ここまで、AI導入を業務改革として捉える考え方や、業務分解、データと情報の整理、ワークフロー設計、効果測定、リスク管理、組織への定着について学んできました。総合演習では、これらの考え方を自社の業務に当てはめ、AI導入企画の形に整えていきます。最初の課題は、「どの業務を検討対象にするか」を決めることです。候補が多くて迷う場合も、社内資料が十分にそろっていない場合も、まずは日常業務の具体的な作業と困りごとから整理してみましょう。
このセクションで学ぶこと
- 自社の業務を短時間で棚卸しする方法
- 具体的な作業や困りごとからAI導入候補を洗い出す方法
- 効果・実現性・リスク・現場負担の観点で候補業務を比較する方法
- 最初に検討するAI導入候補業務を1つ選ぶ方法
この回では、候補業務を1つ選ぶところまで進めます。詳細な業務フロー、人間による確認ポイント、リスク対策、PoC計画は、次回以降に整理します。
AI導入の業務選定は、具体的な作業から始める
AI導入を検討するとき、「営業部門に生成AIを導入したい」「総務業務をAI化したい」「問い合わせ対応にAIを使いたい」といった大きなテーマから話が始まることがあります。方向性を共有するうえでは有用ですが、そのままでは対象範囲が広く、何を改善したいのかが明確になりません。
たとえば、「営業業務」には、見込み顧客の調査、商談準備、議事録作成、提案書作成、営業メールの下書き、案件情報の登録、受注見込みの判断など、性質の異なる作業が含まれます。作業ごとに必要な情報、判断の難しさ、関係者、リスクが異なります。そのため、「営業業務」という大きな単位だけでAI導入の適否を判断することは難しくなります。
この段階で、AIに任せる範囲を最終決定する必要はありません。まず必要なのは、詳しく調べる価値がある候補を選ぶことです。選定後に業務フローを分解すると、「下書き作成だけを支援させる」「資料検索だけを補助させる」といった現実的な活用範囲が見えてきます。
図解1:大きな業務名を、検討できる作業単位に変える
AI導入テーマは、部門や業務領域から直接決めるのではなく、具体的な作業と困りごとまで下げて考えます。
営業、総務、人事、経理、情報システムなど、検討したい領域を広く確認します。
議事録作成、問い合わせ回答、報告資料作成など、日常の作業単位に分けます。
時間がかかる、品質がばらつく、資料を探しにくいなど、改善したい状態を整理します。
この図で押さえたい点は、「AIを使えそうな業務」を先に探すのではなく、「現在の作業のどこに改善余地があるか」を確認してから、AIの活用可能性を考えることです。
業務名よりも、困りごとの具体性を重視する
候補を見つけるときは、「AIで何ができるか」だけで考えるよりも、現在の業務で起きている困りごとに注目すると整理しやすくなります。たとえば、次のような状況です。
- 会議後の議事録作成に毎回時間がかかっている
- 社内から同じような問い合わせが繰り返し届いている
- 営業メールの文面作成に担当者ごとの差がある
- 月次報告のために複数の資料から情報を集めている
- 請求書の確認時に、注文内容や社内ルールとの照合に手間がかかっている
このように表現すると、AIが支援できそうな作業だけでなく、必要な資料、確認方法、利用者、期待する効果も考えやすくなります。反対に、「経理をAI化する」「人事にAIを入れる」といった表現だけでは、検討範囲が定まりにくくなります。
最初から正確な業務一覧を作る必要はありません。日常的に時間を取られている作業、繰り返し発生する作業、担当者から改善要望が出ている作業を、思いつく範囲で書き出すところから始められます。
AI導入候補を見つけるために自社業務を棚卸しする
AI導入の業務選定では、全社の業務を詳細に調査してから候補を決める方法もあります。ただし、今回の演習の目的は、最初に詳しく検討するテーマを選ぶことです。候補になりそうな業務を3件から5件ほど挙げ、比較に必要な情報を簡単に整理します。
候補業務ごとに確認したいのは、次の7項目です。最初に作業内容そのものを具体化し、その後で頻度や工数などの条件を整理します。
誰が、何を入力・参照し、どのような処理を行い、何を出力する作業かを確認します。
毎日、毎週、毎月、不定期など、どの程度の頻度で発生するかを確認します。
1回にかかる時間と、関係者全体で見たおおよその負担を確認します。
定型処理が中心か、経験や責任を伴う判断が含まれるかを確認します。
マニュアル、規程、過去資料、顧客情報など、作業時に何を見るかを確認します。
作業者、確認者、利用者、関係部署など、調整が必要な範囲を確認します。
時間、品質、属人化、検索のしにくさなど、改善したい点を具体化します。
「作業内容」は、ほかの項目を整理するための出発点です。たとえば、「問い合わせ対応」ではなく、「総務担当者が社内規程と過去回答を参照し、社員からの質問に対する回答案を作成する」と表現します。こうすると、必要な資料、判断が必要な部分、確認者、改善したい負担が見えやすくなります。
すべての項目に精密な数値を入れる必要はありません。工数が正確に分からなければ、「1件当たり15分程度」「月末に半日ほど」「担当者3名が毎週対応」といった概算でも、候補比較には役立ちます。
AI導入候補業務の簡易棚卸し例
管理部門と営業部門を持つ企業が、AI導入候補業務を洗い出した例を見てみましょう。ここでは、AIで実現する方法を先に決めず、現在の作業内容と業務状況を整理しています。
| 候補業務・具体的な作業 | 頻度・工数 | 判断の有無 | 主な参照資料 | 関係者 | 主な困りごと |
|---|---|---|---|---|---|
| 会議音声と担当者メモを基に、定例会議の議事録案を作成する | 週3回 1回30~45分 |
要点の選択と表現の確認が必要 | 会議音声、メモ、議題 | 会議参加者、作成担当者 | 作成に時間がかかり、共有が遅れる |
| 社内規程や過去回答を参照し、社内問い合わせへの回答案を作成する | 1日10~20件 1件5~15分 |
規程の解釈や例外判断を含む場合がある | 社内規程、FAQ、過去回答 | 総務担当、質問者、必要に応じて管理者 | 同じ質問が繰り返され、担当者の負担が大きい |
| 商談メモと顧客情報を基に、営業メールの下書きを作成する | 各担当者が毎日 1通5~10分 |
相手との関係や商談状況に応じた調整が必要 | 商談メモ、顧客情報、商品資料 | 営業担当、必要に応じて上司 | 文面作成に時間がかかり、品質に差がある |
| 売上データや案件一覧を集約し、月次報告資料の説明文を作成する | 月1回 担当者数名で半日程度 |
数値の意味づけと原因分析が必要 | 売上データ、案件一覧、前月資料 | 各部門担当、管理者、経営層 | 情報収集と文章化に手間がかかる |
| 請求書と注文書を照合し、差異が疑われる箇所を確認する | 月末に集中 1件数分~十数分 |
差異の理由や支払可否は人の判断が必要 | 請求書、注文書、契約、社内規程 | 経理、発注部門、承認者 | 照合作業が多く、確認漏れを防ぎたい |
どの候補にも改善の余地があります。ただし、「改善の余地があること」と「最初のAI導入テーマに適していること」は同じではありません。次に、候補同士を共通の基準で比較します。
演習ステップ1:候補業務を3~5件書き出す
自社や自部門で、時間がかかっている作業、繰り返し発生する作業、担当者から改善要望が出ている作業を挙げてください。「誰が、何を参照し、何をする作業か」が分かる表現にすると、次の比較を進めやすくなります。
効果・実現性・リスク・現場負担で候補を比較する
候補業務を洗い出したら、最初に詳しく検討する業務を選びます。このとき、期待効果の大きさだけで決めると、必要なデータや関係部署が多く、検討に時間がかかる場合があります。一方、実現しやすさだけで選ぶと、改善効果が小さく、社内で取り組む意味を説明しにくくなることがあります。
そこで、今回の演習では、効果・実現性・リスク・現場負担の4つの観点を使います。
図解2:AI導入候補業務を選ぶ4つの判断軸
最初のテーマは、効果の大きさだけでなく、現実的に検討を進められるかどうかも含めて選びます。
効果
時間短縮、処理件数の増加、品質の安定、検索時間の削減など、改善後の変化が見えやすいかを確認します。
実現性
必要な資料やデータを用意できるか、対象作業を説明できるか、人が出力を確認できるかを確認します。
リスク
誤りが生じた場合の影響、機密情報や個人情報の取扱い、法令・契約・社内規程との関係を概略で確認します。
現場負担
関係者の数、調整の範囲、確認作業、教育や運用変更の負担が大きすぎないかを確認します。
4つの判断軸は、合計点だけで機械的に決めるためのものではありません。候補ごとの特徴を同じ視点で比較し、選定理由を社内で説明できるようにするための枠組みです。
効果は、改善後の変化を説明できるかで見る
効果を評価するときは、「業務を効率化できそう」という表現だけでなく、どの変化を確認できそうかを考えます。議事録作成であれば、作成時間、会議後の共有までの時間、修正回数などが候補になります。社内問い合わせ対応であれば、回答案の作成時間、一次回答までの時間、担当者に集中する問い合わせ件数などが考えられます。
この段階で正確な目標値を決める必要はありません。「現在は1件10分程度かかっており、下書き作成を支援できれば短縮の余地がある」と説明できれば、候補比較の材料になります。
実現性は、AIの性能だけでなく準備条件も含めて見る
実現性というと、AIが技術的に処理できるかどうかに目が向きがちです。しかし、事業会社の実務では、必要な情報を利用できるか、出力を確認する担当者がいるか、現行業務を説明できるかといった条件も重要です。
たとえば、社内問い合わせへの回答案を作成する場合、参照する規程やFAQが整理されていれば検討しやすくなります。一方で、回答ルールが担当者の経験だけに依存し、資料がほとんどない場合は、先に知識を整理する作業が必要になることがあります。
リスクは、確認と影響範囲の限定ができるかで見る
どの業務にも、程度の差はあっても誤りや情報管理のリスクがあります。候補選定の段階では、リスクがあることだけを理由に除外するのではなく、誤りを人が確認できるか、影響範囲を限定できるか、機密情報を扱わない形で試せるかを確認します。
たとえば、AIが作った営業メールをそのまま自動送信する形では、誤送信や不適切な表現の影響を考える必要があります。一方、担当者が確認する下書きとして利用するのであれば、人間による確認を前提に検討できます。同じ業務でも、AIを使う範囲によってリスクは変わります。
現場負担は、導入後だけでなく検討段階も含める
AI導入によって将来の負担を減らせるとしても、検討や試行の段階では、現場へのヒアリング、資料収集、出力確認、ルール作成などの作業が発生します。関係部署が多く、承認経路が複雑な業務では、初期検討にも相応の調整が必要です。
最初のテーマでは、一定の効果が見込め、対象範囲を限定しやすく、確認に協力できる担当者がいる業務を選ぶと進めやすくなります。現場が困りごとを認識しており、改善の必要性を共有しやすいことも大切です。
簡易評価表を使ってAI導入候補を絞る
候補業務を比較するときは、各項目を3段階で評価すると整理しやすくなります。ここでは、3点を「初期検討に向いている状態」、2点を「追加確認が必要な状態」、1点を「現時点では負担や不確実性が大きい状態」とします。
リスクと現場負担については、「リスクが比較的低いほど高得点」「現場負担が比較的小さいほど高得点」として評価します。ただし、点数だけで決めず、評価理由も短く記録してください。同じ点数でも、候補ごとに確認すべき課題は異なります。
| 判断軸 | 3点 | 2点 | 1点 | 確認する問い |
|---|---|---|---|---|
| 効果 | 時間や品質の変化を確認しやすい | 効果は見込めるが、測り方の整理が必要 | 改善内容がまだ曖昧 | 何がどのように良くなると説明できるか |
| 実現性 | 作業内容が具体的で、必要資料も確認できる | 資料整理や追加確認が必要 | 入力、出力、業務ルールが不明確 | AIへの入力と、人が確認する出力を想定できるか |
| リスク | 人の確認で影響を抑えやすい | 取扱情報や誤りの影響に追加検討が必要 | 誤りが重大な判断や外部処理に直結する | 誤りが起きたとき、誰がどの時点で気づけるか |
| 現場負担 | 関係者が少なく、試行への協力を得やすい | 複数部署との調整が必要 | 全社的な変更や大きな運用変更を伴う | 検討と試行に誰の協力が必要か |
簡易比較の記入例
先ほど挙げた5つの候補を、4つの判断軸で比較した例です。実際の評価は、企業の業務内容、情報管理ルール、利用できる資料、担当者の体制によって変わります。
| 候補業務 | 効果 | 実現性 | リスク | 現場負担 | 評価理由の要約 |
|---|---|---|---|---|---|
| 定例会議の議事録案作成 | 3 | 3 | 3 | 3 | 入力と出力が明確で、作成時間を確認しやすい。担当者が原文と照らして確認でき、対象会議も限定しやすい。 |
| 社内問い合わせへの回答案作成 | 3 | 2 | 2 | 2 | 効果は見込めるが、参照資料の整理と例外回答の扱いを確認する必要がある。 |
| 営業メールの下書き作成 | 2 | 3 | 2 | 3 | 小さく始めやすいが、顧客情報の入力範囲と送信前確認のルールを整理したい。 |
| 月次報告資料の説明文作成 | 3 | 2 | 2 | 2 | 工数削減の余地はあるが、数値の収集方法と原因分析の役割分担を明確にする必要がある。 |
| 請求書と注文書の差異確認支援 | 3 | 2 | 1 | 2 | 効果は期待できるが、支払や会計処理に関係するため、対象範囲と確認責任を慎重に整理したい。 |
この例では、「定例会議の議事録案作成」が、最初に詳しく検討する候補として選びやすい状態です。作業内容、入力、出力が具体的で、効果を作成時間として確認できます。担当者が出力を確認でき、対象を特定の会議に限定すれば、関係者も比較的少なく抑えられます。
ただし、議事録作成がすべての会社で最適という意味ではありません。録音が認められていない会議、機密性が高い会議、発言者の特定が難しい会議などでは、別の候補を選んだ方が進めやすい場合があります。自社の条件に照らして判断することが大切です。
演習ステップ2:候補業務を比較する
洗い出した候補ごとに、効果、実現性、リスク、現場負担を1~3点で評価します。点数と併せて、そう判断した理由を一言ずつ記入してください。
複雑な重要業務は、一部を切り出して検討する
自社にとって重要な業務ほど、関係者、判断、資料、システムが多く、最初のAI導入テーマとしては範囲が広すぎることがあります。その場合、重要業務を候補から外すのではなく、AIが支援しやすい一部分を切り出して検討します。
たとえば、「請求書処理全体」には、請求書の受領、内容の読取り、注文書との照合、勘定科目の判断、承認、支払処理、記録保存など、多くの工程が含まれます。全体を一度に対象にすると、システム連携や会計上の判断、権限管理まで考える必要があります。
一方で、「請求書から確認に必要な項目を抽出し、注文書との差異候補を表示する」と範囲を限定すれば、作業内容と出力が具体的になります。AIの役割を確認支援にとどめ、差異の理由や処理方法は人が判断する形を検討できます。
業務の一部を切り出すときの3つの問い
- 人が最終判断すべき部分はどこか
契約、支払、人事評価、法令対応など、責任を伴う判断は、人が確認し決定する前提で整理します。 - 判断の前に行っている準備作業は何か
資料検索、情報抽出、比較、要約、文章の下書きなど、判断を支える作業を確認します。 - 対象を小さく限定できるか
全社ではなく1部門、すべての案件ではなく特定種類の案件、全工程ではなく1工程という形で範囲を絞ります。
「重要な業務だから取り組みたい」という考え方と、「重要な業務だから慎重に進めたい」という考え方は両立します。最初は周辺作業や準備作業から検討し、確認方法や運用上の課題を整理してから範囲を広げる方法があります。
最初に検討するAI導入候補業務を1つ選ぶ
比較が終わったら、次回以降の演習で使う候補業務を1つ選びます。ここで選ぶのは、全社で正式に導入すると決定した業務ではありません。業務フロー、確認ポイント、リスク、効果、提案内容を具体化するための検討対象です。
合計点が最も高い業務を選んでも構いません。点数が近い場合は、次の条件を参考にしてください。
- 誰が、何を参照し、何を作成・処理する作業かを説明できる
- 業務担当者から話を聞きやすい
- 参照資料や入力情報の例を確認できる
- AIの出力を確認できる担当者がいる
- 対象範囲を小さく区切ることができる
- 改善前後の変化を、時間や修正回数などで確認できる
これらの条件がそろっていると、次回の業務フロー設計を具体的に進めやすくなります。候補として魅力的でも、作業内容が曖昧、業務担当者が不明、参照資料を確認できない、対象範囲が広すぎるといった場合は、追加確認が必要です。
選定結果の記入例
選定した業務:営業部の週次案件会議において、会議音声と担当者メモを基に議事録案を作成する作業
現在の困りごと:会議後に担当者がメモと録音内容を確認して議事録を作成しており、共有までに時間がかかる。担当者によって記載の詳しさにも差がある。
選定理由:週1回継続的に発生し、作成時間を測りやすい。入力と出力が明確で、AIが作成した議事録案を会議参加者が確認する形を想定できる。対象会議を1つに限定でき、関係者も比較的少ない。
現時点での確認事項:録音の取扱い、会議内の機密情報、議事録に残す項目、発言者の確認方法を次回以降に整理する。
演習ステップ3:検討対象を1つ選ぶ
次回以降の演習で使用する業務を1つ選び、現時点で分かる範囲を記入してください。迷う場合は、作業内容が具体的で、担当者に確認しやすく、対象範囲を限定しやすい候補を選ぶと進めやすくなります。
AI導入の業務選定でよくあるつまずき
候補を挙げる段階と、候補を比較する段階では、判断に迷うことがあります。ここでは、実務で起きやすい状況と整理方法を確認します。
候補が大きすぎて比較できない
「営業業務」「採用業務」「経理業務」のように範囲が広い場合は、担当者が日常的に行っている動作まで分けます。「採用候補者への案内メールを作成する」「面接記録を要約する」「請求書と注文書を照合する」と表現すると、必要な情報や確認方法を考えやすくなります。
作業名はあるが、入力と出力が分からない
「資料作成」「内容確認」といった表現だけでは、AIが支援する範囲を考えにくくなります。「何を基に、何を作るのか」「何と何を比較し、何を確認するのか」を補うと、作業内容が具体的になります。
効果が大きそうな業務ばかり選んでしまう
全社的な問い合わせ対応や基幹業務は、改善効果が大きく見える一方、関係者やデータ、リスクも多くなりやすいテーマです。最初の候補では、特定部門の問い合わせ、特定種類の文書、回答案の作成支援などに限定できないかを確認します。
AIでできることを基準に候補を探してしまう
要約、文章作成、検索などのAI機能から候補を探すと、実際の困りごととの結び付きが弱くなることがあります。先に作業内容、頻度、工数、困りごとを整理し、その後でAIが支援できる部分を考えると、導入目的を説明しやすくなります。
評価点を正確に付けようとして進まない
今回の評価は、投資判断のための精密な採点ではありません。現時点の情報に基づく仮評価で構いません。判断に迷う項目は2点とし、「参照資料の状態を確認する」「情報管理部門に確認する」など、追加確認事項を残します。
現場の困りごとと経営課題がつながらない
小さな作業改善でも、共有の迅速化、顧客対応時間の確保、担当者の集中負担の軽減など、事業上の意味を整理できます。「何分減るか」だけでなく、その時間を何に使えるようになるかまで考えると、責任者へ説明しやすくなります。
候補を1つに決めきれない
2つの候補が同程度で迷う場合は、作業内容を具体的に説明できる方、業務担当者に短時間のヒアリングができる方、資料例を確認できる方、対象範囲を限定しやすい方を選びます。今回の選定は最終決定ではないため、検討を進める中で別の候補に切り替えることもできます。
人の生命・身体、採用・評価、与信、契約、法的判断、支払承認などに大きな影響を与える業務は、初期段階から慎重な整理が求められます。候補にする場合は、最終判断をAIに委ねるのではなく、資料検索、情報整理、確認項目の提示など、支援範囲を限定して考えます。
経営者・責任者が確認しておきたいポイント
経営者や部門責任者は、候補業務の点数だけでなく、「なぜ今この業務を検討するのか」「検討に必要な協力を確保できるか」を確認しておくと、次の段階へ進みやすくなります。
検討対象の作業内容が具体的か
「営業支援」「問い合わせ対応」のような広い表現だけでは、必要な資料、担当者、確認責任、効果測定の方法が曖昧になります。「誰が、何を参照し、何を作成・処理する作業か」を説明できる状態になっているかを確認します。
業務上の課題が関係者に共有されているか
担当者だけが困っている状態でも改善の価値はありますが、責任者が現状を把握していないと、ヒアリングや資料提供への協力を得にくい場合があります。作業時間、問い合わせ件数、共有の遅れ、修正の多さなど、現在の状況を簡単に説明できるようにします。
AIを使うこと自体が目的になっていないか
「生成AIを社内で使うこと」自体を目的にすると、利用件数は増えても、業務成果につながったかを判断しにくくなります。「議事録共有を早める」「回答案作成の負担を減らす」「資料検索時間を短縮する」など、実現したい業務上の変化を明確にします。
現場担当者の協力を得られるか
現行業務を詳しく知る担当者の協力は、業務フローや確認ポイントを整理するうえで重要です。ただし、大きな追加負担を求める必要はありません。短時間のヒアリング、資料例の提示、試作結果の確認など、必要な協力内容を具体化すると依頼しやすくなります。
小さく試せる範囲があるか
全社導入を前提にするのではなく、特定の会議、特定種類の問い合わせ、1つの営業チームなど、範囲を限定できるかを確認します。小さな範囲であれば、効果と課題を確認しながら次の判断ができます。
この段階でまとめておきたい内容
詳細な企画書を作る必要はありません。「具体的な作業として表現した候補業務の一覧」「7項目の簡易棚卸し」「4つの観点による比較」「選定した業務と選定理由」「追加で確認する事項」が1枚程度にまとまっていれば、次の検討に進むための材料になります。
AI導入支援者としての着眼点
AI導入コンサルタントや社内推進担当者として業務選定を支援する場合は、AIで実現できる案を先に提示するのではなく、現場が現在どのように業務を行っているかを聞き取ります。
支援時には、次の観点を確認します。
- 作業の開始条件と完了条件は何か
- 誰が、何を入力または参照し、何を作成・処理するか
- 誰が作業し、誰が確認し、誰が結果を利用するか
- 定型的な部分と、経験や責任を伴う判断部分はどこか
- 作業時間、件数、待ち時間、修正回数などを概算できるか
- 誤りが起きた場合に、どのような影響があるか
- 対象範囲を部門、案件、文書種類、工程で限定できるか
「何をAI化したいですか」だけでは終わらせない
顧客に「何をAI化したいですか」と尋ねると、「問い合わせ対応」「資料作成」「営業支援」といった広い回答が返ってくることがあります。その場合は、次のように具体化します。
「問い合わせ対応の中で、誰が、どの資料を確認し、どのような回答を作っていますか。その過程で特に時間がかかっているのは、質問内容の整理、資料の検索、回答文の作成、内容確認のどの部分でしょうか」
この問いによって、作業内容と負担が生じている箇所が見えやすくなります。支援者は、AIの機能説明よりも、業務を具体的な作業へ分ける対話を重視します。
点数よりも、評価理由の違いを見る
比較表を使う場合も、合計点だけで候補を決めないようにします。同じ10点でも、「効果は大きいがリスクも高い候補」と「効果は中程度だが小さく試しやすい候補」では、次に確認すべき内容が異なります。
また、管理者は効果を高く見ている一方で、現場担当者は確認負担を大きく見ていることがあります。こうした認識の違いは、反対意見として処理するのではなく、次の業務設計で確認すべき情報として扱います。
支援者だけで候補を決めない
支援者が有望な候補を示すことはできますが、業務上の優先順位や許容できるリスクは、最終的に事業会社側が判断します。支援者の役割は、候補を比較できる情報を整え、選定理由と未確認事項を明らかにすることです。
ミニチェックリスト
次の項目を確認し、今回の演習結果を整理してみましょう。すべてを詳しく記入できなくても、現時点で分かる範囲から進められます。
- 部門名や大きな業務名ではなく、誰が何をする作業かを具体的にした
- 候補ごとに、入力・参照資料と出力を概略で確認した
- 頻度、工数、判断の有無、参照資料、関係者、困りごとを整理した
- 効果・実現性・リスク・現場負担の4つの観点で候補を比較した
- 点数だけでなく、評価理由と追加確認事項を記録した
- 複雑な業務は、一部分を切り出して検討できないか確認した
- 次回以降の演習で使用する候補業務を1つ選んだ
まとめ
AI導入の業務選定では、「どの部門にAIを入れるか」ではなく、「誰が、何を入力・参照し、どのような作業を行い、何を出力し、何に困っているか」という具体的な単位から考えます。
候補業務を洗い出したら、作業内容、頻度、工数、判断の有無、参照資料、関係者、困りごとの7項目を整理します。その後、効果・実現性・リスク・現場負担の4つの観点で比較します。
最初の候補としては、効果を確認しやすく、人が出力を確認でき、関係者や対象範囲を限定しやすい業務が検討しやすい傾向があります。複雑な業務は、資料検索、情報抽出、比較、要約、下書き作成などの一部分を切り出す方法もあります。
最初から完璧に選ぶ必要はありません。今回選んだ業務を詳しく整理する中で、対象範囲や優先順位を調整できます。次回は、選定した業務について現在の流れを整理し、AIが支援する部分と、人間が確認・判断するポイントを設計します。
講座案内・関連情報
AI導入の候補業務を整理しても、対象範囲や社内での進め方に迷うことがあります。その場合は、現在の業務上の困りごと、関係者、利用できる資料から順に確認すると、次に整理すべき内容が見えやすくなります。講座全体や関連情報は、次のページで確認できます。