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第0-1回 導入・総論

おひとりさま・おふたりさま
終活業務の全体像

遺言・任意後見・死後事務委任・財産管理・見守り・墓じまい・相続手続きの関係を整理し、初回相談から支援設計全体として考えるための実務ガイドです。

対象:新人行政書士 読了目安:約20分 改正民法(2023年4月施行)対応

1. この回の到達目標

この回を学び終えると、次の5点を説明できるようになります。

  • おひとりさま・おふたりさま終活業務とは何かを説明できる
  • 一般的な相続業務との違いを理解できる
  • 遺言・任意後見・死後事務委任・財産管理・見守り・墓じまい・相続手続きの関係を整理できる
  • 初回相談時に、単発業務ではなく支援設計全体として考えられる
  • 行政書士が関与できる部分と、他士業・関係機関へつなぐべき部分を大枠で判断できる
行政書士の業務範囲 行政書士は、官公署に提出する書類・権利義務・事実証明に関する書類の作成等を業務とします。終活業務では契約書・遺言案・財産目録・各種申請書等を扱う一方、紛争性のある法律判断・代理交渉・登記・税務申告・医療判断そのものは他専門職との連携が必要です。

本回は導入回です。各契約書の条項・遺言文例・任意後見契約の代理権目録・死後事務委任契約の実行手順・戸籍収集・財産調査・報酬・預り金管理・業際判断の詳細は次回以降で扱います。

2. 業務が必要になる実務場面

2-1. 身寄りがない、または頼れる親族がいない

相談例 「兄弟はいるが疎遠です。入院や死後の手続きを誰に頼めばよいかわかりません。」

この場合、単に遺言書を作れば足りるとは限りません。遺言は主に財産承継のための制度であり、入院時の連絡先・施設入所・緊急搬送・死亡届・葬儀・納骨・公共料金解約・賃貸住宅明渡しなどをすべてカバーするものではありません。必要になる可能性がある支援は以下のとおりです。

  • 見守り契約 / 財産管理等委任契約 / 任意後見契約 / 死後事務委任契約
  • 遺言書作成支援 / 葬儀・納骨手配 / デジタル終活 / 家財整理
  • 相続人調査 / 財産調査 / 墓じまい・改葬 / 永代供養先選定
新人が最初に理解すべきこと 依頼者が「遺言を作りたい」と言っていても、実際の不安は遺言だけでは解決しないことが多い。

2-2. 夫婦のみ、子どもがいない

おふたりさまの場合、片方が元気な間は問題が見えにくいですが、次のリスクがあります。

  • 同時期に判断能力が低下する
  • 一方が死亡し、残された配偶者が手続不能になる
  • 夫婦双方の親族間で相続トラブルが起きる
  • 子がいないため、兄弟姉妹・甥姪など普段交流のない親族が相続人になる可能性がある
よくある誤解 「配偶者が全部相続する」と誤解している依頼者が少なくありません。親や兄弟姉妹が相続人になる場合があるため、早期に相続人の大枠を確認します。

2-3. 親族はいるが、頼みたくない・頼めない

甥など法定相続人であっても、本人の希望として別の人や専門職に事務を依頼したいことがあります。ただし、親族関係や相続権を無視して設計すると死亡後にトラブルになるため、相続人調査・遺言・遺留分・死後事務の役割分担を慎重に整理します。

遺留分に関する重要知識 民法上、遺留分を有するのは「兄弟姉妹以外の相続人」です。兄弟姉妹・甥姪には遺留分がありません。そのため、主なトラブル要因は遺留分侵害額請求リスクではなく、遺言無効主張・感情的な苦情・死後事務費用の使途への疑義・財産目録の不備などです。

2-4. 入院・介護施設入所時に身元保証人を求められた

新人が特に注意すべき場面 行政書士個人が直接「身元保証人」や「連帯保証人」になることは、債務保証責任・損害賠償リスク・長期拘束リスク・緊急時対応リスクを伴うため、原則として避けるべきです。

実務上は以下のいずれかの対応を検討します。

  • 信頼できる身元保証法人・高齢者等終身サポート事業者を紹介する
  • 行政書士は身元保証人そのものにならず、契約書作成支援・契約内容確認支援に徹する
  • 緊急連絡先・死後事務・財産管理・任意後見など、役割ごとに契約を分けて整理する
  • 預託金を扱う場合は、分別管理・信託利用・返還ルール・報告体制を確認する
  • 医療同意や連帯保証を含む書類には安易に署名しない

3. 基本知識

3-1. 定義

おひとりさま終活業務とは、配偶者・子・親族などの身近な支援者がいない、またはいても頼れない人について、本人の生前から死亡後までの生活・財産・医療介護・死後事務・相続・供養を一体的に設計する支援業務をいいます。

おふたりさま終活業務とは、主に子のいない夫婦・事実婚・同性パートナー・きょうだい同居などを対象に、どちらか一方または双方に判断能力低下・死亡が生じたときに支援者不足が発生する状況への備えを設計する業務です。

ポイント 単に「遺言を書く」「死後事務契約を作る」という単発作業ではなく、生前から死亡後までを時間軸でつなげて設計する業務です。終活業務では「生前支援」「判断能力低下への備え」「死亡後対応」「財産承継」「生活・医療・介護支援」「墓・供養・住まい対応」の6つを一体で考えます。

3-2. 一般的な相続業務との違い

比較項目 一般的な相続業務 おひとりさま・おふたりさま終活業務
開始時期 死亡後が中心 生前から死亡後まで
主な依頼者 相続人・遺族 本人
主な目的 財産承継手続 生活・判断能力低下・死後事務・財産承継の総合設計
重要書類 戸籍・遺産分割協議書・財産目録等 遺言・任意後見契約・財産管理契約・死後事務委任契約・見守り契約等
重点リスク 相続人間の紛争・名義変更漏れ・遺産分割長期未了 支援者不在・意思確認不能・死後事務不履行・親族トラブル・預り金リスク・身元保証リスク
改正民法(2023年4月施行)の注意点 相続開始から10年を経過した後の遺産分割では、原則として特別受益や寄与分を踏まえた具体的相続分の主張が制限されます。おひとりさま・おふたりさまの相談では、長年放置された親世代・祖父母世代の相続や数次相続が絡むことが多いため、この10年制限を意識した迅速な調査・連携が必要です。

3-3. 生前から死亡後までの時系列

図解1|支援の時系列フロー
元気な時期
見守り契約、エンディングノート、遺言書作成、死後事務委任契約、財産管理等委任契約、任意後見契約、医療意思表示・尊厳死宣言、墓・納骨先の検討、寄付・遺贈先の事前確認
生活支援期
定期連絡、通院・入院・介護施設入所支援、福祉制度利用支援、委任契約に基づく各種手続代行、財産管理等委任契約の活用
判断能力低下期
任意後見監督人選任申立て、任意後見契約の発効(※判断能力がすでに不十分な場合は法定後見の検討が必要)
死亡直後
死亡確認後の連絡、死亡届(届出義務者による提出の支援・使者提出の補助)、火葬許可関連の確認、葬儀・火葬・納骨手配、病院・施設・賃貸住宅への対応、関係者への通知
死亡後整理
公共料金・携帯電話・サブスク解約、家財処分、デジタル遺品対応、墓じまい・改葬、永代供養・納骨、死後事務費用の精算
財産承継・相続
遺言執行、相続人調査、財産調査、預貯金・車両・各種名義変更(不動産登記は司法書士、税務申告は税理士へ連携)、業務報告書・収支報告書・記録保管
任意後見契約について 任意後見契約は、本人が判断能力のあるうちに契約し、将来判断能力が不十分になった際、家庭裁判所で任意後見監督人が選任されて初めて効力が生じます。契約は公正証書で作成されます。
死亡届について 戸籍法上の届出人となれる者が定められており、行政書士が当然に届出主体になれるわけではありません。届出義務者による提出を支援する、または届出人が署名した届書を使者として提出する補助にとどめる整理が必要です。

3-4. 主要26カテゴリの全体マップ

大分類 関連カテゴリ 位置づけ
総論・基礎 0. 総論 全業務に共通する考え方、本人確認、意思能力、利益相反、記録化
財産承継 1. 遺言書作成、2. 遺言執行、13. 相続人調査、14. 財産調査、22. 相続手続 死亡後に財産を誰へどう承継するか
判断能力低下対策 4. 任意後見、5. 成年後見申立支援、6. 財産管理等委任、7. 見守り 生前の判断能力低下に備える
死後対応 3. 死後事務委任、10. 葬儀・納骨、11. 墓じまい、12. 永代供養 死亡直後から納骨・供養まで
生活・医療・介護 8. 身元保証、9. 尊厳死宣言、15. 委任代理、16. 入院・施設、24. 福祉制度 生前の生活維持と医療介護支援
住まい・物品・デジタル 17. 住居整理、18. デジタル終活、23. 空き家・不動産処分 死亡後または施設入所後の生活基盤整理
個別事情 19. ペット、20. エンディングノート、21. 生前贈与・民事信託等、25. 各種契約 本人の価値観・家族状況・財産状況に応じて組み合わせる

3-5. 各制度の役割整理

図解2|各制度・契約の役割と使用時期
元気な時期 ▶ 生活支援期
死亡
死亡後
見守り契約定期連絡・安否確認・生活変化の把握
財産管理等委任契約預金管理・支払代行(判断能力ある間)
任意後見契約監督人選任後に発効・財産管理・身上保護
遺言書財産承継先の指定 → 死亡後に効力 ──────────────────▶
死後事務委任契約葬儀・納骨・解約・清算(財産承継は対象外)
遺言執行財産承継手続・遺言執行者の権限で実施
制度・契約 主な機能 いつ使うか 注意点
見守り契約 定期連絡・状況把握 元気な時期から 財産管理権限は通常ない
財産管理等委任契約 預金管理・支払・手続代行 判断能力がある間 本人の判断能力喪失後は限界がある
任意後見契約 判断能力低下後の代理 任意後見監督人選任後 公正証書が必要・発効までは使えない
死後事務委任契約 死亡後の事務処理 死亡後 財産承継・分配はできない
遺言 財産承継 死亡後 葬儀希望などは付言事項にとどまる場合がある

4. 実務の進め方

初回相談から全体設計に入るまでの流れを11ステップで整理します。

図解3|初回相談〜全体設計フロー(11ステップ)
  1. Step 1 相談内容をそのまま受け止める
  2. Step 2 本人・相談者・関係者を確認する
  3. Step 3 本人の意思能力・真意・緊急性を確認する
  4. Step 4 人生段階を把握する
  5. Step 5 リスクを6領域に分類する
  6. Step 6 必要な支援メニューを仮設計する
  7. Step 7 行政書士単独で扱える範囲と連携範囲を分ける
  8. Step 8 報酬・紹介料・一括受任のコンプライアンスを確認する
  9. Step 9 優先順位を決める
  10. Step 10 次回までの資料収集を指示する
  11. Step 11 相談記録を作成する

Step 5 — リスクを6領域に分類する

①生活リスク
食事・通院・買い物・施設入所・緊急連絡
②判断能力リスク
認知症・精神疾患・意思確認困難・契約締結能力
③財産管理リスク
預金管理・支払滞納・詐欺被害・使途不明金
④死後事務リスク
葬儀・火葬・納骨・死亡届支援・住居明渡し・解約
⑤財産承継リスク
遺言未作成・相続人不明・遺留分・寄付先受入拒否
⑥周辺整理リスク
墓・空き家・家財・ペット・デジタル遺品

Step 7 — 行政書士単独vs他士業連携

行政書士が中心的に関与しやすい業務 他士業連携が必要になりやすい業務
権利義務・事実証明書類作成、各種契約書案・遺言書作成支援、財産目録・相続関係説明図作成、官公署提出書類の作成、改葬許可申請書類、死後事務委任・見守り契約書作成支援、エンディングノート作成支援、委任状に基づく非紛争性手続代行 紛争性のある親族間交渉、遺留分侵害額請求への対応、遺言無効の争い、不動産登記(司法書士)、相続税・贈与税申告(税理士)、準確定申告(税理士)、医療行為の同意判断、離檀料の金額交渉(弁護士)、使途不明金・横領疑いへの対応(弁護士)

Step 8 — コンプライアンス(報酬・紹介料)

新人が最も注意すべきコンプライアンスリスク 紹介料・キックバック・報酬分配・一括受任窓口受任は重大なコンプライアンスリスクです。行政書士職務基本規則では、不正・不当な手段による依頼誘致・金品提供等による依頼誘致・紹介の対価要求などが禁止されています。弁護士法72条にも注意が必要です。
  • 他士業や業者から紹介料を受け取らない
  • 他士業や業者へ紹介料を支払わない
  • 依頼者の報酬に紹介料を上乗せしない
  • 行政書士が全業務を一括受任し他士業へ再委託する形にしない
  • 各専門職と依頼者との間で直接契約してもらう
  • 各専門職への報酬は依頼者から直接支払ってもらう
  • 紛争性が出た時点で弁護士へ引き継ぐ

Step 9 — 優先順位の考え方

優先度 内容
最優先 本人確認・意思能力確認・真意確認、緊急連絡先整理、入院・施設入所など直近の生活リスク対応
次に優先 遺言、死後事務委任、費用原資の確保、見守り契約、財産目録作成
中期的に対応 任意後見契約、財産管理等委任契約、墓じまい、永代供養先選定、家財整理、デジタル終活
必要に応じて対応 相続人調査、過去の未了相続調査、不動産処分、福祉制度利用、民事信託・生前贈与
注意 判断能力が十分なうちにしかできない業務(遺言・任意後見契約・死後事務委任契約・財産管理等委任契約)は早めに進めます。判断能力が低下してからでは手遅れになる場合があります。

5. ヒアリング項目

初回から契約書作成に入らず、まず以下の項目を確認します。主要カテゴリを示します。詳細は各実施時に参照してください。

基本情報

  • 氏名・生年月日・住所・連絡先
  • 家族構成・婚姻歴・子の有無
  • 兄弟姉妹・甥姪の有無
  • 施設入所・介護認定の有無
  • 主治医・ケアマネジャーの有無

相談のきっかけ

  • なぜ今相談したのか
  • 入院・手術・施設入所の予定があるか
  • 判断能力に不安があるか
  • すでに葬儀社・霊園・身元保証会社と契約しているか
  • 過去に作成した遺言や契約書があるか

支援者の有無

  • 緊急時に連絡できる人
  • 死後に葬儀をしてくれる人
  • 財産を管理してくれる人
  • 遺言執行者候補
  • 死後事務受任者候補・任意後見受任者候補

財産・契約関係

  • 預貯金・不動産・有価証券・保険・年金
  • 借入金・クレジットカード・サブスク契約
  • 未了の相続・先代名義の財産
  • 葬儀社・霊園・身元保証会社との契約

死後の希望

  • 葬儀をするか・誰を呼ぶか・宗教宗派
  • 納骨先・墓じまい・永代供養・散骨等の希望
  • 家財処分・デジタルデータ処理の希望
  • 死後事務費用をどのように準備するか

財産承継の希望

  • 誰に財産を渡したいか(渡したくない人はいるか)
  • 法定相続人を把握しているか・遺留分の可能性
  • 寄付先の希望・寄付先が遺贈を受け入れるか
  • 死後事務費用を誰が精算するか
寄付・遺贈希望がある場合 必ず事前に寄付先団体へ受入可否を確認します。特に不動産・老朽建物・山林・未整理の動産・管理費のかかる財産・換価困難財産は、団体側から受入を拒否されることがあります。

6. 判断フロー(初回相談からの意思決定)

  1. 相談者は本人か?
    いいえ → 本人の意思確認が必要。第三者主導なら慎重対応。
  2. 本人に判断能力の疑義はあるか?
    ある → 医師・成年後見・家裁手続等を検討。無理に契約しない。
  3. 本人が一番不安に思っていることは何か?
    死後の手続→死後事務委任/財産の行き先→遺言/認知症後の管理→任意後見/日常の支払→財産管理等委任/孤独死・緊急時→見守り契約を検討
  4. 死亡後の財産承継と死後事務が両方必要か?
    はい → 遺言+死後事務委任の組み合わせを検討
  5. 死後事務費用の原資は確保できるか?
    いいえ → 実行不能リスクを説明し、契約設計を再検討
  6. 判断能力低下前後の支援が必要か?
    はい → 見守り+財産管理+任意後見を検討
  7. 寄付・遺贈の希望があるか?
    はい → 寄付先の受入可否・財産種類・遺言執行者を確認
  8. 行政書士単独で対応できるか?
    できない → 弁護士・司法書士・税理士・社福等へ連携
  9. 他士業・業者との報酬関係に問題はないか?
    問題あり → 紹介料・報酬分配・一括受任は避ける

7. 作成・確認する書類

初回相談時に確認する書類(主要項目)

  • 本人確認書類・健康保険証・介護保険証・年金関係書類
  • 固定資産税納税通知書・預金通帳の一覧・保険証券・賃貸借契約書
  • 既存の遺言書・任意後見契約書・死後事務委任契約書・エンディングノート
  • 墓地使用許可証・葬儀社・霊園・寺院との契約書・身元保証会社との契約書
  • 未了相続に関する書類・先代名義の不動産・預金・墓地に関する資料

行政書士側で作成する書類(主要項目)

  • 初回相談票・面談記録・本人確認記録・意思確認記録
  • 家族関係整理表・支援者一覧・財産概要メモ・リスク分類表・支援設計案
  • 業務範囲説明書・見積書・委任契約書・個人情報取扱同意書
  • 預り金・預託金を扱わない旨または扱う場合の管理方針説明書
  • 死後事務費用の支払原資確認書・行政書士が関与しない業務の説明書

8. 文例・記載例

初回相談時の説明文例

本日のご相談では、まず遺言書を作るかどうかだけでなく、今後の生活、判断能力が低下した場合の支援、亡くなった後の手続、財産の承継、葬儀・納骨、住まいの整理までを全体として確認します。そのうえで、今すぐ必要な手続と、将来に備えて準備しておく手続を分けてご提案します。

遺言だけでは不足する場合の説明文例

遺言書は、主に財産を誰に承継させるかを決める書類です。一方で、葬儀、納骨、病院や施設への支払い、賃貸住宅の明渡し、公共料金の解約などは、遺言だけでは十分に対応できない場合があります。そのため、財産承継は遺言、死亡後の事務は死後事務委任契約という形で、役割を分けて設計することを検討します。

任意後見の説明文例

任意後見契約は、今は判断能力がある方が、将来認知症などで判断が難しくなった場合に備えて、誰にどのような手続を代理してもらうかを決めておく契約です。契約しただけですぐに始まるものではなく、将来、家庭裁判所で任意後見監督人が選任されてから効力が発生します。

身元保証を求められた場合の説明文例

身元保証人や連帯保証人になることは、単なる緊急連絡先とは異なり、費用負担や損害賠償などの責任を伴う可能性があります。行政書士個人として安易にお引き受けすることはできません。まず、病院や施設が求めている内容が、緊急連絡先なのか、連帯保証なのか、遺体引取りなのか、退去時精算なのかを確認し、必要に応じて専門事業者や関係機関と連携します。

本人確認・意思確認の記録例

記録例

面談日:令和○年○月○日 面談場所:当事務所相談室 同席者:なし

本人は、本日の相談目的について、「自分が亡くなった後の葬儀と納骨を頼む人がいないため、今のうちに契約を整えたい」と説明した。主な財産として、○○銀行普通預金、ゆうちょ銀行通常貯金、自宅不動産があることを自ら説明した。推定相続人については、兄○○は死亡、甥○○がいるが疎遠であると述べた。本日時点では会話の受け答えは明瞭であり、契約の趣旨についても概ね理解している様子であった。ただし、次回面談でも再度意思確認を行う。

9. 他士業・関係機関との連携

連携先 連携すべき主な場面 注意点
弁護士 親族間紛争・遺留分侵害額請求・遺言無効主張・財産の取り込み疑い・離檀料交渉・使途不明金対応 弁護士法72条を意識し、紛争性が出た時点で速やかに連携
司法書士 不動産の相続登記・生前贈与登記・抵当権抹消登記・民事信託で不動産登記が必要な場合 成年後見申立については事務所方針・地域運用を確認
税理士 相続税申告の可能性・贈与税の検討・準確定申告・不動産譲渡所得・寄付・遺贈の税務影響 財産目録作成・資料整理は可能。税務申告・税額計算は税理士の領域
地域包括支援センター 介護保険サービスが必要・認知症の疑い・虐待・セルフネグレクトの疑い・生活困窮 おひとりさまでは、ケアマネジャー・医療ソーシャルワーカーとの連携が実務上重要
医療・介護機関 入院・手術の予定・延命治療の希望確認・施設入所契約・緊急連絡先登録 医療行為の同意は原則として代理できない。本人の意思表示書面の作成支援にとどめる
公証役場 公正証書遺言・任意後見契約・死後事務委任契約・財産管理等委任契約・尊厳死宣言 本人の意思を代弁しすぎず、同席者の希望を本人の意思のように扱わないよう注意
葬儀社・霊園・寺院等 葬儀・永代供養の事前確認・改葬先墓地・家財整理業者・寄付先団体 紹介料を受け取らない。依頼者へ複数候補を提示。契約主体は依頼者と業者にする

10. 新人が間違えやすいポイント

誤り 正しい理解
「遺言があれば全部解決する」 遺言は財産承継のため。葬儀・納骨・家財処分・賃貸住宅明渡し・公共料金解約は死後事務委任契約で設計が必要
「死後事務委任があれば財産承継もできる」 死後事務委任は事務処理のみ。財産承継は遺言・相続手続の問題
任意後見契約がすぐ使えると誤解する 家庭裁判所で任意後見監督人が選任されて初めて効力が生じる
本人以外の希望で進めてしまう 必ず本人の意思を直接確認。利益相反・強要・誘導の疑いがあれば本人単独面談が必須
身元保証を安易に引き受ける 債務保証責任・損害賠償リスク・長期拘束リスクを伴う。行政書士個人は原則引き受けない
預り金・通帳・印鑑を安易に預かる 預り証・分別管理・報告書・複数人チェック体制が必要。高齢者等終身サポート事業者ガイドライン参照
甥姪にも遺留分があると誤解する 兄弟姉妹・甥姪には遺留分がない。ただし遺言無効主張や費用の使途への苦情は起こり得る
寄付先が当然に受け取ってくれると考える 不動産・山林・農地・老朽建物・動産一式等は拒否されることが多い。必ず事前確認が必要
死後事務費用を死亡後の口座から出せると考える 死亡後は口座凍結が通常。生前預託・信託・遺言執行連動・生前契約等で事前に設計が必要
死亡届を行政書士が当然に出せると考える 届出義務者・届出資格者による提出を支援するか、署名済み届書を使者として提出する補助にとどめる

11. トラブル予防策

死後事務費用の支払原資確保(4つの方法)

方法 概要 主な注意点
方法1:生前預託 葬儀費用・火葬費用・納骨費用・住居明渡し費用・行政書士報酬・実費予備費を見積もり、生前に預託 専用口座・分別管理必須。事務所運営資金と混同しない。未使用分の返還先を定める
方法2:信託等利用 多額の預託金は信託銀行・信託会社・高齢者等終身サポート事業者の仕組みを検討 行政書士個人・小規模事務所での直接預かりはリスクが高い
方法3:遺言連動 遺言執行者(行政書士又は第三者)を指定し、遺言執行により解約・換価した財産から清算 死後事務委任契約だけでは財産承継・分配はできない。費用と遺言執行費用を区別する
方法4:生前契約 葬儀社・霊園・永代供養先と生前契約を締結し費用を支払済みにする 解約返金条件・事業者倒産リスク・本人の希望変更・追加費用・契約書保管場所を確認

同席者の影響を排除する方法

本人単独面談の求め方(文例) 「正確にご本人の意思を確認する必要がありますので、ここから10分ほどはご本人と行政書士だけでお話しさせてください。」

12. ケーススタディ(82歳女性・単身)

事案

Aさん、82歳女性。未婚、子なし。両親・兄弟はすべて死亡。甥姪が数名いるが20年以上交流なし。賃貸マンションで一人暮らし。預金約1,800万円・年金収入あり。最近転倒して入院した際、病院から緊急連絡先と退院後の支援者を求められた。「自分が死んだ後、誰にも迷惑をかけたくない。葬儀は簡単でよい。納骨は永代供養で構わない。財産の一部は動物保護団体へ寄付したい。」との相談。

不適切な対応(やってはいけない例)

❌ NG 「では、寄付する内容の遺言書を作りましょう」→ 入院時の支援者問題・任意後見・死後事務・死後費用の支払原資・寄付先団体との事前調整・遺言執行者等がすべて未設計のまま進むことになる。

正しい全体設計(提案する支援セット)

# 支援内容 目的
1 見守り契約 定期連絡、緊急時の状況把握
2 財産管理等委任契約 入院・施設入所時の支払、郵便物確認、必要手続
3 任意後見契約 判断能力低下後の財産管理・身上保護に備える
4 死後事務委任契約 葬儀、火葬、納骨、賃貸住宅明渡し、解約、関係者通知(相続財産の承継・分配は行えない)
5 公正証書遺言 動物保護団体への寄付、残余財産の承継、遺言執行者指定
6 財産目録 預金・年金・保険・契約関係・負債の整理
7 永代供養先の事前選定 納骨費用・契約条件・遺骨受入条件の確認
8 死後事務費用の原資確保 預託・信託・遺言執行による清算のいずれかを設計
9 寄付先団体への事前確認 遺贈受入可否・受入可能財産・正式名称・担当窓口の確認

他士業・関係機関連携(Aさんの場合)

連携先 理由
公証役場 公正証書遺言・任意後見契約・死後事務委任契約
弁護士 甥姪との紛争可能性(遺留分はないが遺言無効主張リスク)・寄付先団体との遺贈受入拒否リスクの検討
税理士 寄付・相続税・準確定申告の可能性
地域包括支援センター 転倒歴・生活支援・介護保険
葬儀社・霊園 葬儀・永代供養の事前確認
動物保護団体 遺贈受入可否・現金以外の財産受入可否確認

13. 実務チェックリスト

初回相談時チェック

  • 相談者は本人か
  • 本人確認書類を確認したか
  • 同席者の有無を記録したか
  • 本人単独で話す時間を確保したか
  • 判断能力に疑義がないか確認したか
  • 死後事務費用の支払原資を確認したか
  • 身元保証を求められている場合、内容を確認したか
  • 医療同意を求められていないか確認したか

全体設計チェック

  • 生前支援・判断能力低下対策が必要か
  • 死後事務委任が必要か
  • 遺言が必要か
  • 見守り契約・任意後見が必要か
  • 葬儀・納骨先の事前確認が必要か
  • 墓じまい・改葬が必要か
  • 寄付先の受入可否確認が必要か
  • 死後事務費用の原資を確定したか

他士業連携チェック

  • 紛争性があれば弁護士へ
  • 不動産登記があれば司法書士へ
  • 相続税・贈与税があれば税理士へ
  • 認知症・生活支援があれば地域包括支援センターへ
  • 公正証書が必要なら公証役場へ
  • 身元保証は専門法人と契約内容を確認したか

コンプライアンスチェック

  • 他士業から紹介料を受け取っていないか
  • 業者からキックバックを受け取っていないか
  • 行政書士が全業務を一括受任して丸投げしていないか
  • 各専門職と依頼者が直接契約する形になっているか
  • 紛争性のある交渉に入っていないか
  • 医療同意を代理していないか
  • 身元保証人・連帯保証人に安易になっていないか

記録化チェック

  • 面談記録を作成したか
  • 本人の発言を具体的に残したか
  • 判断能力に関する所感を記録したか
  • 同席者の発言と本人の発言を区別したか
  • 預託金の有無・管理方法を説明したか
  • 次回までの宿題を明示したか
  • 預かった資料の預り証を作成したか

14. 確認テスト(全10問)

問1
おひとりさま終活業務と一般的な相続業務の最も大きな違いは何か。
一般的な相続業務は死亡後の財産承継手続が中心であるのに対し、おひとりさま終活業務は生前の生活支援、判断能力低下への備え、死亡後の事務、財産承継、葬儀・納骨、住居整理までを一体的に設計する点が異なる。
問2
遺言書だけでは対応しにくい死後の事務を3つ挙げなさい。
①葬儀・火葬・納骨の手配、②賃貸住宅の明渡し、③公共料金・携帯電話・サブスク契約の解約
問3
任意後見契約は、契約締結後すぐに効力が発生するか。
発生しない。任意後見契約は、本人の判断能力が低下した後、家庭裁判所で任意後見監督人が選任されて初めて効力が生じる。
問4
初回相談に甥が来所し、「叔母の財産を自分に遺す遺言を作りたい」と言った。新人行政書士が最初に確認すべきことは何か。
叔母本人の意思確認である。相談者である甥と本人との利害が対立する可能性があるため、本人と直接面談し、本人の真意、判断能力、第三者からの圧力の有無を確認する必要がある。
問5
死後事務委任契約と遺言の役割の違いを説明しなさい。
死後事務委任契約は、葬儀・納骨・住居明渡し・契約解約など死亡後の事務処理を依頼する契約である。遺言は、財産を誰にどのように承継させるかを定める制度である。両者は役割が異なるため、おひとりさま終活では併用が必要になることが多い。
問6
兄弟姉妹や甥姪には遺留分があるか。
ない。民法上、遺留分を有するのは兄弟姉妹以外の相続人であり、兄弟姉妹や甥姪には遺留分がない。ただし、遺言無効主張や死後事務費用への苦情など、別のトラブルは起こり得る。
問7
本人死亡後、死後事務費用を本人の銀行口座から当然に引き出して支払う設計は適切か。
適切ではない。本人死亡後は口座が凍結されるのが通常であり、死後事務費用の支払が止まる可能性がある。生前の預託・信託・遺言執行者による清算・生前契約などにより、費用原資を事前に設計する必要がある。
問8
行政書士が他士業を紹介する際に注意すべき報酬上の問題を2つ挙げなさい。
①紹介料・キックバックを受け取らないこと、②行政書士が全業務を一括受任して他士業へ報酬を分配する形にしないこと
問9
死亡届について、行政書士はどのように関与すべきか。
死亡届は届出人となれる者が定められているため、行政書士が当然に届出主体になることはできない。届出資格者による署名・提出を支援する、または署名済み届書を使者として提出する補助にとどめる。
問10
動物保護団体へ遺贈する遺言を作る前に確認すべきことは何か。
その団体が遺贈を受け入れるか、現金以外の財産を受け入れるか、正式名称・所在地・担当部署は何か、受入拒否となる条件は何かを事前に確認する必要がある。

15. 次回予告

本回では、おひとりさま・おふたりさま終活業務を、個別の書類作成業務ではなく、生前支援・判断能力低下対策・死亡後対応・財産承継・生活医療介護支援・墓供養住まい対応を組み合わせる支援設計業務として整理しました。

特に意識すべき10のポイント ①遺言だけでは死後事務は完結しない ②死後事務委任契約だけでは財産承継はできない ③任意後見契約はすぐには発効しない ④死亡届は届出資格者の整理が必要 ⑤死亡後は口座凍結により費用支払が止まる可能性がある ⑥兄弟姉妹・甥姪には遺留分がない ⑦寄付・遺贈は受入先の事前確認が必要 ⑧身元保証は重大な責任を伴う ⑨医療同意は原則として代理できない ⑩他士業連携では紹介料・報酬分配・一括受任を避ける

次回「0-2 行政書士が関与できる業務・できない業務」では、今回の全体像を前提に、行政書士がどこまで関与でき、どこから他士業・医療介護機関へ連携すべきかを具体的に扱います。

行政書士実務マニュアル|おひとりさま・おふたりさま終活業務シリーズ 第0-1回

本記事は教育・研修目的で作成されています。個別の案件については必ず最新の法令・ガイドライン・専門家の判断を確認してください。

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