HANAWA行政書士事務所のロゴ HANAWA行政書士事務所 建設・製造・産廃業向け 許認可 × 外国人雇用 × 補助金 × 福利厚生
090-3718-2803 9:00-23:00 年中無休(土日祝日・20時以降は事前予約)
  • Chapter 6 効果測定・投資判断・リスク管理
  • Section 42 AI導入リスクの全体像
  • 想定学習時間:15分程度

AI導入の効果や投資対効果を検討していると、社内から「誤った回答が出たらどうするのか」「顧客情報を入力してもよいのか」「他社の資料を読み込ませて問題はないのか」「誰が責任を持つのか」といった質問が出てくることがあります。特に外部の資料やデータを利用する場合は、著作権だけでなく、利用許諾、契約条件、利用規約の確認も必要です。こうした疑問は、AI導入を止めるための材料ではなく、導入条件を具体化するための手がかりとして捉えることができます。このセクションでは、AI導入リスクを品質、情報管理、著作権・利用許諾・契約管理、運用、組織定着、説明責任の観点から整理します。

このセクションで学ぶこと

  • AI導入時に確認したいリスクの全体像
  • 誤回答や品質のばらつきを、業務上の品質管理として捉える考え方
  • 個人情報・機密情報・社内情報を扱う際の確認観点
  • 入力資料と生成された出力に関する著作権・利用許諾・契約・利用規約の確認観点
  • 利用者、確認者、承認者、事故対応者、改善担当者を整理する必要性
  • 未承認のAI利用を把握し、組織として管理する考え方
  • リスクを、確認・ルール化・人による判断・記録・改善で扱う方法

AI導入リスクとは何か

AI導入リスクとは、AIを業務で利用することに伴って生じ得る不利益を指します。具体的には、品質低下、情報管理上の問題、著作権・利用許諾・契約上の問題、運用上の混乱、組織定着の不十分さ、説明責任上の困難などです。

利用する業務によっては、セキュリティ、差別や不公平な取り扱い、業界規制への不適合、特定サービスへの過度な依存、誤誘導、監査の難しさなども検討対象になります。

ここで重要なのは、リスクがあることと、AIを利用できないことは同じではないという点です。人が行う業務にも、入力ミス、確認漏れ、判断のばらつき、引き継ぎ不足があります。AI導入では、従来からある業務上のリスクに、生成AIの誤回答、データの外部送信、外部資料の利用条件、出力根拠の追跡しにくさといった特性を加えて確認します。

AI導入リスクを整理する目的は、問題を完全にゼロにすることではありません。どの業務で何が起こり得るかを把握し、利用範囲、情報管理、権利・契約の確認、人による確認、アクセス権限、記録、責任分担、改善方法を業務に組み込むことです。

たとえば、顧客からの問い合わせに対する回答案を生成AIで作成する場合を考えてみましょう。生成された文章は自然に見えても、商品条件や契約内容を誤って説明する可能性があります。学習データ由来の一般論が含まれたり、参照させたFAQや規約が古かったりすれば、自社の現在の取り扱いと異なる回答になることもあります。

また、担当者が顧客の氏名や相談内容を、会社が承認していないAIサービスへ入力することも考えられます。氏名や連絡先を削除した場合でも、相談内容や周辺事情、具体的な経緯などを社内の他の情報と容易に照合できれば、特定の個人を識別できる場合があります。氏名を消したことだけで安全と判断せず、情報全体の文脈を確認する必要があります。

個人情報保護法上は、個人情報、個人データ、保有個人データ、仮名加工情報、匿名加工情報など、情報の区分によって取り扱いが異なります。本セクションでは個別の法的要件まで深掘りしませんが、「氏名を削除すれば匿名情報になる」と一律に考えないことが大切です。

さらに、誰が回答案を確認するのか、問題を見つけたときに誰へ共有するのか、参照資料や指示文を誰が改善するのかが決まっていなければ、同じ問題が繰り返されることがあります。AI導入リスクは、ツールの性能だけではなく、データ、情報源の権利、契約条件、業務の流れ、役割分担、管理体制とも深く関係しています。

AI導入にはどのようなリスクがありますか。

初級段階では、品質、情報管理、著作権・利用許諾・契約管理、運用、組織定着、説明責任の6つに分けると整理しやすくなります。まずはこの6つの観点から、自社の利用場面、扱う情報、関係者、出力の利用先を確認してみましょう。

AI導入リスクを6つの観点で整理する

AI導入リスクは、専門用語を並べるよりも、実際の業務で何を確認するかという観点に置き換えると理解しやすくなります。以下の6つは独立した問題ではなく、互いに関係しています。

図解:AI導入リスクを捉える6つの観点

中央の「AIを利用する業務」を、品質、情報管理、権利・契約管理、運用、組織定着、説明責任の6方向から確認します。

AIを利用する業務 入力、資料参照、AIによる処理、出力、人による確認、記録、改善を含む一連の流れ

品質

誤回答、情報の欠落、表現のばらつき、古い情報の参照、誤誘導などを確認します。

情報管理

個人情報、機密情報、社内情報の入力、保存、権限、外部送信を確認します。

権利・契約管理

資料と出力の著作権、利用許諾、秘密保持、契約条件、利用規約を確認します。

運用

誰が利用し、誰が確認・承認し、誰が問題対応と改善を担うかを整理します。

組織定着

ルールが現場で使われるか、未承認のAI利用が広がっていないかを確認します。

説明責任

参照情報、人による確認、最終判断を必要な範囲で説明できる状態にします。

読み取るポイント:AIの出力精度だけを確認しても、業務全体のリスクは整理できません。入力する情報、資料を利用する権限、担当者の役割、記録、最終判断までを一つの仕組みとして考えます。

1.誤回答や品質のばらつきに関するリスク

生成AIは、読みやすい文章や回答案を短時間で作成することを得意としています。一方で、事実と異なる内容、根拠を確認できない説明、重要条件が欠落した回答、質問の意図から外れた回答を生成することがあります。文章が自然であることと、業務上正しいことは別です。

また、同じような質問でも、入力の仕方、利用するモデル、設定、サービスの更新、参照情報によって出力が変わることがあります。そのため、AIを利用した成果物については、「読みやすいか」だけでなく、「正確か」「必要な条件が含まれているか」「根拠を確認できるか」「現在の社内ルールと一致しているか」という観点が必要です。

たとえば、AIが商品の返品条件について学習データ由来の一般論を回答に含めたり、古いFAQを参照したりすると、自社の現在の規約と異なる説明になる可能性があります。担当者が文章の自然さだけを見て送信すると、誤った案内につながることがあります。

このリスクに対しては、どの資料を正しい基準とするのか、どの出力を人が確認するのか、誤りが起きた場合に誰へどの程度の影響があるかを整理します。具体的な誤回答対策や品質確認の手順は、品質リスクの具体策を扱う次回のSection 43「誤回答・品質低下への対策」で取り上げます。

2.個人情報・機密情報・社内情報に関するリスク

AIを利用するときは、入力する情報の内容、利用目的、利用するサービスの契約条件、データの保存場所や取り扱いを確認する必要があります。顧客の氏名、連絡先、相談内容、従業員情報、取引条件、未公表の経営情報、営業秘密、社内資料などは、特に慎重な取り扱いが必要です。

個人情報は、氏名や住所だけに限られません。他の情報と容易に照合することで特定の個人を識別できる情報も含まれます。そのため、氏名や連絡先を削除しただけで、直ちに個人情報ではなくなるとは限りません。

個人を特定する必要がない業務では、氏名や連絡先に加えて、個人の特定につながる相談内容、周辺事情、具体的な経緯、固有のエピソードも除外・抽象化する方法が考えられます。ただし、抽象化後も社内情報との照合によって個人を識別できる場合があります。また、相談内容自体に慎重な取り扱いを要する情報が含まれる場合もあります。

「AIへ入力する」といっても、利用環境はさまざまです。一般向けの外部サービス、法人契約の環境、自社システム内の環境、外部事業者が運用する専用環境などがあります。入力データが学習に利用されるか、どこに保存されるか、国外で取り扱われるか、保存期間はどうなっているか、再委託先があるか、管理者が何を閲覧できるかなど、確認事項は利用環境によって異なります。

初級段階では、「入力してよい情報」「条件を確認してから入力する情報」「入力を認めない情報」を区分すると整理しやすくなります。具体例、判断手順、承認済みの利用環境、相談先を示すと、現場で判断しやすくなります。

個人データを取り扱う場合には、必要かつ適切な安全管理措置が求められます。AI利用環境についても、利用者認証、アクセス制御、権限の最小化、操作ログ、保存制御、定期的な権限見直し、委託先の管理などを検討します。退職者や異動者については、職務上の必要性が失われた時点でアクセス権限を速やかに削除・変更できる手順を整えます。

3.著作権・利用許諾・契約管理に関するリスク

AIへ入力する情報は、自社が作成した資料だけとは限りません。他社のマニュアル、顧客から受領した資料、Web上の記事、画像、図表、データベース、業界資料などを参照させることがあります。

情報がインターネット上で公開されていることと、自由にAIへ読み込ませて業務利用できることは同じではありません。入力段階では、著作権、利用許諾、秘密保持義務、契約条件、データベースや外部サービスの利用規約を確認します。

顧客から業務上受領した資料であっても、AIサービスへの入力や外部事業者への送信まで認められているとは限りません。自社が作成した資料でも、第三者から提供された文章、画像、図表、データが含まれている場合があります。

また、生成された出力を顧客向け資料、広告、Webサイト、商品、社内マニュアルなどへ利用する場合には、既存の著作物と不自然に類似していないか、第三者の文章や画像を不適切に含んでいないか、利用サービスの出力条件に反していないかを確認します。

AIへの入力や出力利用の可否は、対象情報の性質、利用目的、入力方法、出力内容、出力の利用方法、契約、利用規約などによって変わります。外部資料を継続的・大規模に取り込む場合や、生成物を対外的・商業的に利用する場合には、法務担当者や専門家による個別確認を検討します。

4.役割分担が曖昧になる運用リスク

AI導入では、「使う人」だけを決めても、安定した運用にはつながりにくいことがあります。AIが作成した内容を誰が確認するのか、重要な出力を誰が承認するのか、問題があった場合に誰が初動対応を行うのか、利用方法を誰が改善するのかまで整理する必要があります。

たとえば、営業担当者が提案メールの下書きをAIで作成する場合、通常の文章表現は担当者自身が確認できます。一方で、契約条件、価格の例外、個人情報、未公表情報を含む文章では、上司や管理部門の確認が必要になることがあります。

出力の問題を発見しても、改善先が決まっていなければ、個々の担当者がその場で修正するだけになりがちです。問題を共有し、参照資料、入力方法、設定、利用ルール、業務手順のどこを見直すか判断する担当者を決めておくと、継続的な改善につなげやすくなります。

5.管理されていないAI活用が増えるリスク

未承認のAIサービス利用を含む、組織が把握していないITサービスやツールの利用は、一般に「シャドーIT」と呼ばれます。AIの場合には、個人アカウントによる業務利用、承認されていない生成AIへの情報入力、会社が契約条件を確認していないサービスの利用、無許可の拡張機能や外部連携の使用などが考えられます。

未承認のAI利用によって顧客データや機密情報の漏えい、第三者の権利侵害、誤った顧客対応などが発生した場合、従業員個人の問題だけで完結するとは限りません。事案によっては、企業の管理体制や監督、契約上の責任などが問題となる可能性があります。

また、管理されていない利用が増えると、どの部門が、どのサービスを、どの情報や資料に使っているのかを把握しにくくなります。問題が発生した場合に、影響範囲、入力された情報、外部への送信先、保存状況を確認できず、事故対応や改善が難しくなることがあります。

対応は、単に利用を禁止することだけではありません。現場がAIを使おうとした背景には、文章作成に時間がかかる、問い合わせ対応を効率化したい、資料を探しにくいといった業務上の課題がある場合があります。現在の利用状況と目的を確認し、会社として利用できる環境、申請方法、禁止事項、相談窓口を示すことが、実態把握と適切な利用の両方につながります。

6.説明責任とブラックボックス化のリスク

生成AIの出力は、結果に至る根拠を人がそのまま追跡・説明できるとは限りません。また、同じ入力でも、モデル、設定、更新時期などによって結果が変わることがあります。

さらに、入力内容、参照資料、使用したサービス、人による修正、承認経過などの記録が残っていなければ、会社として行った判断を後から説明しにくくなります。説明責任の問題は、AIの技術的な特性だけでなく、業務上必要な記録が不足していることからも生じます。

すべてのAI利用で、モデル内部の技術的な処理を詳細に説明する必要があるわけではありません。実務では、利用目的、入力した情報の種類、参照した資料、確認基準、人が確認・修正した項目、最終判断者などを、必要な範囲で記録し、説明できることが重要です。

たとえば、顧客から「なぜこの回答になったのか」と質問された場合、「AIが作成しました」と説明するだけでは不十分なことがあります。「現行の社内FAQを参照して回答案を作成し、担当者が契約条件と顧客の状況を確認したうえで送信した」と説明できれば、業務上の判断経過を示しやすくなります。

リスクの観点 起こり得る状況 最初に確認すること 対応の方向
品質 誤回答、条件の欠落、回答のばらつき、古い情報の利用 正解の基準、参照資料、影響の大きい項目 情報源の整備、人による確認、評価、改善
情報管理 個人情報・機密情報の不適切な入力、過剰な権限、外部送信 入力情報、利用目的、保存・学習・再委託等の条件 アクセス制御、ログ管理、保存制御、権限管理、委託先管理
著作権・利用許諾・契約管理 外部資料の不適切な利用、契約・規約違反、出力による権利侵害 権利者、利用許諾、契約、規約、出力の利用目的 利用可能な資料の指定、許諾確認、出力確認、個別の法務確認
運用 利用者、確認者、承認者、事故対応者、改善担当者が不明確 業務フロー、責任範囲、例外時の対応 役割分担、確認手順、承認、問題共有、改善体制
組織定着 ルールが使われない、未承認のAI利用が広がる 現在の利用状況、現場の目的、承認済み環境 教育、相談窓口、申請手順、定期確認
説明責任 出力を採用した理由や確認経過を説明しにくい 利用目的、参照情報、確認基準、必要な記録 記録基準、人による確認・承認、保存期間の設定

実務では「AI単体」ではなく業務の流れで確認する

AI導入リスクを整理するとき、AIサービスの機能一覧や利用規約だけを見ても、実際の業務上の課題を十分に把握できないことがあります。重要なのは、情報や資料が入力されてから、AIによる処理、人による確認を経て、顧客や社内へ成果物が届き、その後の記録や改善が行われるまでの流れを確認することです。

図解:問い合わせ回答案をAIで作成する場合の確認ポイント

入力から改善までを一つの業務フローとして見ると、各段階で確認したいリスクと担当者の役割が見えやすくなります。

問い合わせ受付 顧客情報や相談内容を受け取る
入力情報の整理 必要性、個人特定性、機微性を確認する
回答案の生成 利用可能な資料と承認済み環境を使う
人による確認 正確性、条件、権利、表現を確認する
送信・記録・改善 必要な記録を残し、問題を改善へつなげる

読み取るポイント:入力前には情報管理、資料と生成物の利用時には権利・契約管理、生成時には品質、確認時には役割分担、送信後には記録と改善が関係します。ここでいう社内ガバナンスとは、会社がAI利用を把握し、適切に統制・改善するための仕組みです。禁止事項だけでなく、利用ルール、確認、承認、記録、報告、改善までを含めて考えます。

業務の目的と影響度から確認の深さを変える

すべてのAI利用に同じ確認手順を適用すると、現場の負担が大きくなり、ルールが形式的になることがあります。反対に、どの利用場面でも自由な運用にすると、重要な業務で必要な確認が不足する可能性があります。

そこで、AIを使う業務の目的と、誤り、情報漏えい、権利侵害などが起きた場合の影響度に応じて、確認の深さを変えます。社内会議のアイデア出しと、顧客へ送る契約条件の説明では、求められる正確性、利用できる情報、記録、承認方法が異なります。

A

影響が比較的小さい利用

一般的なアイデア出し、文章表現の調整、機密情報を含まない社内向け下書きなどです。担当者による確認を基本とし、承認済みの環境を利用します。

B

一定の確認が必要な利用

顧客メールの下書き、営業資料、社内分析の補助などです。重要な条件、数値、引用、個人情報、出力の利用条件を確認します。

C

影響が大きい利用

法令判断、契約判断、与信、人事評価などのほか、顧客・従業員・取引先の権利利益や会社の経営に高い影響を及ぼし得る業務です。承認者、根拠資料、権限、記録方法を慎重に検討します。

D

利用可否を個別に判断する領域

高度な機密情報や重大な権利利益に関係し、既存の管理体制では十分に扱えない業務です。関係部門や専門家と相談して判断します。

リスクを「発生可能性」と「影響度」で見る

リスクを整理するときは、「起こる可能性がある」という説明だけでは、優先順位を決めにくくなります。発生する可能性と、発生した場合の影響度を分けて考えます。

たとえば、AIが社内文書の表現を少し不自然にすることは一定の頻度で起こるかもしれませんが、人が容易に修正できる範囲であれば影響は限定的です。一方、発生頻度が低くても、顧客の個人情報が不適切に外部送信される場合や、契約条件を誤って案内する場合には、大きな影響が生じる可能性があります。

初期評価としては、「高・中・低」などの簡単な区分を暫定的に用いることもできます。ただし、法令上求められる対応、安全管理措置、契約上必要な対応、利用許諾の条件などは、社内の優先度評価を理由に省略できません。リスク評価は、必要な義務を確認したうえで、追加的な管理策の優先順位を考えるために用います。

最初から完璧なリスク台帳を作る必要はありません

まずは一つの利用業務を選び、「何を入力するか」「どの資料を使うか」「何が出力されるか」「出力を何に使うか」「誰が確認するか」「問題が起きた場合に誰へ影響するか」を書き出してみましょう。業務の流れから整理すると、必要な確認事項を具体化しやすくなります。

顧客問い合わせ回答案で見るリスクの整理例

業務例

カスタマーサポート部門が生成AIで回答案を作成する

ある会社では、顧客から届く問い合わせに対して、担当者がFAQや商品資料を確認しながら回答を作成しています。回答作成に時間がかかるため、生成AIを使って下書きを作り、担当者が確認してから送信する方法を検討しています。

このとき、「AIの回答精度は何%か」だけを確認しても、業務全体のリスクは整理できません。顧客情報、参照資料の更新状況と利用権限、生成物の利用条件、担当者の確認方法、アカウント権限、問題の共有方法なども合わせて確認します。

品質に関する確認

商品仕様、料金、返品条件、契約内容など、誤りの影響が大きい項目を特定します。AIが回答案を作った後、担当者がどの項目を確認するかを決めます。

参照するFAQや商品資料が最新でなければ、AIが資料に沿って回答しても、現在の取り扱いとは異なる結果になる可能性があります。正式な規約、承認済みFAQ、最新の商品資料など、どの情報を正しい基準とするかを決めておくことが大切です。

著作権・利用許諾・契約に関する確認

参照資料については、正確性や更新日だけでなく、AIへ読み込ませる権限があるかも確認します。他社のマニュアル、FAQ、記事、データベース、Web上の情報を利用する場合には、著作権、利用許諾、契約条件、利用規約に照らして、その利用方法が認められているかを確認します。

生成された回答案についても、既存の文章に不自然に類似していないか、第三者の文章や画像を含んでいないか、利用サービスの出力条件に反していないかを確認します。

情報管理に関する確認

顧客の氏名、住所、連絡先、購入履歴、相談内容などのうち、回答案の作成に本当に必要な情報を確認します。個人を特定する必要がなければ、氏名や連絡先に加えて、個人の特定につながる相談内容、周辺事情、具体的な経緯も除外・抽象化する方法が考えられます。

利用するAIサービスについては、学習利用の有無、保存場所、保存期間、再委託、国外での取り扱い、管理者権限、ログ、削除手順などを確認します。承認済みの環境を利用し、アクセス権限を業務上必要な人に限定します。

運用と組織定着に関する確認

回答案を作成する担当者、送信前に確認する担当者、重要な問い合わせを承認する責任者、事故発生時の連絡先、参照資料や指示文を改善する担当者を整理します。

また、現場が使いやすい手順になっているかも確認します。承認済みサービス、入力できる情報、利用できる資料、出力物の確認項目、判断に迷った場合の相談先を短く示すと、適切な運用につながりやすくなります。

説明責任と記録に関する確認

顧客へ送信した重要な回答について、どの資料をもとに確認し、誰が最終判断したかを追える状態にします。必要な記録がなければ、会社として行った確認や判断を説明しにくくなります。

一方で、入力文や出力文をすべて長期間保存すればよいわけではありません。保存の要否、対象、範囲、期間、閲覧権限、保管場所、削除方法を、業務目的、法令、契約、社内規程に応じて検討します。

リスクを管理対象として扱う4つの進め方

AI導入リスクを社内で説明するときは、「危険だから使わない」「便利だからまず使う」という両極端な議論を避け、次の4段階で整理すると検討を進めやすくなります。

利用状況を確認する

どの部門が、何の業務で、どのAIサービス、情報、資料を利用しているかを把握します。

リスクを分類する

品質、情報管理、権利・契約、運用、定着、説明責任の観点で整理します。

対応方法を決める

利用ルール、人による確認、権限、許諾確認、記録、相談先を業務に組み込みます。

運用しながら改善する

問題や利用実績をもとに、資料、手順、教育、契約、権限を見直します。

利用状況を確認する

会社が正式に導入したツールだけでなく、部門や個人が試しているサービス、ブラウザー拡張機能、外部連携、個人契約のアカウントも含めて確認します。「どの業務を効率化したいのか」「どの情報や資料を使っているのか」を尋ねると、利用の背景も把握しやすくなります。

判断しやすいルールを作る

ルールでは、禁止事項だけでなく、利用できる場面と判断方法を示します。入力可能な情報、入力を認めない情報、利用できる資料、承認済みサービス、出力物の利用条件、相談先などを具体的に示します。

人による確認を具体化する

「人が確認する」とだけ決めても、確認内容が曖昧では十分に機能しません。数値、固有名詞、契約条件、社内規程との整合性、個人情報、引用や類似表現、外部資料の利用条件など、業務ごとの確認項目を具体化します。

見直しのきっかけを決める

AI活用は、一度ルールを決めて完了するものではありません。サービスやモデルの変更、機能追加、法令・社内規程の改定、契約・利用規約の変更、参照資料の更新、利用部門の拡大などを見直しのきっかけとして定めます。

よくあるつまずき

リスクを長く列挙し、優先順位を決められない

AIに関するリスクには、個人情報、セキュリティ、著作権、契約、倫理、業界規制など、さまざまな論点があります。すべてを同時に詳細検討しようとすると、対象業務で何を確認すべきかが見えにくくなることがあります。

まずは一つの業務を選び、扱う情報、利用する資料、出力の利用先、問題が起きた場合の影響、関係者を確認します。ただし、法令・契約上必要な対応は、社内の優先順位付けとは分けて確認します。

「人が確認する」で検討を終えてしまう

人による確認は重要ですが、確認者、確認項目、基準、タイミングが決まっていなければ、実務ではばらつきが生じます。「誰が、何を、どの資料と基準に照らして確認するか」を具体化することが大切です。

ルールが詳しすぎて現場で使われない

初期段階では、承認済みサービス、入力を認めない情報、利用できる資料、出力物の確認項目、アカウント管理、事故時の連絡先など、共通して必要な事項を簡潔に示します。その後、利用実績や現場からの質問をもとに内容を追加していくと、実務に合ったルールに整えやすくなります。

管理部門だけで決めてしまう

管理部門だけでルールを作ると、実際の業務手順や繁忙状況に合わないことがあります。一方、現場部門だけで判断すると、情報管理、権利処理、契約、全社的な整合性の確認が不足することがあります。

現場部門、情報システム部門、法務・コンプライアンス部門、経営・業務責任者が、それぞれの観点を持ち寄ることが大切です。

未承認利用を禁止だけで解決しようとする

未承認のAI利用が見つかった場合は、状況に応じた初動を行うとともに、利用目的と背景を確認します。会社として利用できる環境、申請方法、禁止される情報、利用できる資料、相談先を示すことで、適切な利用へ移行しやすくなります。

経営者・責任者向けの確認ポイント

AIを何のために使うのかが明確か

「AIを導入すること」自体が目的になると、どの程度の管理が必要か判断しにくくなります。問い合わせ対応時間の短縮、社内検索の改善、提案書作成の効率化など、対象業務と期待する成果を確認します。

会社として利用を認める条件を整理しているか

利用できるAIサービス、入力できる情報、利用できる資料、生成された出力の利用条件、確認・承認方法を整理します。「使うか、使わないか」だけでなく、「どの条件を満たせば使えるか」を具体化します。

法令・契約上の義務を任意の対策として扱っていないか

個人データの安全管理措置、契約上の秘密保持、著作物の利用許諾、サービスの利用規約などは、単なる推奨事項として扱えない場合があります。社内のリスク評価が低いという理由だけで、必要な対応を省略しないことが大切です。

責任者と改善担当者が決まっているか

導入承認者だけでなく、運用開始後の責任者を確認します。利用状況、問題、効果、現場の意見を誰が集め、誰が改善判断をするのかが明確であると、見直しを継続しやすくなります。

運用負担を投資判断に含めているか

AIサービスの利用料だけでなく、出力確認、データ整備、利用許諾の確認、教育、アカウント管理、ログ管理、事故対応、改善作業にも時間と費用がかかります。TCO、つまり導入から運用までを含む総保有コストに、リスク管理の負担も含めて検討します。

問題を共有し、適切に対応できるか

誤回答、不適切な入力、未承認利用などが見つかった際に、担当者が報告しにくい環境では、問題の把握が遅れることがあります。就業規則や社内規程、事故対応手順に沿って、事実確認、影響範囲の把握、必要な報告・通知、拡大防止、記録の保全、再発防止を進められる運用を整えます。

経営判断では「どの条件なら使えるか」を考えます

対象業務、情報の種類、使用する資料、出力の利用先、影響度、人による確認、責任者、記録、改善方法を組み合わせることで、利用条件を具体化できます。資料がそろっていない段階でも、現在の業務の流れから整理を始められます。

AI導入支援者としての着眼点

AI導入コンサルタントや社内推進担当者がリスクを説明するときは、不安を強める表現や、反対に「問題は起こらない」と受け取られる表現を避ける必要があります。抽象的なリスクを、具体的な業務場面と確認事項に置き換えて説明することが大切です。

抽象的な質問を業務上の質問へ置き換える

  • AIへ入力する可能性がある情報には、どのようなものがありますか。
  • 氏名を除いても、相談内容や周辺事情から個人を識別できる可能性はありますか。
  • AIへ読み込ませる資料は、自社が利用権限を持つものですか。
  • 利用するサービスの契約・規約で、業務利用やデータ入力が認められていますか。
  • 生成された出力を、どの媒体や目的で利用しますか。
  • 出力に誤りや権利侵害があった場合、誰にどのような影響がありますか。
  • 誰が内容を確認し、誰が最終判断を行いますか。
  • 未承認のAIサービスや個人アカウントが業務利用されていませんか。

法令・契約上の義務と任意の改善策を分ける

支援時には、「法令・契約上確認が必要な事項」「自社のリスク判断に基づいて選択する事項」「将来的な改善事項」を分けて説明します。著作権法上の取り扱い、個人情報の外部送信、国外での取り扱い、漏えい等発生時の報告・通知義務などは、具体的な事実関係によって判断が変わります。

現場の負担も確認する

対策を追加すると、確認、記録、承認、研修、権限申請などの負担が生じます。影響が比較的小さい業務では簡易な確認とし、高い影響を及ぼし得る業務では承認や記録を追加するなど、段階的な運用を検討します。

相談内容がまとまっていなくても大丈夫です。現在の業務、利用したいAI、扱う情報、使用する資料、生成された出力の利用先を順番に確認すれば、必要な手続きや検討事項を整理できます。

ミニチェックリスト

自社のAI導入リスクを確認するときは、次の項目から整理してみましょう。回答できない項目は、今後の確認事項として記録します。

  • AIを利用する業務と、期待する成果を説明できる。
  • 入力する情報について、個人特定性、機微性、必要性を確認している。
  • 承認済みサービス、利用アカウント、権限、ログ、退職・異動時の権限変更手順を整理している。
  • AIへ読み込ませる資料について、著作権、利用許諾、契約、利用規約を確認している。
  • 生成された出力について、正確性、既存著作物との類似性、サービスの利用条件、利用目的を確認している。
  • 誰がAIを使い、誰が確認・承認し、誰が問題対応と改善を担うかを整理している。
  • 未承認のAIサービスや個人アカウントの利用状況を確認する方法がある。
  • 重要な出力について、参照情報、人による確認、最終判断を必要な範囲で記録できる。

チェックがつかない項目があっても、直ちに導入を中止する必要があるという意味ではありません。対象業務の重要度と利用段階に応じて、できる範囲から整理していきます。ただし、法令上の義務、安全管理措置、契約上の義務、利用許諾の条件などは、社内の優先度評価を理由に省略できません。

まとめ

AI導入には、誤回答や品質のばらつき、個人情報・機密情報の不適切な取り扱い、参照資料と生成物に関する著作権・利用許諾・契約上の問題、権限管理、役割分担の曖昧さ、未承認のAI利用、組織への定着不足、説明や監査の難しさなど、複数のリスクがあります。

これらは、AI導入を止めるための項目ではありません。利用状況を確認し、法令・契約上必要な対応を行い、業務に応じたルールを決め、人が必要な確認と承認を行い、適切な記録を残し、運用しながら改善する対象です。

今回の要点

  • AI導入リスクは、品質、情報管理、権利・契約管理、運用、組織定着、説明責任の6つに整理できます。
  • 自然な文章が生成されても、業務上の正確性や根拠が保証されるわけではありません。
  • 氏名を削除しても、相談内容や周辺事情との組み合わせによって個人を識別できる場合があります。
  • 外部資料を入力する場合と、生成された出力を利用する場合の双方で、著作権、利用許諾、契約、利用規約を確認します。
  • 未承認のAI利用は、情報管理だけでなく、事故対応や企業の責任にも関係します。
  • 利用者だけでなく、確認者、承認者、事故対応者、改善担当者を整理します。
  • 法令・契約上必要な対応は、社内の優先度評価を理由に省略できません。
  • リスクは、確認、ルール化、人による判断、記録、継続的な改善によって扱います。

品質リスクの具体策を扱う次回のSection 43「誤回答・品質低下への対策」では、どの出力を人が確認するのか、正しさをどのように評価するのか、問題をどのように改善へつなげるのかを、実務の流れに沿って整理します。

あわせて確認したいこと

契約書・通知書などの文書を確認したい方へ

契約書、通知書、内容証明、行政機関へ提出する書面では、形式だけでなく、誰が、何を、いつまでに行うのかが伝わることが大切です。文書の内容を整理したい方は、関連するご案内をご覧ください。

契約書、通知書、内容証明、提出書類の表現に不安がある場合は、文書の目的と伝えるべき内容を整理できます。

前のページに戻る