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終活実務マニュアル|0-4

本人確認の実務
なりすまし・不当介入・本人意思のすり替えを防ぐ

「身分証を見た」だけでは不十分。マイナンバー取扱い・健康保険証マスキング・職務上請求の禁止まで、終活業務の本人確認を実務レベルで整理します。

新人行政書士向け 個人情報保護対応 本人確認記録テンプレート付き

 

📌 前回(0-3)との接続

前回0-3では、初回相談で本人の希望を直接確認し、必要業務を整理することを学びました。今回は、その前提となる「本人が本当に本人であるか」「相談者と本人の関係は何か」「本人確認が不十分なまま進めてはいけない作業は何か」を実務レベルで整理します。

1

この回の到達目標

この回を学ぶことで、新人行政書士が次の実務を一人で実行できる状態を目指します。

到達目標 実務でできるようになること
確認の目的を説明できる なりすまし・不当介入・本人意思のすり替え・財産管理トラブルを防ぐためと説明できる
確認タイミングを判断できる 初回相談時・受任時・契約締結時・重要手続時・財産や死後事務に関わる場面で確認できる
法令上の義務と実務上の確認を区別できる 犯罪収益移転防止法上の特定受任行為と一般的な終活実務上の本人確認を区別できる
本人確認書類を適切に確認できる 氏名・住所・生年月日・顔写真・有効期限・住所変更欄・整合性を確認できる
写し取得時の注意を理解できる 利用目的の明示・本人同意・マイナンバー不取得・健康保険証番号マスキングを判断できる
同席者がいる場面で本人確認できる 親族や支援者が主導していても本人だけと話す時間を設けられる
オンライン・訪問相談での注意点を説明できる 非対面相談では本人確認を完了させず重要業務は対面または追加確認を行う判断ができる
本人確認記録を作成できる 確認日時・確認方法・確認書類・確認者・本人の様子・未確認事項を記録できる
本人確認完了前に進めてはいけない作業を判断できる 遺言文案の正式提示・契約締結・公証役場調整・財産管理等を保留できる
職務上請求のリスクを理解できる 本人確認・正式受任前の職務上請求による戸籍・住民票取得は不可と判断できる
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この業務が必要になる実務場面

本人確認は、契約締結・財産管理・遺言支援など本人の権利義務に影響する多くの場面で実務上不可欠です。特に次のような相談では本人確認が極めて重要です。

  • 「叔母の遺言を作りたいので、私が代わりに相談に来ました」
  • 「本人は施設にいて来られませんが、死後事務委任契約を作ってください」
  • 「本人はオンラインでしか話せません」
  • 「本人確認書類はコピーだけ持ってきました」
  • 「本人は耳が遠いので、私が全部説明します」
  • 「甥である私が叔母の通帳や印鑑を預かっています」
  • 「本人確認書類はマイナンバーカードなので、表裏コピーしておきましょうか」
  • 「健康保険証しかないので、そのままコピーを取ってください」

これらの場面で確認すべきことは単に「身分証を見たか」ではありません。本人確認では次の4つを区別します。

確認対象 内容
本人特定 氏名・住所・生年月日で特定される本人か
本人意思 その本人が自分の意思で相談・依頼しているか
相談者の立場 来所者が本人か・親族か・支援者か・利害関係者なのか
書類・事実の整合性 本人確認書類・住所・財産・親族関係・相談内容に矛盾がないか

本回では主に「本人特定」と「本人確認記録」を扱います。本人意思の確認は0-5、親族トラブルは0-6、利益相反は0-7で詳しく扱います。

3

基本知識

3-1. 本人確認の目的

目的 実務上の意味
なりすまし防止 本人でない者が本人名義で契約・遺言・手続を進めることを防ぐ
本人意思のすり替え防止 親族や支援者の意向を本人意思として扱わない
財産管理トラブル防止 通帳・印鑑・不動産・保険等を第三者が不当に支配することを防ぐ
高齢者搾取防止 親族・知人・事業者による財産侵害を早期に察知する
契約無効リスク低減 本人性・意思確認に疑義がある契約を避ける
後日の説明責任確保 「誰を・いつ・どの書類で確認したか」を記録で示す
個人情報の過剰取得防止 必要な本人確認に限定し、不要な番号や情報を取得しない
📌 本人確認・本人意思確認・意思能力確認の違い
項目 内容 詳細回
本人確認 目の前の人が本人かを確認する 本回
本人意思確認 本人が何を望んでいるかを確認する 0-3、0-5
意思能力確認 本人が契約・遺言等の意味を理解できる状態か確認する 0-5
利益相反確認 同席者や紹介者と本人の利益が対立していないか確認する 0-7

3-2. 本人確認を行うタイミング

本人確認は、初回相談時に一度行えば終わりではありません。終活業務では段階ごとに本人確認を行います。

タイミング 確認目的 実務対応
相談受付時 相談者と本人の関係を把握 電話・メールでは仮確認に留める
初回相談時 目の前の相談者・本人を確認 本人確認書類の提示を受け記録する
受任時 契約当事者を確認 本人確認書類・住所・連絡先を再確認
契約書作成前 契約名義人・本人意思を確認 本人と直接面談し同席者の影響を確認
契約締結時 署名押印者が本人か確認 本人確認書類・署名・印鑑・日付を確認
公証役場調整前 公正証書作成の前提確認 公証役場の必要書類と本人情報を確認
財産管理開始時 財産管理権限の基礎確認 本人確認・委任範囲・財産資料を再確認
オンライン・郵送対応時 非対面によるなりすまし防止 追加書類・転送不要郵便・対面確認を検討
⛔ 実務上の原則

本人確認が完了していない段階では、正式受任・契約書の正式作成・提示・公証役場への依頼・財産管理・重要な関係機関連絡は進めない。

3-3. 本人確認書類を見るだけでは足りない

「運転免許証を見たから本人確認は完了」という誤解が最もよくある失敗です。次の整合性を確認します。

確認対象 確認内容
氏名 相談票・本人確認書類・住民票・契約書名義が一致しているか
住所 現住所と本人確認書類の住所が一致しているか
生年月日 相談内容・年齢・本人確認書類と整合しているか
顔写真 本人と写真が一致しているか
有効期限 有効期限切れではないか
住所変更欄 裏面・追記欄に変更がないか
相談内容 住所・財産所在地・親族関係と矛盾しないか
同席者の説明 本人発言と同席者説明に食い違いがないか
番号情報 マイナンバーや健康保険証番号等の不要情報を取得していないか

3-4. 本人確認と個人情報管理

マイナンバーカード
✓ 表面:氏名・住所・生年月日・顔写真・有効期限を確認
✗ 裏面:個人番号はコピー・記録禁止
✗ 表面番号:通常の終活業務では記録しない
⚠ 記録例:「表面確認。裏面取得なし。番号記録なし」
健康保険証・資格確認書
✓ 確認可:氏名・生年月日
⚠ 顔写真なし:補助資料を必ず追加
✗ 番号:保険者番号・記号・番号・枝番は書き写し禁止
✗ 写し:マスキングなしで保管禁止(必ず黒塗り)
パスポート(2020年旅券)
✓ 確認可:氏名・生年月日・顔写真・有効期限
✗ 住所欄なし:2020年2月4日以降申請・発給の旅券は所持人記入欄が廃止
⚠ 補助資料必須:住民票・介護保険証・公共料金等
運転免許証
✓ 確認可:氏名・住所・生年月日・顔写真・有効期限
⚠ 裏面必須確認:住所変更・氏名変更の記載を必ず確認
✗ 表面のみコピー:裏面に変更がある場合は表面だけのコピー不可
⚠ 本人確認が不十分な場合の基本対応
状況 対応
本人確認書類がない・コピーのみ 受任保留。原本確認まで進めない
本人が来ていない 本人との直接面談まで受任保留
同席者が主導 本人単独確認を求める
マイナンバーのコピーを求められる 通常の終活業務では取得しないと説明する
健康保険証番号が見える写しを受け取った 保管前に必ずマスキング
受任前に戸籍取得を求められる 職務上請求は使わず、本人取得または委任状取得を案内
4

実務の進め方

本人確認の標準フロー(7ステップ)

1
本人確認の必要性を説明する
「終活業務では遺言・契約・財産管理・死後事務など本人の権利に関わる内容を扱います。なりすましを防ぐため最初にご本人確認をさせていただきます」と説明する。
2
本人確認書類の原本提示を受ける
原則として原本を確認。コピーや画像だけでは改ざんや古い情報の可能性がある。オンライン・郵送対応では追加確認が必要。
3
確認項目をチェックする
氏名・住所・生年月日・顔写真・有効期限・住所変更欄・不要番号取得防止を確認。運転免許証は裏面も必ず確認。
4
相談内容との整合性を確認する
住所・財産所在地・施設入所先・親族関係と矛盾がないか確認。2020年2月4日以降申請・発給のパスポートは住所補助資料が必要。本人確認・正式受任前は職務上請求による戸籍・住民票取得は不可。
5
本人と直接会話する
「ご住所はお変わりありませんか」「今日のご相談をご本人の言葉で教えてください」など本人が自然に回答できるか確認する。著しく不自然な場合は0-5の意思能力確認へ進む。
6
写し取得の要否を判断する
写しは必要な場合のみ取得。利用目的を明示し本人同意を得る。マイナンバーカードは表面のみ・裏面取得しない。健康保険証は番号を必ずマスキング。
7
本人確認記録を作成する
確認日・確認書類・確認項目・写し取得・同席者・不一致事項を記録する。記録がない本人確認は後日説明できない。

4-6. オンライン確認の注意

オンライン相談では、画面越しに本人確認書類を見せてもらうだけでは不十分な場合があります。死後事務委任・財産管理・任意後見・遺言作成支援など重要業務に進む場合は次の補完措置を検討します。

方法 内容
対面確認 重要契約前に直接会い原本確認
本人宛郵送 本人住所へ転送不要郵便を送付
追加資料確認 住民票・公共料金・介護保険証等
本人単独確認 同席者なし環境でオンライン面談
公証役場利用 公正証書作成時の本人確認につなげる
eKYC 犯罪収益移転防止法の対象取引では法定方法による確認を検討
5

ヒアリング項目

5-1. 基本ヒアリング項目

項目 質問例 確認目的
氏名 「お名前をフルネームでお願いします」 本人特定
住所 「現在のご住所はお変わりありませんか」 住所確認
現居所 「今はご自宅ですか、施設・病院ですか」 住民票住所との違い確認
郵便物 「郵便物はご本人が受け取れますか」 非対面・郵送確認
同席者 「同席の方とのご関係を教えてください」 利益相反確認の入口
来所経緯 「どなたのご希望で来られましたか」 不当介入確認
相談目的 「ご相談内容をご本人の言葉で教えてください」 本人意思確認の入口
書類管理 「本人確認書類・通帳・印鑑はどなたが管理していますか」 財産管理トラブル確認

5-4. 本人だけと話す時間を設けるべき場面

場面 理由
同席者が本人の回答を代弁する 本人意思が確認できない
同席者が受益者になる 利益相反の可能性
通帳・印鑑を同席者が管理している 財産支配の可能性
本人が同席者の顔色を見て答える 心理的圧力の可能性
死後に親族へ知らせたくない相談 家族関係に緊張がある
施設職員・支援者が同席 施設側の都合と本人意思が違う可能性
本人発言と同席者説明が違う 意思のすり替えの可能性

本人単独面談への切替文例:
「ご家族には後ほど補足を伺います。ご本人の意思確認のため10分ほどご本人と私だけでお話しする時間をいただけますか。」

6

判断フロー

本人確認完了判断フロー

本人確認書類の原本提示あり
なければ次回原本持参を依頼して受任保留
顔写真付きか
ある場合:氏名・住所・生年月日・顔写真・有効期限を確認。ない場合:補助書類確認・本人宛郵送・追加確認を検討
マイナンバー・健康保険証番号等の不要情報を取得していないか確認
マイナンバーカード裏面・健康保険証番号等は取得しない
相談票・本人発言・相談内容と整合するか確認
不一致は補助資料で補完。補完できなければ受任保留
本人確認記録を作成し完了判断
完了・保留・不可を記録する

本人確認完了前に進めてよいこと・いけないこと

作業 本人確認前に可能か 理由
一般的な制度説明 個別受任ではないため
相談概要の聴取 仮整理として可能
必要資料の一般案内 受任前案内として可能
正式受任 不可 契約当事者の確認が必要
契約書の正式作成・提示 不可 本人名義・本人意思が前提
遺言文案の正式提示・確定作業 不可 本人確認・本人意思確認が必要
公証役場への具体的調整 不可 本人情報の正確性が前提
財産資料・通帳・印鑑の預かり 不可 財産管理トラブル防止
死後事務委任・財産管理契約の締結 不可 本人確認・意思確認が必須
他士業への個人情報共有 不可 本人同意が必要
職務上請求による戸籍・住民票取得 不可 本人確認・正式受任後、業務上必要な範囲に限る
7

本人確認書類と記録作成

7-1. 本人確認書類一覧

書類 顔写真 主な確認事項 注意点
運転免許証 あり 氏名・住所・生年月日・顔写真・有効期限・住所変更欄 裏面の住所変更を必ず確認する
マイナンバーカード あり 表面の氏名・住所・生年月日・顔写真・有効期限 裏面の個人番号はコピー・記録禁止。表面番号も通常は記録しない
パスポート あり 氏名・生年月日・顔写真・有効期限 2020年2月4日以降申請の旅券は住所欄なし→補助資料が必要
在留カード・特別永住者証明書 あり 氏名・住所・生年月日・在留期限・顔写真 在留期限・住所変更欄を確認
運転経歴証明書 あり 氏名・住所・生年月日・顔写真 交付日・住所変更欄を確認
健康保険証・資格確認書 なし 氏名・生年月日・住所 顔写真なし。写し取得時は番号をマスキング必須
介護保険証 なし 氏名・住所・生年月日 高齢者の現住所確認に有用。補助資料扱い
住民票・印鑑登録証明書 なし 氏名・住所・生年月日 補助資料

7-4. 本人確認記録に記載する最低限の項目

確認日・場所・確認者、本人氏名・生年月日・住所・現居所、確認書類種別・有効期限、顔写真確認・住所変更欄確認結果、写し取得の有無・利用目的説明・本人同意、番号情報の取扱い(マイナンバー不取得・健康保険証マスキング実施有無)、同席者氏名・関係、本人発言(同席者発言と分けて)、不一致事項・補完資料、判断(完了・保留・不可)。

⚠ 書類番号に関する注意

書類番号は法令上必要な場合を除き過剰取得しない。マイナンバーカードの番号情報、健康保険証の保険者番号・記号番号等は通常の終活業務では記録しない。

8

文例・記載例

本人確認の依頼文例

終活業務では、ご本人の意思や財産に関わる重要な内容を扱います。なりすましや親族間の誤解を防ぐため、本人確認書類の原本を確認させていただきます。運転免許証・マイナンバーカード・パスポート・介護保険証などをご準備ください。

写し取得時の説明文例(番号取扱い含む)

本人確認記録の作成および業務の適切な遂行を目的として写しを保管させていただきます。マイナンバーカードは裏面の個人番号を取得・コピーしません。健康保険証等は保険者番号・記号・番号・枝番を必ず黒塗りします。

同席親族が主導している場合

ご説明ありがとうございます。遺言や契約・財産管理に関するご相談は、ご本人の意思を直接確認する必要があります。ここからはご本人に直接お聞きします。

本人確認が不十分な場合の受任保留文例

本日の時点では本人確認に必要な資料が不足しています。ご本人確認が完了してから進める必要がありますので、正式受任は保留とさせてください。次回、本人確認書類の原本をご準備いただいたうえで改めて確認します。

職務上請求に関する説明文例

本人確認と正式受任が完了する前に、行政書士の職務上請求書を使って戸籍や住民票を取得することはできません。受任前に必要な場合は、ご本人に取得していただくか、委任状をいただいて取得する方法を検討します。

本人確認記録の記載例

【記録例1:標準ケース】
確認日:2026年5月22日/場所:当事務所/確認者:行政書士〇〇
本人氏名:山田花子/生年月日:昭和18年4月10日
確認書類:運転免許証(有効期限:令和〇年〇月)
住所:東京都〇〇区〇〇1-2-3/顔写真:本人と一致
裏面確認:住所変更記載なし/写し取得:あり
マスキング:不要(運転免許証)
同席者:甥 山田太郎
本人発言:「甥に連れられて来ましたが、遺言について自分で相談したいです」
判断:本人確認完了。甥が受益者となる可能性があるため、次回本人単独面談を実施予定

【記録例2:マイナンバーカード・施設入所ケース】
確認書類:マイナンバーカード表面のみ
書類上住所:東京都〇〇区〇〇/現居所:神奈川県〇〇市〇〇ホーム
本人説明:「昨年から施設に入所。住民票は自宅のまま。」
補助資料:介護保険証、施設入所契約書で現居所確認
マイナンバー:裏面取得なし・カード番号記録なし
判断:本人確認は補助資料により完了。住所は住民票住所と現居所を分けて記録

【記録例3:健康保険証のみのケース】
確認書類:健康保険証・介護保険証・公共料金領収書
顔写真:なし(健康保険証)
マスキング:保険者番号・被保険者等記号・番号・枝番を復元不能な程度に黒塗り済み
判断:顔写真付き書類なしのため、次回契約締結前に追加確認予定

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他士業・関係機関との連携

本人確認で不安がある場合の連携先マップ

本人確認に不安・違和感あり
 
弁護士
なりすまし疑い・財産侵害・成年後見申立
司法書士
成年後見申立書類・提出代理
地域包括支援センター
認知症疑い・虐待・経済的搾取
医療機関
本人が意思表示できない場合
公証役場
公正証書作成時の本人確認
税理士
相続税が関係する場合
状況 連携先 理由
なりすまし疑い 弁護士(明らかな詐欺・犯罪疑いの場合は警察相談を検討) 不正・詐欺の可能性
親族による財産支配疑い 弁護士・地域包括支援センター 高齢者虐待・搾取の可能性
本人が意思表示できない 医療機関・地域包括・司法書士・弁護士 後見制度の検討
施設職員が契約を急がせる 地域包括・社会福祉士 本人保護・利益相反確認
成年後見申立てが必要 司法書士・弁護士 申立書類作成・提出代理

本人が住所を言えない・親族が通帳や身分証をすべて管理している・本人が同席者を怖がっているなどの兆候があれば、地域包括支援センター等への連携を検討します。

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新人が間違えやすいポイント

① コピーだけで本人確認を済ませる
失敗例
甥が叔母の運転免許証コピーを持参し、本人確認済みとして遺言相談を進めた。
正しい対応
本人不在・コピーの信頼性不明。本人との直接面談まで正式受任しない。
② 親族が本人確認書類を持つことを当然視する
失敗例
長男が母のマイナンバーカード・通帳・印鑑を持っていたが、家族だから問題ないと判断。
正しい対応
財産支配・本人意思のすり替え・経済的虐待の可能性がある。本人に管理状況を確認し違和感があれば受任保留。0-7利益相反確認へ。
③ 住所変更欄を見落とす
失敗例
運転免許証の表面だけを見て契約書住所を作成したが、裏面に住所変更があった。
正しい対応
運転免許証は表面・裏面を確認し、住所変更欄の有無を記録する。
④ マイナンバーをコピー・記録してしまう
失敗例
マイナンバーカードの表裏両面をコピーしファイルに保管した。
正しい対応
裏面の個人番号は取得・コピー・記録しない。記録には「表面確認、裏面取得なし、番号記録なし」と記載。
⑤ 健康保険証番号をマスキングせず保管する
失敗例
健康保険証のコピーをそのまま本人確認ファイルに保管した。
正しい対応
保険者番号・記号・番号・枝番を必ず黒塗りし復元できない状態で保管する。
⑥ オンライン相談だけで重要契約へ進む
失敗例
Zoomで本人確認書類を映してもらい、そのまま死後事務委任契約書を作成した。
正しい対応
重要契約では対面確認・追加資料・本人宛郵送・本人単独面談を組み合わせる。法令上の取引時確認が必要な場合は法定方法を確認する。
⑦ 本人確認と意思能力確認を混同する
失敗例
免許証で本人確認できたため、契約能力も問題ないと判断した。
正しい対応
本人確認と意思能力確認は別。本人であっても契約内容を理解できない場合がある。0-5の意思能力確認を行う。
⑧ 受任前に職務上請求を使う
失敗例
甥から叔母の戸籍調査を頼まれ、本人面談前に職務上請求で戸籍を取得した。
正しい対応
本人確認・正式受任前の職務上請求は重大な懲戒リスク。受任前は本人取得または委任状取得とする。
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トラブル予防策

⛔ 事務所内ルールの明文化(必須)

本人確認が完了するまで、正式受任・契約書の正式作成・提示・公証役場調整・財産資料預かり・通帳印鑑預かり・重要な第三者連絡・職務上請求書による戸籍住民票取得は行わない。

写し取得ルール

ルール 内容
利用目的を説明 本人確認記録の作成・受任業務遂行・関係機関確認等の目的を説明
マイナンバー除外 個人番号は取得・コピー・記録しない
健康保険証番号必須マスキング 保険者番号・記号・番号・枝番を必ず黒塗り
保管・廃棄 紙は施錠・データはアクセス制限。終了後は事務所規程に従い廃棄
過剰取得防止 書類番号・要介護情報・医療情報等は必要最小限に限定

同席者がいる場合は発言を分けて記録する

本人発言:「遺言について自分で相談したいです。」
甥発言:「叔母は私に全部残すと言っています。」
当職対応:本人確認は完了。ただし、甥が受益者となる可能性があるため、次回は本人単独面談を実施する。現時点で遺言文案作成は行わない。

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ケーススタディ

CASE 1

甥が叔母の遺言作成を依頼した場合

相談内容
甥Aが来所。「叔母Bは高齢で外出できません。叔母は私に全財産を残したいと言っています。叔母の運転免許証のコピーを持ってきたので、遺言書を作ってください」と依頼。
⛔ してはいけない対応
  • 「コピーがあるので本人確認は大丈夫です。遺言案を作りましょう。」
  • 「叔母様の戸籍をこちらの職務上請求で取っておきます。」
正しい対応
  • 甥から相談概要を聞き一般的な遺言制度の説明に留める
  • 本人確認書類の原本確認が必要と説明。叔母本人との直接面談を設定する
  • 甥が受益者となる可能性を記録し、本人単独面談を行う
  • 本人確認と本人意思確認が完了するまで遺言文案を正式提示しない
  • 本人確認・正式受任前に職務上請求を使わない
✅ 説明文例

ご事情は伺いましたが、遺言はご本人の意思に基づいて作成する必要があります。現時点ではご本人確認ができておらず意思も直接確認できていません。A様が受益者となる場合は利益相反にも注意が必要です。まず叔母様ご本人と直接面談し、本人確認書類の原本を確認したうえでご本人だけから意思を確認します。本人確認・正式受任前に職務上請求書を使うことはできません。

CASE 2

施設職員が死後事務契約を急がせる場合

相談内容
施設職員から電話。「入所者Cさんには身寄りがありません。施設としても困るので、死後事務委任契約を早く作ってください。本人確認書類は施設で預かっています」と相談。
対応
  • 本人からの相談なし。本人確認・本人意思ともに未確認のため受任保留
  • 本人面談・本人確認書類原本確認・施設職員不在での本人意思確認が必要

施設からのご相談として事情を伺うことはできますが、死後事務委任契約はご本人の意思に基づいて進める必要があります。まずはC様ご本人と面談し、本人確認書類の原本確認と施設職員が同席しない時間での意思確認を行います。

CASE 3

オンライン相談で死後事務委任契約を希望する場合

相談内容
本人Dからオンライン相談。「遠方なのでオンラインだけで死後事務委任契約を作りたい」と希望。画面越しにマイナンバーカードを提示。
正しい対応
  • オンラインで概要を聞く。画面上の本人確認は仮確認とする
  • マイナンバーカード裏面は映させない
  • 写し送付を依頼する場合は表面のみとし、利用目的を説明する
  • 必要に応じて本人宛に転送不要郵便を送る
  • 契約締結時は対面または公証役場利用等を検討する
  • 犯罪収益移転防止法の対象取引に該当する場合は法定の本人確認方法を確認する
CASE 4

健康保険証しか持っていない場合

相談内容
本人Fが来所。顔写真付き身分証は持っておらず、健康保険証と介護保険証のみ提示。財産管理契約の相談を希望。
正しい対応
  • 健康保険証・介護保険証で氏名・住所・生年月日を確認
  • 顔写真付き書類がないことを記録
  • 住民票・公共料金領収書等の補助資料を案内
  • 写しを取得する場合は保険者番号・被保険者等記号・番号・枝番を必ずマスキング
  • 財産管理契約は追加確認後に進める
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実務チェックリスト

本人確認書類チェックリスト

  • 氏名・住所・生年月日を確認した
  • 顔写真を確認した(付きの書類の場合)
  • 有効期限を確認した
  • 住所変更欄・氏名変更欄を確認した(運転免許証は裏面も)
  • 相談票と一致しているか確認した
  • 写し取得時に利用目的を説明し本人同意を得た
  • マイナンバーを取得・コピー・記録していない
  • マイナンバーカード表面番号も過剰に記録していない
  • 健康保険証等の番号情報を必ずマスキングした
  • パスポートが2020年2月4日以降申請・発給のものか確認し、住所補助資料を確認した

本人確認完了前に進めてはいけない作業

  • 正式受任をしていない
  • 契約書の正式作成・提示に進んでいない
  • 遺言文案を正式提示していない
  • 公証役場へ具体的調整をしていない
  • 財産資料・通帳・印鑑を預かっていない
  • 死後事務委任・財産管理契約を締結していない
  • 他士業へ個人情報を共有していない
  • 職務上請求書を使用して戸籍・住民票を取得していない

同席者がいる場合のチェック

  • 同席者の氏名・本人との関係・同席理由を確認した
  • 同席者が受益者になる可能性を確認した
  • 同席者が通帳・印鑑・身分証を管理していないか確認した
  • 本人が自分の言葉で話しているか確認した
  • 本人単独面談の必要性を判断した
  • 本人発言と同席者発言を分けて記録した
14

確認テスト

Q1本人確認の目的を3つ挙げなさい。
A

なりすまし防止・本人意思のすり替え防止・財産管理トラブル防止・高齢者搾取防止・契約無効リスク低減・後日の説明責任確保など。

Q2本人確認書類で必ず確認すべき基本項目を挙げなさい。
A

氏名・住所・生年月日・顔写真・有効期限・住所変更欄・氏名変更の有無・相談内容との整合性。

Q3甥が叔母の運転免許証コピーだけを持参し、叔母の遺言作成を依頼した。進めてよいか。
A

進めてはいけない。本人不在・本人確認書類はコピーのみ・本人意思も確認できていない。甥が受益者となる可能性もあり、本人との直接面談・原本確認・本人単独確認が必要。

Q4マイナンバーカードの写しを取得する場合の注意点は何か。
A

裏面の個人番号は取得・コピー・記録してはならない。本人確認では表面の氏名・住所・生年月日・顔写真・有効期限を確認する。表面の番号情報も通常は記録しない。

Q5健康保険証だけで本人確認を完了してよいか。
A

慎重に判断する。顔写真がないため住民票・介護保険証・公共料金書類等の補助確認を検討する。写し取得時は保険者番号・記号・番号・枝番を必ず復元不能な程度にマスキングする。

Q6本人確認が完了する前に進めてはいけない作業を5つ挙げなさい。
A

正式受任・契約書の正式作成・提示・遺言文案の正式提示・公証役場調整・財産資料の預かり・通帳印鑑の預かり・死後事務委任・財産管理各契約の締結・他士業への個人情報共有・職務上請求による戸籍・住民票取得など。

Q7本人確認前に職務上請求書を使って戸籍を取得してよいか。
A

してはいけない。本人確認・正式受任が完了する前は、職務上請求書を使用した戸籍・住民票の取得を行ってはならない。受任前は本人に取得してもらうか委任状による取得を検討する。

Q82020年2月4日以降に申請・発給されたパスポートだけで住所確認を完了できるか。
A

できない。2020年2月4日以降申請・発給の日本国旅券は所持人記入欄が廃止されているため、住民票・公共料金書類・介護保険証等の補助資料で住所確認を行う。

この回の要点

本人確認が完了するまでは、正式受任・契約書の正式作成・提示・公証役場調整・財産資料預かり・重要な第三者連絡・職務上請求による戸籍住民票取得を進めてはいけない。

本人確認は、氏名・住所・生年月日・顔写真・有効期限・住所変更欄を確認し、本人の発言・相談内容・同席者の説明との整合性を記録する作業である。不安がある場合は迷わず受任を保留する。

写しを取得する場合は利用目的を明示し、マイナンバーを取得せず、健康保険証等の番号情報を必ずマスキングして必要最小限の範囲で安全に保管する。

あわせて確認したいこと

相続・遺言・終活の手続きを確認したい方へ

相続、遺言、終活に関する手続きでは、戸籍、財産、関係者の状況を落ち着いて整理することが大切です。川崎市北部で家族の手続きについて確認したい方は、関連するご案内をご覧ください。

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