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行政不服申立て 実務解説

不作為についての審査請求とは何か
処分案件と同じに扱わないための基本

「申請したのに返事がない」という相談から始まりやすい不作為案件ですが、審査請求の出発点は不満の内容ではなく法令に基づく申請の有無です。処分案件と混同しないための確認順序を整理します。

不作為についての審査請求の位置づけ 行政不服審査法上、不作為についての審査請求は、法令に基づき行政庁に対して処分についての申請をした者が、当該申請から相当の期間が経過しても行政庁の不作為がある場合に行うことができる制度です。行政の対応への不満を広く扱う手続ではありません。
Section 01

処分案件と不作為案件の違いを先に整理する

この章のポイント

  • 不作為は「行政が何もしてくれないこと」一般ではなく、法令に基づく申請への未処分を指す
  • 処分案件は「出た処分」を争い、不作為案件は「処分が出ない状態」を問題にする
  • 不作為案件を処分案件と同じ感覚で扱うと確認すべき資料と主張の組み立てを誤る
処分に対する審査請求
対象すでに行われた処分(許可取消し・営業停止・不許可等)
中心論点処分の取消し・変更を求める。処分理由・事実認定・裁量判断が主な検討対象
確認資料処分通知書・理由提示・根拠法令・処分基準・審査基準
請求の趣旨「本件処分を取り消すとの裁決を求める」等
不作為についての審査請求
対象法令に基づく申請から相当期間が経過しても処分がされていない状態
中心論点申請の存在・到達・補正・相当期間の経過が主な確認対象
確認資料申請書控え・受付記録・補正履歴・標準処理期間・個別法
請求の趣旨「〇〇行政庁が〇〇申請に対し、処分をすべき旨の裁決を求める」等
申請の法的性質を先に確認する 窓口での相談・事前協議・任意の要望書・行政指導への回答・担当者への照会は、常に不作為審査請求の前提となる申請に当たるわけではありません。重要なのは個別法・条例・施行規則等に基づき許可・認可・登録・指定・給付決定などの処分を求めたといえるかどうかです。
Section 02

不作為案件で処分案件と違って見落としやすい4つの確認点

この章のポイント

  • 申請書を出した事実だけでなく「法令上の申請」といえるかを確認する
  • 受付日・到達日・補正指示の有無で「審査が始まっているか」を確認する
  • 標準処理期間を確認しても、それだけで直ちに違法・不当と断定しない
  • 求めている行政庁の応答が「処分」に当たるかを確認する

申請性
書類の名称ではなく根拠法令と求めた行政行為で確認する
事前相談票・協議資料・要望書・任意の申出は個別法上の申請と異なる場合がある。どの条文に基づき、どの行政庁に、どの処分を求めるものかを整理する。行政手続法の申請処分に関する資料も確認する。

到達・補正
受付印・電子申請到達記録・補正履歴を時系列で整理する
標準処理期間は申請が事務所に到達してから起算する(行手法)。補正依頼がある場合は依頼日・対応日・補正完了日を確認する。行政庁が処理を止めているのか申請者側の補正が未了なのかを区別する。

相当期間
標準処理期間は重要な判断材料だが経過だけで断定しない
申請内容の複雑性・関係機関照会・現地調査・個別法上の特別手続も確認する。補正状況も踏まえて、なぜ現在の未処分状態が問題となるのかを具体的に説明できる形にする。

処分性
求めている行政庁の応答が「処分」に当たるかを確認する
許可・認可・登録・指定・免許・承認・給付決定は処分として整理されることがある。単なる事実上の回答・説明・行政指導・任意の協議結果は処分とはいえない。標準処理期間の表の処分名・根拠条項も参考になるが最終確認は根拠法令で行う。
Section 03

相談を受けた直後に集めるべき7つの資料

この章のポイント

  • 申請書控え・受付印・電子申請の到達記録を確認する
  • 添付書類一覧と補正依頼の履歴を確認する
  • 担当課とのやり取りを時系列で整理する
  • 根拠法令・施行令・施行規則から申請権限と処分権限を確認する
  • 審査基準・標準処理期間・様式・手引きを確認する
申請書控え・受付印・電子申請の到達記録
申請の内容と到達時点を示す核となる資料。紙提出は受付印・収受印・受付番号、郵送は配達証明・追跡番号、電子申請は完了画面・受付番号・到達通知を保存する。
添付書類一覧と補正依頼の履歴
補正依頼がある場合は依頼日・内容・回答期限・提出日・再補正の有無を整理する。口頭補正は日時・担当者名・内容をメモ化する。補正が完了しているか未了かを先に確認する。
担当課とのメール・電話メモ・窓口記録(時系列表化)
申請日→受付日→補正依頼日→補正完了日→問い合わせ日→現在まで処分なしを時系列表で整理する。担当者名・回答内容も記録する。審査請求書の理由部分作成に直接使える。
根拠法令・施行令・施行規則(申請権限と処分権限の確認)
申請者の要件・提出先・添付書類・処分権者・経由機関の有無を確認する。行審法だけでなく個別法に戻る。再調査請求・再審査請求の可否も個別法で原典確認する。
審査基準・標準処理期間(所管庁・自治体の公表資料)
標準処理期間は申請が到達してから処分までの通常要する期間の目安。経過だけで断定しないが相当期間の説明に使う重要資料。公表資料の更新日と最新運用も確認する。
申請様式・記載例・手引き・Q&A(特別な運用の確認)
申請者が正式な申請をしたつもりでも手引き上は事前相談の段階にすぎない場合がある。様式の根拠条項・提出先・受付後の流れを確認する。手引き・Q&Aは法令ではないため最終確認は個別法令で行う。
教示の有無と内容(審査庁・提出先・経由提出の確認)
不作為案件では処分通知書がないため教示が常に明確に存在するとは限らない。申請受付時の案内・手引き・通知文に関連情報がある場合を確認する。行審法21条(処分庁等経由の審査請求)も確認する。
Section 04

受任判断で使う5段階の確認フロー

この章のポイント

  • 申請性→申請主体→処分権限→到達・補正→相当期間の順で確認する
  • 各段階で問題があれば先に解決しないと次が進めない
第1段階
申請性の確認
法令に基づく処分申請か、単なる要望・相談・事前協議でないかを確認する
求めたものが許可・認可・登録・指定などの処分なのか、単なる回答や説明なのかを分ける。個別法の根拠条文で確認する。
第2段階
申請主体の確認
依頼者が申請者本人か、申請の主体に問題がないかを確認する
法人案件は申請名義と代表者権限、個人案件は本人の意思確認と代理関係を整理する。申請書の名義・本人確認・委任状・連絡担当者の権限を早めに確認する。
第3段階
処分権限の確認
申請先の行政庁に処分をする権限と応答義務があるかを確認する
処分権限のない機関への提出は不作為として整理できないことがある。経由機関がある場合は提出先と処分庁が異なることも。申請先・経由機関・処分庁の関係を根拠法令で整理する。
第4段階
到達・補正の確認
申請が到達し、形式上の要件や補正対応に大きな問題がないかを確認する
受付印・電子申請の到達記録・郵送記録で到達を確認する。補正が未了なら先に補正対応が必要な場合がある。行政庁が処理を止めているのか申請者側の対応が未了なのかを区別する。
第5段階
相当期間の確認
相当の期間が経過しており、個別法・条例・運用上の特則も確認済みか
標準処理期間・補正状況・申請内容の複雑性・関係機関協議・個別法上の特別手続を確認する。再調査請求・再審査請求の有無も個別法で原典確認する。ここまで確認して受任判断の土台が整う。
Section 05

審査請求書を書く前に整理する3つの主張軸

この章のポイント

  • いつ・どの法令に基づき・どの行政庁に・どの処分を求めて申請したか
  • 申請後の経過と現在も処分がされていない状態をどう示すか
  • 相当期間が経過したといえる根拠を標準処理期間や事案経過からどう説明するか

請求の趣旨の書き方:処分案件のように「処分を取り消すとの裁決を求める」とは書きません。「〇〇行政庁が、審査請求人が令和〇年〇月〇日にした〇〇許可申請に対し、処分をすべき旨の裁決を求める」という未処分状態の解消を求める形で記載します。

書きすぎないこと:許可されるべき理由だけを長く書き連ねると不作為案件の焦点がぼやけます。主眼は未処分状態にあります。処分内容の当否に踏み込みすぎる場合は今後出る処分への対応(処分に対する審査請求)も見据えて整理します。

提出部数・提出先の確認:行審法施行令4条は、審査請求をすべき行政庁が処分庁等でない場合には正副二通提出と定めています。不作為案件では不作為庁と審査庁が同一か異なるか・処分庁等を経由して提出するか(行審法21条)によって確認事項が変わります。個別法・条例・手引き・様式・窓口案内を確認します。

依頼者説明の注意点 不作為についての審査請求は行政庁に有利な処分を出させるための手続ではありません。審査請求後に不許可・却下処分が出ることもあります。受任時に「手続の目的・見通し・限界・今後の分岐」を明確に伝えます。成功保証・必勝表現は避けます。
Section 06

特定行政書士が避けるべき5つの誤解

  • ×①
    「標準処理期間を過ぎたから必ず勝てる」と説明する
    補正状況・申請内容の複雑性・関係機関協議・個別法上の手続も確認が必要。「標準処理期間を超えていることは重要な判断材料ですが補正状況や事案の内容も確認します」と伝える。
  • ×②
    「申請したつもり」を法令上の申請として扱う
    書類の名称ではなく根拠法令・様式・提出先・求めた処分を確認する。正式な申請として受付された記録・補正依頼・受付番号があるかも重要。「審査請求の前提になる申請かどうかを確認します」と伝えるのが安全。
  • ×③
    行審法だけを見て個別法・条例の特則を確認しない
    申請の根拠・処分権限・提出先・要件・特別手続は個別法や条例に定められることがある。行審法を入口にしつつ必ず個別法へ戻る。審査基準・標準処理期間・様式・教示・通知・Q&Aも確認する。
  • ×④
    再調査請求・再審査請求の可否を一般論で断定する
    これらは法律に定めがある場合に問題となる手続であり常に利用できるものではない。「個別法の規定を確認してから判断します」と説明するのが安全。
  • ×⑤
    不作為案件なのに処分取消しの審査請求と同じ構成で書く
    処分案件は「出た処分の違法・不当」が中心だが、不作為案件は「申請があり相当期間が経過しても処分がされていない状態」が中心。請求の趣旨も「処分をすべき旨の裁決を求める」という方向で組み立てる。
Section 07

段階別チェックリスト

相談時 確認チェックリスト
申請日・申請先・申請内容・現在の状況(処分・補正・連絡の有無)を確認したか
申請書控え・受付記録・電子申請到達記録の有無を確認したか
「不作為に当たります」と即答せず「申請性・到達・相当期間を確認します」と伝えたか
受任前 確認チェックリスト
根拠法令(個別法・施行令・施行規則)で申請制度の存在と処分権限を確認したか
依頼者が申請者本人か、代理関係に問題がないかを確認したか
求めている行政庁の応答が処分に当たるかを確認したか
到達記録(受付印・電子申請記録・郵送記録)と補正履歴を整理したか
標準処理期間・審査基準を所管庁・自治体の公式資料で確認したか
作成前・提出前 確認チェックリスト
審査庁・提出先・経由提出の可否(行審法21条)を個別法・施行令で確認したか
様式・提出部数(行審法施行令4条)・添付資料を確認したか
請求の趣旨を「処分をすべき旨の裁決を求める」形で整理したか
申請日→受付日→補正履歴→現在まで処分なしの時系列に日付の矛盾がないか
再調査請求・再審査請求の可否を個別法で原典確認したか(一般論で断定していないか)
依頼者に「処分が必ず有利に出る手続ではない」こと・「処分が出た後の対応の可能性」を説明したか

まとめ

  • 不作為についての審査請求の出発点は行政対応への不満ではなく「法令に基づく申請」の有無
  • 処分案件と混同しないために、申請→到達→補正→相当期間→個別法の順に確認する
  • 標準処理期間の経過は重要な判断材料だが、それだけで違法・不当な不作為と断定しない
  • 請求の趣旨は「処分の取消し」ではなく「処分をすべき旨の裁決を求める」形で組み立てる
  • 行審法だけで完結させず、個別法・条例・審査基準・標準処理期間・様式・教示・提出部数・経由提出の可否まで確認する

不作為案件で大切なのは制度名を知っていることではなく確認順序を誤らないことです。まず申請の根拠と到達記録を確認し、補正状況・標準処理期間・個別法上の特則へ進みましょう。

本記事は情報提供を目的としており、個別の法的判断を保証するものではありません。具体的な手続については、専門家にご相談ください。

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