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第4-6回 任意後見受任者の選定

任意後見受任者の選び方
親族・友人・専門職・法人を比較する実務確認マニュアル

任意後見契約では、誰を任意後見受任者にするかが、将来の本人保護と実務の安定性を大きく左右します。本人の希望を尊重しながら、候補者の適格性、利益相反、継続性、事務能力、複数受任者の考え方まで整理します。

対象:新人行政書士相談対応・書類作成前の確認用公式情報確認済み

1. この回の到達目標

このページでは、新人行政書士が、任意後見受任者を誰にするかについて、本人に分かりやすく説明し、受任者選定の確認・記録・関係機関連携まで進められる状態を目指します。

  • 任意後見受任者とは何かを説明できる
  • 候補者に法律上・実務上の不適格事由がないか確認できる
  • 親族、友人、専門職、法人の特徴を比較できる
  • 本人意思、信頼性、事務能力、継続性、利益相反を整理できる
  • 複数受任者・予備的受任者・法人受任の考え方を説明できる
  • 本人ではなく親族の希望で決めてしまう危うさを理解できる
  • 相談記録、候補者確認シート、説明記録を作成できる
相談時の基本姿勢相談内容がまとまっていなくても大丈夫です。まずは現在の状況を伺い、必要な手続きや確認した方がよい内容を一緒に整理します。お手元に資料があれば確認がスムーズですが、資料がそろっていない段階でもご相談いただけます。

2. 実務で必要になる場面

任意後見受任者の選定は、本人が「将来の財産管理や施設契約を誰に任せるか」を考える場面で必要になります。遺言や死後事務委任と同時に相談されることも多く、単発の書類作成ではなく、将来の支援体制全体として考えます。

相談場面 確認したい内容
子どもがいない高齢者が将来に備えたい 親族・友人・専門職・法人のどれを候補にするか。
親族はいるが疎遠 本人が親族以外を希望する理由、親族から疑念を持たれる可能性。
長男が受任者になりたいと言っている 本人意思、相続期待、通帳管理、長男の配偶者による関与。
近所の友人を候補にしたい 交流期間、金銭関係、事務能力、財産を受け取る予定の有無。
行政書士など専門職に依頼したい 報酬、業務範囲、緊急時対応、他契約との利益相反。
法人を候補にしたい 担当者、担当者変更時の引継ぎ、内部管理、苦情窓口。

3. 任意後見受任者の基本

任意後見受任者とは

任意後見受任者とは、本人が将来、判断能力が不十分になったときに任意後見人となる予定の人です。契約締結時点ですぐに代理権を行使できるわけではありません。任意後見契約は公正証書で締結し、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時から効力が生じます。

任意後見監督人選任申立ての体制

任意後見監督人選任の申立ては、本人、配偶者、四親等内の親族、任意後見受任者などが行うことができます。実務上は、任意後見受任者が中心となって申立てを行うケースが多いため、選定時から「誰が申立てを行う想定か」を整理しておきます。

最初に確認する不適格事由

重要な確認任意後見人について民法847条の欠格事由が直接適用されるかについては明文規定はありませんが、家庭裁判所が任意後見監督人選任の適否を判断する際や、公証実務において、適格性判断の重要な基準として扱われています。

民法847条は、後見人の欠格事由として、未成年者、家庭裁判所で解任された後見人・保佐人・補助人、破産者、被後見人に対して訴訟をし又はした者およびその配偶者・直系血族、行方の知れない者等を定めています。任意後見受任者を検討するときも、これらに相当する事情がないかを最初に確認します。

確認事項 実務上の確認内容
未成年者でないか 候補者の生年月日・年齢を確認します。
解任歴がないか 後見人・保佐人・補助人を家庭裁判所で解任されたことがないか確認します。
破産者でないか 破産手続中または復権していない状態ではないか確認します。
本人との訴訟関係がないか 本人に対して訴訟をした、またはしている人、その配偶者・直系血族ではないか確認します。
行方不明ではないか 住所・電話・メール等で継続的に連絡できるか確認します。

4. 候補者ごとの比較

候補者を比較するときは、「近い人」「優しそうな人」だけで判断せず、本人の意思、実務能力、長期対応、利益相反、周囲から見た透明性を合わせて確認します。

図解|受任者選定で見る4つの軸
本人の希望本人が自分の言葉で選定理由を説明できるか。
適格性後見人として不適格と評価される事情がないか。
実務能力金銭管理・書類管理・関係機関連絡ができるか。
透明性利益相反や疑念を記録・説明で整理できるか。
候補者 特徴 確認したい内容
配偶者 生活状況を把握しやすい。 配偶者自身の健康、判断能力低下、夫婦財産の混在、予備的受任者。
医療・介護・施設と連絡しやすい。 兄弟姉妹間の関係、相続期待、通帳管理、配偶者の関与。
兄弟姉妹・甥姪 子がいない本人の候補になりやすい。 交流実態、居住地、健康、相続関係、疎遠でないか。
友人・知人 おひとりさまでは親族以上に信頼されることがある。 長年の関係、金銭貸借、財産取得予定、事務負担の理解。
行政書士等の専門職 書類管理、記録化、手続整理に強みがある。 報酬、業務範囲、緊急時対応、他契約との利益相反。
法人 組織としての継続性が期待できる。 主担当者、副担当者、担当者変更時の引継ぎ、内部管理。
複数受任者 役割分担と相互確認が期待できる。 各自単独代理を基本に、代理権目録や内部ルールで分担を整理。

5. 実務の進め方

相談の場では、いきなり契約書案を作るのではなく、次の順序で確認します。

  1. 本人が希望する候補者を聞き、選びたい理由を本人の言葉で確認する。
  2. 候補者に、後見人として不適格と評価される事情がないか確認する。
  3. 本人との関係性、交流期間、連絡頻度、信頼関係の実績を確認する。
  4. 候補者の年齢、健康、居住地、仕事・家庭の事情、継続性を確認する。
  5. 通帳管理、支払い、領収書保管、医療・介護・行政機関との連絡に対応できるか確認する。
  6. 相続予定、遺贈予定、同居、金銭貸借、生活費援助、不動産使用などの利益相反を確認する。
  7. 経済的虐待や囲い込みの兆候がないか、本人単独面談で確認する。
  8. 将来、任意後見監督人選任申立てを誰が行う想定か整理する。
  9. 複数受任者、予備的受任者、専門職・法人受任の必要性を検討する。
  10. 説明内容、本人の理解、選定理由、候補者の受任意思を記録する。

6. ヒアリング項目

本人に確認すること

  • その方を任意後見受任者にしたい理由は何ですか。
  • その方に預金管理や施設契約を任せることに不安はありますか。
  • その方以外に候補になりそうな方はいますか。
  • その方と金銭貸借、生活費援助、同居、事業上の関係はありますか。
  • その方は将来、あなたの財産を相続または遺贈で受け取る予定がありますか。
  • その方やその家族が、現在あなたの通帳・印鑑・キャッシュカードを管理していますか。
  • 将来、任意後見監督人選任申立てを誰が行う想定ですか。

候補者に確認すること

  • 本人から直接、任意後見受任者になることを依頼されましたか。
  • 任意後見契約は、任意後見監督人が選任されてから効力が生じることを理解していますか。
  • 実務上、あなたが中心となって任意後見監督人選任申立てを行う可能性があることを理解していますか。
  • 通帳管理、支払い、収支記録、領収書保管に対応できますか。
  • 本人の財産を相続・受贈する予定や、本人との金銭関係はありますか。
  • あなたが対応できなくなった場合の代替案はありますか。
本人単独面談のすすめ同居親族、財産管理をしている親族、財産を受け取る予定の人が同席している場合は、本人が本音を話しにくいことがあります。正確な意思確認のため、本人と行政書士だけで話す時間を設けます。

7. 利益相反・経済的虐待・業際

利益相反がある場合

候補者が相続人や受遺者である場合、本人財産を管理する立場と、将来財産を受け取る立場が重なります。それだけで直ちに契約が無効になるわけではありませんが、記録管理、領収書保管、説明記録、専門職関与を検討します。

場面 整理方法
受任者が相続人・受遺者 本人のための支出を控える疑念が生じないよう、収支記録を明確にします。
同居者が受任者 生活費、家賃、光熱費、介護費の負担ルールを整理します。
本人の不動産を使用している 使用貸借・賃貸借の有無、将来の処分方針を確認します。
候補者が本人から援助を受けている 金銭関係を記録し、専門職や別候補の関与も検討します。

経済的虐待という言葉の意味

本記事でいう経済的虐待とは、高齢者虐待防止法における財産の不当処分や不当な利益取得等を含む概念です。厚生労働省資料でも、高齢者の財産を不当に処分することや、高齢者から不当に財産上の利益を得ることが経済的虐待として説明されています。

  • 本人の預金が不自然に減っている。
  • 同居親族が通帳・印鑑・キャッシュカードを管理している。
  • 本人が自分の財産状況を説明できない。
  • 本人の医療費・介護費が不自然に抑えられている。
  • 他の親族や支援者との連絡が遮断されている。

弁護士へつなぐ場面

行政書士は、弁護士法72条との関係で、紛争性のある法律事件について、代理交渉や法律事務の取扱いはできません。紛争の程度や内容によっては対応範囲の判断が必要となるため、疑義があれば弁護士へ連携します。

状況 対応
本人意思確認、候補者比較、説明記録 行政書士が対応しやすい領域です。
使い込み、返還請求、損害賠償の話が出ている 弁護士連携を検討します。
遺留分、相続紛争、親族間対立が強い 弁護士連携を検討します。
不動産登記が関係する 司法書士連携を検討します。
税額計算や申告判断が必要 税理士連携を検討します。

8. 複数受任者・予備的受任者・法人受任

複数受任者

複数受任者は、財産管理と生活支援を分担したり、親族と専門職を組み合わせたりする場合に有効です。ただし、意見対立や責任の所在が曖昧になると事務が進みにくくなります。

共同代理の扱い実務上、完全に権限を縛る「共同代理」の特約は、一方の不測の事態により事務が全停止するリスクがあるため、公証実務では慎重に扱われ、設計上は各自単独代理を基本とすることが一般的です。役割分担は、代理権目録を分ける、内部的な報告・協議ルールを定めるなどの方法で整理します。

予備的受任者

主受任者が高齢、遠方、健康不安がある場合は、予備的受任者の必要性を検討します。どのように契約上位置づけるかは、公証人との調整が必要です。

法人受任

法人受任は、組織としての継続性が期待できる一方、担当者変更により本人が不安を感じることがあります。法人名だけで判断せず、主担当者、副担当者、緊急連絡先、担当者変更時の引継体制、金銭管理の内部チェック、苦情窓口を確認します。

9. 作成・確認する書類

書類 目的
相談受付票 本人、相談経緯、関係者を把握します。
本人確認記録 本人確認、面談状況、本人意思を記録します。
任意後見受任者候補一覧 親族、友人、専門職、法人などを比較します。
不適格事由確認シート 未成年、破産、解任歴、訴訟関係、所在不明などを確認します。
利益相反確認書 相続予定、遺贈予定、同居、金銭関係、不動産使用を整理します。
経済的虐待・囲い込み確認メモ 通帳管理、財産減少、親族遮断などの兆候を記録します。
任意後見監督人選任申立て想定メモ 将来誰が申立てを行うかを整理します。
本人への説明記録 候補者ごとのメリット、注意点、本人の理解を残します。
公証人事前相談メモ 公正証書作成に向けて、本人意思、候補者、報酬、役割分担を整理します。

10. ケーススタディ:近所の友人を受任者にしたい場合

事案

Aさんは78歳、女性。夫は死亡、子はいません。兄弟は遠方で疎遠です。20年来の近所の友人Bさんを任意後見受任者にしたいと相談に来ました。Bさんは通院の付き添いや買い物を手伝っています。Aさんには預金2,800万円と自宅不動産があり、将来Bさんに少し財産を残したい気持ちもあります。

確認すること

  • Bさんに後見人として不適格と評価される事情がないか。
  • Bさんが任意後見制度と責任を理解しているか。
  • Bさんは72歳であり、長期対応に不安がないか。
  • Bさんに財産を残す可能性があるため、利益相反をどう整理するか。
  • 専門職を併用するか、Bさんを見守り協力者にするか。
  • 将来、任意後見監督人選任申立てを誰が行うか。
実務判断例AさんがBさんを信頼する理由は明確です。一方で、Bさんの年齢、事務負担、財産取得予定による利益相反を考えると、Bさん単独ではなく、専門職との複数受任、または専門職を受任者としてBさんを見守り協力者にする設計も検討できます。

11. 実務チェックリスト

本人意思

  • 本人が候補者を自分の言葉で説明できる
  • 本人単独面談を行った
  • 親族主導や囲い込みの兆候を確認した
  • 候補者以外の選択肢も説明した

候補者の適格性

  • 未成年ではない
  • 破産者で復権していない者ではない
  • 後見人等の解任歴を確認した
  • 本人との訴訟関係を確認した
  • 連絡不能ではない

事務能力・継続性

  • 通帳・印鑑・契約書管理に対応できる
  • 領収書保管・収支記録に対応できる
  • 医療・介護・行政機関と連絡できる
  • 申立てに関与できる理解力と連絡調整力がある
  • 健康、居住地、仕事の状況を確認した

利益相反・虐待兆候

  • 相続人・受遺者か確認した
  • 同居、金銭貸借、生活費援助を確認した
  • 通帳管理者を確認した
  • 医療費・介護費が不自然に抑えられていないか見た
  • 必要に応じて弁護士や地域包括支援センターへつなぐ

12. 確認テスト

問1
任意後見受任者は、契約締結後すぐに本人を代理できますか。
いいえ。任意後見契約は、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時から効力が生じます。
問2
本人が「長男でよい」と言っていれば、長男を受任者にしてよいでしょうか。
本人が制度を理解し、自由意思で選んでいるか確認します。長男が相続人である場合は利益相反も確認します。また、長男やその配偶者による囲い込み、経済的虐待の初期兆候を見落とさないよう、本人単独面談で真意を確認します。
問3
友人・知人を任意後見受任者にすることは可能ですか。
可能です。本人が信頼し、候補者が責任を理解していれば候補になります。ただし、不適格事由、金銭関係、財産取得予定、親族からの疑念、事務能力、継続性を確認します。
問4
複数受任者では、全員の共同代理にすれば安心でしょうか。
慎重に考えます。完全な共同代理型は、一方の病気や連絡不能で事務が止まる可能性があります。実務上は各自単独代理を基本に、代理権目録や内部ルールで役割を分けることが一般的です。
問5
任意後見監督人選任申立ては誰が行えますか。
本人、配偶者、四親等内の親族、任意後見受任者などが申立てを行えます。実務上は任意後見受任者が中心となるケースが多いため、事前に体制を決めておきます。

13. 相談時に整理しておくと安心なこと

相談内容がまとまっていなくても大丈夫です。まずは現在の状況を伺い、必要な手続きや確認した方がよい内容を一緒に整理します。お手元に資料があれば確認がスムーズですが、資料がそろっていない段階でもご相談いただけます。

まとめ任意後見受任者の選定では、本人の希望、不適格事由、信頼性、事務能力、継続性、利益相反、経済的虐待の兆候、任意後見監督人選任申立ての体制を順番に確認します。おひとりさま・おふたりさまでは、友人、専門職、法人が現実的な候補になることもあります。その場合も、本人の安心感だけで進めず、透明性、記録化、他士業連携を重視して設計します。

行政書士実務マニュアル|任意後見契約業務シリーズ 第4-6回

本記事は教育・研修目的で作成されています。個別案件では、最新の法令・公証実務・家庭裁判所の運用・専門職の判断を確認してください。

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