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行政不服申立て 実務解説

不利益処分の「不当」はどう書くか
比例原則・平等原則・裁量統制の使い方

不利益処分の不当主張では、比例原則・平等原則・裁量判断の不合理さを、具体的な事実と資料に基づいて整理する必要があります。相談対応から資料確認・審査請求書への落とし込みまでを実務の流れに沿って解説します。

Section 01

「不当」は感情ではなく処分の組み立てを点検する主張

この章のポイント

  • 「納得できない」と「不当である」は何が違うのか
  • 違法主張だけでなく不当主張を立てる意味
  • 「主位的に違法、予備的に不当」という組み立て方
違法主張
内容根拠法令違反・要件該当性の誤り・手続違反・裁量権の逸脱濫用
特徴比例原則・平等原則違反が著しい場合や主要な事実を全く考慮していない場合は違法の領域に達する
根拠行訴法30条:裁量権の範囲を超え、または濫用があった場合の取消し
不当主張
内容直ちに違法と断定できないが、処分の重さ・均衡・裁量判断の過程に問題がある
特徴審査請求(行審法)では違法と不当の双方が認容事由になり得る。訴訟では違法性が中心
実務主位的に違法(裁量権の逸脱濫用)、予備的に不当という組み立てが有効

「納得できない」は相談者の主観的な感情ですが、「不当である」は審査庁が検討できる形に整理された主張です。処分目的・違反の程度・過去の対応・考慮された事情・処分基準との関係を示して初めて、不当性の検討対象になります。感情の背景にある事実と判断過程を言語化することが大切です。

Section 02

不当主張を作る前に分けるべき4つの争点

この章のポイント

  • 手続の問題:理由提示・聴聞・弁明機会から確認する
  • 事実の問題:処分庁が前提にした事実を特定する
  • 違法の問題:根拠条文・要件・処分基準とのズレを見る
  • 不当の問題:裁量判断の重さ・均衡・考慮過程を見る

不当主張を作る前に、争点を混ぜないことが重要です。手続・事実・違法・不当を分けると、審査請求書の見通しがよくなり、後の弁明書・反論書にも対応しやすくなります。

手続の問題:理由提示(行手法14条)・聴聞(行手法13条以下)・弁明機会を確認する。処分通知書だけでなく、事前通知、聴聞通知、弁明書提出の案内、理由の記載内容を確認する。

事実の問題:処分庁がいつ・誰が・何をしたことを処分原因としたのかを表に整理する。相談者が争っている事実と処分庁の処分理由が一致しているとは限らない。

違法の問題:個別法・施行令・施行規則・条例・処分基準を順に見て、要件を正しく当てはめているかを確認する。行審法だけで完結させない。

不当の問題:法令上可能だとしても、処分の選択や重さが妥当だったかを検討する。比例原則・平等原則・裁量判断の整理に分けると書きやすい。

個別法・処分基準の確認が先決 再調査請求や再審査請求の有無は一般論で断定せず個別法を確認します。再調査の請求ができる場合でも、原則として審査請求との自由選択になります。再審査請求は個別法に特別の定めがある場合に限られます。
Section 03

比例原則で処分の重さを点検する3つの視点

この章のポイント

  • 目的に対して処分内容が過剰ではないかを見る
  • より軽い手段で目的を達成できなかったかを検討する
  • 不利益の程度と行政目的の必要性を対比する
目的と
処分内容
のバランス
行政目的と処分内容を対比する
処分目的・違反内容・被害の有無・改善状況・過去の指導歴を並べ、処分の重さがどこで不均衡になっているのかを示す。著しく均衡を欠く場合は違法主張として構成し、そこまで断定しない場合は不当主張として整理する。
より軽い
手段の
検討
指導・警告・改善命令など軽い手段で目的を達成できなかったかを確認する
個別法や処分基準上の選択肢を確認する。軽い手段で足りた事情・すでに改善された事情・再発防止策が講じられた事情を具体的に示す。違法主張としては裁量権の逸脱濫用、不当主張としては妥当性の欠如として組み立てる。
不利益の
程度と
必要性
処分による不利益(売上・雇用・事業継続)と行政目的の必要性を対比する
不利益が大きいだけで処分が不当になるわけではない。違反内容に比べて処分の影響が過大ではないかを資料(試算表・契約書・取引先への影響資料等)に基づいて説明する。
Section 04

平等原則で同種事案とのズレを示す3つの視点

この章のポイント

  • 同じような事案と異なる扱いを受けていないか確認する
  • 異なる扱いに合理的な理由があるかを検討する
  • 「他の人は許された」ではなく比較条件をそろえる

比較に使う資料は裁決例・公表処分事例・処分基準など確認可能なものを優先します。著しい差別的取扱いといえる場合は違法主張(裁量権の逸脱濫用)、そこまで断定しない場合は不当主張として位置づけます。

比較条件のそろえ方:違反内容・違反回数・故意過失の程度・被害の有無・改善状況・過去の指導歴を並べる。これらが近いにもかかわらず今回だけ著しく重い処分であれば均衡を欠く形で整理できる。

合理的理由の検討:違反期間が長い・過去にも指導を受けている・被害が大きい等の事情があれば重い処分を選ぶ理由になり得る。これらの事情がないのに重い処分が選ばれている場合は均衡を欠く可能性がある。

伝聞情報を書面に書かない 「他の人は許された」という伝聞だけでは主張の根拠として弱くなります。比較対象・処分時期・違反内容・処分庁・適用基準・改善状況をそろえた確認可能な資料を使います。条件がそろわない場合は、処分基準の当てはめや考慮事情の不足として整理した方が読みやすくなることがあります。
Section 05

裁量判断の不合理さを整理する4つの視点

この章のポイント

  • 考慮すべき事情を見落としていないか
  • 考慮してはいけない事情を重視していないか
  • 重要な事情の評価が極端に不合理ではないか
  • 処分基準の当てはめが形式的になっていないか
①考慮不尽
違反後の是正・被害の不存在・行政指導への対応・再発防止策・過去の違反歴がないこと等が考慮されているかを確認する。主要な事情の見落としが重大であれば違法主張(裁量権の逸脱濫用)としても検討する。
②他事考慮
根拠法令の目的と関係しにくい事情・解決済みの別件・客観資料に基づかない評価が重視されていないかを資料から慎重に確認する。推測だけで断定しない。
③評価の偏り
軽微な違反を重大違反と同様に扱う・改善済み事情をまったく評価しない・被害を過大に見るといった場合に問題となる。処分基準・過去の公表事例・客観資料と照らして示す。
④機械的適用
処分基準に該当する事実があっても軽減事情や改善状況を踏まえた調整ができる場合がある。個別事情の検討があるかを確認する。著しく不合理な場合は違法主張(裁量権の逸脱濫用)にもつながる。
違法と不当を分けて主張する 裁量判断が社会通念上著しく妥当性を欠く場合や主要な事実を全く考慮していない場合は、単なる不当ではなく裁量権の逸脱・濫用として違法の領域に達します。実務では「違法(裁量権の逸脱濫用)を主位的に、不当を予備的に」という組み立てを検討します。
Section 06

審査請求書に使いやすい4つの主張パターン

この章のポイント

  • 「処分目的に照らして過重である」と書く場合
  • 「同種事案との均衡を欠く」と書く場合
  • 「重要な事情を十分に考慮していない」と書く場合
  • 「処分基準の機械的適用にとどまっている」と書く場合
不当主張の書き方パターン(いずれも事実・資料と接続して使う)
「処分目的に照らして過重である」
目的・違反内容・処分の重さを対応させる。例:「再発防止が目的とすれば、改善措置が完了し再発防止体制が整備されている事情を踏まえると、○日の営業停止は過重である」。改善報告書・研修記録・是正完了写真を添える。
「同種事案との均衡を欠く」
比較対象の条件(違反回数・被害の程度・改善状況)をそろえたうえで示す。例:「公表されている同種処分例では本件と近い事情でより軽い処分にとどまっている」。比較資料が不十分なら処分基準との均衡を中心にする。
「重要な事情を十分に考慮していない」
根拠法令の目的や処分基準と関係する事情に絞って列挙する。例:「是正・被害不存在・再発防止策・過去違反歴なしは処分の量定に影響するにもかかわらず、処分理由では十分に評価されていない」。
「処分基準の機械的適用にとどまっている」
処分基準の文言を引用しながら、当てはめの問題として整理する。例:「処分基準上の該当性を前提としても、○○の軽減事情があり、同基準の趣旨に照らして最も重い処分を選択する必要性は乏しい」。

3ステップで主張を一本化:①処分庁の判断構造を分解する → ②事実・手続・違法・不当を別々の見出しにする → ③「以上の事情から本件処分は裁量権の逸脱濫用として違法であり、仮に違法とまではいえないとしても処分目的に照らして過重で同種事案との均衡も欠き不当であるため取消しまたは変更を求める」という形で一本化する。

Section 07

不当主張でやりがちな5つのミス

  • ×①
    相談者の不満をそのまま書く
    「ひどい」「生活できない」「担当者の対応が悪い」は書面の主張としては不十分。不満の背景にある事実を処分の重さ・同種事案との違い・考慮されていない事情に分解して書く。
  • ×②
    違法・不当・事実誤認・手続違反を混ぜる
    「違法であり、不当であり、事実も違う」を一文に詰め込むと焦点がぼやける。事実認定の誤り・手続の問題・法令要件とのズレ・裁量権の逸脱濫用・不当性を別々に見出し化する。
  • ×③
    比例原則・平等原則を抽象語のまま使う
    「比例原則に反する」「平等原則に反する」と書くだけでは何が過重で何と比べて不均衡かが伝わらない。比例原則なら処分目的・違反内容・処分の重さ・不利益の程度を、平等原則なら比較条件をそろえた資料を示す。
  • ×④
    個別法や処分基準を確認せずに一般論で断定する
    不利益処分の種類・手続・処分権者・再調査請求の有無は個別法によって異なる。まず根拠条文を確認し、施行令・施行規則・処分基準・自治体の様式・教示まで照合する。
  • ×⑤
    成功可能性を強く示しすぎる
    「必ず取り消せます」は実務リスクが高い。「この点は不当主張として整理できる可能性があります」「違法主張として構成できるかは資料確認後に判断します」という表現が適切。期待値管理も専門職の役割。
Section 08

提出前チェックリスト

不当主張 提出前チェックリスト
処分通知書から名宛人・処分日・効力発生日・根拠条文・理由・教示を確認したか
審査請求期間・提出先を教示と個別法で照合したか
個別法・施行令・施行規則・処分基準を5点セットで原典確認したか(行審法だけで完結させない)
争点を「手続・事実・違法・不当」に分けて整理したか
「主位的に違法(裁量権の逸脱濫用)、予備的に不当」という組み立てを検討したか
比例原則の主張に処分目的・違反内容・処分の重さ・不利益の程度を対応させたか
平等原則の主張に比較条件のそろった確認可能な資料を使っているか(伝聞情報に依存していないか)
裁量判断の整理で考慮不尽・他事考慮・評価の偏り・機械的適用を別々に確認したか
各主張と資料が対応しているか(資料番号を付けたか)
再調査請求・再審査請求の有無を個別法の原典で確認したか(一般論で断定していないか)
成功可能性を断定する表現を使っていないか
裁決後に取消訴訟が問題になり得る案件で弁護士連携の要否を確認したか

まとめ

  • 不当主張は相談者の不満をそのまま書くのではなく、審査庁が検討できる争点に整理する
  • 手続・事実・違法・不当を分けると審査請求書の構成が明確になる
  • 比例原則・平等原則は不当主張だけでなく、程度によっては裁量権の逸脱濫用として違法主張にもつながる
  • 再調査の請求はできる場合でも原則として審査請求との自由選択。再審査請求は個別法に特別の定めがある場合に限られる
  • 裁量判断の整理では考慮不尽・他事考慮・評価の偏り・処分基準の機械的適用の4点を点検する

不利益処分の不当主張は、処分通知書と一次情報を起点に、手続・事実・違法・不当を分けて確認し、実務で使える主張へ落とし込んでいきましょう。

本記事は情報提供を目的としており、個別の法的判断を保証するものではありません。具体的な手続については、専門家にご相談ください。

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