スマホ・SNS・サブスク・ネット銀行を
亡くなった後に困らないよう整理する方法
動画配信、音楽配信、クラウド、メール、SNS、ネット銀行、ネット証券、暗号資産。いまの暮らしには、紙の契約書だけでは見えにくい契約や財産が増えています。ご本人の意思を大切にしながら、死後事務委任契約で整理できること、相続手続へ引き継ぐことを分かりやすく解説します。
まず知っておきたいこと
死後事務委任契約とは、葬儀、納骨、住居整理、関係先への連絡、各種契約の解約申請など、亡くなった後に必要となる事務を、生前に信頼できる人へ依頼しておく契約です。
ただし、通常の委任は、民法653条により、委任者または受任者の死亡等によって終了します。そのため、死亡後の事務を予定する場合は、「亡くなった後に行う特定の事務」として、死後事務委任契約の中で範囲を明確に定めておくことが大切です。
民法654条は、委任終了後の一定の処理や引継ぎの場面で問題となる規定ですが、これだけで、亡くなった後に受任者が自由にスマートフォンへログインしたり、ネット銀行や証券口座を動かしたりできるわけではありません。
デジタル契約を整理する理由
国民生活センターは、デジタル遺品に関する相談の中に、遺族が契約内容の確認や解約をしたくても、ID・パスワードの手がかりがなく手続きに困るケースがあると紹介しています。これは、法的なログイン権限を認める趣旨ではなく、生前整理の必要性を示すものです。
デジタル契約を整理しておくと、亡くなった後に、どの事業者へ、どのような正規手続で連絡すればよいかが分かりやすくなります。特に、おひとりさま、おふたりさま、親族と疎遠な方、スマートフォンで契約や決済をまとめている方は、早めに整理しておくと安心です。
整理する対象と分け方
デジタル契約は、すべてを同じ方法で扱うものではありません。月額課金を止めるもの、保存したい写真、削除したいSNS、相続手続へ引き継ぐ財産情報を分けて考えます。
| 区分 | 例 | 基本方針 |
|---|---|---|
| サブスク | 動画配信、音楽配信、電子書籍、オンライン講座、クラウド有料プラン | 支払方法と契約経路を確認し、事業者の正規手続で解約申請します。 |
| SNS・メール | LINE、X、Facebook、Instagram、Gmail、iCloudメール等 | 削除申請、追悼化、保存、死亡通知の方針を整理します。ログイン代行は前提にしません。 |
| クラウド・写真 | iCloud、Google Drive、Dropbox、OneDrive等 | 保存したい写真、引き継ぎたい資料、削除申請したいデータを分けます。 |
| ネット金融資産 | ネット銀行、ネット証券、暗号資産、電子マネー、ポイント、売上金 | 死後事務の実行対象外です。存在把握・一覧化・相続人または遺言執行者への引継ぎにとどめます。 |
| 認証情報 | ID、パスワード、暗証番号、二段階認証、秘密鍵、復元フレーズ | 行政書士が通常業務資料として預かりません。保管場所と開封条件を設計します。 |
スマートフォンとメールが大切な理由
スマートフォンとメールアドレスは、多くのオンライン契約の入口です。登録メール、SMS認証、認証アプリ、クラウド、サブスク通知、金融機関通知が集中していることがあります。
ただし、スマートフォンが大切だからといって、亡くなった後に受任者が本人になりすましてログインする運用を予定するものではありません。生前に、どのサービスを使っているか、どの事業者へ正規手続を取るか、誰へ引き継ぐかを整理しておくことが中心です。
確認しておきたいこと
- 携帯会社、電話番号、契約名義
- メインメール、サブメール
- Apple ID、Googleアカウント等の有無
- SMS認証、認証アプリの利用
- クラウド保存の有無
決めておきたいこと
- 通信契約をいつ解約申請するか
- 写真や連絡先を誰へ渡すか
- SNSを残すか、削除申請するか
- 金融アプリの情報を誰へ引き継ぐか
- 認証情報の保管場所をどうするか
ネット銀行・ネット証券・暗号資産の扱い
ネット銀行、ネット証券、暗号資産、電子マネー、ポイント、フリマアプリ売上金などは、相続財産またはこれに準ずるものとして扱う必要があります。死後事務委任契約で「整理する」といっても、受任者が自由に残高確認や処分をするものではありません。
- ネット銀行、証券会社、暗号資産取引所、電子マネー等の存在を一覧化します。
- 登録メール、通知方法、相続手続窓口など、引継ぎに必要な情報を整理します。
- 遺言執行者または法定相続人へ存在情報を引き継ぎます。
- 残高確認、払戻し、移転、売却、解約は、原則として相続手続の中で進めます。
- 税務、紛争、相続登記、暗号資産の技術的問題があれば、専門家へ連携します。
「死亡後の費用にネット銀行のお金を使いたい」という希望がある場合は、預託金、遺言、遺言執行者、相続人との関係、税務上の確認などを含めて別に設計する必要があります。
ID・パスワードを預ける前に
「全部のパスワードを預ければ安心」と考える方もいます。しかし、行政書士がID・パスワードを通常業務資料として預かる方法は、情報漏えい、不正利用、利用規約、不正アクセス禁止法、相続人とのトラブルの面で慎重に考える必要があります。
当事務所では、ログイン代行を前提にせず、次のような形で安全に整理することをおすすめしています。
一覧表に書くこと
- サービス名
- 登録メール
- 支払方法
- 契約経路
- 解約申請先
- 認証情報の保管場所
一覧表に書かないこと
- パスワードそのもの
- 暗証番号
- 秘密鍵
- 復元フレーズ
- 誰でも見られる形のログイン情報
相談で一緒に整理すること
ご相談では、最初から完璧な一覧表を用意する必要はありません。分かる範囲から一緒に確認し、足りない情報を後から補っていく形で進められます。
| 整理すること | 確認する内容 |
|---|---|
| サブスク一覧 | サービス名、月額・年額、請求日、支払方法、契約経路、家族利用の有無 |
| スマホ・メール | 携帯会社、メールアドレス、SMS認証、認証アプリ、クラウド保存の有無 |
| SNS・クラウド | 削除申請、追悼化、写真保存、連絡先引継ぎ、パートナーへの引継ぎ希望 |
| ネット金融資産 | 存在の有無、事業者名、通知方法、相続手続窓口、遺言執行者または相続人への引継ぎ先 |
| 親族・パートナー関係 | 法定相続人、生活上のパートナー、情報を渡したい人、衝突の可能性 |
| 契約書への反映 | 死後事務委任契約書、エンディングノート、封印保管指示書、一覧表の役割分担 |
事業者が受任者からの申請を受け付けない場合は、無理に交渉を続けるのではなく、相続人または遺言執行者へ引き継ぐ形にします。書類不足の補正や正規窓口への申請補助と、拒否後の権利主張や法的交渉は分けて考えます。
よくあるご相談例
おひとりさまの方から、「スマホに銀行アプリ、証券アプリ、動画配信、音楽配信、クラウド保存が入っている。亡くなった後に誰が整理するのか不安」とご相談を受けることがあります。
この場合、サブスクは、支払方法や契約経路を整理し、事業者の正規手続で解約申請できるよう準備します。一方で、ネット銀行やネット証券は死後事務の実行対象外として、存在把握・一覧化・相続人または遺言執行者への引継ぎにとどめます。
法律婚ではないパートナーへクラウド写真を渡したいという希望がある場合、本人の気持ちは丁寧に確認します。ただし、写真の中に財産情報、契約書、債務、税務資料、第三者情報が含まれている場合や、法定相続人が異議を述べる可能性がある場合は、行政書士だけで削除や引継ぎを進めず、弁護士へ連携することがあります。
事業者から「相続人または遺言執行者から手続してください」と案内されることがあります。その場合は、回答内容を記録し、権限ある方へ引き継ぎます。書類不足の補正は対応できる場合がありますが、拒否の法的妥当性を争う交渉になった場合は弁護士の領域です。
よくある質問
ご相談の進め方
デジタル契約の整理は、単に「何を解約するか」を決めるだけではありません。ご本人の希望、相続人との関係、事業者の手続、ネット金融資産の扱い、パスワード管理の安全性を合わせて考える必要があります。
- 現在の状況を伺います。利用しているスマホ、メール、サブスク、ネット金融資産の有無を確認します。
- 死後事務で扱うものと、相続手続へ引き継ぐものを分けます。
- デジタル契約一覧表、サブスク一覧表、ネット金融資産メモを作成します。
- 死後事務委任契約書、エンディングノート、封印保管指示書に反映します。
- 弁護士、司法書士、税理士、IT専門業者との連携が必要な部分を整理します。