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AI導入を検討するとき、多くの企業では「問い合わせ対応に使えそう」「請求処理を効率化したい」「営業資料作成を楽にしたい」といった業務名から話が始まります。これは自然な出発点です。一方で、業務名だけを見ている段階では、AIをどこに使うと効果が出やすいのか、人の確認を残した方がよいのか、既存の自動化で十分なのかを判断しにくいことがあります。そこで今回は、AI導入前の業務整理として、業務を小さな作業単位に分けて見る理由を確認していきます。

このセクションで学ぶこと

  • AI導入前に、業務を大きなまとまりのまま扱わない方がよい理由
  • 業務名だけでは、AIを使える場所を判断しにくい理由
  • 作業・判断・確認・記録などに分けて見る基本的な考え方
  • 業務分解が、後続の業務棚卸、ワークフロー設計、効果測定につながる理由
  • 請求書処理を例にした、初期段階での大まかな分解イメージ

基本解説:AI導入前の業務整理は「分けて見る」ことから始まります

AI導入前に業務を分解する理由は、AIを使える場所と、人が確認した方がよい場所を見つけやすくするためです。ここでいう業務分解とは、最初から完璧な業務フロー図を作ることではありません。ひとつの業務を「どのような作業で成り立っているのか」「どこで判断が入るのか」「誰が確認しているのか」「何を記録しているのか」という形で、見えるようにしていくことです。

たとえば「請求書処理」という業務名だけを見ると、AIを使えるかどうかの判断は大まかなものになりがちです。しかし、実際の請求書処理には、請求書の受領、内容確認、システム入力、承認依頼、保存、取引先からの問い合わせ対応など、複数の作業が含まれています。それぞれの作業で必要な情報、判断の難しさ、ミスが起きやすい場所、確認すべき人は異なります。

AIは、文章の要約、分類、項目抽出、回答案の作成、資料作成の補助などを得意とする場面があります。一方で、金額の最終承認、例外的な取引条件の判断、社内ルールに基づく責任ある意思決定などは、人が確認した方がよい場合があります。また、単純な転記や定型的な通知であれば、AIではなくRPAやワークフロー自動化の方が扱いやすいこともあります。

つまり、AI導入の検討では「この業務にAIを入れるかどうか」と大きく考えるだけでなく、「この業務の中のどの作業を、どの手段で支援するか」と考えることが大切です。その前提になるのが、業務を小さな単位に分けて整理することです。

図解:業務名だけで見る場合と、作業単位で見る場合の違い

AI導入では、業務名をそのまま対象にするのではなく、業務の中身を分けて見ることで、AI・人・既存自動化の役割を考えやすくなります。

業務名で見る 例:請求書処理を効率化したい。業務全体が大きく見えるため、どこから検討すればよいかが曖昧になりやすい。
作業に分ける 受領、内容確認、入力、承認依頼、保存、問い合わせ対応などに分けて、流れを見える形にする。
支援方法を考える AIが支援しやすい部分、人が確認する部分、既存の自動化が向く部分を整理しやすくなる。

この図で読み取っておきたい点は、AI導入の検討対象は「業務名そのもの」ではなく、その中に含まれる作業や判断であるということです。

実務での考え方:作業の流れを見える形にする

事業会社でAI導入を検討する際、最初から詳細な業務フロー図や要件定義書を作ろうとすると、作業が重く感じられることがあります。特に、現場ごとにやり方が少しずつ違う業務や、担当者の経験に支えられている業務では、すぐに整理しきれないこともあります。

初期段階では、まず「業務の流れを見える形にする」ことを目標にすると進めやすくなります。資料がそろっていない段階でも、担当者に確認しながら、作業の順番を書き出すことはできます。手書きのメモ、表計算ソフト、ホワイトボード、簡単な箇条書きでも構いません。

大切なのは、業務をきれいに描くことではなく、AI導入を検討するための判断材料を増やすことです。どの作業に時間がかかっているのか、どこで判断が入るのか、どの情報を見ているのか、どの段階で人の確認が必要なのかを確認しておくと、社内で説明しやすくなります。

請求書処理を大まかに分解する例

ここでは、経理部門や管理部門でよく見られる「請求書処理」を例に考えてみます。実際の業務は会社ごとに異なりますが、初期段階では次のように分けて見ることができます。

作業のまとまり 主な内容 検討しやすくなる観点
受領 メール、郵送、取引先ポータルなどから請求書を受け取る 受領経路が複数あるか、ファイル形式がばらついているかを確認できます。
内容確認 取引先名、金額、支払期日、発注内容との整合性を確認する AIで抽出できる情報と、人が判断した方がよい確認事項を分けやすくなります。
入力 会計システムや管理表へ必要情報を入力する 定型入力が多い場合、RPAやシステム連携の可能性も検討できます。
承認依頼 担当部署や上長へ確認・承認を依頼する 承認ルート、差し戻し、確認待ちの発生状況を整理できます。
保存 請求書データや関連資料を所定の場所へ保管する ファイル名、保存先、検索しやすさ、記録ルールを確認できます。
問い合わせ対応 取引先や社内からの確認依頼に対応する 過去資料の参照、回答案作成、社内確認の流れを検討できます。

このように分けてみると、「請求書処理をAI化する」という表現だけでは見えなかった検討ポイントが出てきます。たとえば、請求書から必要項目を読み取る支援、問い合わせ回答案の作成、保存ルールの整備、承認依頼の流れの見直しなど、複数の方向性が考えられます。

一方で、金額や取引内容の最終確認、例外処理の判断、承認そのものは、人の関与を残した方が社内で説明しやすい場合があります。AI導入を検討する際は、「AIで置き換える」だけでなく、「AIで下準備を支援し、人が確認する」という組み合わせも現実的な選択肢になります。

図解:分解すると見えやすくなる3つの役割

業務を作業単位に分けると、それぞれの作業に対して、どの支援方法が合いそうかを考えやすくなります。

AIが支援しやすい部分 文章・情報の整理

要約、分類、項目抽出、回答案作成、資料のたたき台作成など、情報を扱う作業が候補になります。

人が確認した方がよい部分 判断・承認・例外対応

責任ある判断、社内ルールの解釈、例外的な取引、最終承認などは、人の確認を残しやすい領域です。

既存自動化が向く部分 定型処理・転記・通知

決まった条件で繰り返す処理は、RPAやワークフロー自動化、システム連携の方が適する場合があります。

この3つを分けて考えると、AI導入の範囲を落ち着いて検討できます。AIだけで全体を変えるのではなく、既存の仕組みや人の確認と組み合わせて設計する視点が大切です。

よくあるつまずき:業務名のまま検討してしまう

AI導入の初期検討でよくあるつまずきは、業務名のまま話が進んでしまうことです。「問い合わせ対応をAI化したい」「営業資料作成を自動化したい」といった表現は分かりやすい一方で、そのままでは検討範囲が広くなりやすくなります。

たとえば問い合わせ対応には、問い合わせの受付、内容の分類、過去事例の確認、回答案の作成、担当部署への確認、顧客への返信、対応履歴の記録などが含まれます。営業資料作成にも、顧客情報の確認、提案方針の整理、過去資料の流用、文章作成、数値確認、デザイン調整、上長確認などがあります。

このように、ひとつの業務名の中には、AIが支援しやすい作業と、慎重に人が確認した方がよい作業が混在しています。業務名だけで判断しようとすると、期待する効果、必要なデータ、関係する部門、確認すべきリスクが曖昧になりやすくなります。

まずは現在の状況を整理してみましょう。作業の流れが完全にそろっていなくても、「誰が」「何を見て」「何を判断し」「どこに記録しているか」を書き出すだけで、AI導入の検討は進めやすくなります。

つまずきを避けるための見方

最初の整理では、細かな例外まで洗い出そうとしすぎなくても大丈夫です。まずは通常の流れを大まかに書き出し、そのうえで「例外が多い部分」「確認に時間がかかる部分」「担当者によってやり方が違う部分」を少しずつ確認していきます。

また、AI導入の候補を探すときは、「時間がかかっている作業」だけでなく、「判断の前に情報を集める作業」「文章を整える作業」「過去資料を探す作業」「記録を残す作業」にも目を向けると、検討しやすくなります。生成AIによる業務改善は、最終判断を代替するだけでなく、判断前後の準備や整理を支援する形でも効果を検討できます。

経営者・責任者向けの確認ポイント

経営者や部門責任者の立場では、AI導入前にどの程度まで業務を整理すればよいのかが気になるところです。初期段階では、すべての業務を詳細に分析するよりも、検討対象となる業務について、判断に必要な粒度で整理することが現実的です。

特に確認しておくとよいのは、業務の目的、関係者、使用している情報、判断が発生する場所、確認や承認の責任者、現在困っている点です。これらが見えてくると、AI導入の目的が「効率化」なのか、「品質のばらつきの抑制」なのか、「問い合わせ対応の平準化」なのかを説明しやすくなります。

責任者が確認しておくとよい観点

  • 対象業務は、どの部門・担当者にまたがっているか
  • 業務の中で、時間がかかっている作業はどこか
  • 人の判断や承認を残した方がよい箇所はどこか
  • AIよりも、既存システムやRPA、ワークフロー自動化が合いそうな作業はあるか
  • 効果を確認する場合、時間削減、ミス削減、対応品質、属人化の軽減など、どの観点で見るか

この段階で重要なのは、AI導入の結論を急がないことです。まずは現在の業務を見える形にして、AIを使う部分、人が確認する部分、既存の仕組みを活用する部分を分けて考えると、社内での検討が進めやすくなります。

AI導入支援者としての着眼点

AI導入コンサルタントを目指す人や、社内でAI導入支援を担う人にとって、業務分解はヒアリングの前提になります。顧客や現場担当者は、最初から業務を整理した状態で説明できるとは限りません。むしろ、「だいたいこのように処理している」「担当者ごとに少し違う」といった説明から始まることも多くあります。

支援者としては、いきなりAIツールの機能に当てはめるのではなく、現在の業務の流れ、使っている情報、判断の根拠、確認者、記録先を丁寧に確認していく姿勢が大切です。相談内容がまとまっていない段階でも、業務の流れから一緒に整理していくことで、現場の実態を聞き取りやすくなります。

また、業務分解の段階では、「AIでできるか」だけを問うのではなく、「AIが支援するとしたら、どの作業の負担が軽くなるか」「人の判断を残すなら、どのタイミングが自然か」「既存の仕組みで対応できる部分はないか」を見ることが有効です。この視点を持つことで、AI導入の提案が単なるツール紹介ではなく、業務改革の提案に近づきます。

ミニチェックリスト:自社業務を分解する前に確認したいこと

次の項目を確認しておくと、AI導入に向けた業務整理を始めやすくなります。最初からすべてを埋める必要はありません。分かる範囲から確認していきましょう。

  • AI導入を検討したい業務名を、ひとつ選んでいる
  • その業務の開始点と終了点を、大まかに説明できる
  • 業務の中に含まれる作業を、5〜10個程度に分けて書き出している
  • 各作業で使っている資料、システム、データの種類を確認している
  • 人の判断や承認が入る箇所を把握している
  • 定型的に繰り返している処理と、例外対応が多い処理を分けて見ている
  • AI、人、既存自動化のどれが合いそうかを、作業単位で考え始めている

まとめ:AI導入は、業務を小さく見るほど検討しやすくなります

AI導入前に業務を分解する理由は、AIを使える場所を具体的に見つけやすくするためです。「問い合わせ対応」「請求処理」「営業資料作成」といった業務名だけでは、AIが支援しやすい部分、人が確認した方がよい部分、既存の自動化が向く部分を判断しにくいことがあります。

業務分解は、完璧な業務フロー図を作る作業ではありません。まずは、作業の流れを見える形にし、作業・判断・確認・記録を分けて考えることから始められます。この整理は、後続の業務棚卸、ワークフロー設計、効果測定の基礎にもなります。

次回は、業務をより具体的に整理するために、「入力・判断・処理・出力」という見方を扱います。今回の内容を踏まえて、自社の業務をどの単位で切り出せばよいかを、さらに実務に近い形で確認していきます。

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