AI導入を検討するとき、「どのAIツールを使うか」は比較的話し合いやすい一方で、「導入後に業務をどう変えたいのか」は言葉にしにくいことがあります。現在の不便さは感じていても、それを社内説明用の資料や投資判断に使える形へ落とし込むには、整理の型があると進めやすくなります。このセクションでは、AI導入や業務改善の検討でよく使われる As-Is/To-Be の考え方を使い、現在の業務と目指す業務を分けて整理する方法を学びます。
このセクションで学ぶこと
- As-Isは現在の業務の姿、To-Beは目指す業務の姿として整理できること
- 現状の課題だけでなく、現在うまく回っている部分も確認すること
- To-Beを「AIを使うこと」ではなく「業務がどう進みやすくなるか」で考えること
- As-IsとTo-Beの差分を、時間・コスト・品質・リスクの観点でも整理すること
- AIツールに入力する情報について、個人情報・秘密情報・クラウド利用規約を確認すること
- 最初から完璧な理想像を作ろうとせず、仮のTo-Beから始めてもよいこと
想定学習時間は15分程度です。前回までに学んだ「入力・判断・処理・出力」の分解を前提に、今回は現状と理想の整理へ進みます。
基本解説:As-Is/To-Beとは何か
As-Is とは、現在の業務の姿を整理したものです。今、誰が、どの情報を使い、どのような判断や処理を行い、どのような成果物を出しているのかを確認します。日本語では「現状」や「現在の姿」と表現すると分かりやすいでしょう。
一方、To-Be とは、目指す業務の姿を整理したものです。AI導入後や業務改善後に、業務がどのように進むとよいのか、担当者の負担がどこで軽くなるのか、判断や確認がどのようにしやすくなるのかを考えます。日本語では「目指す姿」や「理想の姿」と表現できます。
AI導入の場面では、As-Is/To-Beを使うことで、「今の業務をそのままAIに置き換える」のではなく、「現在の業務を理解したうえで、どのように進めやすくするか」を考えやすくなります。経済産業省のDX関連資料でも、データとデジタル技術の活用は、単なるIT化ではなく、業務、組織、プロセス、企業文化・風土の変革と結びつけて説明されています。
つまり、AI導入は「便利なツールを追加すること」だけではありません。業務の流れを見直し、必要なデータを確認し、人の判断や責任の位置を明確にする取り組みでもあります。As-Is/To-Beは、その検討を始めるための実務的な整理方法です。
図解:As-Is/To-Beで整理する基本の流れ
AI導入でAs-Is/To-Beを整理する際は、現在の業務を確認し、目指す姿を仮置きし、その差分から検討テーマを見つけます。
この図で読み取るポイントは、As-IsとTo-Beを分けて考えることです。現状の延長だけで考えすぎず、かといって現場の実態から離れすぎないことが大切です。
As-Isは「問題点リスト」だけではありません
As-Isを整理するとき、つい「時間がかかっている」「属人化している」「確認が大変」といった不便さに目が向きます。もちろん、課題の整理は重要です。ただし、現在の業務には、これまでの工夫によってうまく回っている部分もあります。
たとえば、営業会議後の議事録作成であれば、担当者が時間をかけて録音を聞き直していることは負担かもしれません。一方で、その担当者が「重要な発言」「次回までの宿題」「顧客への伝え方」を丁寧に整理しているため、会議後の認識ずれが少なくなっている可能性もあります。
AI導入を検討する際は、このような現在の良い点も確認しておくと、To-Beを考えるときに役立ちます。現状業務の良い部分を残しながら、負担が大きい部分や時間がかかっている部分を見直すという考え方がしやすくなります。
To-Beは「AIを使うこと」ではなく「業務が進みやすくなること」
AI導入の検討では、「議事録作成にAIを使う」「問い合わせ対応にAIを使う」「資料作成にAIを使う」といった表現になりがちです。これは入口としては分かりやすいのですが、To-Beとしては少し粗い整理です。
To-Beを考えるときは、「AIを使うかどうか」よりも、「業務がどのように進みやすくなるか」に注目します。たとえば、営業会議後の議事録作成であれば、「AIが議事録を完全に作る」ではなく、「録音データや会議資料をAIツールに入力し、AIが要約案を作り、担当者が重要事項や表現を確認して、短時間で共有できる状態」を目指す姿として考えます。
このように考えると、AIの役割と人の役割を分けやすくなります。AIは下書きや整理を支援し、人は内容の確認、判断、社内外に出す表現の調整を担う、といった形です。なお、AIによる出力結果の正確性は保証されないため、最終的な内容確認および対外的な責任は人が負う前提で運用します。
差分は定性的な表現だけでなく、数字でも確認する
As-Is/To-Beを社内検討資料に落とし込む場合は、「大変である」「早くなる」「便利になる」といった定性的な表現だけでなく、できる範囲で数字に置き換えることが大切です。経営者や責任者が投資判断を行う際には、業務時間、担当者数、発生頻度、人件費換算、確認工数、手戻り件数などの情報があると、AI導入の優先順位を判断しやすくなります。
たとえば、議事録作成に1回あたり90分かかり、月に20回発生している場合、月間30時間の作業が発生していることになります。AI導入後に、AIの要約案をもとに確認・修正する形へ変わり、1回あたり45分で済む見込みであれば、月間15時間の削減余地が見えてきます。ここに担当者の概算人件費やツール利用料を重ねると、ROI、つまり投資対効果の検討に近づけることができます。
ただし、初期段階から厳密な効果測定を行う必要はありません。まずは「どの業務が、どの頻度で、どれくらいの時間を使っているか」を概算で整理してみるだけでも、社内説明の材料になります。
図解:差分を数字で見ると投資判断に近づく
As-Is/To-Beの差分は、業務時間、発生頻度、確認工数、コストに分けると、経営者・責任者に説明しやすくなります。
この図で読み取るポイントは、数字を「正確な約束」として扱うのではなく、検討の優先順位を決めるための仮説として使うことです。
実務での考え方:営業会議後の議事録作成を例に整理する
ここでは、営業会議後の議事録作成を例に、As-Is/To-Beの整理を見ていきます。営業部門だけでなく、企画部門や管理部門でも、会議後のメモ作成、要点整理、関係者への共有はよくある業務です。
現在は、担当者が録音を聞き直し、会議内容を文章にまとめ、上司や関係者に確認してから共有しているとします。この状態をそのまま「AIで自動化したい」と表現するのではなく、まずはAs-Isとして分解します。
| 整理項目 | As-Is:現在の姿 | To-Be:目指す姿 | 差分から見える検討テーマ |
|---|---|---|---|
| 入力 | 会議録音、担当者のメモ、会議資料をもとにする | 録音データや会議資料をAIツールに入力し、要約案作成に使える | 録音や資料をどこまでAIツールに入力できるか、情報管理のルールを確認する。個人情報保護法上の利用目的、安全管理措置、第三者提供該当性、秘密情報・営業秘密の取扱い、社内規程、契約上の守秘義務、クラウドAI利用時のデータ保存先・再利用有無・学習利用の有無を確認する |
| 判断 | 担当者が重要発言、決定事項、宿題を判断している | AIが候補を抽出し、担当者が重要度や表現を確認する | AIに任せる整理と、人が確認する判断を分ける。AI出力は下書きとして扱い、最終確認責任を人に置く |
| 処理 | 担当者が録音を聞き直しながら文章化する | AIが要約案を作り、担当者が修正する | 下書き作成にかかる時間をどれくらい減らせるかを、1回あたり時間と月間発生回数で概算する |
| 出力 | 議事録をメールや社内ツールで共有する | 確認済みの議事録を、早いタイミングで関係者に共有できる | 共有先、確認者、記録の残し方、共有までの所要時間を整理する |
| 評価 | 作業負担は感じているが、時間・コストとしては整理されていない | 削減見込み時間、確認時間、ツール費用、教育工数を概算して比較できる | ROIを厳密に計算する前段階として、月間削減時間、概算人件費、運用コストを把握する |
この表から分かるように、To-Beは「AIがすべて自動で完了する状態」とは限りません。むしろ、AIが要約案を作り、人が確認することで、品質を保ちながら業務を進めやすくする形が現実的な出発点になります。
また、AIツールに録音データや会議資料を入力する場合は、情報管理の確認が欠かせません。個人情報が含まれる場合には、利用目的の範囲、安全管理措置、外部サービス利用時の整理が必要になります。クラウドサービスの利用が第三者提供または委託に該当するかは、サービスの形態や契約内容に応じて確認することになります。
さらに、会議資料には顧客情報、価格情報、提案方針、未公表の営業戦略など、秘密情報や営業秘密に関係する内容が含まれることがあります。社内規程や契約上の守秘義務を踏まえ、どの情報をAIツールに入力してよいかをあらかじめ確認しておくと、運用を設計しやすくなります。
時間・コストの概算を入れると、社内説明がしやすくなる
As-Is/To-Beを業務改善の資料にする場合は、できる範囲で時間とコストの概算を加えると、経営者や責任者が判断しやすくなります。ここでは、議事録作成を例にした簡単な整理を見てみましょう。
| 項目 | As-Is:現在 | To-Be:導入後の仮説 | 確認したいこと |
|---|---|---|---|
| 1回あたり作業時間 | 録音確認、文章化、整形で90分 | AI要約案の確認・修正で45分 | 実際に何分短縮できるかを試行時に測る |
| 月間発生回数 | 月20回 | 月20回 | 対象会議をどこまで広げるかを決める |
| 月間作業時間 | 90分 × 20回 = 30時間 | 45分 × 20回 = 15時間 | 月15時間の削減余地があるかを確認する |
| 概算コスト | 担当者の時間単価 × 30時間 | 担当者の時間単価 × 15時間 + AIツール費用 + 確認・教育工数 | 削減時間と導入・運用費を比較する |
| 品質・リスク | 担当者の経験により品質が保たれている | AIの下書きを人が確認し、品質を維持する | 誤要約、情報漏えい、確認漏れを防ぐ運用を決める |
このような概算は、投資判断のための正式なROI算定ではありません。しかし、AI導入の初期検討では、「どの業務に効果がありそうか」「どの部署から試すとよいか」「導入後に何を測ればよいか」を考える材料になります。
As-IsとTo-Beの差分が、AI導入テーマになりやすい
As-IsとTo-Beを並べると、両者の間にある差分が見えてきます。この差分は、AI導入や業務改善で検討すべきテーマになりやすい部分です。
たとえば、「担当者が録音を何度も聞き直している」というAs-Isに対して、「AIが要約案を作り、担当者は確認と修正に集中する」というTo-Beを置くと、差分は「下書き作成の負担をどう減らすか」になります。ここで、音声認識、要約、確認フロー、情報管理、削減見込み時間といった検討項目が具体化していきます。
反対に、As-Isを整理しないままツール選定に進むと、導入後に「便利そうだが、どの業務に効いているのか説明しにくい」という状態になりやすくなります。まずは現在の状況を整理してみることで、社内で説明しやすい検討材料を作ることができます。
To-Beは仮置きから始めてもよい
To-Beを考えるときに、「最初から正しい理想像を作らなければならない」と考える必要はありません。特にAI導入の初期検討では、使えるデータ、社内ルール、現場の運用、利用者の慣れなどによって、実現できる形が変わることがあります。
そのため、最初は「仮のTo-Be」として整理して構いません。たとえば、「AIが議事録の要約案を作り、人が確認して共有する」という大まかな姿を置き、後から情報管理、確認者、運用ルール、費用対効果を確認しながら調整していく進め方です。
仮のTo-Beがあると、関係者との会話がしやすくなります。「この部分はAIに任せてもよさそう」「ここは人の判断が必要」「この情報はAIに入力してよいか確認が必要」「削減効果を測るならどの時間を見るべきか」といった論点が見えやすくなるためです。
よくあるつまずき
As-Is/To-Beは分かりやすい考え方ですが、実務で使うときにはいくつかつまずきやすい点があります。ここでは、AI導入検討の初期段階で確認しておくとよい観点を整理します。
つまずき1:現状の不満だけを並べてしまう
現状整理を始めると、「時間がかかる」「手作業が多い」「確認が大変」といった不満が多く出てくることがあります。これらは大切な情報ですが、それだけでは業務全体の姿が見えにくくなります。
あわせて、「現在うまく回っている点」「現場が工夫している点」「品質を保つために人が見ている点」も整理しておくと、AI導入後に残すべき部分が分かりやすくなります。現状の良い点を確認することは、現場の納得感にもつながります。
つまずき2:To-Beがツール名や機能名になってしまう
「生成AIを使う」「議事録AIを入れる」「チャットボットを導入する」といった表現は、To-Beそのものではありません。これらは手段や候補であり、目指す業務の姿とは少し違います。
To-Beでは、「誰のどの作業が進めやすくなるのか」「確認や判断はどこで行うのか」「成果物の品質をどのように保つのか」を言葉にします。ツール名ではなく、業務の流れで表現すると、社内検討資料にも落とし込みやすくなります。
つまずき3:完全自動化を理想像にしてしまう
AI導入という言葉から、「人が関わらなくても完了する状態」を想像することがあります。しかし、実務では、すべてを完全自動化するよりも、AIが下書きや候補を作り、人が確認する形の方が始めやすい場合があります。
特に、社外に共有する資料、顧客に関係する内容、社内意思決定に使う情報では、人による確認が重要です。AI出力には誤りや抜け漏れが含まれる可能性があるため、To-Beを描く際には、人が確認する位置と最終責任の所在をあらかじめ入れておくと、運用を考えやすくなります。
つまずき4:情報管理の確認を後回しにしてしまう
AIツールを使う場合、入力する情報の範囲を確認することが重要です。会議録音や会議資料には、個人情報、顧客情報、営業上の秘密、契約上の守秘義務がかかる情報が含まれていることがあります。
特にクラウド型のAIツールでは、入力データがどこに保存されるのか、サービス提供者がデータを再利用するのか、学習に使われるのか、契約上どのように扱われるのかを確認しておくと安心です。利用規約、管理者設定、法人向け契約、社内規程をあわせて確認し、必要に応じて法務・情報システム・セキュリティ部門と相談しながら進めるとよいでしょう。
つまずき5:定量化しないまま期待だけが広がってしまう
AI導入の検討では、「業務が楽になりそう」「効率化できそう」という期待が先行することがあります。期待を持つこと自体は自然ですが、社内で判断するには、対象業務の発生頻度や作業時間を確認しておくと説明しやすくなります。
たとえば、1回あたりの削減時間が大きくても、年に数回しか発生しない業務であれば、投資優先度は高くないかもしれません。反対に、1回あたりの削減時間は小さくても、毎日多くの担当者が行っている業務であれば、全体の効果は大きくなる可能性があります。
つまずき6:To-Beを細かく決めようとして止まってしまう
To-Beは、最初から細部まで確定させる必要はありません。むしろ初期段階では、業務の大まかな方向性を共有するための仮説として使う方が実務的です。
「現在は担当者がすべて作成しているが、将来はAIが案を作り、担当者は確認に集中する」といった表現でも、最初の整理としては十分役立ちます。その後、実際のデータ、ルール、利用者の声、削減時間、運用コストを確認しながら、少しずつ具体化していきます。
経営者・責任者向けの確認ポイント
経営者や責任者の立場では、AI導入によって現状業務がどのように改善されるのかを把握することが重要です。As-Is/To-Beを使うと、単なるツール導入ではなく、業務上の変化として説明を受けやすくなります。
また、DXやBPRの議論では、デジタル技術の活用を業務や組織の見直しとあわせて考える視点が重視されます。AI導入でも同じように、「ツールを入れる」だけでなく、「業務のどこを変え、どの効果を見込むのか」を確認しておくと、投資判断や優先順位づけがしやすくなります。
社内判断に使いやすい確認観点
- 現在、どの業務に時間や確認負担が集中しているか
- 対象業務は、月に何回、何人、何時間発生しているか
- 現在の業務で、品質や信頼性を支えている人の判断はどこにあるか
- AI導入後に、担当者の作業時間だけでなく、確認・共有・判断の流れがどう変わるか
- AIに任せる部分と、人が確認する部分が分けられているか
- AIツールに入力する情報について、個人情報、秘密情報、契約上の守秘義務、クラウド利用規約を確認しているか
- 削減見込み時間、AIツール費用、教育工数、運用管理コストを概算できるか
- 現場が納得しやすい小さな改善テーマから始められるか
- To-Beが「ツール導入」ではなく「業務の進み方」として説明されているか
経営判断では、AIで何ができるかだけでなく、自社の業務にどのような変化が起きるかを確認することが大切です。As-IsとTo-Beが整理されていると、投資判断、優先順位、関係部署との調整を進めやすくなります。
また、現状の良い点が見えているかも確認しておくとよいでしょう。現場が長年工夫してきた確認手順や共有方法を尊重しながら、負担の大きい部分を見直すことで、導入後の運用も考えやすくなります。
ROIを考える前に、まず見るべき数字
AI導入の投資判断では、最終的にROIを確認する場面があります。ただし、初期検討では、いきなり精緻な投資対効果を出そうとするよりも、次のような基本的な数字をそろえるところから始めると進めやすくなります。
| 確認する数字 | 見方 | 議事録作成での例 |
|---|---|---|
| 作業時間 | 1回あたり何分かかっているか | 1回90分 |
| 発生頻度 | 月に何回発生しているか | 月20回 |
| 関係人数 | 何人が同じ作業をしているか | 営業部内で3人が交代対応 |
| 削減見込み | To-Beで何分程度にできそうか | AI要約案の確認・修正で45分 |
| 導入・運用費 | ツール費用、教育、管理、確認の工数を含める | 月額利用料、管理者設定、利用ルール作成、研修時間 |
| 品質・リスク | 時間短縮だけでなく、誤りや情報管理上の影響も見る | 誤要約の確認、顧客情報の入力制限、対外共有前の承認 |
こうした数字は、あくまで仮説として置くものです。実際の導入前後で測ると、想定より効果が大きい部分もあれば、確認工数が増える部分も見えてきます。初期段階では、数字を使って「検討すべき業務の優先順位」を決めることが目的です。
AI導入支援者としての着眼点
AI導入コンサルタントや支援者を目指す方にとって、As-Is/To-Beは顧客との対話を整理するための基本的なフレームになります。支援者の役割は、顧客の言葉をそのまま受け取るだけでなく、業務の流れ、判断、成果物、情報管理、定量的な差分に分けて整理し、検討しやすい形にすることです。
ヒアリングでは「困りごと」と「残したい価値」を分けて聞く
顧客は、「この作業が大変です」「AIで自動化できませんか」と相談することがあります。その際は、すぐにツールや機能の話に入るのではなく、現在の業務がどのように行われているかを確認します。
たとえば、議事録作成であれば、「誰が録音を聞いているのか」「何を重要事項として残しているのか」「誰が確認しているのか」「議事録がどの意思決定に使われるのか」を聞きます。同時に、「現在のやり方で良い点は何か」「変えたくない点はあるか」も確認します。
時間・頻度・コストを穏やかに確認する
支援者は、顧客の負担感を聞くだけでなく、できる範囲で数字を確認すると提案の説得力を高めやすくなります。たとえば、「この作業は1回あたり何分くらいかかりますか」「月に何回くらい発生しますか」「何人の方が同じ作業をしていますか」といった質問です。
ここで大切なのは、最初から正確な数字を求めすぎないことです。顧客がすぐに答えられない場合は、「まずは概算で大丈夫です」「次回までに代表的なケースだけ確認しましょう」と伝えると、現場も整理しやすくなります。
情報管理の確認は、早い段階で論点化する
AI導入支援では、業務効率化の話だけでなく、入力する情報の扱いも早い段階で確認します。会議録音、顧客とのやり取り、提案資料、社内の売上情報などは、個人情報や秘密情報に該当する可能性があります。
支援者は、「AIに入れてよい情報か」「匿名化やマスキングが必要か」「クラウドAIの利用規約上、入力データが保存・再利用・学習利用されるか」「法人契約や管理者設定で制御できるか」といった観点を整理します。法的な最終判断が必要な場合は、法務、情報システム、セキュリティ担当、外部専門家と連携する前提で進めるとよいでしょう。
To-Beは顧客が判断できる言葉に翻訳する
支援者が専門用語で説明しすぎると、顧客側で社内説明が難しくなることがあります。初級段階では、「AIが要約案を作る」「担当者が確認する」「関係者へ早めに共有する」「1回あたりの作業時間を90分から45分へ減らす仮説を置く」といった、業務の言葉でTo-Beを表現することが有効です。
また、To-Beを一つに決め打ちするのではなく、複数の案として示すこともあります。たとえば、「まずは下書き作成の支援から始める案」「会議後のタスク抽出まで含める案」「社内共有テンプレートまで整える案」のように段階を分けると、顧客が検討しやすくなります。
支援者として大切なのは、「AIを入れるかどうか」だけを問うのではなく、「現在の業務をどう理解し、どのような姿に近づけると現場が進めやすいか」を一緒に整理する姿勢です。あわせて、時間・コスト・情報管理・人の最終確認責任を、初期段階から検討テーマに含めておくと、実務に耐える提案になりやすくなります。
ミニチェックリスト
自社でAs-Is/To-Beを整理するときは、次の項目を確認してみてください。資料がそろっていない段階でも、業務の流れから整理できます。
- 現在の業務について、入力・判断・処理・出力の流れを簡単に説明できる
- 現在の不便さだけでなく、うまく回っている部分も書き出している
- To-Beを「AIを使うこと」ではなく「業務がどう進みやすくなるか」で表現している
- AIに任せたい部分と、人が確認した方がよい部分を分けて考えている
- AI出力の正確性は保証されない前提で、最終確認責任の所在を整理している
- AIツールに入力する情報について、個人情報、秘密情報、守秘義務、クラウド利用規約を確認している
- 1回あたり作業時間、月間発生回数、関係人数を概算で把握している
- 削減見込み時間、AIツール費用、教育・運用工数を比較する視点を持っている
- As-IsとTo-Beの差分から、検討すべきテーマをいくつか挙げている
- To-Beを最初から完璧に決めようとせず、仮の理想像として整理している
まとめ:現在の姿と目指す姿を分けると、AI導入の論点が見えやすくなる
今回は、AI導入時に使いやすいAs-Is/To-Beの考え方を確認しました。As-Isは現在の業務の姿、To-Beは目指す業務の姿です。両者を分けて整理すると、現状のどこに負担があり、どこを変えると業務が進めやすくなるのかを説明しやすくなります。
大切なのは、As-Isを課題だけで捉えないことです。現在うまく回っている部分、現場が工夫している部分、人の判断によって品質が保たれている部分も確認しておくと、AI導入後に残すべき価値が見えやすくなります。
また、To-Beは「AIを使うこと」そのものではありません。AIを活用した結果、業務がどう進みやすくなるのか、担当者や責任者が何を確認しやすくなるのかを言葉にすることが重要です。AIによる出力結果は下書きや候補として扱い、最終的な内容確認および対外的な責任は人が負う前提で運用を設計します。
さらに、As-IsとTo-Beの差分は、時間・コスト・品質・リスクの観点でも確認しておくと、社内で説明しやすくなります。1回あたり作業時間、月間発生回数、関係人数、削減見込み、AIツール費用、教育・運用工数を概算で整理するだけでも、投資判断の入口になります。
最初から完璧な理想像を描く必要はありません。できる範囲から仮のTo-Beを置き、関係者と確認しながら具体化していくと、検討を進めやすくなります。次回は、現在の業務をそのまま自動化するのではなく、BPRとして業務そのものを見直す考え方を扱います。今回整理したAs-Is/To-Beは、その次の検討に進むための土台になります。
参考情報
- 経済産業省「産業界のデジタルトランスフォーメーション(DX)」
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」
- 経済産業省「営業秘密管理指針」「営業秘密を守り活用する」
関連講座・情報
HANAWA行政書士事務ai-LABでは、AI導入を業務改革・データ活用・組織設計・リスク管理の観点から整理するための講座を公開しています。講座一覧は、HANAWA行政書士事務ai-LABをご覧ください。
AI導入や業務改革に関する基礎知識を確認したい方は、AIナレッジ集もあわせてご参照ください。現在の状況がまとまっていない段階でも、業務の流れを整理するところから検討を始められます。