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成年後見申立準備支援業務 5-15

成年後見申立準備支援のケーススタディ
新人行政書士が本人確認・資料整理・連携判断まで進める実務

成年後見の相談では、家族の困りごと、本人の意思、施設入所、財産管理、相続、医療・介護、親族関係が同時に現れます。本記事では、初心者行政書士が一人で初期整理を進められるよう、申立準備支援の範囲、判断フロー、資料確認、候補者検討、関係機関連携を実務教材として整理します。

成年後見申立準備支援市区町村長申立て新人行政書士向け

本稿の業務範囲

成年後見申立準備支援とは、行政書士が本人・親族・支援機関から事情を聴き、本人情報、親族関係、財産資料、収支資料、医療・介護情報、関係機関連絡状況を整理し、必要に応じて司法書士・弁護士・市区町村・地域包括支援センター等につなぐ申立て前段階の支援です。

行政書士が中心的に行うのは、相談整理、本人確認、意思確認の記録化、資料所在の確認、戸籍・住民票等の取得支援、関係機関連絡記録、他士業引継ぎメモ、市区町村相談用事実整理メモの作成です。

業務範囲の整理家庭裁判所に提出する申立書、申立事情説明書、財産目録、収支予定表、親族関係図等の作成が必要な場合は、司法書士または弁護士へ連携します。申立代理、裁判所からの照会への代理対応、審問・調査官調査への代理対応、紛争性ある法的主張整理が必要な場合は、弁護士へ連携します。

戸籍・住民票等の取得支援は、本人、申立人候補者、または正当な権限を有する依頼者からの委任に基づき、受任業務の遂行に必要な範囲で行います。職務上請求書を使用する場合も、利用目的、必要性、取得範囲を明確にし、成年後見申立準備支援と無関係な親族調査、資産調査、興信所的調査に用いないようにします。

親族間紛争の交渉、使い込み返還請求、訴訟・調停対応、本人財産の管理・払戻し、医療行為への同意、身元保証・身元引受は、本稿でいう行政書士の成年後見申立準備支援には含めません。

本稿は、記事公開日時点の法令・公的資料に基づく一般的整理です。実務では、本人の住所地を管轄する家庭裁判所の最新書式・手引、市区町村長申立てに関する自治体運用、医療・介護機関の個別事情を確認し、必要に応じて専門職や関係機関へ連携します。

制度改正に関する注意令和8年6月24日に公布された民法等改正法および整備法により、成年後見制度は後見・保佐の制度を廃止し、補助の制度に一元化する方向で改正が予定されています。成年後見制度の見直しに係る改正は、公布の日から起算して2年6月以内の政令で定める日から施行されます。施行日、経過措置、最新書式、管轄家庭裁判所の運用を確認してください。

この記事で到達できること

この記事では、成年後見申立準備支援業務について、制度説明だけでなく、具体的な相談事例を前にして次の判断ができることを目指します。

制度選択

任意後見契約、財産管理等委任契約、見守り契約で対応できる段階か、法定後見・保佐・補助の申立てを検討すべき段階かを初期整理します。

情報整理

本人情報、判断能力、診断書、本人情報シート、財産資料、収支資料、親族関係、申立人候補、後見人等候補者、緊急性、紛争性を整理します。

業務範囲

行政書士として対応できる範囲と、司法書士・弁護士・社会福祉士・地域包括支援センター・市区町村・医療介護関係者へ連携する範囲を区別します。

本人中心

本人確認、意思確認、利益相反、記録化を徹底し、家族や施設の都合だけで進めない姿勢を身につけます。

図解|成年後見申立準備支援で見る4つの視点
本人の状態生活状況、判断能力、意思、医療・介護支援を確認します。
必要な行為施設利用契約、預金管理、相続、不動産処分などを整理します。
支える人申立人候補、後見人等候補者、親族、専門職、市区町村を確認します。
行政書士の範囲事実整理、資料所在整理、記録化、連携にとどめます。

基本知識

現行制度の整理

成年後見制度には、現行制度上、法定後見として「後見」「保佐」「補助」があります。後見は判断能力が欠けているのが通常の状態、保佐は判断能力が著しく不十分、補助は判断能力が不十分な方を対象とします。最終判断は医師の診断書、本人情報シート、家庭裁判所の審理により行われます。

任意後見は、本人に契約締結能力がある段階で、将来判断能力が低下した場合に備えて任意後見契約を締結する制度です。すでに本人が契約内容を理解できない状態であれば、新たな任意後見契約ではなく、法定後見の検討が必要になる場合があります。

本人情報シートと診断書

診断書は医師が作成します。本人情報シートは、本人の日常生活、支援状況、福祉・介護サービス利用状況等を把握している福祉関係者等が作成することが想定される資料で、医師の診断や家庭裁判所の審理に活用されます。行政書士は、誰が本人の日常生活を最も把握しているかを確認し、地域包括支援センター、ケアマネジャー、施設職員、病院MSW等につなぎます。

判断軸 確認内容 実務上の意味
本人確認 氏名、生年月日、住所、本籍、施設入所状況 本人特定、管轄、資料取得の基礎
意思確認 本人が希望を言えるか、拒否や不安があるか 本人尊重、任意後見・委任契約の可否
判断能力 金銭管理、契約理解、医師診断 後見・保佐・補助の初期整理
申立人候補 本人、配偶者、四親等内親族、市区町村長等 誰が申立てを検討できるか
緊急性 施設入所、医療費、虐待、使い込み、住居喪失 関係機関連携の優先度
候補者 親族候補、専門職候補、法人後見 家庭裁判所・他士業へ引き継ぐ事情整理

実務の進め方

図解|相談受付から完了報告まで
  1. 相談者、本人、関係者、相談経緯を記録します。
  2. 本人の所在、状態、意思確認の可否を確認します。
  3. 施設入所、医療、虐待、使い込み、住居喪失などの緊急性を確認します。
  4. 任意後見等で足りるか、法定後見が必要かを初期整理します。
  5. 申立人候補、親族関係、任意後見契約の有無を確認します。
  6. 診断書、本人情報シート、財産・収支資料の所在を整理します。
  7. 後見人等候補者や専門職候補の必要性を整理します。
  8. 司法書士、弁護士、市区町村、地域包括等へ連携します。
  9. 受任範囲内の整理結果、未了事項、連携先、次工程を報告します。

初回相談で避けたい対応

  • 「認知症なら後見です」と即断する。
  • 相談者の話だけで本人の意思を確認しない。
  • 親族対立、使い込み、虐待疑いを行政書士単独で抱え込む。
  • 本人の通帳、印鑑、キャッシュカード、現金を預かる。
  • 家庭裁判所提出書類作成、申立代理、裁判所照会への代理対応まで引き受ける。
  • 後見人等に医療行為への同意権、身元保証・身元引受が当然にあるかのように説明する。
  • 保佐・補助で代理権や本人同意の要否を確認しない。
  • 申立後に自由に取り下げられる、候補者が必ず選任される、と説明する。

ヒアリング項目

区分 質問 確認目的
相談者 氏名、住所、連絡先、本人との関係 依頼者確認、利益相反確認
本人 氏名、生年月日、住所、本籍、現住所 本人特定、管轄確認
判断能力 金銭管理、契約理解、会話、記憶、見当識 後見・保佐・補助の初期整理
医療・介護 主治医、病名、要介護度、ケアマネ、サービス利用 診断書、本人情報シート、生活状況
財産・収支 預貯金、不動産、年金、保険、証券、負債、支出 財産資料・収支資料の所在整理
親族 配偶者、子、兄弟姉妹、甥姪、姻族、交流状況 申立人候補、候補者、親族対立
必要行為 施設利用契約、預金管理、不動産処分、相続手続 後見等の必要性確認
既存契約 任意後見契約、財産管理契約、見守り契約 任意後見優先、制度選択
申立前説明 取下げ制限、候補者不選任、不服申立て不可 相談者への重要説明

本人への自然な確認例

「今どちらで生活されていますか」「困っていることはありますか」「お金の管理はどなたがしていますか」「通帳や印鑑はどこにありますか」「施設に入ることについて、どのようにお考えですか」「ご家族や親族で頼れる方はいますか」「任意後見契約や将来の支援契約を結んだことはありますか」など、試験のように聞かず、生活状況を自然に確認します。

おひとりさま・おふたりさまの確認頼れる親族、親族の年齢・健康状態・交流頻度、配偶者自身の支援力、甥姪や姻族との関係、死後事務、身元保証、施設入所、住居整理、ペット、墓・納骨先など、成年後見申立て以外の課題も併存しやすい点を整理します。

判断フロー

任意後見で対応できるか、法定後見を検討するか

確認事項 任意後見・委任契約を検討できる状態 法定後見を検討する状態
契約理解 契約の意味、相手、委任内容を説明できる 契約内容を理解できない
意思表示 希望を一貫して言える 希望が変動し、理解が不十分
緊急行為 将来への備えが中心 施設利用契約、預金管理等が今すぐ必要
紛争性 親族対立が少ない 親族対立、使い込み、虐待疑いがある

任意後見契約が登記されている場合

任意後見契約が登記されている場合は、原則として任意後見の利用を優先して検討します。任意後見契約に関する法律第10条では、任意後見契約が登記されている場合、家庭裁判所は本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り後見開始等の審判をすることができるとされています。任意後見契約の有無、登記の有無、任意後見監督人選任の有無、代理権目録の内容を確認します。

後見・保佐・補助の初期整理

類型 初期相談での目安 注意点
後見 日常的な買い物や財産管理も困難 本人の財産に関する法律行為について広い代理権があります。医療行為への同意、身元保証、身元引受、一身専属的意思決定まで当然に代理できるわけではありません。
保佐 重要な財産行為の判断が困難 保佐人に特定の代理権を付与するには別途申立てが必要です。本人以外の者の請求による代理権付与には本人同意が必要です。
補助 判断能力に不安があるが意思確認は比較的可能 本人以外の者の請求による補助開始、同意権付与、代理権付与には本人同意が必要です。補助開始には同意権付与または代理権付与の審判を同時に行う必要があります。

申立人と申立先

申立人候補としてまず確認すべき者には、本人、配偶者、四親等内の親族、検察官、市区町村長があります。類型や既存の後見等、任意後見契約の登記状況により、未成年後見人・監督人、成年後見人・監督人、保佐人・監督人、補助人・監督人、任意後見受任者等が申立人となり得る場面があります。申立先は、原則として本人の住所地を管轄する家庭裁判所です。

市区町村長申立てを相談する場面

本人が認知症等で判断能力が低下し、親族がいない、連絡が取れない、親族が高齢・遠方・病気で申立てが困難、親族による使い込みや虐待が疑われる、施設利用契約や財産管理を担える人がいない場合は、市区町村長申立ての相談・情報提供を検討します。行政書士が市区町村長申立てを決定するのではなく、本人状況、親族調査状況、緊急性、財産管理上の支障を整理し、市区町村や地域包括支援センターへつなぎます。

医療同意・施設利用契約・不動産処分

成年後見人等にも身元保証人・身元引受人等にも、医療行為への同意権が当然にあるわけではありません。施設利用契約、費用支払い、緊急連絡先、身元保証、死亡後対応を分けて整理します。医療機関や介護保険施設等では、身元保証人等がいないことのみを理由とする入院・入所拒否等について公的資料で注意が示されていますが、施設種別、契約形態、運営基準、自治体通知により確認すべき内容が異なります。

本人の居住用不動産を処分する可能性がある場合、成年後見人等が選任された後でも家庭裁判所の許可が必要となる場面があります。保佐・補助では、さらに当該不動産処分について代理権が付与されているかも確認します。

申立後の重要説明

後見・保佐・補助開始等の申立書を提出した後は、家庭裁判所の許可を得なければ取り下げることはできません。また、候補者として記載された人が必ず選任されるわけではなく、誰を成年後見人等に選任するかという家庭裁判所の判断については不服申立てをすることができません。申立準備段階で相談者へ説明し、記録します。

書類・資料確認

区分 資料 確認ポイント
本人確認 戸籍謄本、住民票、本人確認資料 氏名、住所、本籍、変更履歴
後見登記 登記されていないことの証明書、または登記事項証明書 既存制度利用や任意後見契約の有無
医療・介護 診断書、本人情報シート、介護保険証、ケアプラン 判断能力、病名、生活支援状況
財産・収支 通帳写し、残高証明、不動産登記事項証明書、固定資産税通知、年金通知、請求書 財産資料・収支資料の所在整理
親族 親族関係を示す戸籍、連絡先一覧 申立人候補、市区町村や他士業への引継ぎ
候補者 経歴、本人との関係、利益相反・紛争・負担能力に関する事情 家庭裁判所や他士業へ引き継ぐ候補者情報
利害関係 金銭貸借、立替払、担保提供、保証、出納帳 候補者と本人との利益相反を整理
任意後見 任意後見契約公正証書、登記事項証明書、代理権目録 任意後見優先、法定後見の必要性
相続 遺産分割未了の相続財産資料、相続関係資料、遺産分割案 利益相反、特別代理人等の検討可能性
緊急性 退院期限、施設入所予定、滞納通知、虐待記録 優先対応判断

行政書士が本人の居宅内を探索したり、通帳・印鑑・キャッシュカードを預かったり、金融機関で払戻しを求めたりすることは避けます。資料確認は所在整理を基本とし、写しを確認する場合も、誰から、どの資料を、どの目的で、いつ確認し、どう返却・廃棄したかを記録します。

住民票、課税資料、年金関係資料、医療・介護関係資料等にマイナンバーが記載されている場合は、家庭裁判所や他士業・関係機関へ提出・共有しないよう注意します。不要なマイナンバーを保管せず、必要に応じてマスキング、再取得、提出除外、廃棄方法を確認します。

文例・記録例

初回相談後の整理メモ

相談者は本人の長男。本人は82歳、現在は自宅で独居。令和○年頃から認知症状が進行し、公共料金の支払い忘れ、通帳紛失、同じ買い物の反復がある。地域包括支援センターとケアマネジャーが関与しており、近く介護施設入所が検討されている。本人は施設入所について明確な理解が難しく、契約締結能力に疑義がある。任意後見契約の有無は未確認であるため、本人・親族・公正証書等の資料から確認する必要がある。今後、診断書、本人情報シート、財産資料、収支資料、親族関係資料、後見登記関係資料の所在を整理し、家庭裁判所提出書類の作成が必要な段階では司法書士または弁護士と連携する。

本人面談記録

本人は面談時、自宅住所を一部答えられたが、現在の日付、施設入所予定、預金管理の状況については明確な説明が困難であった。長男については「よく来てくれる」と述べた一方、通帳の所在については「自分で持っている」「誰かに預けたかもしれない」と発言が変動した。本人の拒否感、不安感が見られるため、本人の意向を丁寧に確認し、地域包括支援センター、ケアマネジャー、主治医と情報共有する必要がある。

業務範囲説明文例

当職が行う業務は、成年後見申立てに向けた前提情報の整理、本人確認、親族関係・財産資料・収支資料の所在確認、関係機関連絡記録、司法書士・弁護士等への引継ぎ資料作成です。家庭裁判所に提出する申立書、申立事情説明書、財産目録、収支予定表、親族関係図等の作成、申立代理、裁判所からの照会への代理対応、審問・調査官調査への代理対応、親族間紛争の交渉、使い込み返還請求は、当職の受任範囲に含まれません。

他士業・関係機関との連携

状況 連携先 理由
家庭裁判所提出書類の作成が必要 司法書士・弁護士 裁判所提出書類作成業務に該当するため
申立代理、照会対応、審問対応が必要 弁護士 手続代理・法的対応に該当するため
親族間で争いがある 弁護士 法的紛争対応
使い込み返還請求が必要 弁護士 交渉・請求業務
虐待、経済的搾取が疑われる 市区町村、地域包括、弁護士 保護・法的対応
居住用不動産処分が想定される 司法書士、弁護士 家庭裁判所許可、代理権の要否確認
保佐・補助で代理権付与が必要 司法書士、弁護士 本人同意、代理権範囲、申立て整理
相続手続・遺産分割が絡む 司法書士、税理士、弁護士 登記、税務、紛争、利益相反
身寄りがない 市区町村、地域包括、社会福祉協議会 市区町村長申立て相談、福祉支援

後見人等候補者検討表

後見人等候補者について、行政書士が適否を最終判断することはできません。最終的に誰を選任するかは家庭裁判所が判断します。行政書士は、候補者に関する事情、利益相反、本人財産との関係、親族間対立、本人の福祉的課題、専門職候補の必要性を整理し、司法書士・弁護士または関係機関へ引き継ぎます。

検討項目 親族候補者 専門職候補者・法人後見等 確認ポイント
本人との関係 配偶者、子、兄弟姉妹、甥姪等 司法書士、弁護士、社会福祉士、行政書士、社会福祉協議会等 本人との信頼関係、安心感
事務処理能力 高齢、病気、遠方、負担過多がないか 財産管理、法的対応、福祉課題への対応力 報告、連絡調整が可能か
利益相反 相続人、同居親族、財産管理者、借入関係者でないか 受任関係、紹介関係、団体利益に問題がないか 遺産分割、金銭貸借、立替払、保証関係
不適切事情 使い込み、虐待、本人への圧力、浪費、借金 利益相反、過去のトラブル、体制不足 断定せず客観資料を整理

新人が見落としやすい論点

論点 なぜ重要か 初期相談での確認
本人の意思確認 家族の都合だけで進めると本人の権利侵害につながる 本人面談、本人発言、拒否・不安の記録
任意後見契約の有無 登記がある場合は任意後見優先を検討する 公正証書、登記事項証明書、代理権目録
補助の本人同意 補助開始・同意権付与・代理権付与で問題になる 本人の理解度、同意の有無、必要な権限
保佐の代理権付与 保佐人が当然に代理できるわけではない どの法律行為に代理権が必要か
候補者の利益相反 候補者が本人財産や相続に利害を持つことがある 金銭貸借、立替払、相続関係、保証関係
医療同意 後見人等や身元保証人等に当然の医療同意権はない 医療機関の意思決定支援プロセスへつなぐ
身元保証・身元引受 施設利用契約と混同しやすい 費用支払い、緊急連絡先、死亡後対応を分解
居住用不動産処分 家庭裁判所許可や代理権が問題になる 居住実態、売却予定、保佐・補助の代理権
行政書士の業務範囲 裁判所提出書類作成・申立代理・紛争交渉を避ける 司法書士・弁護士連携の要否

ケーススタディ

ケース1|身寄りが薄く施設利用契約と財産管理が必要

Aさんは84歳女性。夫は死亡し、子はいません。認知症が進み、火の不始末、服薬忘れ、公共料金の滞納が発生しています。親族として甥がいる可能性がありますが、長年交流がなく連絡先も不明です。施設入所と預貯金管理が必要になっています。

この場合、任意後見契約を新たに理解して締結できる可能性は低く、法定後見を検討します。任意後見契約が過去に登記されていないかを確認し、親族調査補助、本人情報整理、財産資料の所在確認、市区町村長申立て相談用メモを作成します。戸籍・住民票等の取得は、委任と必要範囲、職務上請求の適正利用を前提に行います。

ケース2|長男が財産を管理し使い込みが疑われる

Bさんは79歳男性。長女から「長男が父の通帳を持っていて使途が分からない」と相談がありました。長男は「自分が面倒を見てきた」と主張し、本人は長男を怖がっている様子もあります。

親族間対立と財産使い込み疑いがあるため、行政書士単独で進めず、通帳写し、出金履歴、本人発言、施設費未払い、病院・ケアマネ情報を整理して弁護士へ連携します。返還交渉や責任追及は行わず、候補者の適否も断定しません。

ケース3|軽度認知症だが本人意思確認ができる

Cさんは76歳女性。夫と二人暮らしで子はいません。物忘れが増えていますが、時間をかければ契約内容を理解できます。この場合は、直ちに法定後見ではなく、任意後見契約、財産管理等委任契約、見守り契約等の検討余地があります。補助を検討する場合は、本人同意、必要な同意権・代理権の範囲を整理します。

ケース4|相続手続で本人の判断能力が問題になる

Dさんは88歳女性。長男が死亡し、遺産分割協議が必要ですが、本人は協議内容を理解できません。相談者である亡長男の妻が申立人になり得るかは、姻族関係の継続を戸籍で確認します。相談者も相続関係者であるため、利益相反を整理し、遺産分割案の交渉や有利不利の判断には踏み込まず、司法書士・弁護士へ連携します。

ケース5|おふたりさまで配偶者も高齢

Eさんは83歳男性。妻Fさんは81歳。子はいません。Eさんは認知症が進み、預金管理や施設利用契約が必要です。妻も高齢で支援力に限界があります。配偶者を当然に後見人候補者とせず、健康状態、事務処理能力、負担感、親族協力、専門職候補の必要性を整理します。自宅売却が想定される場合は、居住用不動産処分許可と代理権の有無を確認します。

実務チェックリスト

本人・相談者

  • 本人の氏名、生年月日、住所、本籍、現在地を確認した
  • 本人の意思、拒否、不安、希望を記録した
  • 相談者と本人の利益相反を確認した
  • 本人申立て、親族申立て、市区町村長申立ての可能性を整理した

制度選択

  • 任意後見契約の有無、登記、代理権目録を確認した
  • 後見・保佐・補助の初期整理を行った
  • 保佐の代理権付与、補助の本人同意を確認した
  • 令和8年改正法による制度変更予定を踏まえた

資料

  • 診断書、本人情報シートの準備状況を確認した
  • 後見登記関係証明書の取得方針を整理した
  • 財産・収支資料の所在を整理した
  • マイナンバー記載資料を提出・共有しない方針を確認した

候補者

  • 後見人等候補者検討表を用いて事情を整理した
  • 金銭貸借、立替払、保証、相続関係を確認した
  • 候補者を最終的に選任するのは家庭裁判所と説明した
  • 不服申立て不可を説明した

連携

  • 裁判所提出書類作成は司法書士・弁護士へつなぐ
  • 申立代理・照会対応・紛争対応は弁護士へつなぐ
  • 虐待・身寄りなしは市区町村・地域包括へつなぐ
  • 相続・不動産・税務は必要に応じて専門職へつなぐ

重要説明

  • 申立後は家庭裁判所の許可なく取下げできないと説明した
  • 候補者が必ず選任されるわけではないと説明した
  • 医療同意・身元保証・施設利用契約を分けて説明した
  • 完了条件と受任範囲を文書で確認した

確認テスト

問題1
本人が認知症で施設利用契約を理解できない。長男が「任意後見契約を今から作ればよい」と言う場合、最初に確認することは何ですか。
本人が任意後見契約の内容を理解し、自分の意思で契約締結できる状態か確認します。契約理解が困難であれば、法定後見の検討や司法書士・弁護士連携を考えます。
問題2
本人の通帳を長男が管理し、長女が使い込みを疑っています。行政書士がしてはいけない対応は何ですか。
長男に返還を求める交渉、法的責任の追及、訴訟を示唆した請求は行いません。事実整理にとどめ、弁護士へ連携します。
問題3
本人に身寄りがなく、認知症で施設入所が必要です。申立人となる親族が見つからない場合、検討すべきことは何ですか。
市区町村長申立ての相談・情報提供を検討します。地域包括支援センターや市区町村へ、本人情報、親族調査状況、緊急性、財産管理上の支障を整理してつなぎます。
問題4
補助開始を検討する場合、新人行政書士が確認すべきことは何ですか。
本人以外の者の請求による補助開始、同意権付与、代理権付与には本人同意が必要です。補助開始には同意権または代理権を付与する審判を同時に行う必要があります。
問題5
申立人が「自分が後見人に選ばれないなら取り下げたい」と言っています。説明すべきことは何ですか。
申立後は家庭裁判所の許可を得なければ取下げできないこと、候補者が必ず選任されるわけではないこと、選任判断について不服申立てができないことを説明し記録します。
問題6
親族候補者が本人の通帳を管理し、本人から借入れもあります。どのように整理しますか。
候補者の適否を断定せず、金銭貸借、通帳管理、立替払、保証関係、相続関係、親族間対立、本人の意向を後見人等候補者検討表に記録し、司法書士・弁護士へ連携します。

次回への接続

カテゴリ5「成年後見申立準備支援業務」は、この回で終了します。次回からは、カテゴリ6「財産管理等委任契約業務」に入ります。成年後見申立準備支援では、本人の判断能力がすでに低下した場面を中心に扱いましたが、財産管理等委任契約業務では、本人に契約締結能力がある段階で、日常的な財産管理や手続支援をどのように契約化するかを扱います。

おひとりさま・おふたりさま支援では、判断能力がある段階では財産管理等委任契約、見守り契約、任意後見契約、死後事務委任契約、遺言書を組み合わせ、判断能力が低下した段階では法定後見や市区町村長申立ての相談を検討する流れを理解しておくことが大切です。

HANAWA行政書士事務所にご相談ください成年後見申立準備支援、任意後見契約、財産管理等委任契約、見守り契約、死後事務委任契約は、本人の生活状況に合わせて整理することが大切です。相談内容がまとまっていなくても大丈夫です。まずは現在の状況を伺い、必要な手続きや確認した方がよい内容を一緒に整理します。

本記事は一般的な実務教材です。個別案件では、本人の状態、親族関係、財産内容、家庭裁判所・自治体・関係機関の取扱いにより確認事項が異なります。

参考資料

HANAWA行政書士事務所|成年後見申立準備支援業務

本人の意思と権利を大切にしながら、事実整理と専門職連携を丁寧に進めます。

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