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第0-8回 報酬・実費・預り金

報酬・実費・預り金の説明
終活業務における費用説明・預り金管理・
預託金設計・精算報告の実務マニュアル

「だいたいこれくらいです」「後で精算します」は重大なトラブルの入口。見積書・委任契約書・預り証・精算書を使って、金銭トラブルを予防する実務を解説します。

対象:新人行政書士読了目安:約25分ケーススタディ5例・確認テスト13問収録
前回(0-7)との接続 前回は利益相反を確認しました。今回は、その利益相反と密接に関わる金銭管理を扱います。終活業務では、数か月から数年、場合によっては本人死亡後まで業務が継続するため、費用説明が曖昧だと本人・親族・相続人・遺言執行者などとの間で重大な金銭トラブルになります。

1. この回の到達目標

  • 報酬・実費・預り金・預託金・立替金の違いを相談者に明確に説明できる
  • 見積書・委任契約書・重要事項説明書・領収書・預り証・精算書を作成できる
  • 死後事務委任の費用設計(死亡後継続特約・預託金不足リスク・返金先)を理解できる
  • 預かった金銭と報酬を混同せず、分別管理・台帳記録できる
  • 追加費用発生時に本人または権限者の承諾なしに勝手に支出しない判断ができる
  • 解約時・死亡後精算、相続人からの解除リスクを想定した精算設計ができる
  • 他士業(税理士・司法書士・弁護士)へ適切に連携できる

2. 業務が必要になる実務場面

実務場面 費用説明上の注意
遺言書作成支援 行政書士報酬・公証役場手数料・証人費用・戸籍等実費を分ける
死後事務委任契約 死後事務報酬・葬儀費・納骨費・家財処分費・預託金不足リスクを説明
任意後見契約支援 契約書作成支援報酬・公証役場手数料・将来の後見報酬を分ける
財産管理等委任契約 月額報酬・支払代行実費・交通費・記帳報告頻度を明確にする
見守り契約 月額報酬・訪問費・緊急対応費・交通費を分ける
身元保証・身元引受関連支援 行政書士は原則として保証人・連帯保証人にはならず、支援業務としての関与にとどまる
葬儀・納骨手配支援 葬儀社費用・火葬料・納骨料・行政書士報酬を分ける
住居整理・家財処分支援 家財整理業者費用・立会報酬・写真記録費を分ける
デジタル終活支援 利用規約・法令に抵触しない範囲での支援に限定する
本人死亡後の精算 相続人・遺言執行者・死後事務受任者・相続財産清算人との関係を整理

3. 基本知識

3-1. 5種類の金銭区分

図解1|報酬・実費・預り金・預託金・立替金の5区分
① 報酬行政書士の業務対価。領収書を発行し帳簿に記録。売上として受領。
② 実費戸籍代・住民票代・公証役場手数料・郵送費・交通費。依頼者負担。領収書・明細を保管。
③ 預り金将来の実費等に充てるため一時的に預かる金銭。自己資金と区別し、可能な限り専用口座等で分別管理。台帳記録・精算が必要。
④ 預託金契約に基づき使途を限定して管理する金銭(死後事務費用等)。厳格な管理が必要。専用口座・信託等を検討。
⑤ 立替金本来依頼者が負担すべき費用を行政書士が一時的に支払ったもの。原則避ける。報酬と区別して処理。税務上も売上に含めないよう区分。
⑥ 仮受金・預り品仮受金:金額・使途確定前の一時受取。預り品:通帳・印鑑・権利証等。金銭以上に厳重管理。預り証・返却記録が必要。
最重要原則 報酬は行政書士のもの。預り金・預託金は依頼者のために預かっているもの。立替金は依頼者に代わって一時的に支払った金銭。これらを混同してはいけない。

3-2. 金銭管理が不透明だと疑われること

  • 「こんなに高いとは聞いていない」(過大報酬・説明不足)
  • 「預けたお金が何に使われたか分からない」(預り金流用疑い)
  • 「葬儀用に預けたお金が事務所口座に混ざっている」(預託金の不透明管理)
  • 「残金が返ってこない」(返金漏れ)
  • 「死後事務費用が足りない」(預託金不足)
  • 「途中解約したのに返金されない」(解約トラブル)
  • 「報酬に葬儀代も登記費用も含まれると思っていた」(業務範囲の誤解)

3-3. 行政書士に求められる金銭管理の基本

項目 実務対応
報酬の明示 受任前に見積書・契約書で説明
実費の説明 何が実費か、概算か確定額かを説明
預り金の分別 自己資金と区別し、可能な限り専用口座等で管理。台帳を作成
多額預託金の管理 依頼者ごとの専用口座・預託金専用口座・信託等の活用を検討
領収書発行 報酬・預り金・預託金・立替精算で名目を分ける
精算書作成 業務完了時・解約時・定期報告時・死亡後精算時に作成
追加費用説明 発生前に説明・承諾を得る
返金ルール 未使用預り金・未使用預託金・未実施業務分の扱いを明記
定期報告 長期契約では月次・四半期・半年ごとの報告を検討

3-4. 専用口座の考え方

方法 内容 注意点
案件別台帳管理 案件ごとに入出金を記録 少額・短期向き。口座混同を避ける運用が必要
預り金専用口座 事務所運営口座とは別に管理用口座を設ける 案件ごとの残高管理が必要
依頼者ごとの専用口座 多額の預託金について個別管理 口座開設可否・名義・金融機関実務を確認
信託等の活用 多額・長期・死後支出に備える 信託設計・費用・税務・登記等について専門職連携が必要

3-5. 死後事務委任契約の費用設計

法的整理:なぜ死亡後継続特約が必要か 民法上、委任契約は原則として委任者または受任者の死亡により終了します。したがって、死後事務委任契約は、本人死亡後も事務を継続できるよう、死亡によって当然には終了しない旨の特約を含む準委任契約として設計する必要があります。
死後事務費用の重要整理 死後事務費用は、当然に相続財産から優先的に支払われるものではありません。契約上の根拠・支払原資・預託金・保険金・遺言執行者との関係・不足時対応を事前に明確化する必要があります。

3-6. 預託金の設定で考えるべき項目

図解2|死後事務費用の内訳と確認項目
葬儀・火葬方式・搬送費・安置日数・宗教儀礼の有無
納骨・寺院墓・納骨堂・永代供養・散骨・お布施・戒名
家財処分物量・階数・特殊清掃・賃貸退去・原状回復
未払費用医療費・施設費・公共料金・通信費
行政書士報酬死後事務執行報酬・立会報酬・報告書作成報酬
予備費・不足対応不測の支出。不足時は誰が追加負担するか・残額処理

3-7. 本人以外が費用を支払う場合の注意

利益相反リスク 受遺者予定者・任意後見受任者候補者・死後事務受任者候補者・親族が費用を支払う場合、業務内容を自分に有利にしようとする利益相反が生じます。支払者が文案や契約内容を決定しないことを確認し、本人単独面談を行います。

3-8. 解約・返金・追加費用は最初に説明する

項目 説明内容
中途解約 いつでも解約できるか、手続方法
死亡後解除 本人死亡後であっても相続人から解除されるリスクを想定する
実施済業務 実施済報酬は返金されないことがある
未実施業務 未実施分の返金有無
預り金・預託金 未使用残額は精算対象・契約に従い返金または引継ぎ
追加費用 発生前に説明・承諾を得る
不足金 誰が追加負担するか・行政書士が当然に立替えるものではない
死亡後返金 相続人・遺言執行者・相続財産清算人等との関係

4. 実務の進め方

4-1. 費用説明の標準フロー

図解3|費用説明の標準フロー
相談受付・初回相談料説明 → 相談内容聴取 → 本人確認・意思能力・利益相反確認
→ 業務範囲整理 → 報酬・実費・預り金・預託金の分類 → 概算見積提示
→ 追加費用発生場面を説明 → 正式見積書作成
契約前に重要事項説明書を交付・説明 → 熟慮期間を設ける
→ 委任契約書締結 → 入金時に領収書・預り証発行
→ 業務中:管理台帳・定期報告・追加費用説明
→ 完了時または解約時に精算書作成 → 残額返金・不足金請求・完了報告

4-2. 初回相談時に言ってはいけないこと

❌ NG表現
  • 「全部込みで大丈夫です」
  • 「後で何とかします」
  • 「預けておけば安心です」
  • 「足りなければ相続財産から払えます」
  • 「葬儀費も家財処分も全部この中です」
  • 「返金はその時考えます」
  • 「一時的にこちらで払っておきます」
✅ 正しい説明
  • 報酬・実費・預託金を分けて見積書で説明
  • 追加費用が発生する場面を事前説明
  • 不足時対応を契約書に明記
  • 死後事務費用は相続財産から当然に優先支払いされない旨を説明
  • 返金ルール・精算方法を契約書に明記
  • 立替は原則避ける

4-3. 受任時の費用説明書面

書面 目的
見積書 費用の全体像を示す(報酬・実費・預り金・追加費用・解約精算を記載)
委任契約書 業務範囲・報酬・実費・支払方法・解約精算を定める
重要事項説明書 長期契約・預託金・解約・返金を分かりやすく説明。契約締結の前に必ず交付し、理解を促す時間を設ける
領収書 報酬受領を証明(名目を明確に記載)
預り証 預り金・預託金受領を証明(報酬ではないことを明記)
管理台帳 預り金・支出・残額を記録
定期報告書 長期契約で本人・関係者へ報告
精算書 完了・解約・死亡後に精算

5. ヒアリング項目

5-1. 費用説明前に確認する基本事項

  • 費用はどなたが負担されますか(支払者の利益相反確認)
  • 費用はどの資金から支払いますか(本人財産か第三者負担か)
  • 未使用分は誰に返す方針にしますか(死後精算先)
  • 不足した場合、誰が追加負担しますか(預託金不足対策)
  • 亡くなった後に相続人から解除や精算を求められる可能性も想定しますか

5-2. 死後事務委任で確認する費用項目

  • 直葬・家族葬・一般葬のどれを希望するか・希望する葬儀社はあるか
  • 読経・戒名・寺院手配は必要か・納骨先は決まっているか
  • 家財は多いか・処分費がかかりそうか・賃貸の場合の退去費用・原状回復費
  • 死亡時に未払医療費・施設利用料が残る可能性があるか
  • デジタル契約(サブスク・ネット銀行等)の解約費用。利用規約や法令に抵触しない範囲で整理する
  • 死後事務費用をどの資金から支払う設計にするか・不足時の対応方針

5-3. 財産管理・見守り契約で確認する費用項目

  • 訪問頻度・電話頻度・報告頻度(月次・四半期・半年ごと)
  • 支払代行・通帳管理の有無・緊急対応費・夜間休日対応の要否
  • 交通費の実費精算・追加同行費(病院・施設同行)の料金設定
  • 原則として立替は行わず、事前に預り金または本人資金から支出する設計にする
  • 途中解約時の報酬・実費の精算方法

6. 判断フロー

6-1. 預り金・預託金が必要か判断するフロー

図解4|預り金・預託金の必要性判断
業務に外部支出があるか→ ない原則として報酬のみ
↓ ある
少額・短期の実費か→ はい実費預り金で対応
↓ いいえ(死後事務・長期・まとまった支出)
預託金の必要性を検討
使途・管理・返金・不足時対応を契約書に明記
↓ 多額なら
専用口座・信託・第三者管理を検討

6-2. 預託金不足が判明した場合のフロー

本人が生存中の場合
本人へ説明 → 追加預託・業務範囲変更・外部費用見直し
死亡後の場合
契約上の不足時対応を確認 → 遺言執行者・相続人・相続財産清算人等の関係を確認 → 死後事務費用は当然に相続財産から優先支払いされるものではない → 行政書士が勝手に立替えない → 紛争性があれば弁護士連携

6-3. 解約時精算フロー(主要ステップ)

解約申出 → 本人意思確認(死亡後の場合は相続人・遺言執行者等の関係を確認)→ 実施済業務・未実施業務を確認 → 受領済報酬・預り金・預託金を確認 → 支出済実費・立替金を確認 → 精算書作成 → 返金額または不足額を説明 → 返金・請求 → 書類・預り品返却 → 完了報告

7. 作成・確認する書類

見積書に記載すべき重要項目(抜粋)

  • 業務範囲の明示(「相続税申告・不動産登記・紛争交渉は含まない」等)
  • 実費(「戸籍・住民票・登記事項証明書・公証役場手数料・郵送費等は別途実費」)
  • 他士業費用(「司法書士・税理士・弁護士報酬は別途」)
  • 追加費用発生条件(「相続人が多数の場合・出張回数が増える場合は別途見積」)
  • 預託金(「死後事務費用の原資として預託金を設定する場合は別紙預託金説明書による」)
  • 死後費用の注意(「死後事務費用は当然に相続財産から優先支払いされるものではないため、契約上の支払原資を別途定める」)
  • 解約時精算・死亡後精算・相続人解除時の精算方法

預託金管理台帳の主要項目

  • 契約名・本人氏名・預託目的(葬儀費用・納骨費用・家財処分費用・施設医療費精算等)
  • 預託金受領日・金額・管理方法・管理口座
  • 使用可能な費目・使用禁止費目・支出承認者
  • 支出日・支出先・支出名目・金額・領収書番号・残額
  • 定期報告日・不足見込額・追加預託の要否
  • 死亡後の精算先・相続人解除時の精算方法・残額返金方法

8. 文例・記載例

預り金と報酬を分けて説明する文例

預り金は、今後必要になる実費などに充てるため、一時的にお預かりするお金です。当職の報酬ではありません。使用した場合は、支出先・金額・内容を記録し、領収書等に基づいて精算します。未使用分があれば、契約に従って返金します。預り金は自己資金と区別して管理します。

預託金を説明する文例

死後事務では、葬儀・火葬・納骨・家財処分・役所手続・医療費や施設費の精算など、亡くなった後に費用が発生します。その原資として、あらかじめ預託金を設定することがあります。預託金は当職の報酬ではなく、契約で定めた死後事務費用に充てるために管理するお金です。多額になる場合は、事務所の一般口座とは区別した専用管理の方法を検討します。使用した場合は明細を残し、残額がある場合は契約で定めた方法に従って精算します。

預託金不足リスクを説明する文例

死後事務費用は、葬儀方式・家財の量・賃貸住宅の原状回復・納骨先などによって大きく変わります。そのため、事前に預託金を設定しても、実際には不足する可能性があります。死後事務費用は当然に相続財産から優先的に支払われるものではないため、不足した場合に誰が追加負担するのか、業務範囲を縮小するのか、相続人や遺言執行者とどのように整理するのかを、契約時に決めておく必要があります。行政書士が当然に立替えるものではありません。

預り証の記載例

預り証 記載例

〇〇年〇月〇日 山田花子 様
金 50,000円
但し、戸籍・住民票等取得実費および郵送費に充てる預り金として、上記金額をお預かりしました。
本預り金は行政書士報酬ではなく、実費支出後に精算し、未使用残額がある場合は返金します。
行政書士〇〇事務所 行政書士 〇〇〇〇

死後事務預託金の預り証記載例

預託金預り証 記載例

〇〇年〇月〇日 山田花子 様
金 800,000円
但し、死後事務委任契約に基づく葬儀・火葬・納骨・家財整理・役所手続等の費用に充てる預託金として、上記金額をお預かりしました。
本預託金は行政書士報酬ではありません。支出時は契約書に定める費目に限り使用し、領収書等に基づき管理台帳へ記録します。多額の預託金については、事務所の一般口座と区別した管理方法により管理します。未使用残額がある場合は、契約書に定める方法により精算します。
行政書士〇〇事務所 行政書士 〇〇〇〇

9. 他士業・関係機関との連携

  • 弁護士 預託金の返金先で親族間対立・相続人が「預り金を返せ」と争っている・死後事務費用の支出に異議がある・死後事務委任契約を相続人が解除しようとしている・高額立替をしてしまった
  • 司法書士 不動産登記費用が関係・相続財産に不動産がある・民事信託・信託口座等を検討・相続財産清算人関係で登記が必要
  • 税理士 預託金の税務処理が問題・相続税申告が必要・死後事務費用が相続税に影響(葬式費用の扱い確認)・立替金・未払金の税務扱いが不明。行政書士は具体的な税額計算や税務上の可否判断を行ってはいけない
  • 金融機関・公証役場 預託金口座・本人資金・代理権・死亡後凍結に注意。公証役場では任意後見・死後事務・遺言の費用確認
  • 葬儀社・霊園・施設・家財整理業者 事前見積・追加費用・安置日数・搬送費。家財整理業者では見積・追加費用・貴重品発見時対応。換価価値がある物の処分は相続人・弁護士関与を検討

10. 新人が間違えやすいポイント

失敗パターン 問題点 正しい対応
「全部込み」と言ってしまう 公証役場手数料・戸籍代・証人費用・税理士司法書士費用が含まれるか不明 行政書士報酬・実費・外部専門職費用を分けて説明する
預り金を報酬のように扱う 預り金は依頼者のために管理する金銭。自己資金と混同すると流用疑い・懲戒リスク 管理台帳を作成し報酬とは別に管理。可能な限り専用口座等で分別管理
預託金不足を想定しない 不足時に誰が負担するか不明だとトラブル。死後事務費用は当然に相続財産から優先支払いされない 契約時に不足時対応を明記し、定期的に見直す
追加費用を事後報告にする 契約外支出を無断で行うと返還請求・説明義務違反を問われる可能性 追加費用は発生前に見積書を提示し本人または権限者の承諾を得る
本人以外の支払者に引きずられる 費用支払者が本人意思を支配する利益相反が生じる 費用支払者と本人を分け、本人単独面談で意思確認する
領収書と預り証を分けない 報酬なのか預り金なのか預託金なのか不明になる 報酬は領収書、預り金・預託金は預り証として名目を明確にする
解約時の返金ルールを決めていない 返金トラブルになる。死亡後解除時の精算方法も未定だとトラブル化 契約書に実施済業務・未実施業務・実費・預り金・死亡後解除時の精算方法を明記
立替を安易に行う 回収不能・相続人との対立・金銭融通・不当誘引・囲い込みと見られる可能性。立替金は報酬・売上と区別して処理する必要 立替は原則避ける。やむを得ない場合は金額・理由・承諾者・精算方法を記録する
死亡後の返金先を決めていない 相続人・遺言執行者・死後事務受任者・相続財産清算人の関係が問題になる 契約時に死亡後の精算先・報告先・返金方法を明記する
デジタル終活で利用規約を無視する アカウント処理は利用規約・個人情報・通信の秘密・不正アクセス・相続財産性などの問題が生じる可能性 利用規約や法令に抵触しない範囲で行う。必要に応じ弁護士・専門業者へ連携

11. トラブル予防策

11-1. 費用は必ず書面化する

場面 必要な書面
初回相談 相談料案内
受任前 見積書
受任前(長期契約) 重要事項説明書(契約前に必ず交付)
受任時 委任契約書
入金時 領収書・預り証
追加費用 追加費用承諾書
定期報告 定期報告書
完了・解約 精算書
死亡後解除 死亡後解除対応記録・精算書

11-2. 死後事務の預託金は定期的に見直す

賃貸から施設へ転居・家財が増える・葬儀希望が変わる・ペットを飼い始めた・物価上昇・相続人との関係悪化など、生活状況の変化により費用見込みが変わります。見守り契約は半年〜1年、財産管理契約は月次〜四半期、死後事務委任契約は年1回以上を目安に見直します。

11-3. 親族・相続人から見ても説明できる記録を残す

  • 本人への費用説明記録・重要事項説明書・見積書・委任契約書
  • 領収書(報酬)・預り証(預り金・預託金)・台帳(入金・支出・残額)
  • 専用口座記録・領収書写し(支出根拠)・定期報告書
  • 追加承諾書・精算書・返金記録・死亡後解除対応記録

12. ケーススタディ(5事例)

ケース1 死後事務費用を概算で受け取ったが不足した場合

80歳女性A。独身・子なし・甥姪とは疎遠。死後事務委任契約締結、直葬・永代供養・家財処分を希望し、預託金60万円を預かった。死亡後の実際費用:搬送・安置・直葬28万円+火葬料3万円+永代供養費25万円+家財処分費42万円+行政書士報酬22万円=合計120万円。60万円不足した。

問題点 家財量の確認不足・追加負担者不明・立替リスク・死後事務費用は相続財産から当然に優先支払いされるわけではない・相続人から契約解除・預託金返還を求められる可能性
受任時にすべきだった対応 葬儀社・永代供養先・家財整理業者の事前見積取得、行政書士報酬を別枠で明記、予備費設定、不足時対応を契約書に明記、不足時に行政書士が当然に立替えないと説明、相続人解除時の精算方法を明記、年1回以上費用見直し
ケース2 本人以外の甥が費用を支払った場合

高齢女性Bの遺言作成支援。甥Cが相談予約をし費用もCが支払うと申し出た。遺言内容はCへ多く財産を残すもの。

  • B本人と単独面談 / Cが費用を払う理由を確認 / Bが費用負担を理解しているか確認
  • Cが文案内容を決めないことを確認 / 報酬支払者確認書を作成
  • 他親族との紛争性があれば弁護士連携 / B本人から正式依頼を受けるまで文案を作らない
ケース3 財産管理契約を途中解約した場合

本人Dと財産管理等委任契約締結。月額報酬3万円・実費別。3か月分の報酬と実費預り金5万円を受領。2か月で解約。

項目 金額
受領済報酬 90,000円
実施済報酬(2か月分) 60,000円
未実施報酬(1か月分) 30,000円(返金対象)
受領済実費預り金 50,000円
支出済実費 12,000円
返金額合計 68,000円
ケース4 行政書士が立替払いをしてしまった場合

本人Eが入院中で、急ぎ戸籍取得と公証役場手数料が必要になった。本人から預り金を受け取る前に行政書士が合計25,000円を立替えた。

問題点 回収不能リスク・承諾の有無不明・反復・高額化すると金銭融通類似の問題・囲い込み・不当誘引と疑われる可能性。立替金は報酬・売上と区別して処理する必要がある。
正しい対応 原則として事前に預り金を受ける。やむを得ず立替える場合は本人の明示承諾を得て、立替金明細書を作成・領収書を保管・精算期限を決める・立替が継続しないようにする・立替金は報酬・売上と区別して処理する。
ケース5 死亡後に相続人から死後事務契約解除を求められた場合

本人Fと死後事務委任契約締結、預託金100万円を受領。F死亡後、相続人Gから「死後事務は自分で行うので契約を解除する。預託金を全額返してほしい」と連絡があった。

  • 契約書の死亡後継続特約・解除条項を確認
  • すでに実施した事務の一覧化・支出済実費の領収書整理
  • 発生済報酬・未使用預託金を算定 → 精算書を作成
  • 紛争性がある場合は弁護士へ連携。相続人に対して独断で条件交渉しない
  • 未実施事務は相続人または適切な権限者へ引き継ぐ

13. 実務チェックリスト

受任前の費用説明チェック

  • 初回相談料・延長料・出張費を説明した
  • 行政書士報酬を説明した
  • 実費の有無を説明した
  • 預り金・預託金の有無を説明した
  • 預託金の管理方法を説明した
  • 外部専門職費用が別途であることを説明した
  • 追加費用が発生する場面を説明した
  • 解約時精算・死亡後解除時の精算を説明した
  • 返金ルールを説明した
  • 見積書を作成した
  • 重要事項説明書を契約前に交付・説明した
  • 委任契約書に費用条項を入れた
  • 本人の理解を確認し説明記録を作成した

預り金・預託金管理チェック

  • 報酬と預り金を分けて説明した
  • 預り証を発行した
  • 管理台帳を作成した
  • 支出可能費目・禁止費目を定めた
  • 定期報告の頻度を決めた
  • 不足時対応を定めた
  • 残額返金方法・死亡後の精算先を定めた
  • 相続人解除時の精算方法を定めた
  • 自己資金と混同しない管理にした
  • 可能な限り専用口座等で分別管理する方法を検討した
  • 多額の預託金について専用口座または信託等の活用を検討した

死後事務費用チェック

  • 死亡後も事務を継続できる特約付き準委任契約として設計した
  • 葬儀社・家財整理業者の事前見積を取得した
  • 納骨先費用・寺院費用を確認した
  • 行政書士死後事務報酬を別枠で説明した
  • 予備費を設定した
  • 死後事務費用が当然に相続財産から優先支払いされないと説明した
  • 預託金不足時の対応を定めた
  • 相続人解除時の精算方法を定めた

完了・解約時精算チェック

  • 実施済業務・未実施業務を整理した
  • 受領済報酬・預り金・預託金を確認した
  • 支出済実費の領収書を整理した
  • 立替金を確認し報酬・売上と区別した
  • 返金額・不足額を算定した
  • 不足額を当然に相続財産から回収できると扱っていない
  • 精算書を作成した
  • 返金先を確認し返金を実施した
  • 預り品を返却した
  • 完了報告書を作成した

14. 確認テスト(全13問)

問1
報酬・実費・預り金・預託金・立替金の違いを説明しなさい。
報酬は行政書士の業務対価。実費は戸籍代・公証役場手数料・郵送費など外部に支払う費用。預り金は将来の実費等に充てるため一時的に預かる金銭。預託金は死後事務など将来の支出に備え、契約に基づき使途を限定して管理する金銭。立替金は本来依頼者が負担すべき費用を行政書士が一時的に支払ったもの。
問2
預り金と報酬を混同してはいけない理由を説明しなさい。
報酬は行政書士の売上だが、預り金は依頼者のために一時的に管理する金銭である。預り金を自己資金と混同すると、流用疑い・返金トラブル・懲戒リスクが生じる。預り金は自己の金員と区別して管理し、状況を記録する必要がある。
問3
死後事務委任で預託金不足が起こりやすい理由を挙げなさい。
葬儀方式・搬送安置日数・納骨先・寺院費用・家財量・賃貸住宅の原状回復・未払医療費・施設費・物価上昇などにより、契約時の見込みより実費が増えることがあるため。
問4
見積書に記載すべき項目を挙げなさい。
業務名・業務範囲・行政書士報酬・実費見込額・預り金・預託金・預託金の管理方法・外部専門職費用・外部業者費用・支払時期・追加費用発生条件・見積に含まれない業務・解約時精算方法・死亡後精算方法・相続人解除時の精算方法など。
問5
追加費用が発生する場合、行政書士はどう対応すべきか。
契約に含まれているか確認し、含まれていない場合や金額超過の場合は、本人または権限者に事前説明し、追加見積書や追加費用承諾書を作成し、承諾後に実施する。無断で支出しない。
問6
本人以外が費用を支払う場合の注意点を説明しなさい。
支払者が業務内容を決定しないこと・本人意思に基づく業務であること・支払理由・領収書宛名・返金先を記録する。支払者が受遺者予定者や受任者候補者である場合は利益相反に注意し、本人単独面談を行う。
問7
解約時に精算書へ記載すべき内容を挙げなさい。
契約日・解約日・死亡後解除の有無・受領済報酬・受領済預り金・受領済預託金・実施済業務・未実施業務・支出済実費・立替金・返金額・不足額・返金先・添付領収書一覧など。
問8
行政書士が立替払いをする場合の注意点を説明しなさい。
立替は原則避ける。やむを得ず行う場合は、本人または権限者の承諾を得て、金額・理由・支出先・精算方法・精算期限を記録し、領収書を保管する。継続的・高額な立替は、回収不能だけでなく、金銭融通・不当誘引・囲い込み・品位保持上の問題を招く可能性がある。立替金は報酬・売上と区別して処理する。
問9
死後事務預託金の残額は、本人死亡後に行政書士が自由に処理してよいか。
自由に処理してはいけない。契約書に定めた方法に従い、相続人・遺言執行者・相続財産清算人等との関係を確認して精算する。紛争性があれば弁護士へ連携する。
問10
長期契約で定期報告が必要な理由を説明しなさい。
見守り・財産管理・死後事務準備などは長期にわたり金銭や支出状況が変動するため、本人や関係者に定期的に報告しないと、使途不明・過大請求・預託金不足・返金漏れなどのトラブルが生じるため。
問11
死後事務委任契約では、なぜ死亡後継続特約が必要か。
民法上、委任契約は原則として委任者または受任者の死亡により終了するため、本人死亡後も葬儀・納骨・家財処分等の事務を継続できるよう、死亡によって当然には終了しない旨の特約を含む準委任契約として設計する必要があるため。
問12
死後事務費用は当然に相続財産から優先的に支払われるか。
当然に優先的に支払われるものではない。契約上の根拠・支払原資・預託金・不足時対応・相続人・遺言執行者・相続財産清算人との関係を事前に明確にしておく必要がある。
問13
多額の預託金を預かる場合、どのような管理を検討すべきか。
事務所の一般口座や通常の経費口座と混在させず、預り金専用口座・依頼者ごとの専用口座・信託等の活用を検討する。台帳・領収書・定期報告・残高照合・精算書作成も必要である。

15. 次回への接続

今回の要点 終活業務の費用説明では、「いくらかかるか」だけでなく、「何のためのお金か」「誰が払うか」「誰のお金として管理するか」「いつ・誰に・どのように精算するか」まで説明し、書面と台帳で残すことが重要である。
実務上の最重要ポイント 報酬は行政書士の対価、実費は外部支出、預り金・預託金は依頼者のために管理する金銭である。これらを混同せず、見積書・委任契約書・重要事項説明書・領収書・預り証・管理台帳・精算書で明確に管理する。特に死後事務委任では、死亡後継続特約・預託金不足・専用管理・追加費用・死亡後の返金先・相続人からの解除リスクを必ず契約時に説明し、記録化する。

次回「0-9 業務記録・面談記録の作り方」では、費用説明を行っても記録していなければ「聞いていない」「理解していなかった」「勝手に使われた」と言われるリスクへの対応として、面談記録・本人発言記録・費用説明記録・受任判断記録・死後事務業務日誌の作り方を扱います。

行政書士実務マニュアル|おひとりさま・おふたりさま終活業務シリーズ 第0-8回

本記事は教育・研修目的で作成されています。個別の案件については必ず最新の法令・ガイドライン・専門家の判断を確認してください。

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