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行政書士実務マニュアル > 死後事務委任契約業務
第3-2回 死後事務でできること・できないこと

死後事務委任契約で受任できること・受任してはいけないこと

「死後のことを全部お願いします」と言われたとき、どこまでが死後事務で、どこからが遺言・相続手続・医療意思決定・身元保証・他士業業務なのか。新人行政書士が誤説明を避けるための実務基準を整理します。

対象:新人行政書士読了目安:約25分図解・文例・確認テスト収録
前回との接続

前回3-1では、死後事務委任契約は、死亡後の身辺整理や各種手続を委任する契約であり、遺言や遺言執行とは役割が異なることを学習しました。今回は、何を死後事務として受任でき、何を受任してはいけないかを具体的に整理します。

1. この回の到達目標

  • 死後事務委任契約で委任できる代表的な事務を説明できる。
  • 死後事務委任契約では対応しにくい事項、別契約・別制度・他士業対応が必要な事項を判断できる。
  • 死後事務、遺言、遺言執行、相続手続、親族固有の判断、医療意思決定、身元保証を区別できる。
  • 「死後のことは全部できます」と説明する危険性を理解できる。
  • 医療同意、相続放棄、遺産分割、相続税申告、紛争交渉、不動産登記を安易に入れてはいけない理由を説明できる。
  • 死亡届について、届出義務者本人が届出人となる場合と、届出義務者の委任に基づき提出使者として提出する場合を区別できる。
  • デジタル機器・デジタル資産の初期化・消去・ログイン操作が、相続財産の毀損・逸失、不正アクセス禁止法、利用規約違反のリスクを生むことを説明できる。
  • 契約書で受任する事項・受任しない事項を明確にできる。
  • 本人確認、意思確認、利益相反、記録化、他士業連携の観点から受任可否を判断できる。

2. この業務が必要になる実務場面

2-1. 「死後のことを全部お願いしたい」と言われる場面

相談例

「自分が死んだ後のことは、全部先生にお願いしたいです。葬儀も、相続も、家の処分も、借金があったら相続放棄も、全部やってください。」

この相談は多いですが、このまま受任してはいけません。「死後のこと」は、死亡時連絡、遺体引取りに関する手配・関係者調整、葬儀・火葬・納骨、死亡届提出支援、住居明渡し、家財・遺品整理、公共料金・契約解約、医療費・施設費等の精算、遺言執行、相続人調査、相続財産調査、遺産分割協議、相続放棄、相続税申告、不動産登記、紛争対応、医療同意、身元保証、ペットの引継ぎ、デジタル契約整理に分かれます。

編集長チェック

死後事務委任契約の中心は、死亡後の生活清算・葬送・契約終了・関係者連絡・手配・書類作成・費用支払支援です。相続放棄は相続人が家庭裁判所へ申述する手続であり、死後事務受任者が本人や相続人に代わって行うものではありません。民法909条の2も相続人側の権利行使に関する制度で、死後事務受任者が自由に利用できる制度ではありません。

2-2. おひとりさまから「葬儀と納骨をお願いしたい」と言われる場面

相談例

「身寄りがありません。自分が亡くなったら、火葬して永代供養にしてほしいです。」

受任対象になり得るのは、死亡連絡の受領、親族・関係者への連絡、葬儀社への連絡、遺体引取りに関する手配・関係者調整、火葬・葬儀・納骨の手配、死亡届提出支援、火葬許可申請支援、永代供養先との連絡、費用支払支援、完了報告です。

ただし、非親族である行政書士や死後事務受任者が、医療機関・施設・自治体・親族の意向や運用を無視して当然に遺体を引き取れるわけではありません。契約書には「遺体引取り」ではなく「遺体引取りに関する手配・関係者調整」と記載します。

2-3. 「入院時の医療同意もお願いしたい」と言われる場面

死後事務委任契約は本人死亡後の事務を扱う契約であり、手術や延命治療などの医療同意は対象ではありません。行政書士や死後事務受任者などの第三者に、明確な法的根拠に基づく包括的な医療同意権は認められておらず、個別具体的な医療現場の判断に委ねられると整理します。

行政書士が支援できるのは、ACP(アドバンス・ケア・プランニング)の話し合い支援、尊厳死宣言書の作成支援、医療意思表示書面の作成支援、緊急連絡先の整理、医療機関へ本人の希望を伝える資料整理です。

2-4. 「相続放棄までやってほしい」と言われる場面

相続放棄は、相続人自身が相続開始後に家庭裁判所へ申述する手続です。本人が生前に「相続人に相続放棄をさせる」ことはできず、死後事務委任契約書にも書いてはいけません。できるのは、債務の存在を相続人へ知らせる、相続放棄制度を案内する、弁護士または司法書士への相談を促す、関係資料を引き継ぐ、判断は相続人自身が行うことを明記する範囲です。

2-5. 「遺産分割まで全部まとめてほしい」と言われる場面

遺産分割協議は相続人間で財産の分け方を決める手続です。相続人間に争いがある場合、行政書士が交渉や調整を行うと弁護士法第72条に抵触する非弁行為と評価されるリスクがあります。行政書士ができるのは、相続人調査、相続関係説明図作成、財産資料整理、争いがなく内容確定済みの場合の遺産分割協議書作成支援、弁護士・司法書士・税理士への引継ぎです。

3. 基本知識

3-1. 死後事務委任契約でできることの基本

受任できる中心的事項は、本人死亡後の生活清算・葬送・契約終了・関係者連絡に関する事務です。

分野 委任し得る事項 注意点
死亡時連絡 親族、友人、施設、葬儀社、寺院、霊園等への連絡 連絡先、順序、連絡しない人を事前確認
遺体関係 遺体引取りに関する手配・関係者調整 非親族は医療機関・施設・自治体・親族の運用に左右される
死亡届 死亡届提出支援、届出義務者の委任に基づく提出使者としての提出 届出人欄に記載できる人と提出使者を混同しない
火葬・葬儀 葬儀社への連絡、火葬・葬儀の手配、費用支払支援 費用原資と親族対応を事前設計
納骨・供養 納骨先、永代供養先、寺院、霊園との連絡・手配 祭祀承継者・墓地使用者・親族意向に注意
医療費・施設費 精算手続支援、預託金等に基づく立替払い 法的支払義務者や相続債務との関係に注意
住居関係 賃貸借契約終了手続支援、明渡し手配、管理会社との連絡 契約終了や残置物処分は相続人・管理会社運用に左右
家財・遺品 遺品整理業者の手配、写真記録、貴重品分別 相続人同意または事前合意が重要
公共料金 電気、ガス、水道、電話、インターネット等の解約支援 契約者、必要書類、未払金を確認
行政手続 健康保険、介護保険、年金関係の死亡後手続の書類作成・提出支援 申請者・届出者の資格を確認
デジタル関係 サブスク解約、SNS死亡時手続、端末保全・相続人引継ぎ支援 ID・パスワード利用、初期化、消去は法令・規約・相続財産性に注意
ペット関係 引取先への連絡、搬送、飼育費用支払支援 引取契約・費用原資を生前に確保
報告 相続人、親族、遺言執行者、指定報告先への報告 報告範囲と方法を契約時に明記

3-2. 死亡届に関する重要整理

死亡届は戸籍法86条・87条に基づく届出です。法務省の案内では、死亡の事実を知った日から7日以内に、死亡者の死亡地・本籍地または届出人の所在地の市区町村役場へ届け出る手続とされています。

避ける説明
  • 死後事務受任者だから届出人になれる
  • 行政書士だから死亡届を代理できる
  • 死亡届を代理提出します
正しい整理
  • 届出人欄に記載される人を確認する
  • 行政書士が関与する場合は、届出義務者の委任に基づく提出使者として整理する
  • 契約書・説明書では「提出使者として提出」と記載する

3-3. 死後事務だけでは対応できないこと

項目 対応できない理由 必要な対応
財産承継 財産承継は遺言・相続手続の領域 遺言書作成支援、遺言執行設計
相続放棄 相続人が相続開始後に家庭裁判所へ申述 弁護士・司法書士相談を案内
遺産分割 相続人間で行う財産分配協議 紛争なしなら書類作成支援、紛争ありなら弁護士
相続人間の交渉 紛争性ある法律事件になり得る 弁護士へ完全引継ぎ
相続税申告 税理士業務 税理士へ依頼
不動産登記 司法書士業務 司法書士へ依頼
医療同意 第三者に包括的医療同意権はない ACP、尊厳死宣言、医療意思表示支援
生前の身元保証 入院・施設契約時の保証等は別機能 身元保証・緊急連絡・財産管理契約等を別設計
自由処分 遺品・家財・預金等は相続財産に含まれ得る 相続人同意、遺言、写真記録、財産目録化
親族固有の判断 遺骨、祭祀、墓、形見分けで親族意向が問題 事前合意、祭祀承継者指定、親族連絡
デジタル資産の自由操作 不正アクセス禁止法、利用規約、相続財産毀損リスク 正式な死亡時手続、保全、相続人・遺言執行者へ引継ぎ
死亡後の口座引出し 金融機関が死亡を把握すると凍結される運用が一般的 預託金、保険、信託、葬祭費用仮払い制度等を事前設計

相続預貯金の仮払い制度は、相続人による家庭裁判所の関与または金融機関所定手続に基づく制度で、死後事務受任者が自由に使える制度ではありません。おひとりさま・身寄りが薄い事案では、相続人が協力しない、相続人が不明・遠方、相続放棄を検討している事情が多いため、死後事務費用の原資として安易に想定してはいけません。預託金、生前契約、生命保険、信託等による費用原資確保が受任の前提条件になります。

3-4. 遺言・遺言執行・死後事務・相続手続の区別

項目 主な目的 主な担当者 死後事務との関係
遺言 財産承継、祭祀承継者指定、認知等の最終意思表示 遺言者本人 希望は書けるが葬儀等の実務履行を直接担保しない
遺言執行 遺言内容の実現 遺言執行者 財産承継・遺贈実行が中心。葬儀・明渡しとは分ける
死後事務委任 生活清算、葬送、契約終了、連絡・手配 死後事務受任者 葬儀・火葬・納骨・住居整理等を手配・調整する
相続手続 相続人への財産承継、名義変更、遺産分割 相続人、遺言執行者、専門職 相続人判断や他士業業務が絡む
相続放棄 権利義務を承継しない選択 相続人本人 受任者が代わりに判断・申述できない
相続税申告 税務申告 税理士 死後事務受任者の範囲外
相続登記 不動産名義変更 司法書士等 死後事務受任者の範囲外

同じ専門職が遺言書作成支援者、遺言執行者、死後事務受任者、財産管理受任者、見守り契約受任者を兼ねる場合でも、根拠契約・権限・報酬・会計・報告先を分けます。

3-5. 「できること」の3段階

図解1|死後事務の3段階
第1段階:契約で委任できる事項

死亡時連絡、葬儀社への連絡、火葬・葬儀手配、納骨先連絡、住居明渡し手配、公共料金解約支援、医療費・施設費等の精算支援、遺品整理業者手配、完了報告。

第2段階:運用に左右される事項

遺体引取り、病院・施設対応、死亡届提出支援、火葬許可申請、納骨、賃貸借契約終了、残置物処分、SNS・サブスク解約、金融機関対応、ペット移送。契約書では「手配」「連絡」「調整」「支援」と記載。

第3段階:書いてはいけない事項

医療同意、相続放棄をさせること、遺産分割をまとめること、財産承継、相続税申告、不動産登記、紛争の代理交渉、死亡後口座の自由引出し、自由処分、相続人確認前の端末初期化。

賃貸住宅では、借主死亡後に相続人の有無や所在が分からないと、賃貸借契約解除や残置物処理が困難になります。国土交通省・法務省の「残置物の処理等に関するモデル契約条項」と、死後事務委任契約・賃貸借契約の整合性を確認します。

3-6. 相続人や親族の判断が必要な事項

事項 判断が問題になる理由 実務対応
高価な遺品 相続財産に含まれる可能性 写真記録、財産一覧、相続人同意
形見分け 特定人への財産移転になり得る 遺言、事前合意、相続人確認
遺骨の納骨先 祭祀承継者、親族感情、墓地規約 生前調整、祭祀承継者指定
墓じまい 墓地使用者、寺院、親族意向 別回で詳細対応
住居内残置物 家財が相続財産になり得る 賃貸契約、相続人同意、写真記録
預貯金払戻し 相続財産で金融機関手続が必要 遺言執行・相続手続・仮払い制度
借金対応 相続人の相続放棄判断に影響 弁護士・司法書士へ案内
デジタル端末・資産 電子マネー、暗号資産、証券口座、クラウド情報等が含まれ得る 保全し、相続人または遺言執行者へ引継ぎ。初期化・消去は慎重判断

現金、通帳、印鑑、貴金属、骨董品、車、不動産関係書類、保険証券、スマートフォン、パソコンは慎重に扱います。スマートフォンやパソコンの中には、写真、連絡先、電子マネー、暗号資産、ネット銀行、証券口座、FX口座、ポイント、クラウドデータ、業務データなどが含まれる可能性があります。原則は、電源・保管状態を記録し、端末を保全し、相続人または遺言執行者へ引き継ぐことです。

3-7. 契約範囲を限定する重要性

死後事務委任契約では、範囲を広げすぎるほど危険です。死亡後は本人に確認できず、相続人の異議、関係機関の運用差、死後事務と相続手続の混同、預託金・報酬の疑義、行政書士の業務範囲超過、デジタル機器・残置物処理のリスクが生じます。

契約書では、受任する事務、受任しない事務、関係者の同意が必要な事務、他士業へ引き継ぐ事務、受任者が実施を保証しない事務、費用原資不足時の対応、相続人から異議が出た場合の対応、デジタル機器・資産の保全方法、報告先、記録方法、預託金管理方法を明確にします。

4. 実務の進め方と判断フロー

4-1. 死後事務範囲確認の標準フロー

相談受付 → 本人確認・意思確認 → 相談内容を「死亡後事務」「財産承継」「相続手続」「医療・身元保証」に分類 → 死後事務で受任できる事項を抽出 → 別契約が必要な事項を抽出 → 他士業対応が必要な事項を抽出 → 相続人・親族の判断が必要な事項を抽出 → 費用原資と預託金の必要性を確認 → デジタル機器・デジタル資産の保全方法を確認 → 賃貸借契約・残置物処理の実行可能性を確認 → 受任する事項・受任しない事項を説明 → 説明記録を作成 → 契約範囲案を作成 → 次回以降、具体的希望確認へ進む

4-2. 初回相談での4分類

図解2|「全部お願いしたい」を4つに分解する
死後事務で扱う

死亡時連絡、葬儀・火葬・納骨、住居明渡し、家財整理業者手配、公共料金解約、精算手続、デジタル契約解約支援、端末保全・引継ぎ、完了報告。

遺言で定める

預金・不動産の承継、特定人への遺贈、祭祀承継者、ペット飼育費用、遺言執行者、デジタル資産の承継先。

相続人・他士業が扱う

預貯金払戻し、相続登記、遺産分割、相続税申告、相続放棄、債務整理、不動産売却、相続人間交渉、暗号資産・証券・FX承継手続。

入れてはいけない

医療同意、延命治療決定、生前の身元保証、相続放棄の強制、紛争解決、意思決定代行、遺産分割代理交渉、死亡後口座の自由引出し、相続人確認前の端末初期化・データ消去、無断ログイン。

4-3. 受任可否判断の基本

本人意思確認ができない、死後事務と相続手続を混同している、医療同意を求められている、相続放棄を任せようとしている、相続人間紛争が予想される、遺品処分に反対が予想される、費用原資がない、預託金管理が不透明、行政書士自身が受益者・遺言執行者・死後事務受任者を兼ね利益相反が強い、希望があいまい、本人意思を誘導されている、デジタル機器初期化希望が強いが引継ぎ体制がない、賃貸住宅の解約・残置物処分の運用確認ができない場合は、受任を保留または範囲限定します。

4-4. 死後事務として受任できるか

相談者の希望は死亡後の連絡・手配・解約・清算か → いいえ:遺言・相続手続・医療・身元保証・他士業案件に分類
↓ はい
本人の意思確認ができるか → いいえ:受任不可または保留
↓ はい
費用原資があるか → いいえ:預託金・保険・生前契約等を検討
↓ はい
相続人・親族の権利を侵害しないか → いいえ:相続人同意・遺言・他士業連携を検討
↓ はい
デジタル資産・残置物・賃貸契約の処理に過大なリスクがないか → いいえ:相続人同意・遺言・他士業連携を検討
↓ はい:死後事務として受任検討

4-5. 他制度・他士業へ振り分ける判断

財産を誰に渡すかの相談 → 遺言書作成支援へ
相続人間の話し合い・争い → 弁護士へ
相続放棄・家裁手続 → 弁護士・司法書士へ
税務申告 → 税理士へ
不動産登記 → 司法書士へ
医療同意・身元保証 → 別制度・別契約として整理
どれにも該当しない → 死後事務該当性を再検討

4-6. 遺品・家財処分の判断

明らかな日用品・廃棄物 → 写真記録・業者見積・作業記録を残し、契約範囲内で手配可能
現金・貴金属・通帳・権利証・高価品・デジタル機器 → 相続財産として分別保管し、相続人・遺言執行者へ引継ぎ
スマホ・PC・タブレット・外部ストレージ → 初期化・消去せず保全し、相続人・遺言執行者・弁護士へ引継ぎ
形見分け・贈与的処分 → 遺言・相続人同意・事前合意が必要
その他 → 処分方法を記録して慎重に実施

4-7. 医療同意を求められた場合

医療行為への同意か → はい:第三者に包括的医療同意権はなく、個別具体的な医療現場の判断に委ねられると説明 → ACP・尊厳死宣言・医療意思表示支援へ振り分け → 医療機関・家族・地域包括支援センター等と連携
医療費精算・入院費支払い支援か → はい:費用原資の範囲で支援可能性を検討
それ以外 → 内容を再確認

5. ヒアリング項目

死後事務としての希望
  • 誰へ連絡するか、連絡しない人はいるか
  • 葬儀・火葬のみ・葬儀社・宗教者・納骨先・永代供養
  • 住居、家財処分、残したい物、形見分け、ペット
  • スマホ・SNS・サブスク、デジタル機器の引継ぎ
  • 暗号資産、ネット銀行、証券、電子マネー、公共料金一覧
  • 未払医療費・施設費、報告先
死後事務ではない可能性
  • 預金を誰に渡す、不動産を売る
  • 相続放棄させたい、遺産分割をまとめたい
  • 税金申告、医療同意、入院時保証人
  • 家族に知らせず全財産処分
  • スマホ・PC初期化、SNS削除、貴金属を友人へ渡す
  • 相続人には何も渡したくない
親族・相続人
  • 推定相続人、配偶者、子、親、兄弟姉妹、甥姪
  • 疎遠な親族、死亡連絡、葬儀・納骨通知
  • 遺品処分反対の可能性、デジタル機器の引継ぎ先
  • 相続放棄検討、紛争予想、遺言書、遺言執行者
費用原資
  • 預貯金概算、預託金、葬儀社との生前契約
  • 永代供養費支払、生命保険、負担者、返還先、報酬
  • 口座凍結リスク、仮払い制度を安易に想定していないか
  • おひとりさまで相続人が協力しない場合の原資

「見られたくないから消してほしい」という希望があっても、端末内に相続財産に該当し得る情報や相続手続に重要な情報が含まれる可能性があります。原則として、初期化・消去ではなく、保全・封印・相続人または遺言執行者への引継ぎを検討します。

6. 作成・確認する書類と説明文例

6-1. 作成する書類

死後事務範囲確認シート、受任事項一覧表、受任しない事項一覧表、他士業連携判断メモ、相続人・親族関与確認表、遺品・家財処分リスク確認表、デジタル資産・機器保全確認表、医療同意不可説明書、費用原資確認表、死亡届提出支援整理表、業務範囲説明書、相談記録を作成します。

6-2. 確認する書類

本人確認資料、遺言書、死後事務委任契約書案、任意後見契約書、財産管理契約書、見守り契約書、葬儀社契約書、墓地・永代供養契約書、賃貸借契約書、残置物処理に関する契約書、施設入所契約書、保険証券、公共料金一覧、デジタル契約一覧、デジタル機器一覧、親族・相続人資料を確認します。

6-3. 相談者への基本説明文例

死後事務委任契約で行うのは、ご本人が亡くなった後の連絡、葬儀・火葬・納骨の手配、住居明渡しの手配、公共料金等の解約支援、医療費・施設費等の精算手続支援、関係者への報告などです。一方で、財産を誰に承継させるかは遺言、相続人間の話し合いは相続手続、相続放棄は相続人が家庭裁判所で行う手続、税務申告は税理士業務、不動産登記は司法書士業務です。そのため、死後事務委任契約では「死後のことを全部行う」とはせず、受任する事務と受任しない事務を明確に分けて設計します。

6-4. 個別説明文例

医療同意

医療行為への同意については、行政書士や死後事務受任者などの第三者に、明確な法的根拠に基づく包括的な医療同意権が認められているわけではありません。死後事務委任契約は、手術や延命治療などの医療判断を代行する契約ではありません。医療や延命治療の希望は、ACP、尊厳死宣言、医療意思表示書面などで整理します。

相続放棄

相続放棄は、相続人ご本人が、相続開始後に家庭裁判所へ申述して行う手続です。死後事務受任者が相続人の代わりに判断することはできません。借金の存在を知らせることや専門家相談を案内することはできますが、相続放棄をするかどうかは相続人自身が判断します。

遺品処分

遺品や家財の中には、相続財産に含まれるものがあります。現金、通帳、貴金属、高価品、権利証、スマートフォン、パソコンなどを受任者の判断で自由に処分することはできません。写真記録を残し、貴重品は分別保管し、相続人または遺言執行者へ引き継ぎます。

死亡届

行政書士や死後事務受任者であることだけで、当然に死亡届の届出人になれるわけではありません。実務では、届出義務者の委任に基づき、提出使者として役所に提出する形をとることがあります。届出人欄に誰が記載されるのか、当職がどの立場で持参するのかを事前に明確にします。

デジタル機器

スマートフォンやパソコンには、写真、電子マネー、暗号資産、ネット銀行、証券口座、サブスク契約、業務データなどが含まれる可能性があります。「全部消してほしい」という希望があっても、相続人や遺言執行者の関与なく初期化・消去することは、相続財産の毀損・逸失または不適切な処分と評価されるリスクがあります。原則として保全・封印し、引き継ぎます。

契約範囲限定条項

受任者が行う事務は、委任者死亡後の連絡、葬儀・火葬・納骨に関する手配、住居明渡しに関する手配、公共料金等の解約支援、医療費・施設費等の精算手続支援、関係者への報告その他本契約に明示された事務に限る。受任者は、紛争解決、遺産分割協議の代理交渉、相続放棄申述、税務申告、不動産登記、医療同意、自由処分、デジタル機器の初期化・データ消去など、法令上または資格上行うことのできない事項を行わない。

6-5. 初回相談記録の記載例

相談日:令和○年○月○日/相談者:本人

本人は、死亡後の葬儀、納骨、賃貸住宅の明渡し、公共料金の解約を希望。加えて、「借金があった場合には相続人に相続放棄させたい」「遺産分割もまとめてほしい」「スマートフォンとパソコンは全部初期化してほしい」と希望した。

説明内容:死後事務で受任できるのは、死亡後の連絡、葬儀・火葬・納骨の手配、住居明渡しの手配、公共料金等の解約支援、精算手続支援等であると説明。相続放棄、遺産分割交渉、医療同意、端末初期化、死亡届提出支援の立場整理についても説明した。

本人の理解:本人は「死後事務でできることと、相続人や遺言で決めることは別なのですね」と発言。次回、死後事務として受任する事項と、遺言・相続手続に分ける事項を整理する予定。

7. 他士業・関係機関との連携

弁護士へ完全引継ぎ
  • 相続人間で争いがある
  • 遺産分割協議の交渉が必要
  • 遺留分侵害額請求、債務整理、相続放棄の争い
  • 親族が契約に反対、遺品・遺骨・納骨の対立
  • 受任者が財産取得者でもあり利益相反が強い
  • デジタル資産・機器のアクセスや削除で紛争が予想される
司法書士へ依頼
  • 相続登記、不動産名義変更、抵当権抹消
  • 相続放棄申述書類作成支援
  • 成年後見関連の家庭裁判所提出書類作成
  • 不動産処分前提の法務確認
  • 所有者不明土地・建物管理制度等の検討
税理士へ依頼
  • 相続税申告、準確定申告
  • 不動産売却に伴う譲渡所得税
  • 生前贈与・保険金の税務判断
  • 死後事務報酬や預託金の税務処理
  • 法人経営者の相続
葬儀社・寺院・霊園
  • 生前契約、火葬のみか葬儀か、宗教者の有無
  • 菩提寺、納骨先、墓地使用者、永代供養費
  • 親族の立会い予定
医療機関・施設
  • 死亡時連絡先登録、非親族受任者への連絡範囲
  • 遺体引取り運用、残置物、未払費用、退去期限
  • 契約書の事前共有可否
  • 医療同意を求められたらACP・本人意思表示支援へ切替え
賃貸人・管理会社
  • 契約書の事前受付、借主死亡後の終了手続
  • 相続人全員の同意を求めるか
  • 残置物処理モデル契約条項の導入有無
  • 保管期間、貴重品、原状回復費、鍵返却、明渡し期限

8. 新人が間違えやすいポイントとトラブル予防策

8-1. 間違えやすいポイント

誤り 正しい対応
「死後のことは全部できます」と説明する 死亡後の連絡・手配・解約支援・精算支援・報告等と、遺言・相続手続・他士業業務を分ける
相続放棄を契約事項に入れる 債務資料引継ぎ、制度案内、弁護士・司法書士相談案内にとどめる
医療同意を受任する 第三者に包括的医療同意権はない。ACP・尊厳死宣言・医療意思表示支援へ
遺品を自由に処分する 現金、通帳、印鑑、権利証、保険証券、貴金属、骨董品、車、スマホ、PC、外部ストレージ等は分別・記録・保管
死亡後の口座から払えばよいと考える 口座凍結リスクを前提に、預託金、生前契約、保険、信託、相続人との事前合意を検討
遺言執行と死後事務を混同する 契約書、権限、報酬、会計、記録、報告先を分ける
親族の意向を無視する 遺骨、納骨、墓、位牌、形見分け、高価品、家財、ペット、デジタル機器は事前方針と記録を残す
デジタルデータを本人希望どおり消す 相続財産性と相続手続上の重要情報に注意し、消去ではなく保全・封印・引継ぎを原則にする
賃貸住宅の解約と残置物処分を簡単に考える 賃貸借契約、モデル契約条項、管理会社運用、相続人同意、写真記録、貴重品分別を確認
死亡届を「代理提出できる」と説明する 届出義務者の委任に基づく提出使者として整理する

8-2. 予防策

業務範囲説明書を作成し、受任事項、受任しない事項、他士業へ引き継ぐ事項、相続人・親族同意が必要な事項、医療同意不可、相続放棄不可、遺産分割交渉不可、死亡届の提出使者整理、デジタル機器の初期化・消去不可、口座凍結リスク、預託金の必要性、完了報告方法を明記します。

本人意思については、死後事務委任契約の理解、遺言・相続手続との違い、医療同意対象外、相続放棄不可、遺品処分と相続人の関係、デジタル機器初期化不可、費用原資の必要性を記録します。

8-3. 契約書・チェックリストで必ず確認する事項

A. 死後事務範囲
  • 受任事項・受任しない事項を分けたか
  • 手配・連絡・調整・支援の表現にしたか
  • 実施保証をしていないか
B. 相続・他士業
  • 相続放棄・遺産分割・税務・登記・紛争交渉を除外したか
  • 弁護士・司法書士・税理士への引継ぎ基準を明記したか
C. 医療・身元保証
  • 医療同意を受任していないか
  • ACP・尊厳死宣言・緊急連絡先へ振り分けたか
D. 財産・遺品
  • 高価品・通帳・印鑑・権利証を分別したか
  • 写真記録・業者見積・作業記録を残すか
E. 費用原資
  • 預託金・保険・生前契約・信託を検討したか
  • 口座凍結と仮払い制度の限界を説明したか
F. デジタル
  • 初期化・消去・無断ログインを除外したか
  • 保全・封印・引継ぎ方法を決めたか
G. 賃貸・残置物
  • 賃貸借契約、モデル契約条項、管理会社運用、相続人同意を確認したか
H. 死亡届
  • 届出義務者、届出人欄、提出使者の委任関係を整理したか
  • 「代理提出」と説明していないか
I. 記録化
  • 範囲確認シート、受任事項一覧、除外事項一覧、説明記録、他士業連携メモを作成したか

9. 確認テスト

問1
死後事務委任契約で受任できる代表的事項を5つ挙げてください。
死亡時連絡、葬儀・火葬の手配、納骨・供養先との連絡、住居明渡しの手配、公共料金・契約解約の支援。
問2
「相続放棄をさせる」と定めてはいけない理由は何ですか。
相続放棄は相続人本人が相続開始後に家庭裁判所へ申述する手続で、死後事務受任者が代わりに判断・申述できないため。
問3
医療同意を死後事務委任契約に入れてはいけない理由は何ですか。
死後事務委任契約は死亡後の事務を扱う契約であり、第三者に明確な法的根拠に基づく包括的医療同意権は認められていないため。
問4
死亡届提出支援で避けるべき表現は何ですか。
「死亡届を代理提出する」「当職が死亡届を代理する」「死後事務受任者なので死亡届を出せる」。正しくは「届出義務者の委任に基づき提出使者として提出する」。
問5
デジタル機器を初期化してはいけない理由を説明してください。
端末内に相続財産に該当し得る情報や相続手続に重要な情報が含まれる可能性があり、毀損・逸失、不適切処分、不正アクセス禁止法・利用規約違反のリスクがあるため。
問6
賃貸住宅の残置物処理で確認すべきことは何ですか。
賃貸借契約書、残置物処理契約、管理会社・貸主の運用、相続人同意の要否、モデル契約条項の有無、高価品・貴重品・デジタル機器の除外。
問7
弁護士へ完全引継ぎすべき場面を挙げてください。
相続人間の争い、遺産分割交渉、遺留分、債務整理、親族の契約反対、遺品・遺骨・納骨をめぐる対立、利益相反、デジタル資産の法的紛争など。
問8
契約範囲を限定する理由は何ですか。
死亡後は本人確認ができず、相続人の異議、関係機関の運用差、他士業業務の混入、預託金疑義、デジタル・残置物処理のリスクが生じるため。

10. 次回への接続

今回の要点

死後事務委任契約は、本人の希望を実現するための重要な契約ですが、万能ではありません。新人行政書士は、死後事務、遺言、遺言執行、相続手続、医療意思表示、身元保証、デジタル資産、賃貸住宅の残置物処理、他士業業務を正確に切り分け、契約範囲を限定して設計する力を身につける必要があります。

次回3-3「初回相談と希望確認」では、実際の初回相談で、本人からどのように希望を聞き取り、死後事務・遺言・相続手続・任意後見・財産管理・見守り・医療意思表示に振り分けるかを扱います。初回相談の進め方、本人確認・意思確認、同席者がいる場合の注意、希望確認シート、「全部任せたい」と言われた場合の分解方法、死後事務範囲の仮整理、受任保留にすべき場面、デジタル機器・デジタル資産の聞き取り、死亡届提出支援の立場整理、賃貸住宅・残置物処理の初期確認、次回面談までに集める資料を確認します。

行政書士実務マニュアル|死後事務委任契約業務 第3-2回

本記事は教育・研修目的で作成されています。個別案件では最新の法令・ガイドライン・専門家判断を確認してください。

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