見守り契約で異変を発見したときの対応
新人行政書士が一人で進める初動実務
連絡不能、訪問時の無応答、体調急変、判断能力の変化、支払い滞納、詐欺被害の疑いまで。「何を確認し、どこへ連絡し、どこから先を専門機関へ渡すか」を実務順に整理します。
最初に押さえる考え方
見守り契約で重要なのは、「異変を見つけた行政書士が全部を解決すること」ではありません。本人の普段の状態と比べて何が変わったかを確認し、生命・身体の安全を優先しながら、契約と法令の範囲内で適切な相手へつなぐことです。
前回までに学習した7-5の安否確認項目と7-6の記録簿が、今回の判断基準になります。単発の印象ではなく、「前回までと比べてどう変わったか」を確認します。
この回の到達目標
緊急度を分けられる
様子を見る場面、関係者へつなぐ場面、直ちに119番する場面を区別できます。
連絡不能に対応できる
再連絡、予定確認、緊急連絡先、訪問、消防等への接続を段階的に判断できます。
権限の限界を守れる
合鍵、本人財産、医療判断、法律紛争について、行政書士自身が越えてはいけない範囲を判断できます。
説明できる記録を残せる
苦情や紛争が生じても、なぜその対応を取ったのか第三者へ説明できる記録を作成できます。
この業務が必要になる実務場面
| 場面 | 具体例 | 最初に考えること |
|---|---|---|
| 連絡不能 | 毎回応答する本人が電話に出ず、折り返しもない。 | 外出予定、通院、普段の応答状況、経過時間。 |
| 訪問時無応答 | 定期訪問日に反応がなく、室内からテレビ音がする。 | 生命危険の可能性、契約上の緊急連絡、119への相談。 |
| 体調急変 | 「転んで起き上がれない」「胸が苦しい」と本人が話す。 | 明白な救急事案なら直ちに119番。 |
| 判断面の変化 | 同じ質問を何度も繰り返し、予定や支払いの説明ができない。 | 診断せず観察事実を記録し、支援先を検討。 |
| 金銭・生活 | 公共料金滞納、食品不足、督促状の堆積がある。 | 原因と生命・生活への影響を確認。 |
| 詐欺・犯罪 | ATM送金を指示されている、不審者が家にいる。 | 進行中の犯罪なら110番。非緊急の消費者相談は188。 |
おひとりさま特有の事情
親族がいない、遠方、疎遠、高齢などの場合、行政書士が異変へ最初に気付く可能性があります。契約開始時から、緊急連絡先、管理会社、かかりつけ医、地域包括支援センター、ケアマネジャー等の連絡情報を本人の意思に沿って整理しておきます。
おふたりさま特有の事情
二人暮らしでも、一方が倒れたときにもう一方が高齢・要介護・判断力低下等により適切な通報ができない場合があります。世帯外の緊急連絡先を設定し、二人それぞれについて本人意思、情報共有範囲、支援先を整理します。
基本知識
異変は「普段との違い」で捉える
実務上の異変とは、本人の通常の健康、生活、連絡、金銭管理、住環境、会話・記憶等と比較して、生命、身体、財産又は生活維持に影響する可能性のある変化です。「何となく変」ではなく、日時、回数、発言、数量、前回との差に落とし込みます。
| 分類 | 例 | 記録の着眼点 |
|---|---|---|
| 生命・身体 | 転倒、呼吸困難、意識障害、連絡不能 | 発生時刻、本人の言葉、呼吸・会話状態 |
| 理解・記憶 | 同一質問の反復、予定を忘れる | 回数、以前できていたこととの差 |
| 金銭・契約 | 滞納、多額送金、不審契約 | 金額、相手、日時、証拠資料 |
| 住環境 | 郵便物・ごみの堆積、異臭、極端な室温 | 前回との比較、生命危険への波及 |
| 犯罪・安全 | 詐欺、不審者、暴力、侵入痕 | 進行中か、相手が現場にいるか |
行政書士の役割は「発見・初動・接続・記録」
見守り契約の受任者として、異変を把握した後に適切な初動を取ることは重要です。ただし、行政書士が医療・救助・警察活動・法律紛争処理を代替するものではありません。
- 医師のように診断しない。
- 救急隊の代わりに危険な救助行為をしない。
- 合鍵を持っているだけで自由に住居へ入らない。
- 見守り契約だけを根拠に本人財産を動かさない。
- 法律紛争について相手方と代理交渉・示談をしない。
法律紛争の交渉は行わない
守秘義務と緊急時の情報提供
行政書士には行政書士法12条の守秘義務があります。また、個人データの第三者提供は個人情報保護法27条1項により原則として本人同意が必要です。
ただし、同項2号は、人の生命、身体又は財産の保護のために必要で、本人の同意を得ることが困難な場合を例外としています。本人が意識不明、救助を求めている、犯罪被害が進行中などの緊急時には、「本人同意がない」という理由だけで119番・110番や必要な情報提供を遅らせません。
医療同意を行政書士が代替しない
医療に係る意思決定は本人の意思を中心に進められます。本人の意思確認が困難な場面でも、行政書士が当然に代わって個々の医療行為へ同意する権限を持つわけではありません。成年後見人等についても、財産管理や医療契約の代理権と、個々の医療行為への一般的な同意権は区別して考える必要があります。救急搬送後の医療意思決定の詳細は今回の範囲外とします。
実務の進め方
- 異変を具体的な事実として把握する。
- 生命・身体への明白な緊急危険があるか判断する。
- 明白な救急事案なら直ちに119番する。
- 緊急性が明白でなければ本人へ再連絡し、予定・過去記録と比較する。
- 本人だけで安全確認できなければ緊急連絡先へ連絡する。
- 状況に応じて消防、警察、管理会社、包括、ケアマネ等へ接続する。
- 時刻、事実、判断理由、連絡内容、結果を異変対応記録へ残す。
異変を具体的事実に置き換える
| 避けたい記録 | 実務で残したい記録 |
|---|---|
| 認知症が進んでいる。 | 14時20分の電話で「今日は何曜日か」と同一質問を約5分間に4回した。 |
| かなり具合が悪そう。 | 10秒程度話すごとに会話が途切れ、「胸が苦しい」と本人が述べた。 |
| 詐欺に遭っていると思う。 | 本人が「市役所の人と言われ、昨日ATMで30万円を振り込んだ」と述べた。 |
明白な緊急事態は直ちに119番する
次のような事情がある場合は、親族の許可を待ったり、契約上の通常連絡時間まで待ったりせず、直ちに119番通報します。
- 意識がない、又は著しく意識状態がおかしい。
- 呼吸していない可能性、強い呼吸困難、強い胸痛がある。
- 大量出血、重度の転倒、頭部打撲が疑われる。
- 本人が「助けて」「起き上がれない」と訴えている。
- 室内からうめき声、救助を求める声がする。
- 火災、煙その他の明白な生命危険がある。
救急事案か迷うものの生命・身体への危険を否定できない場合は、119番へ確認できた事実を伝えて相談します。
緊急性が明白でない場合は段階的に確認する
- 固定電話、携帯電話、SMS等、契約で定めた方法で再連絡します。
- 通院、デイサービス、旅行、買物、親族訪問等の予定を確認します。
- 直近の記録から、普段の応答時間、最近の体調、過去の連絡不能状況を確認します。
- 通常と異なる連絡不能が続けば緊急連絡先へ連絡します。
- 必要に応じて本人宅を訪問し、呼び掛け、電話、外から確認できる状況を記録します。
- 室内事故等の可能性が高まれば119番・管理会社等へつなぎます。
関係機関へ伝える情報を絞る
情報提供は、氏名・住所・現在確認できている危険・最終連絡時刻・持病や服薬等のうち安全確保に必要なものを中心にします。家族関係、財産全体、過去の私生活等まで漫然と伝えません。
最後に異変対応記録を完成させる
異変対応記録は業務日誌だけではなく、後日の苦情、契約上の紛争、損害賠償請求、行政書士会等への説明、専門職への引継ぎで重要な資料となり得ます。記憶に頼らず、対応中から時刻を残します。
ヒアリング項目
本人と会話できる場合に必要な範囲で確認します。緊急性が高ければ、質問を続けるより119番を優先します。
身体状態
- 今どこにいるか
- 一人か
- 転倒していないか
- 起き上がれるか
- 頭を打っていないか
- 息苦しさ・胸痛・出血はないか
理解・記憶
- 今日の予定
- 食事を取ったか
- 通院予定
- 支払いの状況
- 会話の整合性
- 同一質問の反復
金銭・生活
- 電気・水道・ガス
- 家賃・公共料金
- 食品の有無
- 最近の大きな出金
- 知らない人からの連絡
- ATM操作の依頼
詐欺疑い
- 相手の氏名・会社名
- 連絡方法
- 説明内容
- 金額・支払方法
- 契約書・振込明細
- 現在も連絡が続いているか
誘導せず、事実を聞く
| 避けたい聞き方 | 整えた聞き方 |
|---|---|
| 詐欺に遭いましたね。 | 誰から、どのような説明を受けましたか。 |
| 認知症ですよね。 | 今日の予定を一緒に確認してもよいですか。 |
| 薬をまた忘れましたね。 | 薬を飲みにくかった日や、迷った日はありましたか。 |
判断フロー
- 明白な生命・身体の危険がある → 直ちに119番。必要に応じて緊急連絡先へ連絡。
- 犯罪・暴力・侵入等が現在進行中 → 110番。自身が相手と対峙しない。
- 緊急ではない警察相談 → #9110又は最寄りの警察署。
- 非緊急の消費者トラブル → 188や消費生活センターへ。
- 生活・判断面の継続的変化 → 地域包括支援センター、ケアマネ等へ本人の意向を踏まえて接続。
- 返金・示談・紛争交渉が必要 → 行政書士は交渉せず、弁護士へ。
連絡不能時の段階別対応
| 段階 | 状態 | 対応 |
|---|---|---|
| 第1段階 | 定期連絡に一度応答しない。 | 時間を置いて再連絡。予定、携帯、SMS等を確認。 |
| 第2段階 | 複数回応答せず、通常なら折り返す本人から連絡がない。 | 記録・予定確認、緊急連絡先への連絡、必要に応じ訪問。 |
| 第3段階 | 訪問しても無応答。テレビ音、照明、郵便物堆積等の事情もある。 | 呼び掛け・再発信。119番への相談、管理会社・親族等との連携を検討。 |
| 第4段階 | 助けを求める声、うめき声、倒れている姿、火災等。 | 直ちに119番。犯罪性もあれば110番。 |
119番・110番・管理会社の役割を混同しない
119番
救急・救助が必要な生命・身体の危険。室内で倒れている可能性を否定できない場合の相談も含みます。
110番
暴力、脅迫、不審者侵入、荒らされた形跡、進行中の詐欺等、事件・犯罪性がある場合。
管理会社等
オートロック、建物設備、消防のアクセス、管理上の解錠可能性等について連携します。
#9110と188の使い分け
#9110は、緊急の対応を必要としない警察への相談窓口です。警察庁の案内では受付は原則平日8時30分から17時15分で、都道府県警察により異なります。土日祝日・時間外は、24時間受付の一部地域を除き当直又は音声案内等となるため、必要に応じ最寄り警察署の代表番号も確認します。
188は、契約・悪質商法等の消費生活相談を身近な消費生活センター等へつなぐ全国共通番号です。犯人が現場にいる、今まさに送金させられているなど進行中の犯罪では188ではなく110番を優先します。
緊急連絡先へ連絡する基準
- 契約で定めた連絡不能基準に達した。
- 救急搬送された、又はその可能性が高い。
- 重大な転倒・体調急変が疑われる。
- 本人だけでは安全確認・生活維持が難しい。
- 判断・記憶・金銭管理に顕著な変化がある。
- 電気停止等により生命・生活への危険がある。
- 多額の詐欺被害又は犯罪被害が疑われる。
- 消防・警察が関与した。
ただし、明白な救急事案では「先に家族の許可を得る」運用にせず、119番を優先します。
作成・確認する書類
| 書類 | 確認・記載事項 |
|---|---|
| 見守り契約書 | 頻度、連絡不能基準、緊急対応、臨時訪問、情報提供、鍵、費用、解除。 |
| 緊急連絡票 | 氏名、関係、電話番号、優先順位、夜間連絡可否、更新日。 |
| 医療・介護関係者一覧 | 主治医、医療機関、ケアマネ、訪問看護、地域包括支援センター等。 |
| 鍵管理簿 | 預り日、識別番号、保管場所、持出日時、使用目的、使用者、返却。 |
| 見守り記録簿 | 直近の通常状態と比較するための過去記録。 |
| 異変対応記録 | 発見時刻、客観的事実、本人発言、判断理由、連絡先、回答、結果。 |
契約書で事前に定めておく事項
- 連絡不能を判断する時間・回数。ただし明白な緊急時は基準時間を待たないこと。
- 電話、SMS、訪問等の再確認方法。
- 緊急連絡先と優先順位。
- 生命・身体・財産保護のための必要な情報提供。
- 連絡不能時の臨時訪問の可否。
- 鍵を預かる場合の保管、使用条件、立会い、使用記録、紛失対応。
- 夜間・休日・臨時訪問の報酬と実費。
合鍵は「自由な入室権」ではない
鍵を預かっていることと、行政書士が自由に本人宅へ入れることは別です。正当な権限なく住居へ立ち入れば、刑法130条の住居侵入罪が問題となり得ます。
刑法37条の緊急避難が理論上問題となる場面はあり得ますが、現在の危難、必要性、害の均衡等について具体的判断が必要です。新人行政書士が「緊急避難になるはず」と考えて単独入室する運用は避け、原則として消防・管理会社等を介した安全確認を優先します。
鍵の民事責任も意識する
鍵の紛失や不適切使用は、本人の生命・財産・プライバシーへ直接影響します。施錠保管、持出記録、複製禁止、紛失時の即時報告、契約終了時の返還を徹底し、契約上の責任範囲も明確にします。
文例・記載例
本人へのSMS
○○様、本日10時と10時30分にお電話しましたが、ご連絡が取れないため確認しております。体調等に問題がなければ、○○事務所までご連絡ください。
緊急連絡先への電話
○○行政書士事務所の○○です。○○様との見守り契約に基づきご連絡しています。本日10時の定期連絡以降、複数回お電話していますが、現在までご本人と連絡が取れていません。通常は当日中に折り返しがある方で、今回は普段と状況が異なるため安否を確認しています。本日の外出予定など、お聞きになっていることはありますでしょうか。
地域包括支援センターへの連絡
○○様について、見守り契約に基づき定期的に状況確認をしています。最近、同じ質問を短時間に繰り返すことや、公共料金の支払いができていない状況が確認されました。これまでと異なる生活上・判断面の変化があるため、本人の意向にも配慮しながら今後の支援について相談したくご連絡しました。
管理会社への連絡
○○行政書士事務所の○○です。○号室の○○様との見守り契約に基づき本日訪問しています。予定時刻を過ぎてもご本人から応答がなく、電話にもつながりません。室内からテレビの音が続いているため、安全確認が必要な可能性があります。管理会社として可能な対応について確認させてください。
119番へ伝える要点
82歳の一人暮らしの方です。本日10時の定期訪問予定でしたが、呼び掛けと電話に反応がありません。普段は予定時刻に必ず応答する方です。室内からテレビ音が続いており、緊急連絡先にも外出予定は確認できません。室内で体調不良が起きている可能性を否定できず、安全確認について相談したいです。
異変対応記録例
対象者:山田太郎
発生日:2026年7月20日
10:00:本人宅到着。インターホン3回、応答なし。
10:03:本人携帯へ発信。呼出しあり、応答なし。
10:05:玄関前から呼び掛け。室内からテレビ音を確認。
10:10:直近6回の記録確認。すべて訪問予定時刻に本人が応答。
10:12:緊急連絡先第1順位の姪へ連絡。「本日の外出予定は聞いていない」との回答。
10:18 判断:通常状態との相違、独居、室内テレビ音、外出予定不明、継続した連絡不能を総合し、室内で体調不良等が発生している可能性を否定できないと判断。
10:20:119番へ状況説明。
10:24:管理会社へ連絡。
他士業・関係機関との連携
| 連携先 | 主な場面 | 行政書士が整理して伝える内容 |
|---|---|---|
| 消防・救急 | 意識障害、呼吸困難、転倒、室内事故疑い等 | 住所、最終確認、現在の事実、本人情報のうち安全確保に必要なもの。 |
| 警察 | 暴力、不審者、侵入痕、進行中の犯罪 | 現場の状況、相手、危険、被害内容。自身は相手と対峙しない。 |
| 地域包括支援センター | 高齢者の生活機能低下、権利擁護、孤立、セルフネグレクト等 | 診断ではなく、日時、回数、前回差、本人の希望。 |
| ケアマネジャー | 介護サービス利用中の生活変化、転倒、服薬、食事等 | 本人同意又は緊急時の必要性を踏まえた観察事実。 |
| 医療機関 | 受診につなぐ必要がある体調変化、既往歴との関係 | 本人の訴え、客観的事実。診断や医療同意は代替しない。 |
| 消費生活センター | 訪問販売、定期購入、不審請求等の非緊急相談 | 相手、契約、金額、日時、資料。全国共通番号は188。 |
| 弁護士 | 返金、損害賠償、示談、取消し等の紛争 | 事実経過、証拠、本人希望。行政書士は代理交渉しない。 |
| 司法書士・弁護士等 | 成年後見制度利用の具体的検討 | 見守り記録に基づく客観的な生活変化。 |
地域包括支援センターは、市町村が設置する高齢者の総合相談、権利擁護、地域支援体制づくり等の中核機関です。具体的な緊急連絡先との情報共有方法は7-8、医療・介護機関との継続連携は7-9で詳しく扱います。
新人が気をつけたい点
| よくある判断 | 整えた対応 |
|---|---|
| 電話に出ない=倒れている。 | 外出、通院、入浴等も含め、普段の行動と複数事情を確認する。 |
| 昨日元気だったので今日も大丈夫。 | 現在確認できる客観的事実で緊急度を判断する。 |
| 合鍵があるので入室する。 | 入室権限を別途確認し、原則として消防・管理会社等を介する。 |
| 同じ質問が多いので認知症と記録する。 | 「10分間に5回同一質問」等、観察事実を記録する。 |
| 公共料金を本人の通帳から払ってあげる。 | 財産管理権限を確認し、見守り契約だけを根拠に動かさない。 |
| 親族なので健康情報を全部伝える。 | 本人同意、契約、緊急時例外、必要最小限の原則を確認する。 |
| 119番は親族の許可後に検討する。 | 明白な救急事案では直ちに119番する。 |
| 警察に頼めば安否確認で開錠してくれる。 | 救急・安否確認は消防・管理会社等を中心に、事件性があれば警察へ。 |
| 詐欺業者に行政書士から返金を要求する。 | 紛争交渉は行わず、188・警察・弁護士等へ適切に引き継ぐ。 |
トラブル予防策
緊急対応表を本人ごとに作る
緊急連絡先を定期更新する
電話番号だけでなく、死亡、入院、転居、疎遠化、夜間連絡可否等も確認します。本人の生活状況が変わったときは、その都度更新します。
本人の意思を元気なうちに確認する
- 何時間連絡が取れなければ緊急連絡先へ連絡してよいか。
- 救急時に持病・服薬・主治医情報を伝えてよいか。
- 管理会社へ安否確認を依頼する条件。
- 親族、友人、ケアマネ等へどこまで情報共有するか。
鍵の管理を仕組みにする
担当者個人の机や鞄で保管せず、施錠保管、識別番号、持出記録、使用記録、返還記録を設けます。契約書にも使用条件と紛失時対応を定めます。
記録様式を統一する
「事実」「本人発言」「担当者判断」「実施対応」「結果」を分けます。後から記録を作り直すのではなく、緊急対応中もメモを残し、終結後に正式記録へ整理します。
ケーススタディ|定期訪問日に応答がなく、室内からテレビ音だけが聞こえる
Aさんは妻を亡くして一人暮らし。子はいません。遠方に姪がおり、緊急連絡先として登録されています。これまでの訪問では、Aさんは予定時刻前に玄関を開けて待っていました。
本日10時、定期訪問のため本人宅を訪れました。インターホンを3回鳴らしても応答がなく、玄関前からの呼び掛けにも反応がありません。携帯電話にも出ません。一方、室内からテレビ音が聞こえます。
最初に合鍵で入ってよいか
自己判断では入室しません。合鍵を預かっていることと自由な入室権限は別です。まず契約上の鍵使用条件を確認しつつ、生命・身体への危険度を評価します。
初動
- インターホン、呼び掛け、携帯・固定電話への発信を再度行う。
- 過去記録と当日の外出・通院予定を確認する。
- 緊急連絡先の姪へ連絡し、外出予定等を確認する。
- 本人の通常状態との相違を整理する。
- 室内事故等の可能性を否定できなければ119番へ具体的状況を説明する。
- 必要に応じ管理会社へ建物上の対応を確認する。
姪から「昨日は元気。今日は外出予定なし」と回答
安全確認の必要性は高まります。理由は、予定を本人が認識していた、通常は必ず応答する、電話にも出ない、室内からテレビ音、外出予定が確認できない、独居という複数の事情が重なるためです。
「テレビがついているだけ」として帰ってよいか
この事例では適切ではありません。室内で転倒・体調急変が起きている可能性を否定できないため、119番へ上記事実を具体的に伝えて安全確認について相談します。事件性がない段階で、警察へ単純な解錠・安否確認を求めることを基本ルートにはしません。
望ましい時系列
10:00 訪問、インターホン3回、応答なし。
10:03 携帯へ発信、応答なし。
10:05 呼び掛け、テレビ音確認。
10:07 過去記録確認。直近6回すべて予定時刻に応答。
10:10 姪へ連絡。外出予定なしとの回答。
10:15 再度呼び掛け、応答なし。
10:18 通常状態との差、独居、テレビ音、連絡不能等を総合し、安全確認が必要と判断。
10:20 119番へ状況説明。
10:25 必要に応じ管理会社へ連絡。
このケースで控える行動
- 合鍵があるという理由だけで単独入室する。
- 「昨日元気だった」だけで帰る。
- 近隣住民へ本人の健康情報を広く話す。
- 親族へ連絡がつくまで救急要請を遅らせる。
- 本人の状態を「認知症」「倒れている」と推測で断定する。
- 後日、記憶だけを頼りに経過を作る。
実務チェックリスト|異変発見時対応確認
異変把握
- 発見時刻を記録
- 事実と推測を区別
- 過去記録と比較
- 当日の予定を確認
生命・身体
- 意識・呼吸・転倒を確認
- 明白な緊急時は119
- 迷う場合も119へ相談
- 親族待ちで遅らせない
連絡不能
- 複数手段で再連絡
- 普段の応答と比較
- 緊急連絡先を確認
- 必要に応じ訪問
訪問・鍵
- 呼び掛けを実施
- 室内音等を記録
- 自己判断で入室しない
- 鍵使用を必ず記録
外部連携
- 救急は119
- 事件性は110
- 非緊急警察相談は#9110
- 消費者相談は188
個人情報
- 守秘義務を意識
- 平常時は本人同意
- 緊急時例外を確認
- 提供は必要最小限
金銭・詐欺
- 証拠を保全
- 財産管理権限を確認
- 返金交渉をしない
- 弁護士等へ接続
記録
- 時系列
- 本人発言
- 判断理由
- 連絡先と結果
確認テスト
次回への接続
今回の中心は、異変を発見した行政書士が「何を確認し、どの段階で外部へつなぐか」という初動判断でした。
次回7-8「緊急連絡先との連携」では、誰を緊急連絡先とするか、連絡順位、何を伝えるか、本人情報の共有範囲、緊急連絡先が応答しない場合、親族が対応を断る場合等を具体的に扱います。医療・介護機関との継続的連携は7-9、任意後見発動の判断材料は7-10で扱います。
本記事は新人行政書士向けの一般的な実務教材です。個別案件では、最新の法令、公的制度、所属行政書士会の規則、地域の運用、契約内容、事務所体制及び賠償責任保険の条件等を確認してください。