業務の流れ・判断・例外を整理する

AI導入の業務ヒアリングでは、作業内容だけでなく、業務の目的、判断基準、使用している情報、成果物、例外処理、差し戻し、確認待ち、困りごとを確認することが大切です。あわせて、発生頻度や件数といった数字も確認しておくと、導入効果や優先順位を検討しやすくなります。

現場を責めるような聞き方ではなく、「業務を一緒に整理する」という姿勢で進めると、必要な情報を引き出しやすくなります。資料が十分にそろっていない段階でも、誰が、いつ、どの情報を使い、何を判断し、どのような成果物を出しているかを確認することで、AI導入の検討材料が見えてきます。

また、ヒアリングでは個人情報や機密情報の取扱いにも注意が必要です。AIの活用可否や効果は業務内容やデータの整備状況によって異なるため、業務の実態を整理したうえで、段階的に検証していくと社内で説明しやすくなります。

次回は、今回のようなヒアリングや業務整理の結果をもとに、AI導入候補を業務棚卸として整理する考え方を扱います。

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