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行政不服申立て 実務解説

不利益処分で執行停止をどう考えるか
本案と分けて検討する視点

執行停止は、審査請求の主張をそのまま写せば足りる手続ではありません。本案で争う理由とは別に、重大な損害や緊急の必要性を資料で示す必要があります。相談初動から申立準備までの判断手順を整理します。

執行不停止の原則 行政不服審査法25条は、審査請求が処分の効力・執行・手続の続行を妨げないという執行不停止の原則を前提に、一定の場合の執行停止を定めています。審査請求を出しただけでは処分は当然には止まりません。
Section 01

審査請求を出しても処分が止まるとは限らない

この章のポイント

  • 不利益処分の相談では「本案」と「今止める必要性」を分けて聞く
  • 執行停止を見落とすと、裁決前に損害が現実化することがある
  • 初動で処分の発効日・期限・影響を確認することが実務の分岐点

営業停止や許認可取消しでは、処分の適法性とは別に事業継続や取引への影響を早期に把握する必要があります。処分の発効日・履行期限・公表予定日が近い場合、審査請求書の作成と並行して執行停止を検討します。受任直後に「本案とは別に止める手続を検討する必要がある」と依頼者へ説明することが大切です。

止めたい対象が「処分の効力」なのか「執行」なのか「手続の続行」なのかを最初に切り分けます。行審法25条は処分の効力・執行・手続の続行の停止を問題にしています。申立ての対象が曖昧なままだと、理由も主張もぼやけます。

Section 02

本案と執行停止を分けて考えるための4つの整理軸

この章のポイント

  • 本案では処分の違法・不当を争う
  • 執行停止では重大な損害と緊急性を中心に示す
  • 本案に理由がないとみえる場合は執行停止が認められない
  • 本案の主張をそのまま貼るだけでは説得力が不足する
本案(審査請求書)
目的処分の取消し・変更を求める
中心論点処分が法令・審査基準・事実認定・裁量判断に照らして違法または不当か
確認資料処分通知書・根拠法令・審査基準・処分基準・一次情報
時間軸裁決が出るまでの手続全体を通じた主張
執行停止(申立書)
目的裁決前に処分の効力・執行・手続続行を止める
中心論点重大な損害を避けるため緊急の必要があるか(行審法25条)
確認資料損害資料・期限通知・公表予定・取引停止連絡
時間軸裁決を待てない今の状況を示す
本案に理由がないとみえる場合は執行停止不可 行審法25条は、本案について理由がないとみえる場合および公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがある場合には執行停止をすることができないと定めています。本案の見通しも一定程度考慮されます。申立書では損害・緊急性を中心に、本案の要点は必要な範囲に絞ります。
Section 03

重大な損害を判断するために確認したい5つの影響

この章のポイント

  • 営業停止・許認可取消しなど事業継続への影響
  • 資格・登録・指定の喪失による職業活動への影響
  • 生活基盤や収入への直接的な影響
  • 信用・取引先・契約関係への回復しにくい影響
  • 金銭賠償や後日の取消しだけでは回復しにくい事情
事業
継続
営業停止・許認可取消しで事業が止まる
対象事業の売上比率・固定費・主要取引先との契約内容・従業員への影響を確認する。「営業できない」だけでなく、どの取引がいつ止まるかを資料化する。
職業
活動
資格・登録・指定の喪失で専門業務ができなくなる
資格に基づく業務割合・顧客との契約・勤務先での職務内容を確認する。資格の価値ではなく、処分によって生じる具体的な制約を示す。
生活
基盤
収入が途絶える・給付が止まる・生活維持に影響が出る
収入資料・支出資料・扶養状況・返済予定を整理する。個人事業主や小規模事業者では事業上の損害が生活上の損害につながることがある。
信用・
契約
処分の公表・取引停止・契約解除で後から回復しにくい影響
取引先からの通知・契約書の解除条項・公表予定・入札資格への影響を確認する。後で処分が取り消されても関係回復が難しい事情を具体化する。
回復
困難
後日の金銭賠償や取消しだけでは回復しにくい事情
事業廃止・信用低下・生活破綻に近い影響がある場合は後日の回復が難しい。申立書では「損害がある」だけでなく「後からでは回復しにくい」を資料で説明する。
Section 04

緊急性を説明するために押さえる3つの時間軸

この章のポイント

  • 処分の発効日・履行期限・公表予定日を確認する
  • 審査請求から裁決まで待てない事情を具体化する
  • 申立てが遅れた場合に緊急性の説明が弱くなる点に注意する

緊急性は時間軸で説明すると整理しやすくなります。処分日→相談日→申立予定日→損害発生日を並べた時系列表を作ると全体像が把握しやすくなります。

発効日・期限の確認:営業停止開始日・公表予定日・返還期限・改善命令の期限などを処分通知書や行政庁からの連絡文書で確認する。日付が曖昧なままでは緊急性の説明も弱くなる。

待てない事情の具体化:「早く判断してほしい」と書くのではなく、裁決を待つ間に何が起きるのかを時系列と資料で説明する(例:○月○日に営業停止が始まると主要取引先との契約が履行できない)。

申立ての遅れに注意:長期間申立てをしていなかった場合、なぜ今すぐ止める必要があるかを追加で説明しなければならない。新たな通知・取引先の反応・期限到来など申立時点で緊急性が高まった事情を整理する。

Section 05

申立て前に集める資料を4分類で整理する

この章のポイント

  • 処分の存在・根拠・損害・緊急性の4分類で集める
  • 資料は多ければよいわけではなく主張と対応させる
処分の存在を確認する資料
処分通知書・理由提示・教示・送達日が分かる資料。処分日・処分庁・処分内容・審査請求先・期間を把握する。教示の有無と内容も確認する。
根拠を確認する資料
個別法・施行令・施行規則・審査基準・処分基準。行審法だけでなく個別法を確認する。e-Gov法令検索で根拠条文・関連規定をたどる。様式や手続案内は所管省庁・自治体の公式ページで確認する。
損害を示す資料
事業者:売上台帳・決算書・契約書・取引先通知。個人:給与明細・家計資料・勤務資料・扶養状況。主張したい損害と対応する資料を選び、どの事実を裏付けるかを明確にする。
緊急性を示す資料
履行期限の通知・公表予定・営業停止開始日・取引停止連絡・後続手続の案内。時系列表で処分日→相談日→申立予定日→損害発生日を並べる。
Section 06

執行停止申立書を書くときに外さない4つの要素

この章のポイント

  • 対象処分と求める停止内容を明確にする
  • 重大な損害を事実と資料に結びつけて書く
  • 緊急の必要性を時系列で説明する
  • 本案の理由は要点に絞り損害・緊急性の説明を薄めない
執行停止申立書 4つの要素
対象処分と求める停止内容を明確にする
処分の効力停止・執行停止・手続続行の停止のどれかを明確にする。処分通知書の日付・処分庁・処分名を正確に記載する。求める措置が不明確だと審査庁も判断しにくくなる。
重大な損害を事実と資料に結びつけて書く
「売上が大きく減る」ではなく「対象事業が売上の○%を占め、営業停止により主要取引が履行できない」と具体化する。資料番号を付け主張と証拠の対応関係を明確にする。
緊急の必要性を時系列で説明する
処分日→通知到達日→発効日→履行期限→公表予定日→損害発生日を並べ、いつまでに判断が必要かを示す。損害が近い将来に発生する場合はその時期を明記する。
本案の理由は要点に絞る
本案の違法・不当の要点は触れるが長く書きすぎない。詳細は審査請求書に委ねる。執行停止では「なぜ止める必要があるか」が中心であることを忘れない。
提出方法・部数・添付資料は審査庁の案内で確認 執行停止申立書に全国共通の固定様式がない場合でも審査庁が記載例や提出方法を示していることがあります。郵送・窓口・電子申請の可否、添付資料、部数は提出先ごとに確認してください。行審法施行令にも審査請求書の提出通数に関する規定があります。
Section 07

新人実務者が避けたい5つの失敗

  • ×①
    審査請求を出せば自動的に止まると説明する
    行審法は執行不停止の原則を前提にしています。この点を誤ると依頼者の判断にも影響します。初回相談では「審査請求と執行停止は別に検討するもの」と説明する。
  • ×②
    本案の違法主張だけで申立書を構成する
    処分が違法だと考える理由は重要だが、それだけでは「今止める必要性」を十分に示せない。申立書では処分が進んだ場合に何が起きるのかを中心に書く。
  • ×③
    損害を抽象的な不利益としてしか書かない
    「大きな損害がある」「信用が落ちる」だけでは説得力が弱い。金額・期間・契約・業務停止範囲・生活への影響に分解して資料と対応させる。
  • ×④
    個別法・審査基準・教示を確認せず一般論で判断する
    行審法の一般論だけで判断すると個別法の特則や提出先の違いを見落とす。再調査請求・再審査請求の有無も個別法で変わる可能性がある。必ず原典に当たる。
  • ×⑤
    執行停止の見込みを断定的に伝える
    重大な損害・緊急性・本案の見通し・公共の福祉への影響など複数の要素が関わる。成功保証や必勝法のような表現を使わず、要件と資料の状況を整理して説明する。

まとめ

  • 審査請求をしても処分の効力や執行は当然には止まらない(執行不停止の原則)
  • 執行停止は本案の違法・不当の主張とは別に、重大な損害と緊急の必要性を資料で示す手続
  • 損害は営業・資格・生活・信用・契約関係への影響として具体化する
  • 緊急性は発効日・履行期限・公表予定日などの時間軸で資料と対応させて説明する
  • 個別法・審査基準・標準処理期間・様式・教示は必ず一次情報で確認する

執行停止は「勝てそうか」だけでなく、「裁決前に止める必要があるか」を資料で示す実務判断です。処分通知書と期限を確認し、本案と執行停止を分けて整理しましょう。

本記事は情報提供を目的としており、個別の法的判断を保証するものではありません。具体的な手続については、専門家にご相談ください。

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