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第4-2回 法定後見との違い

法定後見との違い
任意後見と法定後見の制度選択・取消権・
補助の本人同意・行政書士の業務範囲

「元気なうちの任意後見、すでに不十分なら法定後見」。この基本線を軸に、取消権の違い・移行型の濫用リスク・家庭裁判所提出書類の業務範囲限界まで解説します。

対象:新人行政書士読了目安:約25分ケーススタディ1例・確認テスト14問収録
前回(4-1)との接続 前回は、任意後見は本人が判断能力のあるうちに公正証書で契約し、任意後見監督人が選任されることで開始する制度であることを学習しました。今回は、これを法定後見制度と比較し、どちらを案内すべきかの実務上の線引きを扱います。

1. この回の到達目標

  • 任意後見と法定後見の基本的違いを説明できる
  • 任意後見は本人が判断能力を有しているうちに公正証書で契約する制度であることを説明できる
  • 任意後見契約を締結しても、直ちに任意後見人としての権限行使が可能になるわけではないことを説明できる
  • 法定後見では、申立書に候補者を記載しても、その人が必ず後見人等に選任されるわけではないことを説明できる
  • 任意後見人には、法定後見のような法律上の取消権がないことを説明できる
  • 後見には取消権があり、保佐・補助には特定行為について同意権・取消権があることを区別できる
  • 補助開始や補助人への権限付与では、本人の同意が重要な要件になることを説明できる
  • 判断能力に迷う場合、医師・公証役場・弁護士・司法書士・地域包括支援センター等へ連携すべき場面を判断できる
  • 家庭裁判所提出書類の作成が行政書士業務ではないことを理解し、適切に引き継げる

2. 業務が必要になる実務場面

相談例 制度選択の方向性
「将来認知症になったときに備えたい」(現在は自分で判断できる) 任意後見契約を検討。本人確認・意思確認・利益相反確認を行う
「最近物忘れが増えたが、今のうちに任意後見を作りたい」 直ちに進めず、本人の理解状況を慎重に確認。疑義があれば医師・公証役場と連携
「父は認知症が進んでいて通帳管理もできない。今から任意後見を作りたい」 任意後見契約の新規締結は困難。法定後見制度を検討
おひとりさまが「自分が認知症になったら専門職に任せたい」 任意後見を中心に、見守り・財産管理・死後事務・遺言と接続
おふたりさまで「どちらかが認知症になったらもう一方が支援したい」 「夫婦だから大丈夫」と安易に判断しない。本人意思・利益相反・代替受任者を確認

3. 基本知識

3-1. 任意後見と法定後見の核心的違い

任意後見(契約による制度)
  • 本人が判断能力のあるうちに締結
  • 公正証書が必須
  • 本人が支援者を選べる
  • 任意後見監督人選任後に発効
  • 取消権・同意権は法律上なし
  • 主な相談段階:元気なうち・軽度不安段階
法定後見(審判による制度)
  • 本人の判断能力がすでに不十分な後に申立て
  • 公正証書不要・家庭裁判所手続が必要
  • 家庭裁判所が支援者を選任する
  • 審判確定時に開始
  • 後見に取消権。保佐・補助に同意権・取消権
  • 主な相談段階:すでに契約や財産管理が難しい段階

3-2. 任意後見と法定後見の比較表

比較項目 任意後見 法定後見
利用するタイミング 本人に判断能力があるうちに契約する 本人の判断能力がすでに不十分になった後に申立てる
誰が支援者を選ぶか 本人が任意後見受任者を選ぶ 家庭裁判所が成年後見人・保佐人・補助人を選任する
権限行使開始時期 任意後見監督人が選任され、任意後見が開始した時 後見・保佐・補助開始の審判が確定した時
監督人 任意後見監督人が必ず選任される 成年後見監督人等は必要に応じて選任される
候補者の確実性 本人が契約で選んだ人が任意後見人になることを予定する 申立書に候補者を書いても必ず選任されるとは限らない
取消権・同意権 任意後見人には、法定後見のような法律上の取消権・同意権はない 後見には取消権がある。保佐・補助には特定行為について同意権・取消権がある
補助における本人同意 該当なし 補助開始や補助人への同意権・代理権付与では、本人の同意が重要になる

3-3. 取消権・同意権の違い(重要)

図解1|取消権・同意権の整理
任意後見人 法律上の取消権・同意権はない。契約で定めた代理権の範囲内で本人を代理するのみ。
後見(成年後見人) 取消権がある。ただし日常生活に関する行為は取消しの対象外。保佐・補助のような同意権という仕組みは設けられていない。
保佐(保佐人) 民法13条1項に定める重要行為等について同意権・取消権がある。日用品購入等の日常生活行為は対象外。
補助(補助人) 家庭裁判所が定めた特定の行為について同意権・取消権が認められる。本人の同意が重要。
絶対に混同してはいけない点 任意後見人には、成年後見人のような法律上の取消権はありません。任意後見契約に特約を書けば取消権を作れるわけでもありません。消費者契約法上の取消権など本人が有する権利を代理権の範囲内で代理行使できる場面はあり得ますが、それは任意後見人固有の取消権ではありません。悪質商法被害や不利益契約の取消しが主な課題なら法定後見の検討が必要です。

3-4. 制度選択の基本判断

本人の状態 基本対応
判断能力に問題がなく、将来に備えたい 任意後見契約を検討
軽度の物忘れはあるが、契約内容を理解できる 任意後見契約を慎重に検討。必要に応じ医師・公証役場と連携
契約内容の理解に疑義がある 受任保留。医師・公証役場・弁護士・司法書士へ連携
すでに契約内容を理解できない 法定後見を検討
財産被害・使い込み・詐欺がある 弁護士、地域包括支援センター、法定後見を検討
家族が本人の意思確認なく任意後見を希望 本人単独面談を行い、真意確認。確認できなければ受任不可
すでに身寄りがなく生活破綻している 地域包括支援センター・市区町村・法定後見・市区町村長申立てを検討

4. 実務の進め方(初回相談の5ステップ)

図解2|初回相談の5ステップ
Step 1|相談者の立場確認
本人か家族か第三者か。本人以外からの場合、本人と直接面談し意思確認が必須。利益相反・財産管理目的・相続目的を確認。
Step 2|本人単独面談
家族が急いでいる・受任者候補が同席している・本人が同席者の顔色を見ながら答えているなどの場合は必ず実施。
Step 3|制度理解の確認
任意後見の意味・誰に任せるか・監督人選任後に開始すること・取消権がないことを理解しているか確認。
Step 4|任意後見か法定後見か判断
本人が理解できる→任意後見検討。理解困難→法定後見検討。財産被害→弁護士連携。生活破綻→市区町村・地域包括へ。
Step 5|説明記録を作成
任意後見と法定後見の違いを説明した事実・本人の理解状況・受任可否判断・次回課題を記録する。

5. ヒアリング項目(主要項目)

5-1. 判断能力・契約理解に関する確認

  • 任意後見契約の意味を理解しているか
  • 契約締結時点では任意後見人としての権限行使はできないと理解しているか
  • 任意後見監督人が選任されてから開始すると理解しているか
  • 誰に任せたいか・なぜその人を選ぶのかを自分で説明できるか
  • 報酬や費用が発生することを理解しているか
  • 任意後見人に法律上の取消権がないことを理解しているか
  • 家族や第三者に強く勧められていないか

5-2. 法定後見を検討すべき事情

  • すでに通帳や印鑑を管理できない
  • 施設契約・介護サービス契約を理解できない
  • 高額契約を繰り返している・悪質商法被害に遭っている
  • 本人が受任者候補を認識できない
  • 家族が本人の財産を使っている疑い・経済的虐待の可能性がある
  • 取消権・同意権が必要になる可能性がある
  • 親族による申立てが期待できず、市区町村長申立てが必要になる可能性がある

5-3. おひとりさま・おふたりさま特有の確認

  • おひとりさま:親族の有無・緊急連絡先・専門職を希望するか・市区町村長申立ての可能性
  • おふたりさま:互いに受任者になる設計か・片方が先に判断能力不十分になる可能性・予備的受任者の有無・財産の混在・住まいの名義

6. 判断フロー

6-1. 任意後見契約を進めてよいかの判断フロー

本人から直接意思確認できたか → いいえ:受任不可または保留
↓ はい
本人は任意後見契約の意味を理解しているか → いいえ:任意後見不可の可能性・法定後見を検討
↓ はい
本人は受任者候補を自分で選んでいるか → いいえ:受任保留・本人単独面談
↓ はい
契約締結後すぐに権限行使できないことを理解しているか → いいえ:再説明。理解困難なら受任保留
↓ はい
利益相反・誘導・財産取得目的はないか → ある:弁護士等へ連携・受任保留
↓ ない → 任意後見契約を検討

6-2. 受任保留にすべき場面(いずれかに該当する場合)

  • 本人が受任者候補を認識できない
  • 本人が任意後見開始時期を理解できない
  • 本人が契約の意味を説明できない
  • 家族が本人の代わりに回答している
  • 財産移転や不動産売却が主目的に見える
  • 悪質商法被害や使い込みが疑われる
  • 任意後見人に取消権があると誤解したまま契約を希望している

7. 作成・確認する書類

  • 初回相談票・制度選択確認シート 相談者・本人・相談経緯と、任意後見か法定後見かを判断するための整理
  • 本人意思確認記録・判断能力状況メモ 本人の発言・理解状況・希望・行政書士が実務上把握した理解状況を記録
  • 受任者候補確認表・利益相反確認表 受任者候補の適格性と利益相反を確認
  • 説明記録 任意後見と法定後見の違いを説明した事実・取消権がないことの説明を記録
  • 他士業連携判断メモ・市区町村長申立て検討メモ 連携要否の記録
  • 受任保留通知・メモ 受任を保留する理由と次の対応を記録

8. 文例・記載例

任意後見と法定後見の違いを説明する文例

任意後見は、ご本人が判断能力のあるうちに、将来自分を支援してくれる人を契約で選んでおく制度です。一方、法定後見は、ご本人の判断能力がすでに不十分になった後に、家庭裁判所が後見人、保佐人、補助人を選任する制度です。任意後見では、ご本人の希望を事前に反映しやすい一方、契約を結ぶ時点で契約内容を理解できることが必要です。

任意後見人の取消権についての説明文例

任意後見人には、成年後見人のような法律上の取消権はありません。任意後見人は、任意後見契約で定めた代理権の範囲内で本人を代理します。悪質商法や不利益契約の取消しが主な課題になる場合には、任意後見だけで足りるか慎重に検討し、必要に応じて法定後見や弁護士相談を検討します。

財産管理等委任契約から任意後見への移行の説明文例

財産管理等委任契約は、ご本人に判断能力があるうちの財産管理支援として利用される契約です。しかし、ご本人の判断能力が不十分になったにもかかわらず、任意後見監督人選任の申立てを遅らせ、財産管理等委任契約のまま財産管理を続けることは非常に危険です。任意後見への移行が必要な兆候が出た場合には、速やかに任意後見監督人選任申立てを検討し、監督人の監督下で任意後見へ移る必要があります。

相談記録の記載例

記載例

相談日:令和○年○月○日 相談者:本人A氏、長女B氏同席

本人の発言:「将来認知症になったら長女に施設契約や支払いを頼みたい」「契約してもすぐに長女が通帳を管理するわけではなく、将来必要になったときに始まると理解している」「任意後見監督人が選ばれてから始まると説明を受け、理解した」「任意後見人には、成年後見人のような法律上の取消権がないと理解した」

確認事項:本人は氏名・住所・生年月日・家族関係を説明できた。任意後見契約の概要を本人の言葉で説明できた。長女が本人の発言を遮る場面はなかった。財産管理に関する明らかな利益相反は現時点で確認されない。ただし、本人に軽度の物忘れの自覚あり。次回、かかりつけ医受診状況を確認予定。

説明事項:任意後見と法定後見の違い、任意後見契約は公正証書で作成すること、契約締結後すぐに権限行使が可能になるものではないこと、任意後見監督人選任後に任意後見が開始すること、候補者が必ず選任されるわけではないこと、任意後見人には法律上の取消権がないこと、後見には取消権があるが日常生活行為は対象外であること、補助では本人の同意が重要であること。

9. 他士業・関係機関との連携

行政書士が絶対にしてはいけないこと(家庭裁判所提出書類) 家庭裁判所に提出する後見開始申立書・保佐開始申立書・補助開始申立書・任意後見監督人選任申立書などを、他人の依頼を受けて業として作成することはできません。「法定後見申立サポート一式を受任します」「財産目録を家裁提出用に作ります」「申立手続を代行します」などの表現を使ってはいけません。申立書類作成や手続代理が必要な場合は、司法書士または弁護士へつなぎます。
連携先 連携すべき主な場面
医師 認知症診断がある・物忘れが急に増えた・契約内容の理解に疑義がある・公証役場から診断書を求められる可能性がある
公証役場 本人が高齢・軽度認知症の疑い・本人の発言に揺れがある・本人が施設・病院にいる・出張公証を希望する
司法書士 法定後見申立書類作成が必要・後見・保佐・補助の検討が必要・任意後見監督人選任申立書類の作成が必要・不動産登記が絡む
弁護士(完全引継ぎ) 親族間の争い・財産使い込みの疑い・経済的虐待・悪質商法被害・任意後見契約の有効性が争われる可能性・相続争いが背景にある。「兄弟が反対している」「親のお金を使い込まれた」「誰が後見人になるかで揉めている」などの発言は弁護士連携のサイン
地域包括支援センター 一人暮らしで生活不安・虐待疑い・市区町村長申立てが必要になりそう・任意後見だけでは生活支援が不足する

10. 新人が間違えやすいポイント

失敗パターン 問題点 正しい対応
任意後見と成年後見(法定後見)を同じものとして説明する 任意後見は契約、法定後見は審判。混同すると「契約したらすぐ動ける」「認知症後でも作れる」など危険な誤解が生じる 制度の性質・利用タイミング・支援者の選び方・取消権の有無をセットで説明する
判断能力がすでに不十分なのに任意後見契約を進める 契約の有効性が後日問題になる可能性がある 説明を尽くして誤解を是正し、理解困難であれば受任保留・法定後見を検討する
法定後見でも本人が後見人を自由に選べると説明する 家庭裁判所が本人の利益を考えて選任する。候補者が必ず選ばれるわけではない 専門職や複数人が選任される場合があること・選任結果を争うことは容易ではないことを説明する
任意後見契約を結べばすぐ財産管理できると説明する 任意後見監督人選任後に開始。すぐ財産管理が必要なら財産管理等委任契約が別途必要 任意後見開始時期と財産管理等委任契約の役割を明確に説明する
任意後見人に取消権があると説明する 任意後見人には法律上の取消権はない。誤解したまま進めると本人保護ができない 悪質商法被害への取消しが主な課題なら法定後見や弁護士相談を検討すると説明する
移行型で判断能力低下後も財産管理等委任契約を継続する 使い込み・横領・背任・損害賠償リスク、行政書士の契約設計責任が問題になる 判断能力低下の兆候があれば速やかに任意後見監督人選任申立てを検討。漫然と継続してよい契約ではないことを説明・記録する
家庭裁判所提出書類の作成支援に踏み込みすぎる 後見開始申立書等の裁判所提出書類は行政書士が業として作成できない 「申立書はこちらで作ります」は使わない。制度説明・事実証明書類作成・引継ぎ支援にとどめる

11. トラブル予防策

11-1. 制度説明を必ず記録する(記録すべき説明内容)

  • 任意後見と法定後見の違い・任意後見は元気なうちに契約する制度
  • 任意後見契約は公正証書で作成すること・契約締結後すぐに権限行使が可能になるわけではないこと
  • 任意後見監督人選任後に任意後見が開始すること
  • 任意後見人には法律上の取消権がないこと
  • 後見には取消権があるが日常生活行為は対象外・後見では同意権という仕組みは設けられていないこと
  • 保佐・補助には特定行為について同意権・取消権があること・補助では本人の同意が重要になること
  • 家庭裁判所提出書類作成は行政書士業務ではないこと・紛争性があれば弁護士へ引き継ぐこと
  • 財産管理等委任契約から任意後見への移行リスクを説明したこと

11-2. 移行型契約では「任意後見への移行条件」を明確にする

どのような状態になったら任意後見監督人選任申立てを検討するか。誰が判断能力低下の兆候を確認するか。見守り契約でどの頻度で本人確認をするか。受任者が申立てを怠った場合のリスクを説明したか。受任者の財産管理報告義務を定めているか。行政書士が受任者になる場合、第三者チェック体制があるか。これらを契約設計時にあらかじめ整理・説明・記録します。

11-3. おひとりさま・おふたりさまでは複数制度をセットで説明する

任意後見だけでは対応できない問題 必要な接続
判断能力低下前の財産管理 財産管理等委任契約
定期的な安否確認 見守り契約
死亡後の葬儀・納骨 死後事務委任契約
財産承継 遺言
悪質商法被害の取消し 法定後見・弁護士連携
親族申立てが期待できない場合 地域包括支援センター・市区町村長申立て検討

12. ケーススタディ

事案:78歳女性Fさんのケース

一人暮らし。夫は死亡。子はいない。妹は遠方で疎遠。最近、物忘れが増えたと感じている。近所の知人Gさんを連れて来所。

Fさん:「最近少し物忘れがあるので、将来はGさんに通帳管理や施設の手続をお願いしたいです。任意後見契約を作りたいです。」
Gさん:「Fさんは最近忘れっぽいので、早く契約した方がいいです。通帳も私が預かった方が安全です。」

初動の対応(5段階)

  • 第1段階(同席者ありで概要確認) Gさんが主導して話している場合、すぐに本人単独面談へ切り替える
  • 第2段階(本人単独面談) 「Gさんに頼みたいと思ったのはいつからですか」「契約を結んだら、すぐにGさんが通帳を管理できると思いますか」「任意後見人には成年後見人のような法律上の取消権はないと説明しましたが、どう理解しましたか」などを確認。Fさんが「今日からGさんが全部管理する」「Gさんがそう言うから任せる」「Gさんが全部取り消してくれるから安心」などと答える場合は受任保留
  • 第3段階(Gさんの利益相反確認) すでに通帳を預かっているか・出金履歴に不明点はないか・Fさんから報酬や贈与を受けているか・申立てを遅らせるリスクがないか・専門職や第三者の関与が必要かを確認
  • 第4段階(判断能力の実務上の確認) かかりつけ医・公証役場への確認を検討。必要に応じて妹や地域包括支援センターの関与を検討
  • 第5段階(結論) 任意後見と法定後見の違い・取消権の説明・補助では本人同意が重要であること・Gさんの利益相反確認・財産管理等委任契約を併用する場合の移行条件と監督体制を明確にする
Fさんの場合、任意後見契約を検討することは可能ですが、今日からGさんが通帳管理できるわけではありません。任意後見人には成年後見人のような法律上の取消権はなく、悪質商法被害への取消しが主な心配であれば法定後見や弁護士相談も検討が必要です。最近物忘れがあるとのことですので、医師や公証役場にも確認しながら、任意後見契約で進められるか慎重に判断しましょう。

13. 実務チェックリスト

A. 相談受付・任意後見の理解確認

  • 相談者は本人か確認したか
  • 本人と直接面談したか
  • 本人単独面談を行ったか
  • 任意後見は判断能力があるうちに契約する制度と説明したか
  • 公正証書で作成することを説明したか
  • 契約締結後すぐに権限行使が可能になるわけではないことを説明したか
  • 監督人選任後に任意後見が開始することを説明したか
  • 任意後見人には法律上の取消権がないことを説明したか
  • 取消権がないことの説明記録を残したか

B. 法定後見の説明・判断能力確認

  • 後見・保佐・補助の概要を説明したか
  • 後見には取消権があるが日常生活行為は対象外と説明したか
  • 後見では同意権という仕組みは設けられていないことを説明したか
  • 保佐・補助には特定行為について同意権・取消権があることを説明したか
  • 補助では本人の同意が重要であることを説明したか
  • 候補者が必ず選任されるわけではないことを説明したか
  • 市区町村長申立てが問題になり得ることを説明したか
  • 本人が契約内容を理解しているか確認したか
  • 医師への確認が必要か判断したか

C. 利益相反・移行型・おひとりさま

  • 受任者候補が本人財産を管理していないか確認したか
  • 受任者候補が本人から贈与を受けていないか確認したか
  • 財産移転や不動産売却が目的になっていないか確認したか
  • 行政書士自身が受任者になる場合の利益相反を確認したか
  • 財産管理等委任契約から任意後見への移行リスクを説明したか
  • 見守り契約の必要性を検討したか
  • 死後事務委任契約の必要性を検討したか
  • 予備的受任者の必要性を検討したか
  • 市区町村長申立てが必要になる可能性を確認したか

D. 他士業連携・記録化

  • 家庭裁判所提出書類作成に踏み込んでいないか
  • 司法書士へ法定後見申立支援をつなぐべきか確認したか
  • 弁護士へ紛争・利益相反をつなぐべきか確認したか
  • 地域包括支援センターへ連携すべきか確認したか
  • 初回相談票・制度選択確認シートを作成したか
  • 本人意思確認記録・判断能力状況メモを作成したか
  • 利益相反確認表を作成したか
  • 受任可否判断を記録したか

14. 確認テスト(全14問)

問1
任意後見と法定後見の基本的違いを説明してください。
任意後見は、本人が判断能力のあるうちに、将来支援してもらう人や代理権の内容を契約で決めておく制度である。法定後見は、本人の判断能力がすでに不十分になった後に、家庭裁判所が成年後見人・保佐人・補助人を選任する制度である。
問2
任意後見人としての権限行使はいつ可能になりますか。
任意後見契約を締結しただけでは権限行使はできない。将来、本人の判断能力が不十分になった後、家庭裁判所に任意後見監督人選任の申立てを行い、任意後見監督人が選任され、任意後見が開始した時に、任意後見人としての職務が可能になる。
問3
法定後見で、申立書に記載した候補者は必ず後見人等に選任されますか。
必ず選任されるわけではない。家庭裁判所が本人の利益・財産状況・親族関係・候補者の適格性・紛争の有無などを踏まえて選任する。専門職や複数の後見人等が選任されることもある。希望した人が選ばれなかった場合でも、そのことのみを理由として選任結果を争うことは実務上容易ではない。
問4
本人がすでに任意後見契約の内容を理解できない場合、どの制度を検討すべきですか。
任意後見契約を新たに締結することは困難であるため、法定後見制度を検討する。本人の状態に応じて後見・保佐・補助の申立てを検討し、司法書士・弁護士・地域包括支援センター等へ連携する。親族による申立てが期待できない場合は、市区町村長申立ての可能性も福祉機関・市区町村へつなぐ。
問5
任意後見人には、法定後見人と同じ取消権がありますか。
ない。任意後見人には、成年後見人のような法律上の取消権はない。任意後見人は、任意後見契約で定められた代理権の範囲で本人を代理して事務を行う。本人が有する消費者契約法上の取消権等を代理権の範囲内で行使する場面はあり得るが、それは任意後見人固有の取消権ではない。
問6
法定後見における取消権・同意権について、後見・保佐・補助の違いを簡潔に説明してください。
後見では成年後見人に取消権があるが、日常生活に関する行為は取消しの対象外である。また後見では包括的な代理権が付与されるため、保佐・補助のような同意権という仕組みは設けられていない。保佐では民法13条1項に定める重要行為等について保佐人に同意権・取消権がある。補助では家庭裁判所が定めた特定の行為について同意権・取消権が認められる場合があり、本人の同意が重要になる。
問7
補助制度で本人の同意が重要になる理由を説明してください。
補助は、本人の自己決定をより尊重しつつ、必要な範囲で限定的に支援する制度である。そのため、補助開始や補助人への同意権・代理権付与では、本人の同意が重要になる。本人が補助を拒否している場合には、補助制度の利用は慎重に判断される。
問8
判断能力に迷う相談者が任意後見契約を希望した場合、新人行政書士はどう対応すべきですか。
本人と直接面談し、契約内容・受任者候補・任意後見開始時期・監督人の役割を理解しているか確認する。理解に疑義がある場合は、医師・公証役場・弁護士・司法書士等へ連携し、任意後見契約で進められるか法定後見を検討すべきかを判断する。必要に応じて受任を保留する。
問9
おひとりさま終活で任意後見が重要になる理由を説明してください。
おひとりさまは判断能力が不十分になったときに当然に支援してくれる家族がいない場合が多い。任意後見契約を元気なうちに結んでおけば、将来の支援者を本人が選び、財産管理や施設契約等を任せる準備ができる。ただし、任意後見だけでは死亡後の事務や財産承継には対応できないため、見守り契約・財産管理等委任契約・死後事務委任契約・遺言等との接続が必要である。
問10
本人以外の家族が「本人は分からないが任意後見契約を作りたい」と相談してきた場合、どう対応すべきですか。
任意後見契約は本人の意思と契約理解に基づいて締結する制度であるため、家族の希望だけでは進められない。本人と直接面談し、本人の真意と理解状況を確認する。本人が契約内容を理解できない場合は法定後見制度を検討する。
問11
任意後見でも監督人が選任されることについて説明してください。
任意後見契約は、本人の判断能力が不十分になった後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任してから任意後見が開始する。任意後見監督人は任意後見人の事務を監督する役割を担う。任意後見は本人が受任者を選べる制度であるが、開始後は監督人による監督を受ける。
問12
任意後見と財産管理等委任契約の違いを簡潔に説明してください。
任意後見は、将来、本人の判断能力が不十分になった後に、任意後見監督人が選任されてから任意後見人としての職務が可能になる制度である。財産管理等委任契約は、本人に判断能力があるうちに、日常的な財産管理や手続代行を委任する契約である。任意後見契約を結んだだけではすぐに財産管理は始まらないため、必要に応じて財産管理等委任契約と組み合わせる。
問13
財産管理等委任契約から任意後見へ移行する際のリスクを説明してください。
本人の判断能力が不十分になったにもかかわらず、任意後見監督人選任申立てを遅らせ、財産管理等委任契約のまま本人財産を管理し続けることは危険である。監督人の監督を受けないまま財産を動かし続けると、使い込み・横領・背任・損害賠償・契約設計責任などの問題が生じる可能性がある。判断能力低下の兆候が出た場合には、速やかに任意後見監督人選任申立てを検討する必要がある。
問14
行政書士が法定後見申立てに関して注意すべき業務範囲を説明してください。
行政書士は制度の一般的説明・事実関係の整理・親族関係や財産状況の確認資料整理・他士業への引継ぎを行うことはできる。しかし、家庭裁判所に提出する後見開始申立書・保佐開始申立書・補助開始申立書・任意後見監督人選任申立書などを、他人の依頼を受けて業として作成することはできない。申立書類作成や手続代理が必要な場合は、司法書士または弁護士へつなぐ。

15. 次回への接続

今回の要点 「元気なうちの任意後見、すでに不十分なら法定後見」という基本線を押さえたうえで、本人意思・契約理解・利益相反・取消権の有無・補助における本人同意・移行型の濫用リスク・他士業連携を慎重に確認することが重要です。

次回「4-3 将来型・移行型・即効型」では、任意後見契約の設計パターンを扱います。将来型・移行型・即効型それぞれの特徴と選択判断・財産管理等委任契約との接続・移行型で起きやすい預金管理・利益相反トラブル・判断能力が低下した後に財産管理等委任契約を漫然と継続する危険性を詳しく扱います。

行政書士実務マニュアル|任意後見契約業務 第4-2回

本記事は教育・研修目的で作成されています。個別の案件については必ず最新の法令・ガイドライン・専門家の判断を確認してください。

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相続・遺言・終活の手続きを確認したい方へ

相続、遺言、終活に関する手続きでは、戸籍、財産、関係者の状況を落ち着いて整理することが大切です。川崎市北部で家族の手続きについて確認したい方は、関連するご案内をご覧ください。

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