委任契約書で事故を防ぐ|不服申立て・情報開示請求の業務範囲の切り方
不服申立てや情報開示請求の相談では、最初は小さな相談に見えても、補正、追加資料、反論書、開示後の対応へ広がることがあります。この記事では、特定行政書士が受任時に委任契約書で業務範囲を明確にし、後のトラブルを防ぐ考え方を実務手順で整理します。
委任契約書で書いていない仕事が、受任後のトラブルになる
この章で扱う主なポイント
- 特定行政書士になりたての人ほど「どこまでやるか」を曖昧にしやすい
- 不服申立て・情報開示請求は、相談後に業務が膨らみやすい
- 契約書は依頼者を縛るためではなく、業務の前提を共有するために使う
委任契約書で最初に意識したいのは、「依頼者に何を約束するのか」を明確にすることです。とくに不服申立てと情報開示請求は、提出して終わるとは限りません。受任前に範囲を言語化できれば、依頼者も行政書士も同じ前提で進めやすくなります。
特定行政書士になりたての人ほど「どこまでやるか」を曖昧にしやすい
特定行政書士になりたての時期は、依頼者のためにできる限り対応したい気持ちが先に立ちやすいものです。ただし、相談対応、書類作成、代理提出、補正対応、提出後の意見書作成を同じ業務として扱うと、後から作業量と報酬の認識がずれやすくなります。不服申立てについては、特定行政書士なら広く代理できるわけではなく、当該特定行政書士が自ら作成した官公署提出書類に係る許認可等に関するものかを契約前に確認します。
不服申立て・情報開示請求は、相談後に業務が膨らみやすい
最初は「審査請求書を作ってほしい」「行政文書を見たい」という相談でも、実務では補正、追加資料、弁明書への反論、開示実施、不開示決定後の検討へ進むことがあります。業務が広がること自体は自然ですが、どこから追加業務になるのかを事前に決めていないと説明が難しくなります。契約書では、提出まで、提出後の行政庁対応、後続手続を分けて書くことが大切です。
契約書は依頼者を縛るためではなく、業務の前提を共有するために使う
委任契約書は、依頼者に不利な条件を並べる書面ではありません。今回の手続で何を行い、何を別途協議にし、どの業務は行政書士が扱えないのかを共有する書面です。たとえば「審査請求書の作成・提出代理までは含むが、弁明書に対する反論書は別途見積り」と書けば、後から落ち着いて説明できます。相談内容がまとまっていなくても、まず現在の状況を伺い、必要な確認事項を一緒に整理できます。
委任契約書で最初に決めるべき3つの範囲
この章で扱う主なポイント
- 対象手続を「不服申立て」「情報開示請求」「関連相談」に分けて書く
- 対象行政庁・対象処分・対象文書を特定して、受任範囲を狭めすぎず広げすぎない
- 相談、書類作成、代理提出、補正対応、提出後対応を別々に整理する
最初に決めるのは、何の手続について、どこまで対応するかです。不服申立てと情報開示請求は関連することがあっても別の手続です。契約書でも、対象と作業内容を分けると実務で使いやすくなります。
対象手続を「不服申立て」「情報開示請求」「関連相談」に分けて書く
「行政手続対応業務」や「不服申立て等一式」と書くと、範囲が広く見えます。不服申立てなら「当事務所が作成した○○申請に係る○年○月○日付け不許可処分に関する審査請求書の作成及び提出代理」といった形で、元の申請と対象処分を結び付けます。情報開示請求なら、対象機関、対象文書、作成・提出代理または提出代行の別を記載します。
対象行政庁・対象処分・対象文書を特定して、受任範囲を狭めすぎず広げすぎない
不服申立てでは対象行政庁と対象処分、情報開示請求では対象機関と対象文書が軸になります。対象が曖昧だと「この処分も含まれる」「別部署にも出したい」と広がりやすくなります。一方で狭く書きすぎると、文書特定のための事前整理まで契約外になりかねません。目的と対象を両方示し、必要な調査範囲も書いておくと運用しやすくなります。
相談、書類作成、代理提出、補正対応、提出後対応を別々に整理する
相談、書類作成、代理提出、提出代行、補正対応、提出後対応は、負担も責任も異なります。不服申立てでは代理権がある場合に限り、提出代理として契約します。情報開示請求では、制度や自治体により代理人として請求できる場合と、本人名義の書類作成・提出代行にとどまる場合があります。契約書では「代理」と「代行」を混同しないことが重要です。
不服申立て案件で業務範囲を切る5つの確認ポイント
この章で扱う主なポイント
- その不服申立てが特定行政書士の業務範囲に入るかを確認する
- 行政書士が作成した官公署提出書類に係る許認可等かを確認する
- 審査請求・再調査請求・再審査請求は個別法と教示で確認する
- 処分通知書、教示文、申請書控え、審査基準を受任前資料に入れる
- 不作為案件では標準処理期間と申請到達日を確認する
不服申立てでは、契約書を作る前に受任できる手続かを確認します。特定行政書士の代理範囲は、行政書士法上の要件に基づいて慎重に判断します。
その不服申立てが特定行政書士の業務範囲に入るかを確認する
依頼者から見ると行政への不満は同じに見えますが、特定行政書士が代理できる不服申立てには法令上の限界があります。確認の順番は、対象が行政庁への不服申立てか、許認可等に関するものか、当該特定行政書士が自ら作成した官公署提出書類に係るものか、他法令で制限される業務ではないか、個別法上の手続選択に問題がないか、という流れです。
審査請求、再調査の請求、再審査請求等に該当するかを確認します。
処分通知書、教示、根拠法令で対象を確認します。
本人申請、他人作成申請に係る処分は代理受任の対象にしません。
訴訟代理、示談交渉、法律事件の代理行為は含めません。
行政書士が作成した官公署提出書類に係る許認可等かを確認する
ここは単なる確認事項ではなく、代理受任の絶対条件です。特定行政書士が不服申立てを代理できるのは、自分または自事務所が作成した官公署提出書類に係る許認可等に関する不服申立てに限られます。他の行政書士、本人、他士業、第三者が作成した申請に基づく不許可処分について、特定行政書士として代理することはできません。契約書にも「当事務所が作成した○○申請に係る○○処分」と明記します。
審査請求・再調査請求・再審査請求は個別法と教示で確認する
審査請求、再調査請求、再審査請求は一括りにしないことが重要です。行政不服審査法を出発点にしつつ、どの手続を選べるかは個別法、施行令、施行規則、処分通知の教示で確認します。再調査請求や再審査請求は、一般論で断定せず、契約書にも「関係法令及び教示の確認後に確定する」と書くと安全です。
処分通知書、教示文、申請書控え、審査基準を受任前資料に入れる
受任前資料には、処分通知書、教示文、申請書控え、添付資料、行政庁とのやり取り、審査基準、標準処理期間を入れます。さらに、元の申請書類を当該特定行政書士または自事務所が作成したことを確認できる記録も必要です。お手元に資料があれば確認がスムーズですが、資料がそろっていない段階でも、まず何を確認した方がよいかを整理できます。
不作為案件では標準処理期間と申請到達日を確認する
不作為案件では、返事がないという事実だけでなく、申請がいつ到達し、標準処理期間がどう定められているかを確認します。受付印、電子申請の受付番号、補正依頼の有無、行政庁との連絡記録を整理します。不作為案件でも、代理できるのは自ら作成した官公署提出書類に係る申請に関するものに限られます。契約書にもこの前提を入れます。
情報開示請求案件で業務範囲を切る4つの確認ポイント
この章で扱う主なポイント
- 情報公開請求と個人情報開示請求を混同しない
- 対象文書・対象期間・保有機関を契約書に明記する
- 開示請求書の作成までか、不開示決定後の不服申立てまで含むかを分ける
- 開示実施、写しの取得、第三者情報対応は追加業務にするか事前に決める
情報開示請求では、制度により請求できる人、本人確認、代理人確認、手数料、様式が変わります。契約書では、制度名と対象文書に加え、代理か提出代行かを正確に書き分けます。
情報公開請求と個人情報開示請求を混同しない
行政文書の公開を求める情報公開請求と、本人の保有個人情報の開示を求める手続では、制度の目的も確認資料も異なります。個人情報開示では本人、法定代理人、任意代理人の確認が重要です。任意代理人による請求が可能な制度でも、本人確認や委任状、本人意思の確認が求められることがあります。契約書では、どの制度を扱うのかを明記します。
対象文書・対象期間・保有機関を契約書に明記する
対象文書、対象期間、保有機関は業務範囲の中心です。「○○市○○課が保有する、令和○年度○○事業に関する決裁文書、通知文、協議記録」のように具体化します。文書名が分からない場合は、対象文書の特定に必要な事前整理を含める形にできます。代理人請求なら代理権限の範囲を、提出代行なら本人名義の請求であることを書きます。
開示請求書の作成までか、不開示決定後の不服申立てまで含むかを分ける
開示請求書の作成と、不開示決定後の不服申立ては分けて契約します。前者は対象文書、請求先、様式、手数料、本人確認が中心です。後者は不開示理由、部分開示の可否、審査請求期間、理由提示を検討します。契約書では「開示請求書の作成及び提出代理または提出代行を対象とし、不開示決定等への不服申立ては含まない」と整理できます。
開示実施、写しの取得、第三者情報対応は追加業務にするか事前に決める
開示決定後にも、閲覧、写しの交付、郵送費、開示実施申出書、第三者情報対応、取得文書の整理などがあります。これらを最初から含めるか、別途協議にするかを契約時に決めます。本人確認や代理権確認が必要な制度では、誰が開示実施を行うのかも確認します。「開示文書の分析や追加請求の検討は別途協議」と書けば、後の説明がしやすくなります。
ひな形に入れるべき7つの条項で事故を防ぐ
この章で扱う主なポイント
- 業務内容条項では「何をするか」を手続単位で書く
- 非受任範囲条項では「やらないこと」を明示する
- 追加業務条項では、補正・意見書・再提出・追加請求の扱いを決める
- 報酬条項では、着手金・成功報酬・実費・日当を分けて書く
- 依頼者協力条項では、資料提出と事実確認の責任を明確にする
- 期限管理条項では、受任前に経過した期間と資料不足のリスクを整理する
- 解除条項では、信頼関係が維持できない場合の終了方法を定める
委任契約書のひな形は、案件に合わせて調整して使います。不服申立て・情報開示請求では、条項ごとに実務上の意味を理解してから書くことが大切です。
業務内容条項では「何をするか」を手続単位で書く
業務内容条項では、「不服申立て対応」ではなく、「審査請求書の作成」「提出代理」「軽微な補正対応」のように作業単位で書きます。不服申立てでは、当事務所が作成した申請に係る処分であることも明記します。情報開示請求では、制度に応じて「提出代理」または「提出代行」を使い分けます。
非受任範囲条項では「やらないこと」を明示する
非受任範囲では、今回の契約に含めない業務と、法律上行政書士が扱えない業務を分けます。後者については「対応可能性を確認する」とは書かず、「弁護士法等により行政書士が取り扱うことはできません。必要が生じた場合は、弁護士等の適切な専門家を案内します」と明確にします。依頼者を突き放すのではなく、適切な窓口を示すための条項です。
追加業務条項では、補正・意見書・再提出・追加請求の扱いを決める
追加業務条項では、補正、弁明書への反論、意見書、口頭意見陳述、追加開示請求、不開示決定後の審査請求などを整理します。「通常の提出前確認は含むが、主張追加を伴う書面作成は追加業務」といった書き方が実務的です。口頭意見陳述等への関与は、代理権の範囲及び個別手続の規定に従う旨も入れておくと安全です。
報酬条項では、着手金・成功報酬・実費・日当を分けて書く
報酬条項では、着手金、書類作成報酬、提出代理または提出代行の報酬、成功報酬、実費、日当を分けます。不服申立てや情報開示請求では、結果を保証できません。成功報酬を設ける場合は、取消し、変更、部分開示など、何をもって成功とするかを慎重に定義します。郵送費、開示手数料、写しの交付費などの実費は別に示します。
依頼者協力条項では、資料提出と事実確認の責任を明確にする
依頼者協力条項では、必要資料の提出、事実関係の正確な説明、提出資料の内容確認を定めます。不服申立てでは、元の申請書類を自事務所が作成したことを確認できる資料も重要です。情報開示請求では、本人確認資料や委任状が必要になる場合があります。資料がそろっていない段階でも、確認した方がよい資料を一緒に整理できます。
期限管理条項では、受任前に経過した期間と資料不足のリスクを整理する
期限管理では、処分通知書、教示、行政庁からの通知を基準にします。相談時点ですでに時間が経っている場合は、受任前に経過した期間も記録します。契約書には「期限管理は依頼者から提供された書面及び行政庁からの通知に基づき行う」と書くとよいでしょう。本人に届く通知の共有ルールも決めておくと安心です。
解除条項では、信頼関係が維持できない場合の終了方法を定める
解除条項では、必要資料が提供されない、事実と異なる説明がある、違法または不当な対応を求められる、報酬や実費の支払いがない場合などを想定します。解除時の報酬精算、預かり資料の返還、提出済み書類の扱いも定めます。違法な代理交渉や他士業の独占業務に当たる依頼を受けた場合には、契約を継続できないことを明確にしておくと安全です。
業務範囲の書き方で変わる3つの実務リスク
この章で扱う主なポイント
- 「一式」「全部対応します」という表現は業務拡大の原因になる
- 「必要に応じて対応」と書くと追加費用を請求しにくくなる
- 「結果を保証する」ような表現は避け、手続支援の範囲で書く
契約書の言葉は、依頼者の期待に直結します。便利な言葉ほど範囲が広くなりやすいため、具体的な作業名に落とし込むことが大切です。
「一式」「全部対応します」という表現は業務拡大の原因になる
「不服申立て一式」「開示請求全部対応」は安心感がある一方、反論書、意見書、口頭意見陳述、開示後分析、訴訟検討まで含まれるように読まれかねません。さらに不服申立てでは、自ら作成していない申請に係る処分まで代理できるような誤解を招きます。使う場合は、必ず内訳を列挙し「本契約に含まれる業務は次に限る」と書きます。
「必要に応じて対応」と書くと追加費用を請求しにくくなる
「必要に応じて対応」は、誰が必要性を判断するのかが曖昧です。依頼者が必要と考えれば、追加費用なしで対応してもらえると受け止められることがあります。「軽微な補正は含む。ただし、新たな主張整理、追加資料収集、反論書又は意見書の作成は別途見積り」と書く方が明確です。必要性ではなく作業内容で線引きします。
「結果を保証する」ような表現は避け、手続支援の範囲で書く
不服申立てや情報開示請求では、裁決や開示決定そのものを行政書士が支配できるわけではありません。「必ず取消しにします」「開示させます」といった表現ではなく、「資料確認、手続選択、主張整理、書類作成、適法な範囲での提出代理または提出代行」と書きます。結果ではなく、専門家として行う作業と判断材料を示すことが信頼につながります。
非受任範囲を明記しておくべき6つの場面
この章で扱う主なポイント
- 訴訟、行政事件訴訟、裁判所提出書類の作成は含めない
- 損害賠償請求、示談交渉、相手方との紛争交渉は含めない
- 他士業の独占業務に当たる事項は含めない
- 受任時に確認していない別処分・別申請は含めない
- 再調査請求・再審査請求は、個別法確認後に別途判断する
- 不開示決定後の審査請求や訴訟対応は、最初の開示請求とは分ける
非受任範囲は、依頼者が期待しやすい業務ほど丁寧に書きます。今回の契約には含めない業務と、法律上行政書士が取り扱えない業務を区別すると、説明が柔らかく正確になります。
訴訟、行政事件訴訟、裁判所提出書類の作成は含めない
審査請求後に訴訟を視野に入れる依頼者もいます。ただし、行政事件訴訟や裁判所提出書類の作成、訴訟代理は行政書士の不服申立て業務とは別領域です。契約書には「行政事件訴訟その他裁判所に係属する手続、裁判所提出書類の作成及び訴訟代理は含まれない」と書きます。必要に応じて弁護士等への相談を案内します。
損害賠償請求、示談交渉、相手方との紛争交渉は含めない
依頼者が「損害を請求したい」「相手方と交渉してほしい」と希望することがあります。損害賠償請求、示談交渉、法律事件に関する代理交渉は、不服申立て書類の作成とは別です。相手方との交渉その他法律事件に関する代理行為は、弁護士法第72条に抵触するおそれがあるため、本契約に含めません。行政庁の処分に対する手続と区別して説明します。
他士業の独占業務に当たる事項は含めない
契約書には「他士業の独占業務(弁護士法、税理士法、司法書士法等により制限される業務)および裁判所提出書類の作成、示談交渉等は本契約の範囲外とし、これらが必要となった場合は専門の他士業を案内する」と書きます。許認可の不許可に関連して税務、登記、労務、損害賠償が出ることもあるため、最初から境界を示します。
受任時に確認していない別処分・別申請は含めない
依頼者が複数の処分や申請を抱えていることがあります。契約書では、対象処分を特定し、受任時に確認していない別処分、別申請、別年度、別行政庁に関する手続は含めないと書きます。特定行政書士の代理については、当該特定行政書士が自ら作成した申請に係る処分であることも必要です。対象ごとに契約を分ける意識が重要です。
再調査請求・再審査請求は、個別法確認後に別途判断する
再調査請求や再審査請求は、行政不服審査法上の制度として存在しても、具体的に利用できるかは個別法や教示で確認します。契約書には「要否及び可否は、関係法令、個別法、処分通知書及び教示の確認後に別途判断する」と記載します。これらの手続でも、自ら作成した官公署提出書類に係る許認可等に関するものかを別途確認します。
不開示決定後の審査請求や訴訟対応は、最初の開示請求とは分ける
情報開示請求では、不開示決定や部分開示決定の後に審査請求や訴訟を検討することがあります。しかし、開示請求書の作成と、不開示決定後の争い方は別業務です。最初の契約では「不開示決定等に対する審査請求は含まない」と書けます。不開示処分取消訴訟、国家賠償請求、示談交渉は行政書士業務としては扱わず、弁護士等に相談する領域です。
追加業務にするか最初から含めるかを決める5つの実務場面
この章で扱う主なポイント
- 行政庁から補正指示が来た場合
- 弁明書・反論書・意見書の提出が必要になった場合
- 口頭意見陳述・審理員手続への対応が必要になった場合
- 開示文書を見た後に追加請求や不服申立てを検討する場合
- 裁決・決定後に再度の申請や別手続を検討する場合
追加業務は、発生してから説明すると認識違いになりやすい部分です。受任時に起こり得る場面を共有し、当初報酬に含む範囲と別途見積りの範囲を決めておきます。
行政庁から補正指示が来た場合
補正には、軽微な誤字修正や添付書類の差替えもあれば、主張の組み替えや資料追加を伴うものもあります。契約書では「形式的又は軽微な補正は含む。ただし、新たな事実整理、資料収集又は主張追加を伴う補正は追加業務」と書くと分かりやすいです。補正内容が別手続や他士業領域に及ぶ場合は、対応範囲を改めて確認します。
弁明書・反論書・意見書の提出が必要になった場合
弁明書に対する反論書や意見書は、審査請求書とは別の書面作成業務です。弁明書の分析、事実確認、追加資料、主張構成の見直しが必要になります。契約書では「弁明書、反論書、意見書その他提出後に作成する書面は別途見積り」と整理できます。ただし、その対応も特定行政書士の代理権の範囲内で行えるものに限られます。
口頭意見陳述・審理員手続への対応が必要になった場合
口頭意見陳述や審理員手続への対応は、日程調整、資料整理、陳述内容の準備、当日の出席形態などを検討します。契約書では、含める場合でも事前打合せ回数、当日対応時間、陳述書面の作成範囲を具体化します。口頭意見陳述等への関与は、代理権の範囲及び個別手続の規定に従うため、発生時に確認する運用が安全です。
開示文書を見た後に追加請求や不服申立てを検討する場合
開示された文書を見て、別文書の存在、黒塗り部分、不存在決定への疑問が出ることがあります。追加請求や不服申立てを検討するには、文書の読み込み、不開示理由の確認、追加文書の特定が必要です。契約書では「開示文書の内容分析、追加請求の検討、不開示決定等に対する不服申立ては別途協議」と書くと、段階ごとの説明がしやすくなります。
裁決・決定後に再度の申請や別手続を検討する場合
裁決や決定後には、再申請、追加請求、別手続を検討することがあります。これらは新しい目的を持つ業務であり、報酬や資料確認も変わります。契約書では「裁決又は決定後の再申請、追加請求、別手続の検討及び書類作成は本契約に含まれない」と整理します。行政事件訴訟、国家賠償請求、示談交渉は非受任範囲として説明します。
依頼者説明で使える3ステップの受任前確認
この章で扱う主なポイント
- まず「今回受ける手続」を1つに絞って説明する
- 次に「含まれる業務」と「含まれない業務」を並べて確認する
- 最後に「追加業務になる場面」を契約前に共有する
委任契約書は、作成するだけでなく説明して初めて機能します。今回の手続、含まれる業務、含まれない業務、追加業務の順に確認すると、依頼者の理解が深まりやすくなります。
まず「今回受ける手続」を1つに絞って説明する
依頼者の相談内容が広い場合でも、受任時には今回扱う手続を1つに絞ります。「今回は当事務所が作成した○○申請に係る○○処分への審査請求です」「今回は○○文書の開示請求書作成及び提出代行です」と説明します。絞ることは対応を狭めるためではなく、確実に進めるための整理です。
次に「含まれる業務」と「含まれない業務」を並べて確認する
含まれる業務と含まれない業務は、表で見せると伝わりやすくなります。契約書の別紙にも転用できます。
| 業務フェーズ | 当初報酬に含む範囲 | 別途見積り | 非受任範囲 |
|---|---|---|---|
| 不服申立て | 処分・教示確認、当該特定行政書士が自ら作成した申請に係る審査請求書作成、提出代理 | 反論書、意見書、口頭意見陳述、審理員手続対応 | 他人作成申請に係る代理、行政事件訴訟、国賠請求、示談交渉 |
| 情報開示請求 | 開示請求書作成、提出代理又は提出代行、対象文書特定の事前整理 | 開示実施申出、写し取得、開示文書分析、追加請求検討 | 不開示処分取消訴訟、法律事件に関する代理交渉 |
| 提出後対応 | 軽微な受付確認、形式的補正 | 主張追加を伴う補正、反論書・意見書、開示後対応 | 他士業独占業務、損害賠償請求代理 |
最後に「追加業務になる場面」を契約前に共有する
追加業務は、発生してから説明するより、契約前に共有しておく方が納得につながります。補正、反論書、意見書、口頭意見陳述、追加開示請求、不開示決定後の審査請求、裁決後の再申請などが代表例です。「内容を確認したうえで、必要性、対応可否、費用を説明し、承諾をいただいてから対応します」と伝えると安心感があります。法律上扱えない業務は追加業務ではなく非受任範囲です。
提出後対応まで見据えた契約設計で押さえる4つの注意点
この章で扱う主なポイント
- 提出後の行政庁対応をどこまで含めるか決めておく
- 依頼者本人が対応する連絡と行政書士が対応する連絡を分ける
- 補正期限・反論期限・開示実施期限は契約後すぐ管理する
- 裁決・決定・開示後の次の手続は別契約にするか再見積りにする
提出後対応を曖昧にすると、行政庁からの連絡、補正、開示実施、反論書対応で認識違いが生じます。契約書には、提出後の窓口、期限、追加業務を入れておきます。
提出後の行政庁対応をどこまで含めるか決めておく
受付確認、補正連絡、追加資料の提出、照会への回答、開示実施の調整など、提出後の行政庁対応には幅があります。軽微な受付確認や形式的補正は当初業務に含めることもありますが、主張内容に関わる回答や追加書面の作成は別途協議が適切です。情報開示請求では、代理人としてやり取りできるか、本人名義の提出代行かも確認します。
依頼者本人が対応する連絡と行政書士が対応する連絡を分ける
行政庁からの連絡を誰が受けるかは契約書で明確にします。不服申立てでは、代理権がある案件なら行政書士が窓口になることがあります。情報開示請求では、本人確認や開示実施の関係で本人対応が必要な場面もあります。「行政庁から依頼者本人に通知又は連絡があった場合、速やかに行政書士へ共有する」と書くと期限管理に役立ちます。
補正期限・反論期限・開示実施期限は契約後すぐ管理する
契約後は、処分通知書や行政庁からの通知を基準に期限を管理します。口頭説明や記憶だけに頼らず、原本または写しで確認します。補正期限、反論書提出期限、口頭意見陳述、開示実施の申出、不開示決定後の不服申立て期間などを管理表に入れます。代理権がない情報開示請求では、本人に届く通知の共有が特に重要です。
裁決・決定・開示後の次の手続は別契約にするか再見積りにする
裁決、決定、開示後には、新しい判断が必要になります。再申請、追加請求、不開示部分への対応などは結果を見てから検討します。契約書では「裁決、決定又は開示後の次の手続は別途協議のうえ受任する」としておくと実務的です。ただし、行政事件訴訟、国家賠償請求、示談交渉、法律事件の代理行為は再見積りではなく非受任範囲です。
失敗例から学ぶ、委任契約書で避けるべき5つの書き方
この章で扱う主なポイント
- 「不服申立て対応一式」とだけ書いてしまう
- 「情報開示請求サポート」とだけ書いて対象文書を特定しない
- 追加業務の費用を決めずに補正や反論書対応を始めてしまう
- 依頼者の資料提出遅れを想定せずに期限管理を引き受けてしまう
- 他士業領域や訴訟対応まで期待される説明をしてしまう
委任契約書の問題は、特別なミスから起こるとは限りません。よく使う曖昧な言葉が、後から認識違いにつながります。
「不服申立て対応一式」とだけ書いてしまう
「不服申立て対応一式」では、反論書、意見書、行政庁連絡、裁決後対応まで含まれるように読まれます。さらに、特定行政書士の代理要件が見えません。「当事務所が作成した○○申請に係る○○処分についての審査請求書作成及び提出代理」と書き、元の申請、対象処分、作業内容を具体化します。
「情報開示請求サポート」とだけ書いて対象文書を特定しない
「情報開示請求サポート」では、何の文書を、どの機関に、どの期間について請求するのかが分かりません。対象行政庁、対象事業、対象期間、知りたい内容を整理し、契約書に反映します。あわせて、代理人として請求するのか、本人名義の書類作成と提出代行にとどまるのかも確認します。
追加業務の費用を決めずに補正や反論書対応を始めてしまう
補正や反論書対応は急ぎやすい場面ですが、追加費用を説明しないまま進めると後で説明しにくくなります。反論書や意見書は、弁明書の分析、資料確認、主張整理を伴う別業務です。対応が必要になった時点で、作業内容、期限、追加報酬、実費、対応可否を説明し、承諾を得てから進めます。
依頼者の資料提出遅れを想定せずに期限管理を引き受けてしまう
期限管理は、依頼者からの資料提供が前提です。処分通知書、教示文、行政庁からの連絡、本人確認書類が遅れると、正確な期限判断が難しくなります。契約書では「依頼者が必要資料を速やかに提出しない場合、期限内対応が難しくなることがある」と書きます。資料提出の影響を穏やかに説明しておくことが大切です。
他士業領域や訴訟対応まで期待される説明をしてしまう
「最後まで見ます」「全部対応します」という説明は、他士業領域や訴訟対応まで含まれる期待につながります。行政書士が対応できる範囲と、弁護士等の関与が必要な範囲を分けて説明します。「行政書士として対応できる範囲を整理し、必要な場合は適切な専門家への相談を案内します」と伝える方が、依頼者にとっても分かりやすいです。
まとめ:受任契約で書いていない仕事は、後から揉めやすい
この章で扱う主なポイント
- 委任契約書は、業務を増やすためではなく事故を防ぐために使う
- 不服申立て・情報開示請求では「対象」「期限」「追加業務」を必ず書く
- 特定行政書士の実務では、契約前の線引きが受任後の品質を決める
委任契約書は、受任後のトラブルを防ぐための実務上の土台です。対象手続、対象処分、対象文書、期限、提出後対応を具体的に書くことで、依頼者との認識違いを減らせます。
委任契約書は、業務を増やすためではなく事故を防ぐために使う
委任契約書の役割は、依頼者を縛ることではなく、安心して手続を進めるための前提を共有することです。何を依頼し、何を依頼していないのかが明確であれば、依頼者も行政書士も同じ方向を向いて進められます。法律上取り扱えない業務を契約に含めないことも、依頼者保護につながります。
不服申立て・情報開示請求では「対象」「期限」「追加業務」を必ず書く
不服申立てでは、対象処分だけでなく、当該特定行政書士が自ら作成した官公署提出書類に係る許認可等であることを確認します。情報開示請求では、対象文書、保有機関、対象期間に加え、提出代理か提出代行かを書き分けます。期限と追加業務も契約書に入れると、受任後の説明が安定します。
特定行政書士の実務では、契約前の線引きが受任後の品質を決める
受任範囲が明確であれば、資料確認、主張整理、書類作成、期限管理に集中できます。不服申立てでは自ら作成した申請に係る処分であるか、個別法と教示に照らして選択可能な手続かを確認します。情報開示請求では制度選択、対象文書、代理・提出代行の切り分けが重要です。
要点整理
- 委任契約書では、対象手続・対象処分・対象文書を具体的に書きます。
- 不服申立てでは、当該特定行政書士が自ら作成した申請に係る処分であることを確認します。
- 情報開示請求では、情報公開請求と個人情報開示請求を分け、代理か提出代行かを書き分けます。
- 補正、反論書、意見書、開示後対応は追加業務にするか事前に決めます。
- 訴訟、示談交渉、法律事件の代理行為など、行政書士が取り扱えない業務は非受任範囲として明記します。
相談内容がまとまっていなくても大丈夫です。まずは現在の状況を伺い、必要な手続きや確認した方がよい内容を一緒に整理します。お手元に資料があれば確認がスムーズですが、資料がそろっていない段階でもご相談いただけます。