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第5-13回 司法書士・弁護士への連携

成年後見申立支援で司法書士・弁護士へつなぐ判断基準
行政書士が抱え込みすぎない実務フロー

成年後見申立支援では、制度説明や資料整理だけで進められる場面もあれば、家庭裁判所提出書類の作成支援、申立代理、親族間対立、財産使い込み疑い、虐待、債務問題、緊急保全への対応が必要になる場面もあります。このページでは、新人行政書士が安全に判断し、本人・申立予定者・司法書士・弁護士へ必要な情報を引き継げるよう、実務の順番と文例を整理します。

対象:新人行政書士成年後見申立支援業務 5-13判断フロー・引継資料・文例・ケース・チェックリスト収録
このページの位置づけ前回5-12では、行政書士が成年後見申立支援で行える制度説明・資料整理と、慎重に扱う支援を確認しました。本回では、その境界を実務でどう判断し、司法書士・弁護士へどの資料を、どのような説明で引き継ぐかを扱います。相談内容がまとまっていなくても大丈夫です。まずは現在の状況を伺い、必要な確認事項を一緒に整理する姿勢を基本にします。

1. この回の到達目標

  • 成年後見申立支援で、司法書士へ連携する場面と弁護士へ連携する場面を区別できる。
  • 家庭裁判所提出書類について、行政書士が行う資料整理と、他士業の独占業務に該当し得る内容形成・代理的関与を区別できる。
  • 本人・親族による自力申立ての余地を説明しつつ、専門的関与が必要な場合に司法書士または弁護士へつなげる。
  • 親族間対立、財産使い込み疑い、虐待、債務問題、緊急保全がある場面で、早めに弁護士連携を検討できる。
  • 認定司法書士が簡裁訴訟代理等関係業務として対応できる場合があることを理解しつつ、成年後見申立代理とは区別できる。
  • 本人同意、申立予定者等の同意、利益相反、要配慮個人情報、マイナンバーの取扱いを記録化できる。
  • 連携後も行政書士が支援できる戸籍収集補助、財産資料整理、関係機関連携を明確にできる。
実務の合言葉自力申立ては可能です。ただし、家庭裁判所提出書類の内容形成は司法書士・弁護士、申立代理・紛争・緊急対応は弁護士。行政書士は、事実整理・同意確認・情報管理・連携記録で支えます。

2. この業務が必要になる実務場面

成年後見申立支援の相談は、「後見申立てをしたい」という言葉だけでなく、預金管理、施設入所、医療費、親族関係、虐待不安、財産流出などの生活上の困りごととして始まります。新人行政書士は、相談の入口で結論を急がず、制度説明・資料整理で足りるのか、他士業の関与が必要なのかを確認します。

相談の入り口 確認すること 連携の方向
親の認知症が進み、銀行手続ができない 本人の判断能力、財産管理者、急ぐ支払い、親族の協力状況。 資料整理。提出書類作成支援は司法書士、代理や対立は弁護士。
施設から後見人を付けるよう勧められた 施設費、医療費、契約状況、ケアマネ・地域包括の関与。 福祉機関と情報整理。申立書類は本人作成または司法書士等。
兄が通帳を見せてくれない 通帳保管者、出金状況、説明拒否、施設費滞納、親族対立。 弁護士連携を第一に検討。
本人が虐待されているかもしれない 本人の安全、医療・介護状況、地域包括・市区町村への相談歴。 市区町村・地域包括・弁護士へ早期連携。
借金や督促状がある 債権者数、請求額、訴状・督促・差押え、本人の理解力。 弁護士を基本に検討。個々の請求ごとの訴額が140万円以下の簡裁管轄事件等は認定司法書士の余地も確認。
身寄りがなく申立人が見つからない 親族、支援者、本人意思、福祉機関、市区町村長申立ての可能性。 市区町村・地域包括へ。詳細は5-14で扱う。
相談時の基本姿勢お手元に資料があれば確認がスムーズですが、資料がそろっていない段階でも相談できます。まずは、誰が何に困っているか、本人にとって何が必要か、急ぐ事情があるかを一緒に整理します。

3. 基本知識

3-1. 行政書士の支援範囲を正確に捉える

行政書士は、権利義務または事実証明に関する書類作成を業務とし得ます。ただし、他の法律で制限されている業務には関与できません。成年後見申立支援では、家庭裁判所提出書類、申立代理、法的主張、紛争対応が他士業の職域と重なりやすいため、単に「裁判所提出書類は一切関係できない」と覚えるのではなく、「他士業の独占業務に該当する態様で関与しない」と理解します。

行政書士が支援しやすい範囲 慎重に扱う範囲
制度の一般説明、公開書式の入手方法の案内、必要資料の一般的説明。 申立書、申立事情説明書、財産目録等の記載内容を考え、提出用に完成させること。
相談者が保有する資料の一覧化、本人・親族・財産・収支・福祉情報の客観的整理。 事実の選択・強調・配列によって特定の法的結論を導く構成。
本人または正当な権限に基づく資料取得補助。 正当な権限なく、金融機関・医療機関・施設・相手方親族へ代理人のように照会・請求すること。
司法書士・弁護士へ渡すための相談経過メモ、資料一覧、時系列表。 本人・申立人に代わり、家庭裁判所へ個別事情を説明し、補足や主張を行うこと。

3-2. 司法書士連携と弁護士連携の違い

連携先 主な役割 典型場面 行政書士の注意点
司法書士 家庭裁判所提出書類の作成支援、書類作成相談、成年後見関連業務。 親族間対立が大きくなく、申立書類作成を専門職へ依頼したい場合。 行政書士が記載内容を提案・文章化しない。
弁護士 申立代理、紛争対応、財産使い込み、虐待、債務、緊急保全、訴訟・調停・審判対応。 親族対立、財産侵害、虐待、債務整理、緊急対応がある場合。 法的評価、交渉、代理行為に踏み込まない。
認定司法書士 簡裁訴訟代理等関係業務の範囲内での民事紛争対応等。 個々の請求ごとの訴額が140万円以下の簡易裁判所管轄事件等。 成年後見申立代理とは別領域。総額不明・虐待・保全・強い対立があれば弁護士を第一に検討。
本人・親族による自力申立ても可能成年後見の申立書類は、本人や親族が自分で準備して申し立てることもできます。専門的関与が必要な場合、書類作成に不安がある場合、内容整理が複雑な場合は、司法書士または弁護士へ連携します。

3-3. 連携判断で見る5つの視点

  • 家庭裁判所提出書類の作成支援が必要か。
  • 申立代理、法的主張、家庭裁判所対応が必要か。
  • 親族間対立、候補者争い、財産管理への不信があるか。
  • 虐待、財産流出、施設退去、医療・介護不全など緊急性があるか。
  • 返還請求、損害賠償、債務整理、訴訟・調停・審判・保全が必要か。

4. 実務の進め方

図解|相談受付から連携まで

1 相談の主訴を確認

預金、施設費、本人の安全、親族対立、申立書類など、困りごとを分類します。

2 本人確認・意思確認

本人に説明できる範囲、拒否の有無、希望、不安を記録します。

3 職域と役割を説明

行政書士は事実整理・同意確認・連携記録で支え、内容形成や代理は他士業へつなぎます。

4 紛争・緊急性を確認

親族対立、財産流出、虐待、債務、施設退去があれば弁護士・福祉機関へ。

5 引継資料を作成

資料一覧、時系列表、本人情報整理票を客観的にまとめます。

手順1 相談の主訴を確認する

「何をしたいか」だけでなく、「なぜ今困っているのか」を確認します。預金が動かせない、施設費が払えない、親族と話が進まない、本人が危険な状態にあるなど、急ぐ理由を整理します。

手順2 行政書士の関与範囲を説明する

家庭裁判所提出書類については、行政書士が一切周辺支援できないという意味ではありません。ただし、記載内容を形成すること、法的主張を構成すること、本人・申立人の代理人のように裁判所とやり取りすることには踏み込みません。

手順3 本人・申立予定者の同意を確認する

情報提供は本人同意を原則とします。本人の理解が十分でない場合でも、平易な言葉で説明し、本人の反応を記録します。申立予定者等に利益相反の疑いがある場合は、その同意だけに依拠せず、弁護士等の第三者専門職へ早期に連携します。

手順4 資料を客観的に整理する

相談者が手元に持つ資料、本人・申立予定者が合法的に取得できる資料、本人または正当な権限に基づいて取得された資料を整理します。事実の選択・強調・配列によって特定の結論を導く構成は、実質的な法的評価とみなされるおそれがあるため注意します。

手順5 役割分担を残す

司法書士が書類作成支援、弁護士が申立代理・紛争・緊急対応、行政書士が周辺資料整理と関係機関連携を担当するなど、誰が何をするかを相談記録またはメールで明確にします。

5. ヒアリング項目

本人

  • 氏名、生年月日、住所、本籍、現在の居所。
  • 認知症、知的障害、精神障害、診断書、介護認定。
  • 後見制度への理解、希望、拒否、不安。
  • 食事、服薬、通院、金銭管理、介護サービス。
  • 信頼している人、避けたい人。

申立予定者

  • 本人との関係、申立てを希望する理由。
  • 後見人候補者になる意思。
  • 本人財産の管理状況、金銭貸借、贈与、居住関係。
  • 本人情報を他士業へ提供する同意。
  • 利益相反の疑いの有無。

親族関係

  • 配偶者、子、兄弟姉妹、その他親族。
  • 協力的な親族、反対しそうな親族、疎遠な親族。
  • 虐待・搾取疑いのある親族。
  • 親族に連絡すると本人に不利益が生じないか。

財産・収支

  • 預貯金、不動産、有価証券、保険、年金。
  • 医療費、介護費、施設費、公共料金、税金。
  • 借入金、督促、訴状、差押え。
  • 通帳・印鑑・カードの保管者。
  • 使途不明出金、施設費滞納の有無。

おひとりさま・おふたりさま

  • 親族がいない、疎遠、支援拒否。
  • 事実婚・同性パートナー、友人、近隣支援者。
  • 緊急連絡先として機能する人。
  • 市区町村長申立ての可能性。
  • 施設・病院・地域包括の関与。

個人情報

  • 本人同意の有無と説明記録。
  • 医療・介護情報など要配慮個人情報の有無。
  • 生命・身体・財産保護の緊急例外の必要性。
  • マイナンバー記載資料の混入の有無。
  • 送付先、送付範囲、送付方法。

6. 判断フロー

本人の安全に危険があるか
→ 虐待、医療・介護不全、住居喪失、生活費不足があれば、市区町村・地域包括・弁護士へ。必要最小限の情報共有と記録を行う。

財産が急速に流出しているか
→ 預金急減、不明出金、不動産売却、詐欺被害、施設費滞納があれば、弁護士連携を第一に検討。行政書士は客観的整理にとどめる。

親族間対立があるか
→ 候補者争い、財産管理への不信、通帳開示拒否、相続を見据えた対立があれば弁護士へ。申立予定者等の同意だけで進めない。

家庭裁判所提出書類作成支援が必要か
→ 紛争性がなければ司法書士連携。申立代理、保全、交渉、裁判所対応代理が必要なら弁護士連携。

個人情報提供に問題はないか
→ 本人説明、本人同意、利益相反、要配慮個人情報、マイナンバー、送付範囲を確認してから共有。
状況 判断 連携先
親族対立なし、申立書類作成だけ不安 専門職の書類作成支援が中心。 司法書士
申立人が高齢・遠方で手続対応が難しい 申立代理の必要性を確認。 弁護士
預金使い込み疑い、通帳開示拒否 返還請求・保全・交渉の可能性。 弁護士
借金があり訴状・督促が届いている 債務整理・訴訟対応の可能性。 弁護士。個々の請求ごとの訴額が140万円以下の簡裁管轄事件等は認定司法書士の余地も確認。
虐待・経済的虐待の疑い 本人安全を優先。 市区町村・地域包括・弁護士
身寄りがなく申立人がいない 市区町村長申立ての可能性。 市区町村・地域包括

7. 作成・確認する書類

7-1. 行政書士が整理しやすい書類

書類 目的 注意点
相談受付票 相談者、本人、主訴、緊急性、同席者を記録。 法的結論を断定しない。
本人情報整理票 居所、判断能力、医療・介護状況、本人希望を整理。 医学的評価はしない。
親族関係整理表 親族構成、連絡可否、協力状況、対立状況を整理。 裁判所提出用として完成させない。
財産情報整理表 預貯金、不動産、保険、年金、債務、資料所在を整理。 財産目録を提出用に作らない。
時系列表 入院、施設入所、出金、滞納、親族対応を日付順に整理。 見出しや配列で不正を断定しない。
連携判断メモ 司法書士・弁護士連携の理由、同意、送付資料を記録。 利益相反、要配慮個人情報、マイナンバーを確認。

7-2. 引継資料一覧

  • 相談受付票、本人情報整理票、親族関係整理表、財産情報整理表、時系列表。
  • 本人確認資料、申立予定者の本人確認資料、住民票・戸籍関係資料。
  • 診断書、介護保険証、介護認定資料、施設・病院・ケアマネ情報。
  • 通帳コピー、残高証明書、年金通知書、不動産登記事項証明書、固定資産税資料、保険証券。
  • 借入明細、督促状、施設費・医療費請求書、公共料金明細。
  • 親族とのメール・LINE・手紙、施設やケアマネからの報告、本人発言メモ。

7-3. 個人情報・マイナンバーの扱い

マイナンバーは原則として取得・保管・提供しないマイナンバーカード裏面、通知カード、マイナンバー記載住民票は原則としてコピー・保管・送付しません。やむを得ず資料に含まれる場合は、直ちに番号部分を復元不能な方法で削除し、当該状態でのみ取り扱います。
要配慮個人情報医療情報、介護情報、障害情報、認知症診断、虐待被害に関する情報は慎重に扱います。原則として明示的同意を得ますが、生命・身体・財産の保護のため緊急に必要で本人同意取得が困難な場合など、法令上の例外に該当する場面では、必要最小限の範囲で連携し、理由を記録します。

8. 文例・記載例

本人・申立予定者へ司法書士連携を説明する文例

成年後見の申立書類は、ご本人やご親族が自分で作成して申し立てることもできます。ただ、専門職に家庭裁判所提出書類の作成支援を依頼する場合は、司法書士または弁護士の業務になります。当事務所では、制度説明や必要資料の整理はできますが、提出書類の記載内容を考えたり、裁判所向けの説明内容を作ったりすることは行いません。申立書類作成については、成年後見に対応している司法書士へ情報を引き継ぐことをご提案します。

弁護士連携を説明する文例

今回は、親族間の対立や財産管理に関する不明点があり、単なる書類作成支援だけでは対応が難しい可能性があります。財産の使途確認、親族間の法的対応、申立代理、緊急の保全対応が必要になる場合は、弁護士の関与が適切です。当事務所では、事実関係と資料を整理し、必要な範囲で弁護士へ引き継ぎます。相手方親族への交渉、返還請求、金融機関への代理的照会は行いません。

本人への説明文例

○○さんのお金や生活のことで、今後きちんと支援するために、家庭裁判所の手続を考えています。私だけでは裁判所の書類の内容を作ったり、親族間の問題を解決したりすることはできません。そのため、司法書士または弁護士という専門家に相談内容を伝えて、一緒に進めたいと思います。伝える内容は、手続に必要なものだけにします。マイナンバーは伝えません。

司法書士への依頼メール例

件名:成年後見申立支援に関するご相談/本人○○様

司法書士 ○○先生
成年後見申立支援に関し、家庭裁判所提出書類作成支援のご相談が可能か確認したくご連絡いたしました。本人は認知症により預貯金管理や施設費支払いが困難となっており、申立予定者は長女です。現時点で、親族間の大きな対立、財産使い込み、虐待、債務整理を要する事情は確認されていません。当職では、制度説明、本人情報・親族関係・財産資料の整理を行っており、提出書類の記載内容の形成や申立代理は行っておりません。本人および申立予定者には、先生へ必要情報を提供することについて説明済みです。マイナンバー記載資料は送付しません。ご対応可能でしたら、初回相談の進め方と必要資料をご教示ください。

弁護士への依頼メール例

件名:成年後見申立て・財産管理問題に関するご相談/本人○○様

弁護士 ○○先生
成年後見申立てを検討している案件について、親族間対立および財産使い込み疑いがあり、弁護士対応が必要と考えられるためご相談です。本人は介護施設入所中で、認知症診断があります。申立予定者によれば、本人名義口座から毎月20万円から50万円程度の出金があり、通帳を管理している長男は申立予定者からの開示や使途説明の求めに応じていないとのことです。施設費未払いもあります。当職は制度説明、資料整理、時系列表作成にとどめ、返還請求、親族交渉、申立代理、保全処分等には踏み込んでいません。時系列表は申立予定者が保有する資料と聴取内容を整理したもので、不正を断定する趣旨ではありません。

連携記録の記載例

令和○年○月○日、申立予定者である長女○○氏に対し、本件は長男による本人預金の使途不明出金があり、親族間対立および財産保全の検討が必要となる可能性があるため、行政書士単独での対応は困難であり、弁護士への相談が適切である旨を説明した。本人には施設面談室で平易に説明したが、内容理解の程度は不明。拒否の発言・態度は確認されなかった。医療・介護情報は要配慮個人情報に該当するため必要最小限の範囲で提供する。マイナンバー記載資料は取得しておらず、送付資料にも含めない。申立予定者にも利益相反の可能性があるため、弁護士へ確認を依頼する。

10. 新人が間違えやすいポイント

注意点 実務での整え方
「下書きだけなら大丈夫」と考える 裁判所提出書類の記載内容を行政書士が考えると危険。内部の資料一覧・時系列表にとどめる。
財産使い込みを断定する 「横領」「不正」と書かず、日付・金額・資料・未確認事項を記録する。
事実整理に評価を混ぜる 事実の選択・強調・配列で特定結論を導かない。見出しも中立にする。
親族に直接説明を求める 本人または正当な権限に基づく場合を除き、相手方親族への資料提出要求・弁明要求は行わない。
金融機関へ代理人のように照会する 本人または正当な権限に基づく場合を除き、金融機関等へ照会・請求しない。
申立予定者の同意だけで進める 本人へ可能な範囲で説明し、利益相反があれば第三者専門職へつなぐ。
マイナンバーを念のため預かる 原則取得しない。混入時は番号部分を復元不能に削除。
家庭裁判所との事務連絡を広げる 書式・窓口・一般的必要書類の確認に限り、個別事情の説明はしない。

11. トラブル予防策

  • 初回相談時に、行政書士の支援範囲と、司法書士・弁護士へ連携する場面を説明する。
  • 受任契約書には、家庭裁判所提出書類の内容形成、申立代理、親族交渉、返還請求、債務整理を含まないことを明記する。
  • 相談記録では、相談者の発言、本人の発言、確認済み事実、未確認事項、行政書士の説明を分ける。
  • 時系列表や資料一覧の見出しは中立にし、「不正」「横領」「候補者不適格」などの評価語を避ける。
  • 本人同意を原則とし、本人同意が不十分な場合は本人利益・必要性・相当性を記録する。
  • 申立予定者等に利益相反の疑いがある場合は、その同意だけに依拠せず弁護士等へ連携する。
  • 医療・介護情報は要配慮個人情報として扱い、緊急例外を使う場合は理由と範囲を記録する。
  • マイナンバーは原則取得・保管・提供せず、混入時は直ちに復元不能な方法で削除する。
  • 緊急案件では、行政書士が自分で確認を完了させようとせず、市区町村・地域包括・弁護士へ早めにつなぐ。
相談につながる伝え方「相談前に必ず資料をそろえてください」ではなく、「資料があれば確認がスムーズですが、そろっていない段階でもご相談いただけます。まずは状況を伺い、必要な資料を一緒に整理します」と伝えると、本人・家族が相談しやすくなります。

12. ケーススタディ

長男による預金使い込み疑いがある場合

本人Aさんは82歳で認知症により判断能力が低下し、介護施設に入所中です。相談者は長女Bさん。Aさんの通帳とキャッシュカードは長男Cさんが管理しています。Bさんによると、Aさんは施設入所後ほとんど外出していないにもかかわらず、本人名義口座から毎月30万円から50万円のATM出金が続いています。施設費は2か月分滞納しています。BさんがCさんに通帳開示を求めたところ、Cさんは応じていないとのことです。Bさんは「母の成年後見申立てをしたい。Cにお金を返させたい。先生からCに連絡してほしい」と相談しました。

最初に判断すること

  • 親族間対立がある。
  • 財産使い込み疑いがある。
  • 施設費滞納があり、本人の生活費確保に不安がある。
  • 返還請求、財産保全、申立代理が問題になり得る。
  • BさんとAさんの利益相反の有無も確認が必要。

このケースは、単なる書類作成支援ではなく、弁護士連携を第一に検討する案件です。司法書士へ申立書類作成だけを依頼する前に、親族対立と財産保全の必要性を整理します。

行政書士が行うこと

  • Bさんが手元に持つ通帳コピー、施設費請求書、滞納通知、診断書、介護資料を整理する。
  • Cさんに連絡して説明を求めるのではなく、Bさんが把握している範囲を記録する。
  • 時系列表は「本人の生活・財産管理に関する時系列」とし、「長男の不正出金一覧」のような見出しにしない。
  • 本人に可能な範囲で説明し、拒否の有無を記録する。
  • 弁護士へ、事実整理・資料一覧・緊急性・利益相反の可能性を引き継ぐ。

行政書士が行わないこと

  • Cさんへの通帳開示要求、返還請求、交渉。
  • 金融機関への代理的照会。
  • 使い込みや横領の断定。
  • 申立事情説明書や財産目録の提出用作成。
  • 家庭裁判所へCさんの不正を主張すること。

説明文例

今回は、成年後見申立てだけでなく、預金の使途不明出金、施設費滞納、長男さんとの対立があります。私から長男さんに返還や通帳開示を求めることは、行政書士の業務範囲を超える可能性があります。まずは、Bさんが手元にお持ちの資料を客観的に整理し、弁護士へ引き継ぎます。長男さんへの連絡、金融機関への照会、返還請求、家庭裁判所への申立代理は行いません。

13. 実務チェックリスト

初回相談

  • 本人と相談者の関係を確認した。
  • 本人の居所、判断能力、医療・介護状況を確認した。
  • 申立予定者と候補者の意向を確認した。
  • 親族間対立、虐待、債務、緊急性を確認した。
  • おひとりさま・おふたりさま特有の支援者状況を確認した。

司法書士連携

  • 親族間の大きな対立はない。
  • 財産使い込み・虐待・緊急保全の疑いはない。
  • 主な課題は家庭裁判所提出書類作成支援である。
  • 本人・親族による自力申立ての余地を説明した。
  • 行政書士が内容形成に踏み込まないことを説明した。

弁護士連携

  • 親族間対立がある。
  • 財産使い込み疑い、通帳開示拒否、施設費滞納がある。
  • 虐待・経済的虐待の疑いがある。
  • 債務整理、訴訟、督促、差押えがある。
  • 申立代理や緊急保全が必要な可能性がある。

認定司法書士検討

  • 個々の請求ごとの訴額が140万円以下か確認した。
  • 簡易裁判所管轄事件等か確認した。
  • 複数請求や附帯請求の扱いに注意した。
  • 虐待・保全・強い対立がないか確認した。
  • 迷う場合は弁護士連携を優先した。

情報管理

  • 本人へ可能な範囲で説明した。
  • 本人同意、申立予定者等の同意を記録した。
  • 利益相反の疑いを確認した。
  • 要配慮個人情報の提供範囲を確認した。
  • マイナンバー記載資料を除外した。

資料送付

  • 送付先と送付方法を確認した。
  • 送付資料一覧を作成した。
  • 時系列表に評価語が混入していない。
  • マイナンバー混入時は復元不能に削除した。
  • 送付日時と受領確認を記録した。

14. 確認テスト

問1 司法書士へ連携する典型場面は何ですか。
親族間対立や緊急対応が大きくなく、家庭裁判所提出書類の作成支援が主な課題となる場面です。
問2 弁護士へ連携する典型場面は何ですか。
申立代理、親族間対立、財産使い込み疑い、虐待、債務整理、緊急保全、訴訟・調停・審判対応が必要となる場面です。
問3 行政書士が作成できる事実整理資料で注意する点は何ですか。
事実を客観的に整理し、事実の選択・強調・配列によって特定の法的結論を導かないことです。
問4 金融機関への照会で注意することは何ですか。
本人または正当な権限に基づく場合を除き、行政書士が代理人のように金融機関へ照会・請求しないことです。
問5 要配慮個人情報の扱いはどう整理しますか。
原則として明示的同意を得て、必要最小限の範囲で共有します。生命・身体・財産の保護のため緊急に必要で本人同意取得が困難な場合など、法令上の例外に該当する場合は、理由と範囲を記録します。
問6 マイナンバー資料の扱いはどうしますか。
原則として取得・保管・提供しません。やむを得ず含まれる場合は、番号部分を復元不能な方法で削除し、その状態でのみ取り扱います。

15. 次回への接続

今回の要点成年後見申立支援では、行政書士がすべてを抱えるよりも、本人の利益を中心に、司法書士・弁護士・福祉機関へ適切につなぐことが大切です。行政書士は、相談内容がまとまっていない段階から事実を整理し、同意確認、情報管理、連携記録を丁寧に残すことで、実務を安全に前へ進められます。

次回5-14では、市区町村長申立てが必要なケースを扱います。親族がいない、親族が協力できない、虐待や搾取が疑われる、おひとりさま・おふたりさま案件で支援者が不足している場合の、市区町村・地域包括支援センターとの連携を整理します。

ご相談について成年後見申立ての準備は、本人の状況、親族関係、財産資料、医療・介護状況、福祉機関の関与によって確認事項が変わります。相談内容がまとまっていなくても大丈夫です。まずは現在の状況を伺い、必要な確認事項を一緒に整理します。

法令・制度確認:行政書士法、認定司法書士の簡裁訴訟代理等関係業務、要配慮個人情報、特定個人情報の取扱いを確認しています。

行政書士実務マニュアル|成年後見申立支援業務 第5-13回

本ページは教育・研修目的で作成されています。個別案件では最新の法令・公的資料・所属会規程・専門家判断を確認してください。

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