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第3-1回 死後事務委任契約の全体像

死後事務委任契約の全体像
遺言・任意後見との役割の違いから
おひとりさま終活の中核業務まで

死後事務委任契約は「死亡後の生活清算事務」を担う契約です。遺言でも任意後見でもカバーできない領域を、医療同意の誤解・預託金管理・費用原資設計と合わせて解説します。

対象:新人行政書士読了目安:約25分ケーススタディ1例・確認テスト8問収録
前回までの要点確認 遺言は財産承継を定める手段、遺言執行は遺言内容を実現する業務です。これに対し、死後事務委任契約は、葬儀・火葬・納骨・住居明渡し・各種契約解約・関係者への連絡など、遺言だけでは処理しにくい死亡後の生活清算事務について、契約に基づき手配・連絡・書類作成・関係者調整等を行うための仕組みです。

1. この回の到達目標

  • 死後事務委任契約が、本人の死亡後に発生する事務について、生前に第三者へ委任しておく契約であることを説明できる
  • 遺言・遺言執行・任意後見・財産管理・見守り契約との役割の違いを説明できる
  • おひとりさま・おふたりさま終活において、なぜ死後事務委任契約が中核業務になりやすいのかを理解できる
  • 死後事務委任契約だけでは解決できない事項を判断できる
  • 初回相談時に、単独の死後事務ではなく、遺言・任意後見・財産管理・見守り・身元保証・葬儀・納骨・住居整理を含めた終活全体の設計として受任可否を検討できる
  • 本人確認・意思確認・利益相反・記録化・預託金管理・他士業連携の必要性を判断できる
  • 行政書士や死後事務受任者が、医療同意・相続紛争・不動産登記・税務申告・相続財産の処分などを当然に行えるわけではないことを説明できる

2. 業務が必要になる実務場面

2-1. おひとりさま高齢者からの相談

典型的な相談例

「子どもがいません。兄弟とも疎遠です。自分が死んだ後、火葬や納骨、部屋の片付けを誰がするのか不安です。」

この場合、単に遺言書を作るだけでは足りません。遺言は主に財産承継のための文書であり、死亡直後の病院・施設との連絡、遺体引取りに関する手配、火葬・葬儀社との連絡、賃貸住宅の明渡し、公共料金の解約、関係者への報告などを実務上担う人を直接確保するものではないからです。

遺体引取りに関する注意 「遺体引取り」は、行政書士や死後事務受任者が常に当然に引き取れるという意味ではありません。実務上は親族・医療機関・施設・自治体・葬儀社の運用が関係します。行政書士が関与する場合は「遺体引取りに関する手配・関係者調整」と整理する必要があります。

2-2. おふたりさま世帯からの相談

第一死亡時は配偶者が対応できる可能性がありますが、第二死亡時は対応者がいなくなります。次のように設計します。

  • 第一死亡時 残された配偶者の生活支援・相続手続・葬儀納骨支援
  • 第二死亡時 死後事務委任契約に基づく葬儀・火葬・納骨・住居整理・関係者連絡
  • 両者共通 遺言・任意後見・財産管理・見守り・身元保証・医療意思表示の整備

2-3. 親族はいるが頼れない相談

戸籍上の相続人がいても疎遠・遠方・高齢・不仲・相続放棄予定などの理由で対応が期待できないことがあります。親族が「いるか・いないか」だけでなく、推定相続人は誰か、連絡先は分かるか、遺骨・遺品・家財処分に反対する可能性はあるか、相続人の同意が必要となる事務が含まれていないかを確認します。

2-4. 施設入所・入院に伴う相談(身元保証の機能分解)

機能 内容 死後事務委任契約との関係
緊急連絡先 入院・急変・死亡時の連絡先 見守り契約・緊急連絡支援と接続
費用支払 入院費・施設費・原状回復費等の支払い 財産管理契約・預託金設計が必要
身柄・荷物対応 退院・退所・残置物整理 生前支援・死後事務双方に関係
死後対応 葬儀・火葬・納骨・明渡し 死後事務委任契約の中心領域
医療判断 手術・治療・延命措置への同意 行政書士・第三者に医療同意権はない
医療同意権について 行政書士・身元保証人・死後事務受任者・任意後見受任者・成年後見人のいずれにも、法律上当然に医療行為への同意権が認められているわけではありません。行政書士が関与する場合は、ACP(アドバンス・ケア・プランニング)の話し合い支援や、尊厳死宣言・医療意思表示書面の作成支援にとどめる必要があります。

3. 基本知識

3-1. 死後事務委任契約の定義

死後事務委任契約とは、本人(委任者)が生前に、信頼できる個人または法人(受任者)に対し、本人の死亡後に発生する一定の事務について、契約に基づき連絡・手配・書類作成・費用支払支援・関係者調整等を依頼する契約です。

注意:死後事務受任者ができないこと 相続財産の処分・相続人間の調整・紛争対応・不動産登記・税務申告・医療同意などは、死後事務委任契約だけで当然に処理できるものではありません。

3-2. 死亡後に発生する主な事務一覧

分野 主な内容 実務上の注意
死亡連絡 病院・施設・親族・友人・葬儀社への連絡 誰へ連絡するかを生前に明確化する
遺体関係 遺体引取りに関する手配、葬儀社・医療機関・施設・自治体との調整 非親族の場合、医療機関・自治体・親族の意向や運用に左右される
死亡届・火葬許可 死亡届提出の補助、届出義務者の依頼に基づく提出代行、火葬許可取得の補助 届出人欄と提出代行を混同しない
火葬・葬儀 火葬・葬儀・搬送・式場・宗教者との連絡手配 契約書上の根拠・費用原資・親族対応が必要
納骨・供養 墓地・寺院・霊園・永代供養先との連絡手配 墓地使用者・祭祀承継者・親族の意向に注意
医療・施設費 医療費・施設利用料等の精算手続支援 法的な支払義務者は相続人や契約上の債務者となる場合がある
住居関係 賃貸借契約の解約支援・管理会社との連絡・明渡し手配 残置物処分は相続財産処分に当たり得る
家財・遺品 遺品整理業者の手配・貴重品分別・形見分け支援 相続人の同意または事前合意の範囲で実施
デジタル関係 スマホ・PC・SNS・サブスク等の整理支援 ID・パスワード利用は法令・利用規約に留意
ペット関係 飼育引継ぎ先への連絡・搬送・費用支払支援 引取先と費用原資を生前に確保
報告関係 相続人・親族・遺言執行者等への報告 報告先・報告範囲・収支報告方法を契約時に決める

3-3. 遺言・遺言執行・死後事務委任の比較

図解1|3つの制度の役割の違い
遺言財産承継・身分関係等について本人の最終意思を残す。葬儀希望は付言事項に書けるが実行担保は弱い。
遺言執行遺言内容を実現する。住居明渡し・公共料金解約は通常対象外。
死後事務委任契約死亡後の生活清算・葬送・契約解約・関係機関連絡等を行う。住居明渡しや公共料金解約を対象にできる。
同じ行政書士が関与する場合でも区別すべき業務 遺言書作成支援/遺言執行者就任/死後事務受任者就任/財産管理受任/任意後見受任者就任/見守り契約受任/身元保証関連支援。それぞれ、契約書・権限・報酬・預託金・報告先・記録を分けて管理する必要があります。

3-4. おひとりさま・おふたりさま終活の中核業務になる理由

死亡後の現場では次の3つが特に重要です。①すぐ連絡が取れる人、②契約上の根拠を持つ人、③費用原資を事前に確保している人。

口座凍結リスクを必ず押さえる 死亡後は本人名義の預貯金口座が凍結されることが通常です。本人の預金が十分にあっても、死亡後にその口座から自由に引き出して葬儀費用や家財整理費用に充てられるとは限りません。生前預託金・葬儀社との生前契約・生命保険金受取人設計・信託・相続人との事前合意・預貯金仮払い制度の活用可否など、費用原資を事前に設計する必要があります。

3-5. 死後事務委任契約だけでは解決できない事項

解決できない事項 理由 必要な対応
相続財産を誰に渡すか 財産承継は遺言・相続手続の領域 遺言書作成支援・相続人調査・遺言執行設計
相続人間の争いの解決 紛争性がある法律事件 弁護士連携
医療行為への同意 法律上、第三者に医療同意権は認められていない ACPの話し合い支援・尊厳死宣言・医療意思表示書面の作成支援
遺品処分・形見分けを自由に行うこと 遺品・家財は相続財産に含まれる場合がある 相続人の同意・遺言・事前合意・写真記録・財産目録化
不動産売却 登記・税務・売買実務・相続人の同意が絡む 司法書士・税理士・宅建業者連携。所有者不明土地管理制度等も視野に
デジタル資産の自由な操作 不正アクセス禁止法・利用規約・相続性の問題がある 事前同意・正式手続・各サービス規約確認・必要に応じ弁護士連携
本人死亡後の預金口座からの自由な引出し 死亡により口座凍結されることが通常 預託金・信託・葬祭費用仮払い制度・相続人との協議等を事前設計

4. 実務の進め方

4-1. 標準業務フロー(契約設計段階)

相談受付 → 本人確認・意思能力確認 → 相談者が本人か第三者かを確認
→ 家族関係・親族関係・緊急連絡先確認 → 財産・収支・費用原資の概算確認
→ 死亡後に必要な事務の洗い出し → 遺言・任意後見・財産管理・見守り契約との接続確認
医療同意ではなくACP・医療意思表示支援にとどめることを説明
→ 身元保証・緊急連絡・費用支払・死後対応を機能別に整理
→ 受任可否判断 → 見積書・業務範囲説明 → 預託金・費用原資の設計
→ 契約書案作成 → 公正証書化の要否検討 → 契約締結
→ 関係機関への事前共有 → 定期見直し

4-2. 初回相談の3ステップ

図解2|初回相談で行うべき3ステップ
Step 1|相談者の確認
本人か第三者かを確認。本人が同席していない場合は「本人の意思確認ができない段階では契約書作成や受任判断には進めない」と説明する。
Step 2|意思能力の確認
本人が「死亡後の事務を任せる契約」であると理解しているか。遺言との違い・費用・口座凍結リスク・医療同意不可・預託金の意味を理解しているかを確認する。
Step 3|死後事務だけで足りるか
財産承継→遺言、判断能力低下後→任意後見、現在の支払い管理→財産管理契約、孤独死不安→見守り契約、医療希望→ACP支援、として切り分ける。
本人の課題 必要な契約・制度
死後の葬儀・火葬・納骨が不安 死後事務委任契約
財産を誰に渡すか決めたい 遺言
認知症になった後が不安 任意後見契約
今から支払い管理を頼みたい 財産管理等委任契約
孤独死や急変が不安 見守り契約
入院・施設入所時の保証が不安 身元保証・緊急連絡・費用支払・死後対応を分解して設計
医療の希望を残したい ACP支援・尊厳死宣言・医療意思表示支援
ペットが心配 ペット終活支援
デジタル資産が心配 デジタル終活支援・利用規約確認・正式手続設計

5. ヒアリング項目

5-1. 本人情報(主要項目)

  • 氏名・生年月日・住所・本籍地・電話番号・メールアドレス
  • 現在の居住形態(持ち家・賃貸・施設・病院・親族宅)
  • 健康状態・介護認定の有無・判断能力に不安があるか
  • かかりつけ医・担当ケアマネジャー・地域包括支援センターとの関与
  • 緊急時の連絡方法・孤独死リスクの有無・定期連絡の必要性

5-2. 親族・関係者情報(主要項目)

  • 配偶者・子・親・兄弟姉妹・甥姪の有無・推定相続人の見込み
  • 連絡してほしい人・連絡してほしくない人・緊急連絡先
  • 遺骨や遺品について意見を言いそうな親族・相続放棄をしそうな親族
  • 関係者間で紛争があるか・本人に影響力を及ぼしている第三者がいないか

5-3. 死後事務の希望・財産・既存書類

  • 葬儀の希望(火葬のみ・家族葬・宗教者・菩提寺)・納骨先・永代供養・散骨
  • 家財処分・形見分け・貴重品の引継ぎ先・ペットの有無
  • 預貯金の概算・死亡後の口座凍結を理解しているか・預託金が可能か
  • 遺言書・任意後見契約・財産管理契約・見守り契約・身元保証契約・エンディングノート・尊厳死宣言書の有無
  • 葬儀社との生前契約・墓地使用契約・施設入所契約・賃貸借契約書の有無

6. 判断フロー

6-1. 受任判断フロー(概要)

本人からの相談か → 本人確認資料で本人確認できるか → 意思能力に大きな疑義はないか
→ 死後事務の希望が具体化できるか → 費用原資を確保できるか
→ 紛争性・利益相反・医療同意誤認がないか
  ├ すべてOK → 受任検討へ
  └ いずれかNG → 弁護士等へ連携 / 業務範囲縮小 / 希望整理から開始 / 任意後見・法定後見検討

6-2. 医療同意に関する判断フロー

❌ 使ってはいけない表現
  • 「当職が医療同意します」
  • 「死後事務委任契約で医療同意もできます」
  • 「任意後見人になれば医療同意できます」
  • 「身元保証人になれば手術同意できます」
✅ 使うべき表現
「行政書士や第三者に、法律上、医療行為への同意権が認められているわけではありません。当職が支援できるのは、ご本人の医療・ケアに関する希望を事前に整理し、医療機関や関係者へ伝わるよう書面化することです。」

7. 作成・確認する書類

7-1. 作成する書類

書類名 目的
初回相談票 本人情報・相談経緯・希望の概要を記録する
本人確認記録 本人確認資料・面談方法・確認日時を残す
意思確認記録 本人が契約内容を理解していることを記録する
死後事務希望整理シート 葬儀・火葬・納骨・住居・家財・契約解約等の希望を整理する
業務範囲説明書 行政書士が行う業務・行わない業務を明示する
医療同意不可説明書 行政書士・第三者に医療同意権がないことを説明・記録する
費用原資確認表 預託金・保険・葬儀社契約・信託等を整理する
見積書 報酬・実費・預託金の概算を示す
預託金管理説明書 分別管理・報告・返還・解約時対応を説明する
受任可否判断メモ 受任リスク・他士業連携・保留事項を記録する

8. 文例・記載例

初回相談時の説明文例

死後事務委任契約とは、ご本人が亡くなった後に必要となる葬儀・火葬・納骨・住居の明渡し・医療費や施設費の精算手続・公共料金等の解約などについて、生前のうちに信頼できる人へ依頼しておく契約です。遺言は主に財産を誰に引き継ぐかを定めるものですが、死後事務委任契約は、亡くなった後の具体的な事務について、連絡・手配・書類作成・関係者調整などを誰が行うかを決めるものです。そのため、遺言書と死後事務委任契約は、役割を分けて準備する必要があります。

死亡後の口座凍結について説明する文例

ご本人の預貯金が十分にある場合でも、死亡後は金融機関が口座を凍結することが通常です。そのため、葬儀費用・火葬費用・家財整理費用・住居明渡し費用・行政書士報酬などを死亡後に本人名義口座から自由に支払えるとは限りません。死後事務委任契約では、生前預託金・葬儀社との生前契約・生命保険・信託・相続人との事前合意などにより、費用原資を事前に設計する必要があります。

本人意思確認記録の記載例

記載例

面談日:令和○年○月○日 面談場所:本人自宅 同席者:なし

本人は、死後事務委任契約について「自分が死亡した後、火葬・納骨・賃貸住宅の片付け・公共料金の解約を専門職に任せたい」と自ら説明した。本人は、遺言書とは別に、死亡後の手続について連絡・手配・書類作成・関係者調整等を依頼する契約であることを理解していた。

報酬および実費が発生すること、死亡後は本人名義口座が凍結される可能性があるため、預託金等による費用原資の事前設計が必要となることを説明し、本人は了承した。また、行政書士や第三者に医療行為への同意権がないこと、医療に関する希望はACPや尊厳死宣言等で整理する必要があることを説明した。

判断能力について、会話の受け答えは明確であり、契約目的・委任内容・費用負担・医療同意不可の点について理解している様子であった。ただし高齢であるため、契約締結前に再度面談を行い、意思確認を重ねる。

9. 他士業・関係機関との連携

連携先 主な連携場面
弁護士 親族間紛争・特定の相続人を排除したい相談・遺品や遺骨で紛争予想・多額の債務・相続放棄や債務整理・財産を狙う第三者・受任者自身が利益を受ける内容・相続人不存在・全員相続放棄・相続財産清算人等の選任が必要となる可能性がある場合
司法書士 不動産登記・相続登記・遺言に基づく不動産名義変更・成年後見申立書類作成支援・所有者不明土地・建物管理人の選任申立を検討・空き家・未登記建物・共有不動産がある場合
税理士 相続税申告・準確定申告・生前贈与や保険金の税務判断・不動産売却に伴う譲渡所得税・預託金や信託的設計の税務確認
公証役場 親族が疎遠または不仲・死後事務の範囲が広い・預託金が高額・本人が高齢で意思能力争いを避けたい・任意後見契約や遺言と同時に整備する場合(公正証書化を検討)
葬儀社・寺院・霊園 火葬・葬儀・搬送・見積・納骨・法要・墓地使用(生前契約と費用原資を確認)
金融機関 死亡後の口座凍結・預金払戻し(死後事務受任者が自由に引き出せるわけではない)

10. 新人が間違えやすいポイント

失敗パターン 問題点 正しい対応
「遺言があれば死後事務もできる」と考える 遺言は財産承継のための文書。葬儀社との契約・住居明渡し・公共料金解約を実務上行えるわけではない 財産承継→遺言、遺言内容の実現→遺言執行、死亡後の生活清算→死後事務委任契約と区別する
「任意後見があれば死後も対応できる」と考える 任意後見は生存中の支援が中心。死亡後の葬儀・火葬・住居明渡しは別途死後事務委任契約で設計が必要 任意後見に死後事務委任契約を組み合わせる
親族確認を省略する 遺骨・家財・高価品・残金・デジタル機器を扱うと後日相続人から異議が出る可能性 遺言・相続人同意・写真記録・財産目録・事前合意を組み合わせる
費用原資を確認しない 費用原資がなければ死後事務を実施できない。口座凍結後は預金があっても支払えない 生前預託・葬儀社生前契約・生命保険・仮払い制度等を確認する
預託金を安易に預かる 横領を疑われる・使途不明・分別管理不十分・報酬と実費の区別が曖昧になる・利益相反を疑われる 専用口座で分別管理・使途明確化・定期報告・返還先明記・所属会の最新規則を確認
本人以外の意向で契約を進める 親族・施設・知人の「本人のため」は本人の意思と異なる可能性がある 必ず本人の直接意思確認を行う
行政書士が包括的な「実行主体」になれると考える 「遺体を必ず引き取ります」「遺品は自由に処分できます」「医療同意も対応します」は使えない 「連絡・手配・書類作成等を行います」「相続人の同意または事前合意の範囲で進めます」と表現する
デジタル資産を安易に操作する 不正アクセス禁止法・利用規約違反・相続財産性の問題が生じる可能性 生前に本人の明示的意思を確認し、各サービスの正式な死亡時手続を確認する

11. トラブル予防策

11-1. 本人確認を徹底する・意思確認を複数回行う

マイナンバーカード・運転免許証・パスポート・住民票・印鑑登録証明書等で確認。健康保険証は補助的資料として扱い、可能な限り顔写真付き資料と組み合わせる。高齢者の場合、1回の面談だけで契約を急がない方が安全です。

11-2. 利益相反を確認する

死後事務受任者・遺言執行者・財産管理受任者・任意後見受任者・見守り契約受任者・遺贈の受遺者・預託金管理者を兼任する場合は、説明義務・記録・報告・第三者チェックが必要です。特に行政書士自身が経済的利益を受ける設計は弁護士等に確認した方が安全です。

11-3. 業務範囲を明文化する

契約書に受任する事務・受任しない事務(医療同意不可・紛争対応不可・相続財産分配不可)・遺品処分は相続人同意または事前合意の範囲で行うこと・報告先・緊急時対応・他士業連携が必要な場合・相続人・親族から異議が出た場合の対応を明記します。

11-4. 完了報告・写真・領収書・作業記録を残す

死後事務では本人が亡くなっているため、後日の説明責任が非常に重要です。葬儀社見積書・火葬費領収書・納骨費領収書・遺品整理業者見積書・作業前後の写真・貴重品一覧・廃棄物処分記録・公共料金解約記録・相続人・親族への報告書・預託金収支表を残します。

12. ケーススタディ

事案:82歳女性Aさんのケース

賃貸マンションに一人暮らし。夫は死亡。子はいない。兄は死亡、妹とは20年以上連絡を取っていない。甥姪がいる可能性はあるが連絡先は不明。最近入退院を繰り返しており、ケアマネジャーから勧められて来所。
希望:簡素な葬儀・永代供養・家財ほぼ処分・写真数枚を友人Bさんへ・妹への死亡通知はOK。預金約400万円。遺言書なし。判断能力は会話上問題なさそう。スマホとインターネット契約あり。

新人行政書士の初動(7段階)

  • 第1段階 本人確認(氏名・生年月日・住所・本籍地・確認資料・面談日時・同席者・相談経緯を記録)
  • 第2段階 意思確認(「死後事務委任契約とはどのような契約か」「口座凍結リスクを理解しているか」「医療同意を行政書士ができないことを理解しているか」「形見分けに相続人との関係が問題になる場合があることを理解しているか」をAさん自身の言葉で確認)
  • 第3段階 親族調査の必要性を説明(妹・甥姪の有無を戸籍で確認する必要性を伝える)
  • 第4段階 遺言の必要性を判断(預金約400万円の死後事務費用差引後の残額の行き先が未設計のため、遺言書作成・見守り契約・任意後見・医療意思表示書面・デジタル整理・賃貸借契約の死亡時対応確認を提案)
  • 第5段階 費用原資を確認(口座凍結を前提に、死後事務費用の生前預託・葬儀社との生前契約・永代供養先との生前契約・預託金専用口座での分別管理を検討)
  • 第6段階 受任可否判断(推定相続人の確認・遺言の未設計・永代供養先未選定・家財処分の相続人同意問題・預託金設計が未完のため、すぐ契約しない)
  • 第7段階 次回までの宿題(本人確認資料・戸籍取得委任状・預金通帳概算・賃貸借契約書・介護保険証・葬儀・納骨希望メモ・友人Bさんの連絡先・スマホ・サブスク一覧・生命保険の有無を依頼)

13. 実務チェックリスト

A. 本人確認・意思確認

  • 相談者は本人か
  • 本人確認資料を確認したか
  • 健康保険証のみで本人確認を完結させていないか
  • 本人と直接面談したか
  • 本人は「死亡後の事務を任せる契約」だと理解しているか
  • 本人は遺言との違いを理解しているか
  • 本人は死亡後の口座凍結リスクを理解しているか
  • 第三者に医療同意権がないことを説明したか
  • 判断能力に疑義がある場合の対応を検討したか

B. 親族・相続関係

  • 配偶者・子・親・兄弟姉妹・甥姪の有無を確認したか
  • 疎遠な親族の有無を確認したか
  • 相続人調査の必要性を説明したか
  • 遺品処分に相続人同意が必要となる可能性を確認したか
  • 相続放棄を予定している親族がいないか確認したか

C. 死後事務の範囲

  • 葬儀・火葬の希望を確認したか
  • 遺体引取りに関する手配・関係者調整の範囲を説明したか
  • 家財が相続財産に含まれる可能性を説明したか
  • デジタル契約の有無・ID利用の法的リスクを説明したか
  • ペットの有無を確認したか

D. 他制度・費用・医療・連携

  • 遺言書・任意後見・財産管理・見守り契約の要否を検討したか
  • ACP・尊厳死宣言・医療意思表示支援を検討したか
  • 身元保証を緊急連絡・費用支払・死後対応に分解したか
  • 死亡後の口座凍結リスクを説明したか
  • 預託金の専用口座での分別管理を検討したか
  • 弁護士・司法書士・税理士連携の要否を検討したか
  • 公証役場での公正証書化を検討したか
  • 医療同意不可の説明記録を作成したか

14. 確認テスト(全8問)

問1
死後事務委任契約と遺言の違いを説明してください。
遺言は、主に財産を誰に承継させるかなど、死亡後の法律効果を定める本人の単独行為である。死後事務委任契約は、本人死亡後に発生する葬儀・火葬・納骨・住居明渡し・医療費・施設費の精算手続支援・公共料金解約などの事務について、連絡・手配・書類作成・関係者調整等を第三者に依頼する契約である。遺言だけでは死亡後の生活清算事務の担い手を十分に確保できないため、両者を分けて設計する必要がある。
問2
任意後見契約がある場合、死後事務委任契約は不要になるか。
不要にはならない。任意後見契約は、本人の判断能力が低下した後、生存中の財産管理や身上保護を行うための制度である。死亡後の葬儀・火葬・納骨・住居明渡し・家財整理などは、別途死後事務委任契約で設計する必要がある。
問3
行政書士や死後事務受任者は、医療行為への同意を行えるか。
行えない。法律上、行政書士・死後事務受任者・任意後見人・成年後見人などの第三者に、医療行為への同意権が当然に認められているわけではない。行政書士が支援できるのは、本人の判断能力があるうちに、ACP・尊厳死宣言・医療意思表示書面などを通じて、本人の希望を整理・書面化することである。
問4
おひとりさまの死後事務委任契約で、初回相談時に特に確認すべき事項を5つ挙げてください。
①本人の意思能力と契約理解、②推定相続人・親族関係、③死亡時の連絡先、④葬儀・火葬・納骨・住居明渡しの希望、⑤費用原資・預託金の見込み。
問5
死後事務委任契約だけでは解決できない事項を5つ挙げてください。
①相続財産を誰に渡すかの指定、②相続人間の紛争解決、③医療行為への同意、④税務申告や不動産登記、⑤相続人の同意が必要な遺品処分。
問6
死亡後の預貯金口座について、死後事務委任契約で注意すべき点を説明してください。
本人死亡後は、本人名義の預貯金口座が凍結されることが通常である。したがって、本人の預金残高が十分にあっても、葬儀費用や家財整理費用・行政書士報酬を直ちに支払えるとは限らない。そのため、生前預託金・葬儀社との生前契約・生命保険・信託・相続人との事前合意・預貯金仮払い制度の活用可能性などを事前に検討する必要がある。
問7
遺品整理・形見分けで新人行政書士が注意すべき点を説明してください。
遺品や家財は相続財産に含まれる場合がある。そのため、死後事務委任契約に本人の希望が書かれていても、相続人の同意や遺言等の根拠なく、高価品を処分したり特定の人へ渡したりすると、後日相続人から異議が出る可能性がある。写真記録・財産目録・相続人同意・事前合意・遺言書との接続が重要である。
問8
新人行政書士が受任を保留すべき場面を5つ挙げてください。
①本人の意思能力に疑義がある場合、②親族間紛争が既に発生している場合、③費用原資がなく希望する死後事務を実施できない場合、④医療同意の代行を求められている場合、⑤遺品処分や財産取得について利益相反が疑われる場合。

15. 次回への接続

今回の要点 死後事務委任契約は単体の契約書作成業務ではありません。遺言・遺言執行・任意後見・財産管理・見守り・身元保証・医療意思表示・葬儀・納骨・住居整理・デジタル終活を横断して設計する終活支援業務として理解する必要があります。

次回「3-2 死後事務でできること・できないこと」では、行政書士が契約上受任できる事項・慎重に扱うべき事項・他士業や関係機関に接続すべき事項を具体的に整理します。死亡届と提出代行の違い・遺体引取りの実務上の限界・家財処分と相続財産の区別・デジタル契約解約の注意など、「行政書士が『できる』と言ってはいけない表現」を詳しく扱います。

行政書士実務マニュアル|死後事務委任契約業務 第3-1回

本記事は教育・研修目的で作成されています。個別の案件については必ず最新の法令・ガイドライン・専門家の判断を確認してください。

あわせて確認したいこと

相続・遺言・終活の手続きを確認したい方へ

相続、遺言、終活に関する手続きでは、戸籍、財産、関係者の状況を落ち着いて整理することが大切です。川崎市北部で家族の手続きについて確認したい方は、関連するご案内をご覧ください。

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