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死後事務委任契約業務 3-24

死後事務委任契約のトラブル事例と予防
新人行政書士が一人で進める実務マニュアル

民法653条による契約の存続根拠から、本人意思確認、親族苦情、葬儀・納骨、預託金、家財・貴重品、個人情報、弁護士連携までを実務順に整理します。

契約前の予防死亡後の初動親族苦情記録と専門家連携

最初に押さえる考え方

死後事務委任契約では、本人が亡くなった後に葬儀、火葬、納骨、行政手続、関係者への連絡、住居や家財に関する手配などを行います。業務開始時に本人へ再確認できないため、生前の契約書、意思確認記録、見積書、預託金記録、写真、業務日誌が、受任者の判断を説明する基礎になります。

図解|トラブル予防を支える四つの柱
法的根拠死亡後も契約を終了させない特約と、個別の権限を明記します。
本人意思能力、自由意思、希望内容を分けて確認し、本人の言葉で残します。
管理と記録預託金、家財、貴重品、連絡、支出を客観的資料で追える状態にします。
役割分担死後事務、遺言執行、相続手続、紛争対応を区別し、必要な専門家へつなぎます。
本教材の範囲本稿は紛争を代理交渉で解決するための教材ではありません。行政書士は、紛争性のある法律事務について、当事者の代理人として交渉その他の法律事務を行うことはできません。契約無効、損害賠償、返還請求、遺骨の帰属等が争われた場合は、事実確認と資料保全を行い、弁護士へ連携します。

この記事で到達できること

契約の根拠を説明できる

民法653条の原則と、死亡後も契約を存続させる特約の意味を説明できます。

受任判断ができる

本人意思、利益相反、実行可能性、親族関係、予算を確認できます。

死亡後の初動を進められる

契約、連絡順序、予算、緊急性を確認し、記録を残しながら着手できます。

苦情へ適切に対応できる

即答や交渉を避け、業務停止、資料保全、弁護士連携を判断できます。

この業務が必要になる実務場面

おひとりさま

相続人がいない、所在が分からない、親族と疎遠、賃貸住宅に家財が多い、葬儀や納骨を任せる人がいない、ペットが残る可能性がある案件です。親族の関与が少なくても、死亡後に相続人が判明し、受任者の権限や支出を問われる場合があります。

おふたりさま

子のいない夫婦、事実婚、同性パートナー、きょうだい・友人同居などでは、一方の死亡後に残された方の判断能力や生活状況が変化することがあります。パートナーが法定相続人でない場合、本人の希望、相続人の権限、住居・家財の扱いを分けて設計します。

本人と親族の希望が異なる場合

本人は直葬、親族は一般葬を希望するなど、葬儀、宗教、連絡時期、納骨先、遺骨の引渡しについて意見が異なる案件です。本人の希望だけでなく、希望が実現できない場合の代替案まで文書化します。

高額の預託金・家財処分を伴う場合

預託金は受任者固有の財産と区別される委任契約上の預り金です。善管注意義務に基づく分別管理、案件別出納帳、定期報告が必要です。家財は相続財産となり得るため、契約上の処分権限、所有関係、相続関係を確認します。賃貸住宅では、国土交通省・法務省の「残置物の処理等に関するモデル契約条項」による別契約の有無も確認します。

基本知識

民法上は委任者の死亡で終了するのが原則です

民法653条1号は、委任者又は受任者の死亡を委任の終了原因としています。新人行政書士は、「死後の事務を頼む契約だから当然に死亡後も有効」と理解せず、通常の委任は死亡で終了するという原則から確認します。

死亡後も終了させない特約を設けます

最高裁平成4年9月22日判決は、自己の死後の事務を含む委任契約について、委任者の死亡によっても契約を終了させない合意を有効とする考え方を示しました。実務では黙示の合意に頼らず、「民法653条1号にかかわらず、委任者の死亡によって終了しない」と契約書に明記します。

第三者への説明の基本「通常の委任は本人の死亡で終了するのが原則ですが、本契約は死亡後の事務を目的とし、生前に死亡後も終了させない特約を設けています。当職は相続人から後に権限を得たのではなく、本人との生前契約に基づき、契約で定めた範囲の事務を行っています」と説明します。

ただし、契約が存続することと、金融機関、賃貸人、行政機関等がすべての手続を受け付けることは別です。契約上の権限は、相続、遺言執行、第三者の権利、各機関の法令・内部手続を超えるものではありません。

善管注意義務と結果保証を区別します

受任者は民法644条により、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって事務を処理します。一方、墓地使用権の名義人、祭祀承継者、寺院、施設の承諾、費用等の外部事情により、本人の希望を実現できない場合があります。善管注意義務の範囲で誠実に遂行しますが、結果そのものを保証する契約にはしません。

死後事務・遺言執行・相続手続を区別します

行為 基本的な位置付け 確認点
葬儀社への連絡・契約 死後事務 形式、予算、連絡時期
火葬許可申請等 死後事務 書類作成・提出代理を含め、提出先の運用を確認
納骨手配 死後事務 墓地使用権名義人、祭祀承継者、施設承諾
遺言による預金移転 遺言執行・相続 遺言執行者と金融機関手続
相続人間の家財分配 相続関係 争いがあれば弁護士
不動産売却 相続・登記・売買・税務 司法書士、宅建業者、税理士等と連携

本人意思は三つに分けます

  • 意思能力:契約の目的、費用、受任者の権限、解除、死亡後に再確認できないことを理解しているか。
  • 意思の自由:親族、施設、紹介者、受任者から不当な圧力や誘導を受けていないか。
  • 意思内容:何を希望し、何を希望せず、実現できない場合に何を優先するか。

可能な限り本人のみと話す時間を設けます。身体状況、意思疎通支援、施設上の制約等で実施しにくい場合は、理由、同席者、代替手段、本人の回答を直接確認した方法を記録します。

個人情報と死者情報

個人情報保護法の「個人情報」は生存する個人に関する情報です。ただし、死者に関する情報が遺族等の生存者の情報でもある場合は、その生存者の個人情報として扱います。法の対象外となる死者情報も、行政書士の守秘義務、契約上の秘密保持義務、事務所の情報管理方針に基づき、利用目的、第三者提供、保存、廃棄を管理します。

トラブル類型一覧

類型 典型的な主張 主な原因 予防時点
契約存続 死亡で契約は終了した 存続特約・説明不足 契約前・死亡後
本人意思 本人は希望していなかった 能力・自由意思・記録不足 契約前
契約範囲 そこまで頼んでいない 包括的記載、除外事項不足 契約前
葬儀 勝手に直葬をした 形式、宗教、連絡時期未確認 契約前・死亡後
納骨・遺骨 先祖の墓へ入れるべき、遺骨を渡せ 墓地使用権名義人、祭祀承継、保管方法未整理 契約前・死亡後
親族連絡 死亡を知らされなかった 対象、順序、時期が不明 契約前・死亡後
費用・預託金 高すぎる、残高が分からない 見積り、分別管理、証憑不足 契約中・死亡後
家財・貴重品 勝手に捨てた、現金がない 処分権限、写真、立会い不足 契約前・死亡後
遺言・相続 遺産を自由に処理した 役割と権限の混同 契約前・死亡後
業者選定 高額業者へ不当に発注した 相見積り、利害関係開示不足 契約前・死亡後
報告・個人情報 説明がない、秘密を開示した 日誌、報告先、開示基準不足 全期間
契約外業務 権限なく処理・調整した 善意による業務拡張 死亡後

実務の進め方

図解|契約前から完了まで
  1. 初回相談で本人意思、親族関係、利益相反、費用、実行可能性の危険信号を抽出します。
  2. 可能な限り本人のみとの面談を行い、自由回答で契約目的と希望を確認します。
  3. 民法653条の原則、死亡後存続特約、権限の限界、善管注意義務を説明します。
  4. 戸籍、遺言、他契約、住居、墓地、費用、預り品等の資料を確認します。
  5. 業務、予算上限、第三者承諾、代替方法、報告先を項目ごとに決めます。
  6. 契約書、重要事項説明書、預託金合意書、各種確認書を作成します。
  7. 生前は年1回程度を目安に、希望、資産、連絡先、受任体制を見直します。
  8. 死亡後は最新契約と権限を確認し、緊急事務から記録と同時に実行します。

初回相談の危険信号

  • 本人ではなく親族・施設が依頼を主導している。
  • 本人が「全部任せる」としか答えない。
  • 本人と親族の希望が異なる、又は既に争いがある。
  • 相続人の有無・所在、遺言、他の死後事務契約が不明である。
  • 受任者が遺贈を受ける、指定業者と利害関係がある。
  • 高額品、同居人、第三者所有物、ペットがある。
  • 費用見通しがなく、契約を不自然に急いでいる。

危険信号がある場合は、直ちに可否を断定せず、追加面談、資料確認、専門家相談を行います。

業務範囲の決め方

「死後事務一式」とせず、各事務について、実施内容、権限、連絡先、時期、予算、受任者の裁量、第三者承諾、代替案、報告先、個人情報の開示範囲を決めます。

費用計画

契約・管理・死亡後事務の報酬、葬儀、搬送、火葬、納骨、住居、家財、未払医療・施設費、公共料金、証明書、交通・郵送、他士業費用、予備費を分けます。物価、健康、住居、資産の変化に応じて見直します。

死亡後の着手前確認

  • 死亡事実と本人の同一性
  • 最新契約、存続条項、解除・変更の有無
  • 遺言・任意後見・財産管理契約等との整合性
  • 親族への連絡対象・順序・時期
  • 預託金残高と業務別予算上限
  • 第三者承諾、利益相反、紛争の兆候

業務日誌

日時、担当者、相手方、連絡方法、実施内容、発言、判断理由、根拠条項、支払額、証憑番号、情報開示内容、次の対応、専門家相談を当日又は翌営業日までに記録します。

ヒアリング項目

本人意思・法的理解

  • 契約を希望する理由
  • 死亡後も存続させる意思
  • 受任者が行う・行わない事務
  • 最優先事項と希望しない事項
  • 希望が実現できない場合の順位
  • 解除・変更方法の理解

親族・関係者

  • 推定相続人と所在
  • 関係の良好・疎遠・対立
  • 死亡を知らせる人と時期
  • 知らせたくない人と理由
  • 葬儀参列者、形見の受領者
  • 契約への反対可能性

葬儀・納骨

  • 形式、宗教・宗派、葬儀社
  • 予算、参列者、遺影等
  • 納骨先と第2希望
  • 墓地使用権の名義人
  • 祭祀承継者、寺院との関係
  • 遺骨の一時保管・引渡し

費用・預託金

  • 原資、預託額、支払対象
  • 報酬控除と支払順位
  • 追加預託と費用不足時の対応
  • 分別管理、利息、手数料
  • 定期報告、解約時返金
  • 死亡後の残金返還先

住居・家財

  • 持家・賃貸、同居人
  • 鍵、保証人、管理会社
  • 家財の所有者と処分希望
  • 形見、廃棄禁止品、貴重品
  • 貸金庫、レンタル品
  • 業者、立会い、写真撮影

情報管理

  • 親族へ開示してよい情報
  • 報告先と第三者提供範囲
  • 医療・財産情報
  • 録音、写真、デジタル情報
  • 他士業・業者への提供同意
  • 保存期間と廃棄方法

判断フロー

契約受任

  1. 意思能力に疑義があれば、複数回面談、既存の後見関係、医師の意見等を検討します。意思確認が難しい場合は契約を進めません。
  2. 本人の自由意思を確認します。圧力や誘導が疑われる場合は保留又は辞退を検討します。
  3. 死亡後存続特約と契約内容を本人が理解しているか確認します。
  4. 遺贈、業者との関係、他の当事者からの依頼等、利益相反を確認します。
  5. 適法性、予算、第三者承諾、事務所体制、遺言・相続との整合性を確認します。
  6. 既に契約無効、財産、葬儀、遺骨等の争いがあれば、弁護士へ相談します。

親族苦情の初期対応

  1. 申出者の氏名、連絡先、故人との関係、代理人の有無を確認します。
  2. 問題とする行為、希望する対応、金銭請求、契約無効等の主張を特定します。
  3. 責任や結論を即答せず、契約書と記録を確認すると伝えます。
  4. 契約、意思確認、出納、写真、メール、業務日誌を修正せず保全します。
  5. 納骨、散骨、遺骨引渡し、家財廃棄、売却、残金返還等の停止を検討します。
  6. 質問・不満・業務停止要求・法的請求に分類し、後二者は弁護士連携を検討します。
弁護士へ早めに連携する場面契約無効、意思能力欠如、損害賠償、返金、横領等の主張、遺骨の帰属や祭祀承継、相続人間の権限、家財所有、遺言との矛盾、差止め、弁護士名の通知、警察・裁判所・所属会への申立てがある場合です。

作成・確認する書類

時点 主な書類
契約前 初回相談票、本人確認記録、意思確認票、親族・推定相続人一覧、利益相反・リスク評価票、業務範囲案、見積書、預託金試算表、葬儀・納骨、家財・貴重品、連絡順序、他契約整合性の確認書
契約時 死後事務委任契約書、重要事項説明書、死亡後存続特約説明確認書、預託金管理合意書・預り証、預り品預り証、個人情報・写真・録音等の同意書、業者選定方針、書類交付記録
生前管理 年次確認書、本人意思再確認書、変更合意書、預託金残高報告書、預り品確認書、連絡先更新票、面談記録、再見積書
死亡後 死亡連絡受付票、死亡事実・契約存続・業務開始確認票、連絡記録、業務日誌、支払決裁票、預託金出納帳、証憑管理表、入室・家財・写真・立会い・封印・処分記録、苦情受付票、完了報告書、精算書、返還記録

報酬、預託金、立替金は同一名目で扱いません。報酬は業務の対価、預託金は将来の費用等に充てる預り金、立替金は受任者が一時的に支出した金銭として区別します。

文例・記載例

死亡後存続条項

本契約は、委任者の死亡後に行う事務を目的とするものであり、民法第653条第1号にかかわらず、委任者の死亡によって終了しない。受任者は、委任者の死亡後、本契約に個別に定める範囲で委任事務を行う。

権限範囲と善管注意義務

受任者は、本契約に個別に列挙された事務に限り受任する。「その他必要な事務」等の文言は、明示されていない財産処分、相続人間の調整、債務交渉、訴訟その他の紛争性のある法律事務を委任する趣旨ではない。

受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって事務を遂行する。ただし、第三者の承諾、施設の利用条件、法令上の制約、費用不足その他の外部事情により、委任者の希望を実現できない場合があり、その実現自体を保証するものではない。

預託金管理条項

預託金は、委任事務の実費及び本契約に定める報酬へ充てるための預り金であり、受任者固有の財産とは区別される。受任者は善良な管理者の注意をもって分別管理し、案件別出納帳を作成して、定期的に入出金及び残高を報告する。

契約範囲外の依頼を断る文例

ご依頼の事項は、故人との死後事務委任契約に含まれておらず、当職には本契約に基づく処理権限がありません。本人の死亡後に当職の判断だけで契約内容を拡張することはできないため、対応を差し控えます。相続人による手続又は別の専門家への相談が必要と考えられます。

紛争性のある依頼を断る文例

ご主張には、契約の有効性、返還義務、損害賠償又は遺骨の帰属・祭祀承継に関する法的な争いが含まれています。行政書士である当職は、紛争性のある法律事務について、一方当事者の代理人として交渉その他の法律事務を行うことができません。関係資料と事実経過を整理し、弁護士へご相談ください。

業務停止通知

現在、本契約の有効性又は当職の権限について関係者間に見解の相違が生じています。遺体の保全その他の緊急事務を除き、権利関係に重大な影響を与える事務は一時的に停止します。関係資料を確認し、必要に応じて弁護士の助言を受けたうえで今後の対応を決定します。

家財確認記録

令和○年○月○日午前10時15分、受任者○○、立会人○○、管理会社担当者○○の3名で居室へ入室した。入室前に玄関、施錠状態、鍵を撮影し、室内全景を撮影後、現金、通帳、印鑑、貴金属、契約書類を確認した。現金12万4,500円を机右側引出し内の封筒から発見し、3名で確認のうえ封印袋A-001へ収納し、同日事務所金庫へ保管した。

他士業・関係機関との連携

連携先 主な場面
弁護士 契約無効、損害賠償、返金、遺骨・祭祀承継、相続人間対立、家財所有、差止め、刑事上の主張
司法書士 不動産・相続登記、供託等の業務範囲に属する事項
税理士 相続税、準確定申告、財産評価、売却税務、会計処理
社会福祉士等 生活状況、意思疎通支援、福祉サービス、虐待・経済的搾取の疑い
葬儀社・寺院等 本人希望、予算、受入条件を書面で確認。紹介料等の利害関係を開示
賃貸人・管理会社 死亡連絡、入室、鍵、解除、原状回復、残置物。契約・相続関係を確認
行政機関・医療機関・警察 身元確認、火葬許可、引取者不在等。契約書と権限を提示し各機関の運用に従う
相談内容が整理されていなくても進められますまず現在の状況を伺い、契約、本人意思、親族関係、預託金、家財、関係機関の対応を一緒に整理します。資料がそろっていない段階でも、確認の順番を決めることができます。

新人が気をつけたい点

考え方・対応 整える実務
契約書があれば何でも行える 存続特約は契約を残すもので、権限は個別条項・法令・第三者の権利の範囲に限られます。
本人のために契約外業務を行う 必要性ではなく、契約上の権限と行政書士の業務範囲で判断します。
親族の反対をすべて無視する 指示に従うかとは別に、契約変更、遺言、墓地、所有関係等の情報を確認します。
親族へ契約書全文を開示する 本人確認、法的立場、目的、本人意思、守秘義務、個人情報を確認します。
口頭説明だけで終える 日時、相手方、内容、質問、回答、交付資料、次の対応を記録します。
写真を撮るだけで整理しない 写真番号、日時、撮影者、場所、物品番号、元データを管理します。
預託金を報酬・運転資金と混同する 分別管理、案件別帳簿、証憑、残高報告、完了精算を行います。
費用不足を安易に立て替える 立替義務と上限を契約で確認し、自己債権回収との利益相反を避けます。
葬儀の緊急性で確認を省く 契約存続、形式、宗教、予算、連絡、遺骨を最低限確認します。
遺骨を一人の親族へ直ちに渡す 本人意思、祭祀承継、保管状況を確認し、争いがあれば保管して弁護士へ連携します。

契約外業務が直ちに非弁行為となるわけではありません。ただし、内容によっては無権限行為や非弁行為に該当し、損害賠償、懲戒その他の問題につながる可能性があります。

トラブル予防策

契約前に整える事項

  • 民法653条の原則と死亡後存続特約を説明し、契約へ明記する。
  • 本人の意思能力、自由意思、希望内容を分け、可能な限り本人のみと面談する。
  • 業務、除外事項、予算、第三者承諾、代替案、報告先を具体化する。
  • 推定相続人、連絡対象・順序・時期、反対が予想される人を確認する。
  • 葬儀、宗教、墓地使用権名義人、祭祀承継者、遺骨保管を確認する。
  • 預託金を預り金として分別管理し、追加預託、費用不足、残金処理を定める。
  • 情報の利用目的、報告先、第三者提供、保存・廃棄方法を決める。

死亡後に整える事項

  • 契約、存続条項、解除・変更、遺言との整合性を確認してから着手する。
  • 緊急事務と非緊急事務を分け、後戻りできない行為は慎重に進める。
  • 発注は書面化し、高額支出では相見積り又は選定理由を残す。
  • 家財処分前に権限、相続関係、所有関係を確認する。
  • 現金・貴重品は可能な限り複数名で確認し、封印・保管する。
  • 契約外依頼はその場で引き受けず、情報開示は必要範囲に限る。
  • 紛争の兆候があれば、業務停止と弁護士相談を検討する。

家財・貴重品の記録

  1. 入室権限、立会人、鍵の受領経緯を確認します。
  2. 玄関・施錠状態と室内全景を、物を動かす前に撮影します。
  3. 現金、通帳、印鑑、貴金属、権利証、遺言、デジタル機器を優先確認します。
  4. 管理番号、品名、場所、数量・金額、状態、写真番号、保管場所、最終処理をリスト化します。
  5. 廃棄、売却、寄付、引渡し、保管を区分し、根拠、業者、費用、搬出前後を記録します。

ケーススタディ|親族から「勝手に葬儀をした」と言われた場合

事案

Aは独身で兄Bと10年以上疎遠でした。Aは行政書士Cと、死亡後も終了しない死後事務委任契約を締結し、宗教儀式を行わない直葬、費用上限30万円、Bへの連絡は火葬後、遺骨は一時保管後に指定の永代供養墓へ納骨すると定めました。Cが契約に沿って火葬後に連絡すると、Bは「死亡で契約は終了した。勝手に火葬した。遺骨を渡せ。費用も返せ」と申し立てました。

初期対応

  1. 「突然のことで驚かれたことと存じます」と受け止め、Bの本人情報、関係、主張、希望、代理人の有無を確認します。
  2. 責任、契約の有効性、遺骨の引渡しを即答せず、契約・意思・記録を確認すると伝えます。
  3. 契約、存続条項、意思確認、葬儀希望、連絡方針、見積り、請求書、出納、連絡、遺骨保管記録を保全します。
  4. 納骨、散骨、遺骨引渡し、残金返還、契約書全文の開示を一時停止します。
  5. 存続条項、本人理解、解除・変更、直葬指定、Bへの連絡時期、予算遵守を確認します。
  6. 契約の有効性、返金義務、遺骨の帰属や祭祀承継は法的争点として、弁護士へ連携します。

初回書面回答例

本件について、当職は、故A様との間で生前に締結された死後事務委任契約及び本人意思確認資料に基づき事務を実施しています。通常の委任は本人の死亡により終了するのが原則ですが、本件契約には死亡後も終了させない条項が設けられています。もっとも、ご指摘には契約の有効性、費用、遺骨の帰属及び祭祀承継に関する法的論点が含まれるため、当職の判断だけで回答又は処理を行うことは適切ではありません。資料を確認し、必要に応じて弁護士の助言を受けたうえで改めてご連絡します。確認中、遺骨は現状のまま適切に保管します。

契約前に行えた予防

  • 存続条項と直葬希望を複数回確認する。
  • Bへ火葬前に連絡しない理由と、その結果を記録する。
  • 火葬後は葬儀形式を戻せないことを説明する。
  • 契約の存在だけでもBへ知らせる提案をする。
  • 遺骨の保管期間、引渡し申出、異議が出た場合の停止条件を決める。

実務チェックリスト|トラブル予防確認

契約・意思

  • 民法653条と存続特約を説明
  • 本人確認と自由意思を確認
  • 本人のみとの面談又は代替記録
  • 意思能力に重大な疑義なし
  • 本人の言葉で希望を記録

権限・利益相反

  • 業務と除外事項を個別記載
  • 遺言・相続との区別を説明
  • 第三者承諾と代替案を確認
  • 遺贈・紹介料等を確認
  • 紛争性の有無を確認

親族・葬送

  • 推定相続人と所在を確認
  • 連絡対象・順序・時期を決定
  • 葬儀形式・宗教・予算を確認
  • 墓地名義人・祭祀承継を確認
  • 遺骨保管・第2希望を決定

費用・預託金

  • 報酬・実費・預託金を区分
  • 必要額と予備費を試算
  • 分別管理と案件別帳簿
  • 追加預託・不足時対応を決定
  • 残高報告・残金返還先を決定

家財・情報

  • 処分権限・所有関係を確認
  • 鍵・貴重品・形見を特定
  • 立会い・写真・リストを準備
  • 情報の利用目的・報告先を決定
  • 保存・廃棄方法を決定

死亡後・苦情

  • 最新契約と予算を確認
  • 業務日誌を開始
  • 申出者と主張を記録
  • 資料保全と停止業務を判断
  • 弁護士連携の要否を判断

確認テスト

問題1
委任者の死亡後も死後事務委任契約を執行できる根拠は何ですか。
民法653条1号では死亡による終了が原則ですが、死亡後も契約を終了させない特約を生前に設けることができます。契約で定めた範囲に限り、本人との生前契約に基づいて事務を行います。
問題2
「全部任せる」と言われた場合はどうしますか。
葬儀、納骨、住居、家財、債務、預金、相続等に分け、行政書士が扱う業務、他士業連携、契約に含めない業務を整理します。
問題3
契約にない預金解約を親族から頼まれた場合はどうしますか。
引き受けず、遺言執行者、相続人、金融機関手続を確認し、必要に応じて弁護士・司法書士等へつなぎます。
問題4
預託金の使込みを主張された場合、最初に何をしますか。
反論や和解交渉をせず、契約、合意書、出納帳、通帳、請求書、領収書、決裁票を保全・照合し、弁護士へ相談します。
問題5
相続関係未確認のまま家財を廃棄できますか。
原則として停止します。契約上の権限、相続・所有関係、賃貸借契約を確認します。危険物等の緊急処理は範囲を限定して記録します。
問題6
二人の親族が遺骨の引渡しを求めた場合はどうしますか。
直ちに一方へ渡さず、本人意思、契約、祭祀承継等を確認し、争いがあれば適切に保管して弁護士へ連携します。
問題7
契約外業務はすべて非弁行為ですか。
直ちに非弁行為となるわけではありません。ただし内容により、無権限行為、非弁行為、損害賠償、懲戒上の問題につながる可能性があります。
問題8
死者情報は自由に開示できますか。
できません。生存する遺族の個人情報となる場合があり、死者情報も守秘義務、契約、情報管理方針に基づき、目的と開示範囲を限定します。

次回への接続

次回「3-25 ケーススタディ演習」では、相談受付から契約、死亡後の初動、葬儀、預託金、家財、親族苦情、完了報告までを複数事例で判断します。任意後見はカテゴリ4、財産管理等委任はカテゴリ6、見守りはカテゴリ7、契約書・同意書の作成技法はカテゴリ25で詳しく扱います。

死後事務委任契約の設計・見直しをご相談いただけます相談内容がまとまっていなくても大丈夫です。まずは現在の状況を伺い、必要な契約、本人意思、親族関係、費用、預託金、葬儀・納骨、家財、関係機関との調整を一緒に整理します。お手元に資料があれば確認がスムーズですが、資料がそろっていない段階でもご相談いただけます。

本記事は新人行政書士向けの一般的な実務教材です。個別案件では、契約内容、所属行政書士会の規則、職業賠償責任保険、裁判所・行政機関・金融機関等の最新の取扱いを確認してください。

公的情報・確認先

HANAWA行政書士事務所|死後事務委任契約業務

本人の意思、契約上の権限、費用と記録を丁寧につなぐ実務を大切にします。

あわせて確認したいこと

相続・遺言・終活の手続きを確認したい方へ

相続、遺言、終活に関する手続きでは、戸籍、財産、関係者の状況を落ち着いて整理することが大切です。川崎市北部で家族の手続きについて確認したい方は、関連するご案内をご覧ください。

相続、遺言、任意後見、死後事務委任などをまとめて考えたい場合は、家族構成や財産、必要な手続きを整理するところから相談できます。

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