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第5-1回 成年後見制度の全体像

成年後見制度の全体像
後見・保佐・補助の違い・行政書士の業務範囲・
申立支援の実務マニュアル

「家族が自由に預金を使える制度」は最大の誤解。成年後見制度は本人の権利を守る制度です。行政書士が関与できる範囲と、司法書士・弁護士へ引き継ぐべき場面を整理します。

対象:新人行政書士読了目安:約25分ケーススタディ1例・確認テスト12問収録
前回までの要点確認 任意後見は、本人が判断能力のあるうちに公正証書で契約し、任意後見監督人が選任されることで開始する制度です。これに対し、今回扱う法定後見は、すでに本人の判断能力が不十分になっている場合に、家庭裁判所の審判によって支援者を選任する制度です。

1. この回の到達目標

  • 成年後見制度が、判断能力が不十分な本人を法律的に保護・支援する制度であることを説明できる
  • 法定後見制度は後見・保佐・補助の3類型があり、本人の判断能力の程度に応じて利用されることを説明できる
  • 後見・保佐・補助では、代理権・同意権・取消権の範囲が異なることを説明できる
  • 成年後見制度を「家族が自由に預金を使える制度」と誤解しない
  • おひとりさま・おふたりさまで任意後見が間に合わない場合に、法定後見制度が必要になる場面を判断できる
  • 行政書士が行える相談支援・事実証明書類作成・資料整理支援と、司法書士・弁護士へ引き継ぐべき場面を区別できる
  • 本人確認・本人意思の尊重・利益相反・親族関係・記録化の重要性を理解できる

2. 業務が必要になる実務場面

新人が最初に押さえる注意点 本人の判断能力が不十分な状態で委任状を作成することは、無効・不正・トラブルの原因になります。「委任状を作ればよい」と安易に案内してはいけません。
典型的な相談 検討すべき対応
認知症が進み、銀行手続・施設費支払いができなくなった 法定後見制度を検討。委任状では対応できない
施設から後見人を求められた(施設入所契約が必要) 成年後見人等が選任されれば、本人の利益のために契約・費用支払等を行うことができる
高齢者が訪問販売で高額契約を繰り返している 成年後見制度は一定の法律行為を取り消す仕組みを持つ。ただし取消しの範囲は類型により異なる
元気なうちに任意後見契約を予定していたが、急に認知症が進んだ 任意後見契約の新規締結は困難。法定後見制度を検討
夫婦二人暮らしで一方が認知症になり、配偶者も高齢で手続できない 法定後見制度の利用や市区町村・地域包括支援センターとの連携が必要

3. 基本知識

3-1. 任意後見と法定後見の入口の違い

任意後見制度
本人が判断能力のあるうちに公正証書で契約しておく制度。将来に備えて本人が支援者を選ぶ。
法定後見制度(本回)
本人の判断能力がすでに不十分になった後、家庭裁判所が成年後見人・保佐人・補助人を選任する制度。

3-2. 法定後見制度の3類型

図解1|後見・保佐・補助の概要
後見(成年後見人) 判断能力を欠く常況にある。広い代理権が認められる。本人の法律行為は日常生活に関する行為を除き取り消し得る。
保佐(保佐人) 判断能力が著しく不十分。民法13条1項に定められた重要法律行為等について同意権・取消権がある。代理権は別途審判が必要。
補助(補助人) 判断能力が不十分。本人の自己決定をより尊重する類型。民法13条1項の一部から家庭裁判所が定めた特定の行為に限り権限が認められる。
補助開始には本人同意が必要 補助開始の審判そのものに本人の同意が必要です。補助人に同意権・代理権を付与する審判にも本人の同意が必要です。本人が補助開始を拒否している場合、原則として補助制度の利用はできません。保佐では、保佐人への代理権付与の審判に本人の同意が必要ですが、保佐開始そのものや同意権範囲拡張には本人同意は要件ではありません。
最終判断は家庭裁判所が行う 後見・保佐・補助のどれが適切かは、医師の診断書・本人情報シート・本人の生活状況・家庭裁判所の審理を踏まえて家庭裁判所が判断します。行政書士が「後見相当」「保佐相当」と断定してはいけません。

3-3. 法定後見制度の全体フロー

相談発生 → 本人の判断能力・生活状況を確認 → 任意後見で対応できる段階か確認
→ すでに契約理解が難しい場合は法定後見を検討 → 申立人になれる人を確認
→ 本人情報・親族関係・財産状況・収支状況を整理
本人情報シートの準備をケアマネジャー等の福祉関係者へ依頼
→ 医師の診断書を準備 → 家庭裁判所への申立て
→ 家庭裁判所による審理・照会・必要に応じ鑑定
→ 成年後見人・保佐人・補助人等の選任 → 審判確定 → 後見等開始
→ 財産管理・身上保護に関する事務開始 → 家庭裁判所への報告・継続的管理
本人情報シートに関する重要注意 本人情報シートは、ケアマネジャー・相談支援専門員・病院施設の相談員・地域包括支援センター職員等、本人を身近で支援している福祉関係者が作成することが想定されています。行政書士が福祉関係者の立場を装って作成してはいけません。

3-4. 候補者が必ず選ばれるわけではない

新人が必ず説明する事項 申立書に後見人候補者を記載しても、その方が必ず選任されるわけではありません。家庭裁判所は本人の利益を考えて後見人等を選任します。候補者が選任されなかったこと自体を理由として争うことは実務上認められないとされており、候補者が選ばれないことなどを理由とした申立ての取下げは不許可となる可能性が高いです。

3-5. 財産管理と身上保護の基本

財産管理
預貯金・年金・家賃・施設費・医療費の支払い・不動産管理・収支記録・財産目録作成。本人財産は本人の生活・医療・介護・福祉・住まいのために使う。
身上保護
介護サービス契約・施設入所契約・入退院手続・福祉サービス利用手続・住居に関する契約。直接介護ではない。日常の買い物・掃除・身体介護を当然に行う制度ではない。
医療同意権について 成年後見人等であっても、侵襲的医療行為への同意権が当然に認められるわけではありません。医療機関との契約・説明の受領・医療費支払いと、手術等への医療同意は区別します。

3-6. 行政書士が関与する場合の基本的立ち位置

行政書士が行う基本支援 実務上の位置づけ
初回相談の整理 相談内容・本人状況・緊急性を記録する
戸籍謄本等の収集 親族関係を把握するための職務上請求・資料収集
家系図・親族関係図の作成 事実証明書類として作成
財産一覧表の作成 事実証明書類としての財産状況整理。家庭裁判所提出用の財産目録そのものの作成代行とは区別
本人情報シート作成者との連絡整理 ケアマネジャー等への作成依頼。行政書士が自ら作成しない
司法書士・弁護士への引継ぎ 家裁手続・申立書類作成・紛争対応等
行政書士が行わないこと 家庭裁判所への申立代理・提出代理・手続代理は行政書士が行うものではありません。家庭裁判所提出書類の作成が中心となる場合は司法書士または弁護士への引継ぎを検討します。紛争性がある場合は弁護士へ完全引継ぎします。

4. 実務の進め方(初回相談の5ステップ)

図解2|初回相談で行うべき5ステップ
Step 1|相談者が誰か確認
本人以外(配偶者・子・ケアマネ等)からの場合、利益相反・使い込み疑い・親族間対立を確認する。
Step 2|本人の状態を確認
金銭管理・契約理解・財産把握・被害リスクを観察・記録。医学的診断はしない。
Step 3|緊急性を確認
滞納・退去リスク・虐待・使い込み疑い・施設入所が迫っている場合は速やかに地域包括・弁護士・司法書士へ連絡。
Step 4|任意後見で対応可能か確認
契約内容を理解できる→任意後見検討。すでに困難→法定後見を検討。
Step 5|行政書士の支援範囲を説明
申立代理・提出代理はしない。事実証明書類作成・資料整理・関係機関連携・引継ぎ支援を行う。

本人の状態と検討すべき制度の対応表

本人の状態 対応
契約内容を理解できる 任意後見契約を検討
契約内容の理解に不安がある 医師・公証人・専門職と相談
すでに契約理解が困難 法定後見制度を検討
本人が支援を拒否しているが生活破綻がある 地域包括支援センター・市区町村と連携
虐待・使い込み疑いがある 弁護士・市区町村・地域包括支援センターと連携

5. ヒアリング項目(主要項目)

5-1. 本人情報・判断能力・生活状況

  • 氏名・生年月日・住所・本籍地・現在の居所・介護認定・診断名・かかりつけ医
  • 金銭管理ができているか・契約内容を理解できるか・詐欺・悪質商法の被害があるか
  • 家賃・公共料金・施設費の滞納があるか・服薬管理・通院・食事ができているか

5-2. 親族・支援者情報

  • 配偶者・子・兄弟姉妹・甥姪の有無・推定相続人・親族間の対立の有無
  • 本人の財産を管理している人・通帳・印鑑を持っている人の確認
  • 既に関与している専門職・ケアマネジャー・民生委員

5-3. 財産・緊急性・リスク

  • 預貯金・年金・不動産・借入金・滞納金・クレジットカード・管理できていない財産
  • 施設入所が迫っているか・虐待の疑いがあるか・財産使い込みの疑いがあるか
  • 遺産分割協議・不動産売却・相続放棄など、期限や利益相反がある手続が迫っているか

6. 判断フロー

6-1. 成年後見制度を検討すべきか

本人は重要な契約や財産管理を理解・実行できるか
  ↓ はい → 将来の不安が中心か → はい:任意後見・財産管理・見守り契約を検討
  ↓ いいえ(判断能力がすでに不十分な可能性)
  → 財産管理・施設契約・介護契約等に支障があるか
    ↓ はい → 法定後見制度を検討
    ↓ いいえ → 福祉支援・見守り・日常生活自立支援事業等も検討

6-2. 行政書士が対応できるか

相談内容 行政書士の対応
制度説明・事実関係整理・資料収集・事実証明書類作成(紛争性なし) 行政書士として相談支援・資料整理支援を検討
紛争性がある 弁護士へ完全引継ぎ
家庭裁判所への申立代理・提出代理・手続代理 行政書士は行わない。弁護士へ引継ぎ
家庭裁判所提出書類作成が中心 事案に応じて司法書士・弁護士へ引継ぎ
登記・税務・訴訟・交渉が中心 該当士業へ引継ぎ

6-3. 利益相反を疑うべきか

遺産分割協議での特別代理人問題 本人が共同相続人となっている遺産分割協議のために後見申立てを行うケースでは、本人と申立人(子等)が同じ相続の当事者となり、利益相反が生じる可能性があります。後見開始後に遺産分割協議を行うには、後見人とは別に特別代理人の選任が必要になる場合があります。行政書士単独で処理せず、弁護士または司法書士へ引き継ぎます。

7. 作成・確認する書類

7-1. 行政書士が作成・整理する書類(主要)

  • 初回相談票 相談者・本人・相談経緯を記録
  • 家系図・親族関係図 戸籍謄本等に基づく事実証明書類として作成
  • 財産一覧表 事実証明書類としての財産状況整理。家庭裁判所提出用の財産目録そのものの作成代行とは区別
  • 利益相反確認メモ 相談者と本人の利害対立・遺産分割・不動産売却・使い込み疑いを記録
  • 他士業引継ぎ判断メモ 弁護士・司法書士・税理士へ引き継ぐべき事項を記録
  • 業務範囲説明書 行政書士ができる支援・できない支援を明示

8. 文例・記載例

成年後見制度の説明文例

成年後見制度とは、認知症などにより判断能力が不十分になった方について、家庭裁判所が選んだ成年後見人等が、財産管理や身上保護に関する手続を行い、ご本人を法律的に支援する制度です。法定後見には後見・保佐・補助の3類型があり、どの類型になるかは医師の診断書や本人の生活状況等を踏まえて家庭裁判所が判断します。

行政書士の業務範囲説明文例

当職が行う支援は、成年後見制度の説明、必要資料の整理、戸籍謄本等に基づく親族関係の整理、財産状況を把握するための事実証明書類の作成、関係機関との連絡整理、司法書士・弁護士等への引継ぎ支援です。家庭裁判所への申立代理、提出代理、手続代理は行政書士の業務範囲ではありません。家庭裁判所提出用の財産目録や収支予定表そのものの作成代行、紛争性のある事案については、司法書士または弁護士へ引き継ぎます。

候補者が必ず選ばれるわけではないことの説明文例

申立書に後見人候補者を記載することはありますが、その方が必ず選任されるわけではありません。家庭裁判所は、ご本人の財産状況、親族関係、候補者の適格性、紛争の有無などを踏まえて、本人にとって適切な後見人等を選任します。候補者が選任されなかったこと自体を理由として争うことは、実務上認められないとされています。

初回相談記録の記載例

記載例

相談日:令和○年○月○日 相談者:長女○○ 本人:母○○、84歳、一人暮らし

相談内容:本人は認知症の診断を受けており、最近通帳・印鑑の保管場所が分からなくなっている。施設入所を検討しているが、本人が契約内容を理解できず、施設から後見制度の利用を検討するよう言われた。

確認事項:本人は現在自宅で一人暮らし・要介護2・担当ケアマネジャーあり・預金口座は2行・年金収入あり・公共料金の支払い遅れあり・長男とは疎遠・親族間で明確な争いは現時点では確認されていない。本人情報シートは担当ケアマネジャーへ作成依頼を検討。申立書類作成については司法書士または弁護士への引継ぎを検討。

説明事項:任意後見は本人が契約内容を理解できる段階で締結する制度であること。現在の状態によっては法定後見制度を検討する必要があること。行政書士は申立代理・提出代理・手続代理を行わないこと。家庭裁判所提出書類の作成については事案の内容に応じて司法書士または弁護士へ引き継ぐことが多いこと。

9. 他士業・関係機関との連携

連携先 主な連携場面・注意点
司法書士へ引継ぎ 後見・保佐・補助開始申立書類の作成が中心・家庭裁判所提出書類の作成実務が中心・不動産登記・相続登記・後見登記に関する確認が必要な場合
弁護士へ完全引継ぎ 親族間の争い・財産使い込みの疑い・虐待・候補者をめぐって親族が対立・申立てに反対する親族がいる・契約取消し・損害賠償・消費者被害の救済・遺産分割・不動産売却等で利益相反がある
税理士へ引継ぎ 相続税・不動産売却に伴う税務・贈与税・準確定申告・法人経営者の場合
市区町村・地域包括支援センター 申立人になれる親族がいない・虐待が疑われる・財産管理者が不明・一人暮らしで生活が破綻・市区町村長申立てが必要になりそうな場合
医療・福祉機関 医療機関(診断書・本人の状態)・ケアマネジャー(生活状況・本人情報シート作成)・介護施設(入所契約・費用・身元保証)・社会福祉協議会(日常生活自立支援事業との比較)

10. 新人が間違えやすいポイント

失敗パターン 問題点 正しい対応
「家族が自由に預金を使える制度」と説明する 成年後見制度は本人の財産を本人のために守る制度。家族の生活費・相続対策・親族への貸付けのために使う制度ではない 本人の生活・医療・介護・福祉・住まいのために管理することを説明する
行政書士が申立代理や裁判所手続代理をできると誤解する 家庭裁判所への申立代理・提出代理・手続代理は行政書士の業務範囲ではない 制度説明・事実証明書類作成・資料整理・引継ぎ支援が中心。家裁提出書類が中心の場合は司法書士・弁護士へ引き継ぐ
後見人候補者が必ず選ばれると説明する 家庭裁判所が本人の利益を考えて選任する。専門職が選任されることもある 候補者が選ばれないこともあること・取下げは不許可となる可能性が高いことを事前に説明する
医療同意ができると説明する 成年後見人等であっても、侵襲的医療行為への同意権が当然に認められるわけではない 医療費支払い・入院契約・説明受領と、手術等への医療同意を区別して説明する
保佐・補助の取消権を広く誤解する 後見では日常生活以外の行為を取り消し得るが、保佐は民法13条1項に定められた重要法律行為等に限定、補助はさらに限定的 類型ごとの権限範囲を正確に説明する
本人情報シートを行政書士が作成する 本人情報シートは、ケアマネジャー等の福祉関係者が作成することが想定されている 作成者の確認・依頼先の整理・連絡調整を支援する。自ら作成しない

11. トラブル予防策

11-1. 業務範囲を最初に書面で説明する

申立代理はしない・提出代理はしない・申立書類作成が中心の場合は司法書士・弁護士へ引き継ぐ・紛争性がある場合は弁護士へ引き継ぐ・医療同意はできない・後見人候補者が選ばれる保証はない。これらを書面で説明します。

11-2. 成年後見制度利用の影響を説明する

  • 家庭裁判所が後見人等を選任する(希望した候補者が選ばれないことがある)
  • 専門職後見人が選任されることがある(専門職報酬が発生する)
  • 本人財産は本人のために管理される(家族が自由に財産を使えなくなる)
  • 申立て後の取下げには家庭裁判所の許可が必要
  • 遺産分割等では特別代理人が必要になる場合がある
  • 事案により、審判まで2〜3か月以上かかる場合がある

11-3. 利益相反の典型例

  • 相談者が本人の預金を管理している(収支説明・通帳履歴が整っていないケース)
  • 親族が本人不動産の売却を急いでいる
  • 後見人候補者が本人から贈与を受けている
  • 本人が共同相続人となっている遺産分割協議のために後見申立てをするケース(特別代理人問題)
  • 本人の財産から家族の生活費が支出されている

12. ケーススタディ

事案:84歳女性Cさんのケース

一人暮らし。夫は死亡。子はいない。兄弟は全員死亡。甥姪が数人いるが長年交流はない。認知症が進み、家賃・電気料金の支払いが遅れ、大家から地域包括支援センターへ連絡が入った。ケアマネジャーによると要介護2で在宅生活の継続が難しい。施設入所を検討しているが、Cさん本人は契約内容を理解できず、預金管理もできない。近所の知人Dさんが「面倒を見る」と言っているが、Cさんの通帳を預かりたいとも話している。

新人行政書士の初動(6段階)

  • 第1段階 相談者と経緯の確認(誰が相談を依頼したか・Cさん本人は相談を知っているか・通帳・印鑑の管理者・滞納状況・施設入所の緊急性・親族の有無)
  • 第2段階 本人の状態確認(氏名・住所・生年月日・現在の生活場所・通帳や印鑑の場所・家賃支払いの理解・施設入所への意向・Dさんへの信頼感)。行政書士は診断しない。本人の発言や様子を記録する。
  • 第3段階 任意後見ではなく法定後見を検討(現在、契約内容を理解することが難しい状態であれば、任意後見契約の新規締結は困難。法定後見制度を検討する旨を説明)
  • 第4段階 申立人候補の確認(子がいない。甥姪の所在・協力可能か・関与拒否の場合は市区町村長申立ての可能性。行政書士は戸籍謄本等を収集し家系図・親族関係図を事実証明書類として作成)
  • 第5段階 Dさんの利益相反リスクを確認(「通帳を預かりたい」という発言から財産使い込み・不適切管理リスクを確認。DさんとCさんの関係・報酬・過去の金銭貸借・Cさんの意思・専門職後見人の必要性を確認。利益相反が疑われる場合は弁護士・司法書士・地域包括支援センターへ連携)
  • 第6段階 行政書士としての支援範囲(制度説明・戸籍謄本等の収集・家系図・親族関係図の作成・財産資料の確認リスト・事実証明書類としての財産一覧表・本人情報シート作成者の確認・地域包括との連絡整理・司法書士・弁護士への引継ぎ。行政書士が行わないこと:家庭裁判所への申立代理、Cさんの預金管理、医療同意、施設契約の代理締結)

13. 実務チェックリスト

A. 相談受付・本人状態

  • 相談者と本人との関係を確認したか
  • 本人は相談を知っているか
  • 緊急性があるか確認したか
  • 虐待・使い込み・消費者被害の疑いを確認したか
  • 判断能力に関する状況を記録したか
  • 医師の診断書の必要性を説明したか
  • 本人情報シートの作成者を確認したか
  • 本人の意思を可能な限り確認したか

B. 財産・親族・利益相反

  • 通帳・印鑑の管理者を確認したか
  • 不明出金・財産使い込みの疑いを確認したか
  • 家裁提出用財産目録と行政書士が作成する財産一覧表を区別したか
  • 申立人候補を確認したか
  • 親族間紛争の有無を確認したか
  • 遺産分割協議に本人が関係していないか確認したか
  • 特別代理人が必要になり得る場面を確認したか
  • 市区町村長申立ての可能性を検討したか

C. 制度選択・説明

  • 任意後見で対応できる段階か確認したか
  • 後見・保佐・補助の大まかな違いを説明したか
  • 保佐・補助では権限範囲が限定されることを説明したか
  • 補助開始には本人同意が必要であることを説明したか
  • 最終判断は家庭裁判所が行うことを説明したか
  • 候補者が必ず選ばれるわけではないことを説明したか
  • 申立て後の取下げには家庭裁判所の許可が必要なことを説明したか

D. 業務範囲・記録化

  • 申立代理をしないことを説明したか
  • 提出代理・手続代理をしないことを説明したか
  • 申立書類作成が中心の場合は司法書士・弁護士へ引き継ぐことを説明したか
  • 司法書士へ引き継ぐ場面を確認したか
  • 弁護士へ引き継ぐ場面を確認したか
  • 医療同意はできないことを説明したか
  • 業務範囲説明書を作成したか
  • 利益相反確認メモを作成したか
  • 他士業引継ぎ判断メモを作成したか

14. 確認テスト(全12問)

問1
成年後見制度とは何か説明してください。
成年後見制度とは、認知症・知的障害・精神障害などにより判断能力が不十分な本人について、家庭裁判所が選任した成年後見人等が、財産管理や身上保護に関する事務を行い、本人を法律的に保護・支援する制度である。
問2
任意後見と法定後見の入口の違いを説明してください。
任意後見は、本人が判断能力のあるうちに公正証書で契約しておく制度である。法定後見は、本人の判断能力がすでに不十分になった後に、家庭裁判所が成年後見人・保佐人・補助人を選任する制度である。
問3
法定後見の3類型を挙げ、それぞれの概要を説明してください。
後見・保佐・補助の3類型がある。後見は判断能力を欠く常況にある場合、成年後見人に広い代理権が認められ、本人の法律行為は日常生活に関する行為を除き取り消し得る。保佐は判断能力が著しく不十分な場合、民法13条1項に定められた重要法律行為等について同意権・取消権があり、代理権は別途審判が必要。補助は判断能力が不十分な場合で、民法13条1項の一部から家庭裁判所が定めた特定の法律行為に限り権限が認められる。
問4
財産管理と身上保護の違いを説明してください。
財産管理は、預貯金・年金・不動産・支払い・収支記録など本人の財産を管理することである。身上保護は、介護サービス契約・施設入所契約・医療機関との連絡・福祉サービス利用など、本人の生活や療養に関する法律行為・手続を行うことである。ただし、身上保護は直接介護を意味するものではない。
問5
成年後見制度を単なる財産管理代行と考えてはいけない理由を説明してください。
成年後見制度は、本人の財産を家族や支援者の都合で管理する制度ではなく、本人の権利と生活を守る制度である。財産管理だけでなく、本人の生活・医療・介護・住居・福祉サービスに関する身上保護も重要であり、本人の意思を尊重しながら本人の利益のために利用する必要がある。
問6
行政書士が成年後見申立支援で注意すべき業務範囲を説明してください。
行政書士は制度説明・相談内容の整理・事実証明書類(家系図・財産一覧表等)の作成・資料収集支援・関係機関連携・他士業への引継ぎ支援を行うことができる。一方、家庭裁判所への申立代理・提出代理・手続代理は行政書士の業務範囲ではない。申立書類の作成については実務上は司法書士または弁護士へ引き継ぐことが多く、紛争性がある場合は弁護士へ完全引継ぎが必要である。
問7
おひとりさまで成年後見制度が必要になる典型場面を3つ挙げてください。
①認知症が進み、預金管理や家賃支払いができなくなった場合、②施設入所契約を理解・締結できない場合、③悪質商法や財産使い込みの被害が疑われる場合。
問8
成年後見人候補者について新人行政書士が相談者に必ず説明すべきことは何ですか。
申立書に候補者を記載しても、その人が必ず選任されるわけではないことを説明する必要がある。家庭裁判所は本人の利益・財産状況・親族関係・候補者の適格性・紛争の有無などを踏まえて後見人等を選任する。候補者が選任されなかったこと自体を理由として争うことは実務上認められないとされている。
問9
成年後見制度で医療同意が当然にできるか説明してください。
成年後見人等であっても、侵襲的医療行為への同意権が当然に認められるわけではない。医療費の支払い・入院契約・医療機関からの説明受領などは職務に含まれる場合があるが、手術や治療方針への同意とは区別する必要がある。
問10
成年後見申立て後の取下げについて注意点を説明してください。
後見・保佐・補助開始等の申立てをした後は、家庭裁判所の許可を得なければ取り下げることができない。候補者が選ばれそうにない・親族に知られたくない・時間がかかるといった理由で自由に取り下げられるわけではないため、申立て前に制度の効果とリスクを十分に説明する必要がある。
問11
補助制度における本人同意について説明してください。
補助では、補助開始の審判そのものに本人の同意が必要である。また、補助人に同意権や代理権を付与する審判にも本人の同意が必要である。本人が補助開始を拒否している場合、原則として補助制度の利用はできない。
問12
本人が共同相続人となっている遺産分割協議のために後見申立てをする場合、注意すべき点を説明してください。
本人と申立人または後見人候補者が同じ相続の当事者である場合、利益相反が生じる可能性がある。後見開始後に遺産分割協議を行うには、後見人とは別に特別代理人の選任が必要になる場合がある。行政書士単独で判断せず、弁護士または司法書士へ引き継ぐべきである。

15. 次回への接続

今回の要点 成年後見申立支援業務は、単なる書類収集業務ではありません。本人の判断能力・生活状況・財産管理・身上保護・親族関係・利益相反・行政書士の業務範囲・他士業連携を総合的に整理する入口支援業務として理解する必要があります。

次回「5-2 後見・保佐・補助の違い」では、法定後見制度の3類型を詳しく整理します。判断能力の違い・代理権・同意権・取消権の基本・民法13条1項の重要法律行為・本人同意が必要になる場面・医師の診断書との関係・家庭裁判所が最終判断することを扱います。

行政書士実務マニュアル|成年後見申立支援業務 第5-1回

本記事は教育・研修目的で作成されています。個別の案件については必ず最新の法令・ガイドライン・専門家の判断を確認してください

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