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第3-3回 初回相談と希望確認

死後事務委任契約の初回相談で
本人の希望を具体化する実務マニュアル

死亡後に何を、誰に、どのようにしてほしいのか。葬儀、火葬、納骨、住居、家財、契約解約、親族連絡、ペット、デジタル資産、費用準備を初回相談で整理するための実務教材です。

対象:新人行政書士カテゴリ3:死後事務委任契約業務ケーススタディ・確認テスト収録
この回で扱う範囲前回までに、死後事務委任契約は死亡後の身辺整理・手続を扱い、遺言や相続手続、紛争交渉とは区別する必要があることを学びました。本回では、初回相談で本人の希望を聞き取り、次回以降の詳細設計につなげる方法を扱います。

1. この回の到達目標

新人行政書士が、死後事務委任契約の初回相談で、本人から死亡後の事務に関する希望を具体的に聞き取り、契約設計に必要な情報を整理できる状態を目指します。

到達目標 実務上できる状態
初回相談の流れを組み立てられる 相談受付、本人確認、意思確認、希望聴取、リスク確認、次回案内まで進行できる
希望を項目別に整理できる 葬儀、火葬、納骨、住居、家財、契約解約、ペット、デジタル資産、費用を分けて聞ける
曖昧な希望を深掘りできる 「全部任せたい」「簡単でいい」「迷惑をかけたくない」を具体的な委任事項へ分解できる
本人確認・意思確認を記録できる 本人性、同席者、理解力、自発性、判断能力上の懸念を記録できる
受任可否の初期判断ができる 行政書士単独で進める部分と、弁護士・司法書士・税理士・公証役場・福祉関係者等へつなぐ部分を区別できる

2. この業務が必要になる実務場面

死後事務委任契約の初回相談は、制度説明ではなく、死亡後の事務を実施できる契約にするための事実確認の場です。聞き取り不足があると、遺体引取り、火葬許可、親族対応、家財整理、ペット保護、費用不足などで止まります。

おひとりさま

配偶者や子がいない、親族と疎遠な人。死亡時の連絡先、葬儀、納骨、住居、費用、見守り体制を重点確認します。

おふたりさま

子のいない夫婦、事実婚、同性パートナー等。双方の希望を分け、残された側の実施可能性と親族関係を確認します。

施設・病院利用者

死亡後の退去、残置物、医療費・施設費精算、身元引受人、緊急連絡先、葬儀社手配を確認します。

親族はいるが頼れない人

疎遠、絶縁、虐待歴、金銭トラブル等がある場合。連絡しない希望と実務上の連絡必要性を分けて記録します。

3. 基本知識

死後事務委任契約で確認する事項

分野 確認事項 注意点
遺体・葬儀 遺体の引取り・搬送手配、葬儀社等との連携、火葬、死亡診断書・死体検案書の受領手続に関する補助 契約書だけで非親族の受任者が当然に遺体を引き取れるわけではない
火葬許可 死亡届、火葬許可、葬儀社・自治体との連携 非親族の受任者が死亡届出人になれるかは自治体・事案により異なる
納骨・供養 墓、納骨堂、永代供養、樹木葬、散骨、祭祀主宰者 親族感情、承継者、契約条件、宗教条件に注意
住居・家財 賃貸解約、明渡し、鍵、家財の整理・処分に関する業者手配、立会い、指示 相続人の権利に配慮し、重要物は安易に処分しない
契約解約 電気、ガス、水道、携帯、ネット、新聞、NHK、サブスク 契約者、支払方法、解約権限、継続課金を確認
行政手続 マイナンバーカード、健康保険、介護保険、年金関係 死亡届後の返納・資格喪失・未支給年金等を確認
連絡 親族、友人、勤務先、大家、管理会社等への死亡の事実に関する連絡 本人希望と法的・実務上の連絡必要性を分ける
ペット 一時保護、引継先、動物病院、鍵管理、飼育費用 死亡直後の室内立入りと保護先確保が重要
デジタル スマホ、PC、SNS、クラウド、ネット銀行、暗号資産 パスワード、秘密鍵、二段階認証情報は初回相談で原則預からない
遺体引取り・火葬許可の注意死後事務委任契約に記載しても、受任者が当然に遺体引取り権限や死亡届出人資格を得るわけではありません。病院、警察、自治体、葬儀社、親族、祭祀主宰者との連携を前提に設計します。

委任契約と本人死亡の関係

民法上、委任は原則として委任者または受任者の死亡により終了します。死後事務委任契約は、委任の一般原則を踏まえつつ、死亡後の事務処理を目的とする契約として、死亡後に受任者が事務を行う旨とその範囲を明確に定める必要があります。

  • 本人死亡後の事務を処理する趣旨
  • 葬儀・火葬・納骨・住居・家財・解約等の具体的範囲
  • 行政書士が自ら行う事務と、業者・他士業へ手配する事務の区別
  • 費用、預託金、立替の可否・範囲・上限
  • 親族・関係者への死亡の事実に関する連絡範囲

4. 実務の進め方

図解|初回相談の標準フロー
相談目的の確認:死後事務か、遺言・相続・後見・財産管理かを切り分ける
本人確認・同席者確認:本人性、住所、連絡先、同席理由を記録
意思能力・理解状況確認:契約の意味、委任先、費用負担を本人の言葉で確認
死亡時連絡先、葬儀、火葬、納骨、住居、家財、契約解約、ペット、デジタル、費用を確認
他制度・他士業連携の要否を判断し、次回資料と未確定事項を整理

本人確認の進め方

氏名、住所、生年月日、連絡先、現在の居所、署名能力、面談方法、同席者を確認します。必要に応じて、本人確認記録を保存し、面談日時・確認方法・同席者を記録します。本人確認に関する法令・ガイドラインに基づく記録保存も検討します。

意思能力確認の進め方

意思能力確認は、医師の診断を代替するものではなく、面談時点での理解状況を確認するものです。認知症診断がある、または判断能力に疑義がある場合は、医師の診断書や既に作成済みの認知機能評価資料がある場合に参考資料として確認を検討します。行政書士自ら検査を実施するものではありません。

任意後見との接続任意後見契約は公証人の作成する公正証書で締結し、本人の判断能力が低下した後、任意後見監督人選任により効力を生じる制度です。判断能力に疑義がある場合は、死後事務委任だけでなく任意後見・法定後見・財産管理との接続を検討します。

5. ヒアリング項目

基本情報

氏名、住所、生年月日、電話、メール、現在の居所、同居人、配偶者、子、親族関係、主な支援者、相談のきっかけ、既存契約、健康状態を確認します。

死亡時に誰へ連絡するか

区分 確認内容
必ず連絡 死亡の事実に関する連絡・葬儀案内等を行う人
死亡の事実のみ連絡 葬儀には呼ばず、死亡事実だけ知らせる人
連絡しない希望 理由を確認し、法的・実務上の連絡要否と分けて記録
判断保留 次回、戸籍・相続人・親族関係を確認して整理

死亡場所別の質問

病院で死亡

かかりつけ病院、入院歴、緊急連絡先、医療費、死亡診断書、遺体引取り、葬儀社、親族への連絡範囲。

施設で死亡

施設名、入所契約書、身元引受人、死亡時連絡先、退去期限、残置物、施設費精算、鍵・入室方法。

自宅で死亡

独居・同居、発見者、見守り体制、鍵、警察対応、死体検案書、住居種類、家財量、ペット。

外出先で死亡

よく行く場所、身分証携帯、緊急連絡先カード、携帯ロック、旅行保険、自宅の鍵やペット。

葬儀・火葬・納骨

葬儀の有無、形式、宗教、宗教者、参列者、遺影、戒名、葬儀社、予算、香典、死亡届出人候補、火葬許可、既存墓、納骨堂、永代供養、祭祀主宰者を確認します。

住居・家財・貴重品

住居形態、管理会社、大家、保証人、鍵、家財量、現金、通帳、印鑑、保険証券、契約書、遺言書、権利証、デジタル機器を確認します。家財には相続財産に該当し得るものが含まれるため、現金、通帳、印鑑、保険証券、契約書、遺言書、権利証等は、相続人確認前に安易に処分しません。

デジタル契約・暗号資産

携帯、ネット、クレジットカード、サブスク、SNS、クラウド、ネット銀行、ネット証券、暗号資産を概略確認します。パスワード、暗証番号、二段階認証情報、秘密鍵、リカバリーフレーズは漏えいリスクが高いため、初回相談では原則として預かりません。

ペットと鍵管理

種類、頭数、年齢、健康状態、動物病院、フード、薬、引取候補者、一時預け先、飼育費用、鍵の管理方法を確認します。賃貸住宅では、管理会社が非親族の受任者へ鍵を貸し出さない場合があります。

6. 判断フロー

図解|初回相談後の判断
本人からの相談か。第三者依頼のみなら本人面談を必須にする
本人確認と契約理解ができたか。疑義があれば再面談・医師資料・後見制度を検討
希望内容が死後事務の範囲か。相続・紛争・税務・登記中心なら他士業へ連携
遺体引取り、火葬許可、親族対応、費用、住居、ペット、鍵の実施可能性を確認
受任・保留・辞退・次回詳細ヒアリングを判断し、理由を記録

受任を慎重にすべきケース

  • 本人ではなく親族だけが相談に来た
  • 本人が契約内容を理解していない
  • 認知症診断がある、または判断能力に疑義がある
  • 親族間紛争がある
  • 相続財産の処分希望が中心
  • 非親族受任者だけで遺体引取り・火葬許可を進める前提
  • 費用原資がない、ペット保護が困難、暗号資産がある

7. 作成・確認する書類

書類 目的
初回相談票 基本情報、相談経緯、家族構成を記録
本人確認記録・意思確認メモ 本人性、同席者、契約理解、自発性、判断能力を記録
死後事務ヒアリングシート 葬儀、火葬、納骨、住居、家財、解約、ペット、費用を整理
緊急連絡先一覧案 死亡時の連絡先と連絡しない希望を整理
住居・家財確認票 賃貸、持家、鍵、貴重品、重要書類、家財量を整理
デジタル契約確認票 携帯、ネット、サブスク、SNS、暗号資産を整理
次回資料依頼書 本人確認書類、マイナンバーカード、通帳、保険証券、契約書、公共料金明細、葬儀・墓地資料等を案内

8. 文例・記載例

初回説明の文例

文例

本日は、亡くなった後に必要となる事務を、どなたに、どの範囲で、どのように依頼したいかを整理します。葬儀、火葬、遺体の搬送手配、納骨、住まい、家財、契約解約、ペット、デジタル関係、費用の全体像を確認します。遺体の引取りや火葬許可は、契約書に書けば必ず受任者だけで進められるものではなく、病院、警察、自治体、葬儀社、親族との連携が必要になる場合があります。

「全部任せたい」と言われた場合

「全部」という言葉の中には、葬儀、火葬、遺体の搬送手配、納骨、住居の明渡し、家財の整理、公共料金の解約、携帯電話やネットの解約、親族への死亡の事実に関する連絡など、いくつもの手続が含まれます。今日は、それぞれについて、希望があるもの、未定のもの、専門家や業者の確認が必要なものに分けて整理します。

初回相談記録の例

令和8年○月○日、本人○○氏より死後事務委任契約に関する初回相談を受けた。本人は賃貸マンションに単身居住。兄弟はいるが長年疎遠。葬儀には呼びたくない意向。ただし相続人該当性と実務上の連絡要否は次回確認。葬儀は火葬のみ希望。遺体の引取り・搬送手配は非親族受任者のみで当然に進められるとは限らないため、葬儀社、病院、自治体、親族連絡の要否を次回確認する旨説明。パスワード、暗証番号、秘密鍵、リカバリーフレーズは預からず、契約一覧を作成する方針とした。

9. 他士業・関係機関との連携

相談内容 連携先 理由
相続人間でもめている、遺留分・遺骨で対立 弁護士 紛争、交渉、代理の可能性
不動産の相続登記 司法書士 登記手続
相続税、贈与、暗号資産税務 税理士 税務申告・税務相談
任意後見契約の公正証書化 公証役場 公正証書で締結するため
医療・介護・独居リスク ケアマネ、地域包括、医療機関 支援体制確認
葬儀・火葬・遺体搬送 葬儀社、自治体 遺体搬送、死亡届、火葬許可、火葬場予約
ペット保護 動物病院、保護団体、ペットホテル 緊急保護・飼育承継

10. 新人が間違えやすいポイント

  • 「全部任せたい」をそのまま契約範囲にしてしまう
  • 遺体引取りを当然にできると説明してしまう
  • 火葬許可申請を行政書士だけで進められると思い込む
  • 葬儀の希望だけ聞いて、住居・家財・解約・親族対応を確認しない
  • 親族の存在を軽く見る
  • 費用確認を後回しにする
  • パスワード、暗証番号、秘密鍵を安易に預かる
  • 施設や親族の依頼を本人の依頼と混同する
費用確認の要点費用確認を後回しにすると、契約後に実行不能となるおそれがあります。特に受任者となる場合は、立替の可否、範囲、上限、精算方法を明確にします。

11. トラブル予防策

記録化

本人発言、同席者、本人確認、意思確認、未確定事項、他士業連携、次回宿題、即断しなかった事項を記録します。

決定と希望を分ける

「決定」「検討中」「要資料確認」「要他士業」「要関係機関連携」「不明」に分類します。

利益相反を確認

おふたりさま、親族、施設、葬儀社、身元保証会社が絡む場合は、本人単独の意思確認を行います。

即断しない

受任可否、葬儀社、遺体引取り、火葬許可、納骨先、家財全処分、親族へ一切連絡しない方針、預託金額は初回で即断しません。

12. ケーススタディ

葬儀も家財整理もすべて任せたい相談者

78歳女性Aさん。配偶者は死亡、子はいない。弟が1人いるが20年以上連絡を取っていない。賃貸マンションで一人暮らし。「葬儀も部屋の片付けも全部任せたい」「弟には知らせなくてもいい」と相談。

誤った対応

「葬儀は直葬、家財は全処分、弟には連絡しない。火葬許可も行政書士が手続すればよい」と考えるのは危険です。全部の内容、火葬許可、遺体引取り、弟の相続人該当性、家財の相続財産性、費用、賃貸契約、鍵、スマホ・カード、マイナンバーカードが未確認だからです。

正しい進め方

  • 本人確認・意思確認を行い、契約の意味を本人の言葉で説明してもらう
  • 「全部」を連絡、葬儀、遺体引取り、火葬許可、納骨、住居、鍵、家財、契約、行政手続、費用、デジタル、ペットに分解する
  • 弟への連絡は即断せず、相続人該当性と実務上の連絡要否を次回確認する
  • 現金、通帳、印鑑、保険証券、賃貸借契約書、遺言書、権利証、貴重品、契約関連書類、スマホ、パソコンは直ちに処分しない
  • 遺体引取り・火葬許可は葬儀社、自治体、親族情報、死亡時連絡先を確認して設計する

13. 実務チェックリスト

本人確認・意思確認

  • 本人確認書類を確認した
  • 本人から直接話を聞いた
  • 同席者を記録した
  • 契約趣旨を本人が説明できた
  • 判断能力に不安がある場合、即断しなかった

連絡・葬儀・火葬

  • 必ず連絡したい人を確認した
  • 連絡したくない人と理由を確認した
  • 葬儀形式と予算を確認した
  • 遺体引取り・火葬許可のリスクを説明した
  • 死亡届出人候補を確認した

住居・家財・デジタル

  • 賃貸・持家を確認した
  • 鍵の所在を確認した
  • 重要書類・貴重品を確認した
  • パスワードを預からなかった
  • 暗号資産の有無を確認した

費用・連携

  • 預貯金・保険を確認した
  • 立替の可否・範囲・上限を説明した
  • 他士業連携の要否を判断した
  • 次回資料一覧を渡した
  • 相談記録を作成した

14. 確認テスト

問1

「死後のことは全部任せたい」と言われた場合、最初に行うべき対応は何か。

「全部」の内容を、葬儀、納骨、住居、家財、解約、連絡、費用等に分解して聞く。
問2

初回相談でパスワードを聞かれた場合の対応は。

パスワードそのものは原則預からず、契約・アカウントの一覧化から始める。
問3

「弟には絶対知らせないでほしい」と言われた場合の対応は。

希望を記録しつつ、相続・遺品・住居等の関係で連絡が必要になる可能性を説明する。
問4

死後事務委任契約に「遺体を引き取る」と書けば、非親族受任者が当然に遺体を引き取れるか。

誤り。病院、警察、自治体、親族、祭祀主宰者、葬儀社との連携を前提に設計する。
問5

認知症診断がある相談者への対応は。

診断名だけで判断せず、本人の理解力、意思の一貫性、既存資料、必要に応じた専門職連携を確認する。

15. 次回への接続

本回では、初回相談で本人から死亡後の事務に関する希望を聞き取り、全体像を整理する方法を扱いました。次回以降は、親族・緊急連絡先、葬儀・火葬、納骨・供養、住居明渡し、家財整理、契約解約、デジタル契約、ペット対応、費用見積りと預託金設計を詳細化します。

初回相談の到達点契約書を作ることではなく、本人の希望を「決定済み」「未定」「要資料確認」「要専門家連携」「要リスク検討」に分類し、次回以降に詳細設計できる状態にすることです。
行政書士終活業務マニュアル|第3-3回 死後事務委任契約の初回相談と希望確認

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