HANAWA行政書士事務所のロゴ HANAWA行政書士事務所 建設・製造・産廃業向け 許認可 × 外国人雇用 × 補助金 × 福利厚生
090-3718-2803 9:00-23:00 年中無休(土日祝日・20時以降は事前予約)
第0-5回 意思能力確認

意思能力確認の実務
遺言・契約・財産管理における無効リスクと
親族トラブルを防ぐ実務マニュアル

本人がうなずくだけでは不十分。「再説明方式」で意思能力を確認し、疑義があれば迷わず受任保留する実務を解説します。

対象:新人行政書士読了目安:約25分ケーススタディ5例・確認テスト15問収録
前回(0-4)との接続 前回は「本人確認」=目の前の人が本人であることを確認する手続を学びました。今回扱う「意思能力確認」は、その本人が遺言・契約・委任・財産管理などの意味と結果を理解し、自分の判断で選択できる状態にあるかを確認する実務です。両者は必ず分けて行います。
根拠法の確認 民法第3条の2:法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったとき、その法律行為を無効とする。民法第963条:遺言者は遺言をする時にその能力を有しなければならない。意思能力に疑義がある状態で契約や遺言支援を進めると、後日、無効主張・親族トラブル・損害賠償請求・懲戒リスクにつながります。

1. この回の到達目標

  • 意思能力の基本を説明できる(本人が法律行為の意味と結果を理解し、自分で判断できる能力)
  • 本人確認と意思能力確認を区別できる(本人であることと、契約・遺言の意味を理解できることは別)
  • 面談で確認質問を使える(内容・相手方・財産・効果・費用・撤回可能性などを本人の言葉で確認)
  • 同席者の影響を排除できる(親族や支援者が誘導している場合、本人だけと話す時間を設けられる)
  • 判断能力の波に対応できる(体調・時間帯・服薬状況による変動を踏まえ、複数回面談や医師連携を検討)
  • 「うなずいているだけ」の危険性を判断できる(はい・いいえだけでは不十分と判断できる)
  • 意思能力に疑義がある場合に受任保留できる(医師・公証役場・地域包括・弁護士等へ連携)
  • 記録化できる(本人発言・説明内容・理解確認・同席者の有無・保留理由を記録)
  • 業際リスクを避けられる(紛争交渉・遺産分割協議の調整・税額計算・登記申請代理に踏み込まない)

2. 業務が必要になる実務場面

場面 なぜ意思能力確認が必要か
遺言書作成支援 財産を誰に承継させるかを本人が理解している必要がある
死後事務委任契約 死後に誰へ何を依頼するか、費用をどうするかを理解している必要がある
任意後見契約 将来判断能力が低下したときに、誰にどの代理権を与えるか理解している必要がある
財産管理等委任契約 生前に他人へ財産管理を任せる意味とリスクを理解している必要がある
身元保証・身元引受関連支援 保証範囲、責任、緊急時連絡先、費用負担を理解している必要がある
尊厳死宣言・医療意思表示 医療に関する希望の意味と限界を理解している必要がある
相続手続支援(遺産分割協議書への署名) 財産を放棄するのか取得するのか等、自身に与える影響を理解して署名押印する必要がある
ペットのための遺言・信託等作成支援 飼育費用、飼育引受先、財産の使途を理解している必要がある

相談時に意思能力が問題になりやすい発言

  • 「母は認知症ですが、まだ分かる時もあります」→ 時間帯・体調により判断力が変動する可能性
  • 「本人はうなずいています」→ うなずきだけでは理解確認にならない
  • 「難しい話は息子に任せています」→ 任せる意味を本人が理解しているか確認が必要
  • 「本人は施設にいて、今日は来られません」→ 本人面談なしで進めることは原則不可
  • 「昨日は分からなかったが、今日は調子が良い」→ 変動性があるため記録と追加確認が必要
  • 「親族には内緒で急いで契約したい」→ 本人意思・利益相反・紛争性の確認が必要
  • 「相続人同士で揉めているので間に入ってほしい」→ 行政書士は紛争交渉・協議の仲介・調整を行えないため弁護士連携

3. 基本知識:意思能力とは何か

3-1. 意思能力の定義と確認すべき内容

実務上の定義 意思能力確認とは、本人が「何を、誰に、なぜ、どのような効果で依頼・作成するのか」を、本人自身の言葉で説明できるかを確認する作業である。
図解1|本人が理解すべき8つの確認対象
①何をするのか遺言・契約・委任・財産管理などの種類
②誰に頼むのか受任者・任意後見受任者・死後事務受任者・受遺者等
③何を任せるのか財産管理・葬儀・納骨・役所手続・施設対応など
④財産への影響誰に財産が渡るか・誰が管理するか・費用が発生するか
⑤自分への効果生前・死後に何が変わるか
⑥やめられるのか契約の解除・撤回・変更の可否
⑦他の選択肢遺言以外・任意後見以外・法定後見など
⑧不利益があるか費用負担・親族トラブル・財産拘束・受任者リスクなど

3-2. 本人確認と意思能力確認の違い

項目 本人確認(0-4) 意思能力確認(本回)
目的 目の前の人が本人か確認する 本人が法律行為の意味と結果を理解しているか確認する
確認対象 氏名、住所、生年月日、顔写真、有効期限 内容理解、判断、選択、理由説明
不十分な場合のリスク なりすまし・本人不明 契約無効・遺言無効リスク
主な根拠法 犯罪収益移転防止法、公証人法 民法第3条の2、民法第963条、善管注意義務違反・損害賠償請求リスク
失敗例 本人の運転免許証を確認したので、死後事務委任契約を締結した。→ 本人であることは確認できても、契約内容を理解していたかは別問題です。本人確認後に、契約内容・受任者・費用・解除・親族対応・死後の効果について本人の言葉で理解を確認することが必要です。

3-3. 意思能力は「業務内容ごと」に確認する

重要 「会話ができるから全部できる」ではなく、「今回作成する書類・契約の内容を理解できるか」を確認します。日常的な買い物はできても、複雑な遺言や財産管理契約を理解できるとは限りません。

3-4. 意思能力確認は医学的診断ではない

行政書士が行うこと 行政書士が行わないこと
面談で本人の理解を確認する 認知症の診断・医学的検査
本人発言を記録する 医師の診断書作成
疑義があれば受任保留する 家庭裁判所・公証人の判断代替
医師・公証役場・福祉職へ連携する 紛争交渉・税務判断・登記申請代理・医療判断

3-5. 「うなずいているだけ」の危険性

図解2|NGな確認 vs 正しい再説明方式
❌ NGな確認
  • 「この契約でいいですね」→「はい」
  • 「息子さんに任せますね」→うなずく
  • 「財産は甥に残すということでいいですね」→「はい」(誘導的)
  • 「任意後見は将来のために必要です」→「そうですか」
✅ 正しい再説明方式
  • 「今日作る契約は、どのような契約だと理解されていますか」
  • 「誰に何を頼む契約ですか」
  • 「財産は誰に残したいですか。その理由は何ですか」
  • 「気持ちが変わった場合、どうしたいですか」

3-6. 判断能力の波への対応

状況 対応
午前は明瞭だが午後は混乱する 面談時間を午前に設定
服薬後に眠気が強い 服薬時間を確認し、別時間に面談
前回と今回で発言が大きく違う 複数回面談し、変化を記録
疲れると急に答えられなくなる 面談を短時間に分ける
認知症疑いがある 主治医診断書、長谷川式スケール等の情報取得を検討
実務上の原則 診断書や検査結果だけで法律行為の可否を自動判断するのではなく、今回の契約・遺言内容を本人が理解できるかを、面談で確認し記録します。

4. 実務の進め方

4-1. 意思能力確認の標準フロー(再説明方式)

図解3|再説明方式の標準フロー
本人確認完了
本人だけと話す時間を確保
行政書士が契約・書類内容を説明
本人に自分の言葉で説明してもらう(再説明方式)
理解できている → 記録して次工程へ
疑義あり → 受任保留・医師等連携

4-2. 面談環境を整える

  • 事務所 静かな部屋で、時間に余裕を持つ
  • 本人宅 同居親族の影響に注意。本人単独時間を設ける
  • 施設・病院 体調・薬・面会時間・疲労に注意。長時間面談を避ける
  • オンライン 同席者が画面外にいないか確認
  • 電話 重要な意思能力確認には原則不十分
面談時間の選び方 高齢者の面談では、午前中の方が比較的はっきりしていることがあります。夕方・食後・服薬後・入浴後・長時間移動後は疲労が出やすく、判断能力確認には適さない場合があります。

4-3. 再説明方式の質問例

確認対象 質問例
契約内容 「今ご説明した契約は、どのような内容だと理解されましたか」
相手方 「誰に何を頼む契約ですか」
費用 「費用はどこから支払う予定ですか」
効果発生時期 「この契約はいつから効力があるものですか」
任意後見 「判断能力が落ちた後、誰がどのような手続をする契約ですか」
遺言 「あなたの財産は誰に残したいですか。その理由は何ですか」
遺産分割協議 「この協議書に署名すると、あなたは何を取得し、何を取得しないことになりますか」
解除 「気持ちが変わったら、どうすればよいと理解していますか」

4-4. 同席者の影響を排除する

状況 対応
同席者が本人の回答を先に言う 本人へ直接質問する
本人が同席者の顔色を見る 本人単独面談に切り替える
同席者が受益者になる 利益相反確認へ
同席者が退席を拒否する 受任保留を検討
親族間の対立がある 弁護士連携を検討。行政書士は仲介・調整しない
同席者に退席を依頼する文例 「後日のトラブルを防ぐためにも、10分ほどご本人と私だけでお話しする時間をいただきます。」退席を拒否された場合:「本人の意思確認が十分にできません。本日は受任を保留します。」

4-5. 業際に関する説明の注意

論点 行政書士の限界
親族間の意見対立・調整 行政書士は紛争交渉・協議の仲介・間に入った調整を行わない。弁護士連携
遺産分割協議 争いがない場合の協議書作成支援は可能。意見対立がある場合の調整・交渉は原則不可
相続税・贈与税の計算・特例適用判断 一般的な税制概要の説明に留める。具体的な計算・特例判断は税理士連携
相続登記 司法書士連携。行政書士は登記申請代理をしない
医療判断 医療機関連携。行政書士が医療同意や治療判断を代行できるわけではない

5. ヒアリング項目(業務別確認質問)

5-1. 共通確認質問(全業務共通)

  • 「今日は何の相談で来られましたか」(相談目的の理解確認)
  • 「これから作ろうとしている書類は何ですか」(遺言・契約の区別)
  • 「誰に頼む予定ですか」「その方に何をしてもらう予定ですか」
  • 「費用はどこから支払いますか」「気持ちが変わったらどうしますか」
  • 「なぜそのようにしたいのですか」(本人固有の意思)
  • 「税金については税理士確認が必要になることを理解されていますか」
  • 「不動産の名義変更は司法書士の手続になることを理解されていますか」
  • 「相手と意見が違う場合は弁護士相談になることを理解されていますか」

5-2. 遺言書作成支援での確認(主要項目)

  • 相続人の認識:「ご家族・相続人になりそうな方はどなたですか」
  • 財産の認識:「主な財産には何がありますか」
  • 承継先と理由:「誰にどの財産を残したいですか。なぜその方に残したいのですか」
  • 不利益の理解:「この内容だと、受け取れない方や少なくなる方がいますが理解されていますか」
  • 変更可能性:「後で内容を変えたくなった場合、変更できることを理解していますか」
遺言:危険な状態 相続人を全く認識していない、財産の概略を説明できない、「甥がそう言うから」としか言えない、受遺者の名前を言えない → 受任保留。親族間で既に争いがある → 弁護士連携。行政書士は調整しない。

5-3. 任意後見契約での確認(主要項目)

  • 発効時期:「契約したらすぐに始まると思いますか、それとも将来ですか」
  • 受任者・代理権:「誰に任意後見人になってほしいですか。どのような手続を任せたいですか」
  • 監督人:「家庭裁判所が任意後見監督人を選ぶことを理解していますか」
  • 取消権の理解:「任意後見人には、法定後見人のような一般的な取消権は認められていないことを理解していますか」
  • 個別法上の対応:「詐欺・強迫や消費者契約などの問題がある場合は専門家確認が必要になることを理解していますか」
任意後見の取消権に関する重要注意 任意後見人には、法定後見人のような一般的な取消権は認められていません。「任意後見契約をしておけば本人が不利な契約をしても取り消せます」と説明してはいけません。具体的な被害回復・取消しが問題になる場合は弁護士・消費生活センター等へ連携します。

5-4. 財産管理等委任契約での確認(危険な状態)

危険な状態 対応
「息子に全部任せる」だけで範囲を説明できない 受任保留または範囲を限定して再説明
通帳・印鑑を既に同席者が管理 利益相反確認
本人が支出内容を把握していない 財産侵害の可能性
同席者が契約を急がせる 本人単独面談、受任保留
親族が財産管理をめぐって対立 弁護士連携。行政書士は間に入って調整しない

6. 判断フロー:受任可否・疑義対応

6-1. 基本判断フロー

本人が相談目的を自分の言葉で説明できるか
できる → 内容説明・再説明方式へ
できない → 受任保留・連携検討
重要事項(内容・費用・効果・変更)を理解しているか
理解している → 記録して次工程へ
不十分 → 再説明・再確認
同席者が強く誘導していないか
影響なし → 進行
影響あり → 本人単独面談まで保留
判断能力に波がある・疑義がある
なし → 受任検討可
あり → 複数回面談・医師連携
親族間で意見対立がある
なし → 書類作成支援へ
あり → 弁護士連携。行政書士は仲介しない
税務・登記・医療判断が必要か
不要 → 行政書士業務として受任検討
必要 → 税理士・司法書士・医療機関へ連携

6-2. 受任可否判断基準

状態 判断
本人が内容・効果・費用を自分の言葉で説明できる 受任検討可
疲労・体調不良で一時的に説明できない 別日再面談
判断能力に波がある 複数回面談・医師・福祉情報確認後に判断
本人が誰に何を頼むか説明できない 受任保留
本人が契約の効果を理解できない 原則として受任を避ける、または保留
医師・福祉職から判断能力低下の情報あり 医師診断書・公証役場・後見制度検討
すでに判断能力が不十分で契約理解が困難 任意後見・契約ではなく法定後見等を検討
親族間で意見対立がある 弁護士連携。行政書士は仲介・調整しない
税額計算や特例適用判断が必要 税理士連携
不動産登記が必要 司法書士連携

7. 作成・確認する書類

  • 意思能力確認シート 面談時の質問・回答を整理(面談日時・体調・波の有無・再説明内容・受任可否等を記載)
  • 面談記録 本人発言・説明内容・再説明結果を記録(本人の言葉でできるだけ具体的に)
  • 同席者確認票 同席者の関係・発言・退席状況を記録
  • 業務内容説明書・重要事項説明メモ 費用・効果・リスク・解除・他士業領域を記録
  • 受任保留記録 疑義がある場合の保留理由を記録
  • 医師診断書・認知機能検査結果 医学的資料が必要な場合(本人同意のもと確認)
  • 録音・録画同意書 録音・録画を行う場合(本人同意・保管方法・第三者提供しない旨を明記)
  • 他士業連携記録 弁護士・司法書士・税理士等へつないだ理由を記録
  • 証人就任判断記録 公正証書遺言の証人となる場合の判断根拠を記録

8. 文例・記載例

意思能力確認を行う説明文例

これから作成する書類は、ご本人の財産や将来の生活、亡くなった後の手続に関わる重要なものです。単に署名するだけでなく、ご本人が内容を理解して、ご自身の意思で依頼されているかを確認する必要があります。いくつか質問しますが、試験ではありません。後日の誤解を防ぎ、ご本人の意思を守るための確認です。

本人に自分の言葉で説明してもらう文例

今ご説明した内容について、〇〇様ご自身の言葉で、どのような契約か説明していただけますか。完璧な法律用語でなくて大丈夫です。誰に、何を、いつ頼むものだと理解されたかを教えてください。

受任保留を角を立てずに伝える文例

今すぐ契約へ進むことも一つの方法ですが、後日ご親族や関係者から「本当に理解していたのか」と言われる可能性があります。ご本人のお考えを確実に守るため、まずは主治医の先生や地域包括支援センターにご相談いただき、判断状況や支援体制を確認したうえで、次のステップに進みましょう。

任意後見の取消権に関する説明文例

任意後見人には、成年後見人のような一般的な取消権は認められていません。任意後見人になったからといって、ご本人がした契約を広く取り消せるわけではありません。ただし、代理権の範囲内で対応できることや、詐欺・強迫、消費者契約など別の法律上の制度が問題になる場合もあります。そのようなトラブルが起きたときは、弁護士・消費生活センター等と連携して判断します。

業際説明の文例

行政書士として、書類作成や手続支援として関与できる部分は支援します。ただし、親族間で意見が対立している場合に間に入って調整したり、相手方と交渉したりすることはできません。その場合は弁護士へ連携します。また、具体的な相続税額の計算や税務特例の適用可否は税理士、不動産の相続登記は司法書士の業務です。

面談記録例(死後事務委任契約)

記録例

面談日時:2026年5月23日 10:00〜11:00 面談場所:本人宅 本人単独面談:10:25〜10:45実施 体調:午前中で会話明瞭。疲労感は軽度。服薬直後ではない。

当職説明:死後事務委任契約は、本人死亡後の葬儀・納骨・役所手続・家財処分等を受任者に依頼する契約であること、費用が必要であること、内容変更・解除が可能であることを説明。

本人発言:「私が亡くなった後、葬儀は簡単でよい。お骨は永代供養にしたい。部屋の片付けも頼みたい。費用は〇〇銀行の預金から出すつもりです。長女には迷惑をかけたくないが、必要な連絡はしてよい。」

再説明後の本人発言:「死後事務は、死んだ後の手続をお願いする契約で、財産を誰にあげるかとは別ですね。」

業際説明:親族間で意見が対立した場合、当職は交渉・調整を行わず、弁護士へ連携することを説明。

判断:死後事務委任契約の基本的内容・受任者・費用・遺言との違いについて本人の言葉で説明できた。次回、財産目録と葬儀・納骨希望を確認する。

9. 他士業・関係機関との連携

  • 医師 認知症診断あり・回答が日によって大きく違う・せん妄・入院中の判断能力確認が必要な場合
  • 公証役場 公正証書遺言・任意後見契約を予定・意思能力に軽度の不安あり・親族トラブルが予想される場合(公証人が判断するから行政書士の確認が不要になるわけではない)
  • 地域包括支援センター・社会福祉士 判断能力低下の疑い・経済的虐待の可能性・成年後見制度利用の検討・同席者から心理的圧力を受けている場合
  • 弁護士 親族間紛争・財産侵害・虐待・遺言無効争い・意見対立があり調整・交渉が必要な場合(行政書士は協議の仲介・調整を行えない)
  • 司法書士 相続登記・民事信託登記・成年後見申立書類の作成支援や提出代理等が必要な場合
  • 税理士 相続税・贈与税・譲渡所得税・税務特例の適用可否・具体的な税額計算が関係する場合
  • 消費生活センター・弁護士 任意後見開始後に本人が消費者被害に遭った場合など個別法上の取消し・解約等が問題になる場合
公正証書遺言の証人となる場合の警告 意思能力に疑義がある案件で行政書士が公正証書遺言の証人となる場合、後日、遺言無効を争う裁判で証人として尋問を求められる可能性があります。公証人に任せるだけでなく、当日の本人の様子・質問内容・本人の回答・同席者の有無・医師診断書の有無・公証役場との事前調整内容を一層緻密に記録します。

10. 新人が間違えやすいポイント

失敗パターン 問題点 正しい対応
本人がうなずけば足りると考える 本人が内容を理解しているか分からない 「誰に何を頼む契約か」「費用はどうするか」を本人の言葉で説明してもらう
親族の説明を本人意思として扱う 本人意思が未確認。利益相反の可能性 本人単独面談を行い、本人の言葉で意思を確認する
診断名だけで判断する 診断名だけで一律判断は不適切 今回の法律行為の意味を面談で確認し、必要に応じ医師・公証役場へ連携
体調不良時に無理に契約する 疲労・薬・せん妄等により理解力が低下している可能性 面談を短時間に分け、体調のよい時間帯に再確認
公証人が確認するから大丈夫と考える 行政書士が関与した経緯・説明内容・本人発言が不明になる 公証役場へつなぐ前に、行政書士側でも本人発言・説明内容・疑義の有無を記録する
疑義があるのに受任してしまう 契約無効・親族トラブル・財産侵害のリスク 受任保留し、本人単独面談・再面談・医師診断書・公証役場相談を検討
録音があれば面談記録は不要と考える 行政書士の判断過程や要点整理が分かりにくい 録音・録画をしても、面談記録を別途作成する
任意後見人が広く取り消せると説明する 任意後見人には一般的な取消権は認められていない 一般的な取消権はないことを明確に説明。具体的な被害回復は専門家連携
相続人間の調整に入ってしまう 紛争性がある場合の調整・交渉は弁護士領域(非弁リスク) 行政書士は争いがない場合の書類作成支援に留め、意見対立は弁護士へ連携
税額や特例適用を判断してしまう 具体的な税額計算・税務特例の適用可否判断は税理士領域 一般的な税制概要の説明に留め、具体的判断は税理士へ連携

11. トラブル予防策

複数回面談を原則にする場面

  • 高齢で長時間説明が難しい・認知症疑い・判断能力に波がある
  • 親族が受益者・財産額が大きい・相続人から反発が予想される
  • 死期が近い・病院・施設での契約・本人発言が一貫しない
  • 行政書士が公正証書遺言の証人になる(後日証言を求められる可能性)
  • 税務・登記・紛争が絡む(他士業連携が必要)

面談記録は「本人の言葉」を残す

図解4|不十分な記録 vs 望ましい記録
❌ 不十分な記録
「本人は理解していた。」
✅ 望ましい記録
「本人発言:『死後事務は、私が死んだ後に葬儀と納骨と部屋の片付けを頼む契約です。費用は〇〇銀行の預金から出します。』」

誘導質問を避ける

❌ 避けるべき質問
  • 「長男さんに全部任せるということでいいですね」
  • 「この遺言で問題ないですね」
  • 「費用は預金から出せばいいですね」
  • 「この分け方が一番節税になりますよね」
✅ 望ましい質問
  • 「誰に何を任せたいですか」
  • 「この書類はどのような内容だと理解していますか」
  • 「費用はどこから支払う予定ですか」
  • 「税務については税理士に確認する必要があることを理解されていますか」

12. ケーススタディ(5事例)

ケース1 認知症の疑いがある高齢者から死後事務委任を依頼された場合

82歳女性A。独居・子はいない。甥Bが同席して来所。「叔母は最近物忘れがあります」と説明。A本人は「Bに任せています」と話す。

本人の回答例1:受任保留すべき場合

「よく分かりません。Bがそう言うなら、それでいいです。」「お金のことはBが知っています。」→ Bが主導している可能性あり。契約書作成へ進まない。本人単独面談・体調のよい時間帯に再面談・医師診断書確認・地域包括との連携を検討。Bが受益者になる場合は利益相反確認。

本人の回答例2:追加確認後に進める余地がある場合

「私は子どもがいません。亡くなった後の葬儀と納骨を誰かに頼みたいです。甥のBには迷惑をかけたくないので、専門家にお願いしたいです。費用は私の〇〇銀行の預金から出したいです。」→ 死後事務委任については基本的理解あり。ただし物忘れの情報があるため、複数回面談や医師・福祉情報の確認が望ましい。
ケース2 病院で緊急に遺言を作りたい場合

入院中の90歳男性C。長男から「父が次男には財産を渡したくないと言っている。急いで遺言を作りたい」と連絡。病状が重く、面談時間は短い。

原則として受任を避けるべき状態 長男が内容を説明し本人がうなずくだけ、本人が相続人や財産を説明できない、強い眠気やせん妄状態にある、医療職から「今日は判断が難しい」と言われている、行政書士が長男と次男の対立を調整しようとしている → いずれも進めるべきではない。
ケース3 任意後見契約を希望するが制度を誤解している場合

75歳男性D。「認知症になったら、友人Eに全部任せたい。契約したら明日からEが銀行や施設手続を全部できるのですよね。あと、Eが私の契約を取り消せるようにしておきたい」と発言。

発効時期と取消権を誤解しています。「任意後見は契約後すぐ始まるものではなく、家庭裁判所が監督人を選んでから始まる」「任意後見人には法定後見人のような一般的な取消権は認められていない」「今すぐの支援が必要なら財産管理等委任契約との違いを説明する必要がある」と正確に説明し、本人に再説明してもらう。
本人再説明例(理解できた場合) 「任意後見は今すぐ使うものではなく、将来判断が難しくなってから家庭裁判所が監督人を選んで始まるものですね。今すぐ支払いを頼みたい場合は別の委任契約を考える必要があるのですね。任意後見人には成年後見人のような一般的な取消権はないので、消費者被害など具体的な問題があれば専門家に相談する必要があることも分かりました。」
ケース4 本人がうなずくだけで話さない場合

親族Fが本人Gを連れて来所。「Gは私に財産管理を任せたいと言っています」と説明。Gは質問にほとんどうなずくだけ。

  • 本人に自由質問をする / 筆談・ゆっくりした説明・休憩を試す / 聴力・視力の問題を確認
  • 親族に退席してもらう / それでも説明できなければ受任保留 / 医療・福祉連携を検討
  • 親族が契約を急がせる場合は利益相反・財産侵害を疑う
ケース5 高齢の相続人が遺産分割協議書へ署名する場合

85歳女性H。夫の相続手続で、「自宅と預金の大半を長男が取得し、Hは何も取得しない」という遺産分割協議書に署名予定。長男は「母も納得しています」と説明。

受任保留すべき回答の例 「よく分かりません。長男がそう言うので。」「私は何をもらうのか知りません。」「署名しないと長男に怒られます。」→ Hの理解が不十分、または長男による誘導・圧力が疑われる。行政書士は遺産分割協議の仲介・調整に入ってはいけません。受任を保留し、弁護士や地域包括支援センターへの相談を検討します。

13. 実務チェックリスト

契約前の意思能力確認チェック

  • 本人確認が完了している
  • 本人が相談目的を自分の言葉で説明した
  • 本人だけと話す時間を設けた
  • 本人の体調・疲労・判断能力の波を確認した
  • 服薬・入院・せん妄等の影響を確認した
  • 本人が契約内容を自分の言葉で説明した
  • 本人が費用・効果・変更可能性を理解している
  • 行政書士ができない業務範囲を説明した
  • 紛争交渉・調整は弁護士領域と説明した
  • 税額計算・特例判断は税理士領域と説明した
  • 登記申請代理は司法書士領域と説明した

遺言支援チェック

  • 本人が相続人候補を概ね説明できる
  • 本人が主な財産を概ね説明できる
  • 本人が誰に何を残すか・その理由を説明できる
  • 不利益を受ける親族がいる可能性を説明した
  • 公正証書遺言の検討要否を判断した
  • 行政書士が証人となる場合のリスクを検討した
  • 親族間で争いがある場合は弁護士へ連携した
  • 税務判断が必要な場合は税理士へ連携した
  • 不動産登記が必要な場合は司法書士へ連携した

任意後見契約チェック

  • 本人が任意後見契約の意味を説明できる
  • 契約後すぐに効力が生じないことを説明した
  • 任意後見監督人選任後に効力が生じることを説明した
  • 任意後見人には一般的な取消権が認められていないことを説明した
  • 個別法上の対応が問題になる場合は専門家連携が必要と説明した
  • 法定後見制度との違いを説明した
  • 公正証書が必要であることを説明した

記録化チェック

  • 面談日時・場所・本人の体調を記録した
  • 判断能力の波・服薬・せん妄等の影響を記録した
  • 同席者・本人単独面談の有無を記録した
  • 本人の再説明内容を具体的に記録した
  • 理解できた事項・不十分な事項を記録した
  • 受任可否判断・保留理由を記録した
  • 他士業連携の判断を記録した
  • 証人となる場合、就任判断と当日の状況記録方針を記録した
  • 録音・録画の同意取得と保管方法を記録した

14. 確認テスト(全15問)

問1
意思能力とは何か。
法律行為の意味と結果を理解し、自分の判断で意思表示できる能力をいう。終活業務では、本人が「何を、誰に、なぜ、どのような効果で依頼・作成するのか」を理解しているかを確認する必要がある。
問2
本人確認と意思能力確認の違いを説明しなさい。
本人確認は目の前の人が本人であることを確認する手続。意思能力確認はその本人が契約や遺言などの意味と結果を理解し、自分で判断できる状態かを確認する手続。本人確認が完了しても、意思能力があるとは限らない。
問3
本人が「はい」とうなずいているだけで契約を進めてよいか。
進めるべきではない。うなずきだけでは理解確認として不十分。本人に、契約内容・受任者・費用・効果・変更可能性などを自分の言葉で説明してもらう必要がある。
問4
意思能力確認で本人に説明すべき共通事項を挙げなさい。
何の書類・契約か、誰が関係者か、何を依頼するか、いつ効力が生じるか、費用はどうなるか、やめられるか、リスクは何か、他の選択肢はあるか、行政書士ができないこと(紛争交渉・税務判断・登記申請代理等)など。
問5
死後事務委任契約で本人に確認すべき事項を挙げなさい。
契約の意味、受任者、依頼内容(葬儀・納骨・家財処分・役所手続の希望)、費用原資、親族連絡の方針、契約の変更・解除、遺言との違いなど。
問6
任意後見契約で本人が理解すべき重要事項を挙げなさい。
将来判断能力が低下した場合に備える契約であること、契約後すぐに効力が生じるわけではないこと、家庭裁判所が任意後見監督人を選任してから効力が生じること、誰にどの代理権を与えるか、任意後見人には法定後見人のような一般的な取消権が認められていないこと、具体的な取消し・被害回復等が問題になる場合は専門家連携が必要であること、公正証書が必要であることなど。
問7
同席者が本人の回答を代弁し続ける場合、どう対応すべきか。
本人に直接質問し、必要に応じて本人だけと話す時間を設ける。同席者が退席を拒むなど本人意思を確認できない場合は、受任を保留する。
問8
意思能力に疑義がある場合に連携すべき先を挙げなさい。
医師、公証役場、地域包括支援センター、社会福祉士、ケアマネジャー、弁護士、司法書士など。医学的診断・福祉的支援・紛争対応・成年後見制度利用等の必要に応じて連携する。
問9
録音・録画をすれば面談記録は不要か。
不要ではない。録音・録画は補助資料になるが、行政書士の説明内容・本人の理解確認・判断過程・受任可否判断を整理した面談記録を別途作成する必要がある。
問10
意思能力に疑義がある場合、受任保留すべき理由を説明しなさい。
本人が契約や遺言の意味を理解していないまま進めると、後日、契約無効・遺言無効・親族トラブル・財産侵害・行政書士の説明責任問題につながるため。受任保留は本人保護と専門職リスク管理のために必要。
問11
行政書士が相続人間の遺産分割協議の調整に入ってよいか。
親族間で意見対立がある場合、協議の仲介や間に入った調整を行うべきではない。紛争交渉は弁護士領域。行政書士は、争いがない場合の書類作成支援に留め、意見対立がある場合は弁護士へ連携する。
問12
行政書士が相続税額や税務特例の適用可否を判断してよいか。
判断してはいけない。一般的な税制概要の説明に留め、具体的な相続税額の計算・配偶者控除・小規模宅地等の特例適用可否・二次相続対策などは税理士へ連携する。
問13
行政書士が公正証書遺言の証人になる場合、何に注意すべきか。
後日、遺言無効を争う裁判で証人として尋問を求められる可能性がある。公証人に任せるだけでなく、本人の様子・本人発言・説明内容・同席者の有無・医師診断書の有無・公証役場との事前調整内容を詳細に記録する。必要に応じて録音・録画も検討する。
問14
判断能力に波がある本人について、1回の面談だけで契約を進めてよいか。
慎重に判断すべき。時間帯・体調・服薬状況・入院環境等により理解力が変動する場合があるため、時間を変えた複数回面談・主治医診断書・認知機能検査結果・福祉関係者からの情報確認を検討する。
問15
意思能力に疑義がある場合、本人や親族にどのように受任保留を説明すべきか。
直接「能力がないのでできません」と伝えるのではなく、後日争われないよう本人の意思を守るための確認であると説明する。主治医・専門医・地域包括支援センター・公証役場等への相談を案内し、資料確認後に再面談する流れを示す。

15. 次回への接続

今回の要点 意思能力確認は、「本人がうなずいたか」ではなく、「本人が契約や遺言の意味・相手方・効果・費用・リスクを自分の言葉で説明できるか」を確認し、記録する作業である。
実務上の最重要ポイント 意思能力に疑義がある場合は、無理に契約や遺言支援を進めず、受任保留・再面談・医師・公証役場・福祉職との連携、必要に応じて成年後見制度等への案内を行う。本人や親族に対しては「能力がない」と断定的に伝えるのではなく、「後日争われないよう本人の意思を守るため、専門医や地域包括等の確認を経て進める」と説明する。

次回「0-6 家族・親族トラブルの予防」では、本人に意思能力があり本人意思が確認できても、家族・親族との関係を無視して進めると後日の無効主張・遺留分トラブル・死後事務妨害・財産管理批判につながることがある点を扱います。

行政書士実務マニュアル|おひとりさま・おふたりさま終活業務シリーズ 第0-5回

本記事は教育・研修目的で作成されています。個別の案件については必ず最新の法令・ガイドライン・専門家の判断を確認してください。

あわせて確認したいこと

相続・遺言・終活の手続きを確認したい方へ

相続、遺言、終活に関する手続きでは、戸籍、財産、関係者の状況を落ち着いて整理することが大切です。川崎市北部で家族の手続きについて確認したい方は、関連するご案内をご覧ください。

前のページに戻る
フォーム 電話 LINE