終活実務マニュアル|0-7

利益相反の確認
本人・親族・受任者・行政書士自身の利害衝突を見抜く

「誰が相談しているか」ではなく「本人の利益と周辺者の利益が衝突していないか」を受任前に見抜く実務を整理。受遺者予定者主導・行政書士自身が受遺者になるケースまで網羅。

新人行政書士向け 受任前チェックリスト付き ケーススタディ6事例

 

📌 前回(0-6)との接続

前回0-6では、疎遠親族・甥姪・内縁パートナー・友人・支援者などとの関係から親族トラブルが発生しやすいことを学びました。今回扱う利益相反は、その一歩手前または同時に発生する問題です。形式上は「本人のための相談」に見えても、同席者や受遺者予定者の利益が強く反映されていることがあります。

1

この回の到達目標

到達目標 実務でできるようになること
利益相反の基本を説明できる 本人と、同席者・受任者・受遺者・行政書士自身の利益が衝突する状態を説明できる
誰が依頼者かを確認できる 相談者・本人・費用を払う人・利益を受ける人を分けて整理できる
受遺者予定者が主導する相談を見抜ける 財産を受け取る予定の人が遺言作成を進めている危険性を判断できる
任意後見受任者候補者・成年後見人候補者の利害を確認できる 本人支援者が本人の財産・契約・死後対応に過度に影響していないか判断できる
行政書士自身が受遺者になる案件を排除できる 行政書士自身が受遺者または包括受遺者となるスキームへの関与は本マニュアル上は受任不可として扱う
利害対立が顕在化した時点で停止できる 一方の偏った具体的要望が出た時点で当事者間の利害に影響する関与を停止し弁護士へ連携できる
受任を断る・限定する判断ができる 利益相反が強い場合は受任保留・範囲限定・弁護士連携を判断できる
記録化できる 利益相反チェック表・面談記録・説明記録・受任可否判断記録を作成できる
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業務が必要になる実務場面

実務場面 利益相反の問題
甥が叔母を連れてきて「自分に全財産を残す遺言を作りたい」と言う 甥が受遺者予定者であり本人意思を誘導している可能性
長男が母の死後事務契約を主導し、費用も長男が払う 母本人の意思より長男の都合が優先される可能性
友人が本人の通帳を管理し、遺言で全財産を受け取る予定 財産管理者が受益者となり疑義が生じやすい
行政書士が死後事務受任者かつ遺言執行者となる 役割が集中し報酬・支出・財産管理の透明性が問題
行政書士が本人から遺贈を受ける 職業倫理・利益相反の観点から本マニュアル上は受任不可
施設職員が本人の死後事務を個人的に引き受ける 施設規程・倫理規定・不当影響・利益相反
任意後見受任者候補者が遺言内容にも強く関与している 将来の代理権予定者が本人の財産承継に影響している可能性
「先生から他の相続人を説得してください」と言われる 紛争性がある当事者間の交渉・調整・代理的関与となる危険
3

基本知識

3-1. 利益相反とは何か

利益相反とは、ある人の利益を守る行為が、別の人の利益を害する、または害するおそれがある状態をいいます。表面上は仲良く見えても、次のような構造があれば利益相反を疑います。

構造 例
依頼者と本人が違う 甥が「叔母の遺言を作ってほしい」と依頼
費用を払う人と本人が違う 長男が母の遺言作成費用を支払う
財産を受け取る人が相談を主導 友人が「私に残す遺言を作る」と主導
財産管理者が受益者 通帳管理者が遺言で財産を受け取る
死後事務受任者が受遺者 死後事務費用管理者が財産も受け取る
任意後見受任者候補者が受遺者 将来の代理権予定者が財産も取得する
行政書士自身が利害関係者 行政書士が受任者・遺言執行者・受遺者になる
💡 実務上の定義

終活業務における利益相反とは、本人の意思・財産・生活上の利益を守るべき場面で、親族・友人・受任者・受遺者・任意後見受任者候補者・成年後見人候補者・専門職・行政書士自身の利益が本人の利益と衝突する、または衝突しているように見える状態である。

3-2. 法律上の利益相反と実務上の利益相反

種類 内容 例
法律上の利益相反 民法上の代理・自己契約・双方代理・利益相反行為として問題になる 代理人が本人の財産を自分に売る
職業倫理上の利益相反 専門職としての中立性・説明責任・信頼を害する 行政書士が遺言作成支援をしながら自分が受遺者になる
実務上の利益相反 後日親族から疑われ紛争化しやすい 友人が通帳管理し死後事務も行い遺言で財産を受け取る
外観上の利益相反 実際には本人意思でも外から見ると不当誘導に見える 受遺者予定者が面談予約・送迎・費用支払いをすべて行う
📌 民法108条との関係

民法108条は自己契約・双方代理や代理人と本人との利益が相反する行為について規律しています。ただし遺言書作成支援は遺言者本人による単独行為の支援であり同条が直接適用されるものではありません。実務上は同条の根底にある「本人の不利益防止」「代理・関与者の自己利益追求防止」という考え方を終活業務のリーガルマインドとして活用します。

3-3. 利益相反は「実害」ではなく「おそれ」で判断する

利益相反は実際に本人が損をした後に初めて問題になるものではありません。「本人が損をしたかどうか」ではなく「本人以外の人の利益が本人意思の形成や業務遂行に影響していないか」で判断します。

段階 確認すべきこと
初回相談前 誰が連絡してきたか
初回相談時 誰が話しているか
本人確認時 本人が自分で相談意思を示しているか
業務設計時 誰が利益を受けるか
契約締結時 誰が費用を負担するか
実行時 誰が財産を管理・処分するか
完了報告時 誰に報告するか

3-4. 行政書士が複数当事者から相談を受ける場合の注意

⛔ 危険な流れ:利害対立の顕在化
1
長男から相談予約
母の遺言作成相談として連絡が来る
2
長男が費用を支払う
報酬支払者が受益者と一致する状態
3
遺言内容は長男へ多く残す内容
次男には知らせないまま文案が進む
4
行政書士が長男説明を前提に文案作成
⚠ 本人意思確認・利益相反・遺言無効主張のリスク大
⚠ 重要な実務ルール

複数相続人案件では、一方当事者から「自分に多く取得したい」「他の相続人を説得してほしい」といった具体的要望が出た時点で利害対立が顕在化したものとして扱います。この段階では当事者間の利害に影響を与える形での書類作成・事実整理・関与は行わず、弁護士へ連携します。

3-5. 報酬を誰が支払うかによる影響

報酬支払者 注意点
本人 原則として自然。ただし財産管理者が本人の財布を管理している場合は注意
親族 本人のための支払いか親族の利益実現か確認
受遺者予定者 遺言内容への影響が疑われやすい
死後事務受任者予定者 契約内容を自分に有利にしないか注意
友人・支援者 財産目的と疑われやすい
行政書士が立替 原則避ける。やむを得ず行う場合は金額・理由・精算方法を明確に記録する

3-6. 行政書士自身が利害関係者になる場合

行政書士自身が、受任者・遺言執行者・死後事務受任者・任意後見受任者・財産管理受任者・報酬受領者・受遺者になる場合は特に注意が必要です。

組み合わせ リスク 本マニュアル上の扱い
遺言作成支援者かつ受遺者 不当誘導・職業倫理上極めて危険 受任不可
包括受遺者となる 財産全体に関与する利益相反 受任不可
財産管理者かつ受遺者 生前管理と死後取得が衝突 受任不可
死後事務受任者かつ家財処分判断者 相続財産処分の疑義 厳格な記録・弁護士連携要検討
遺言執行者かつ死後事務受任者 報酬・支出・財産管理の透明性 慎重に可否判断
任意後見受任者かつ遺言作成支援者 本人への影響力が強くなる 慎重に可否判断
預り金管理者かつ報酬決定者 預り金流用・過大報酬疑義 厳格な分別管理必須
⛔ 本マニュアル上の受任不可運用

行政書士自身が受遺者または包括受遺者となるスキーム、およびその案件への関与は本マニュアル上は受任不可とします。これは職業倫理・リスク管理上の運用であり法令上の一般的禁止と同一ではありません。本人から「先生に財産を残したい」と言われた場合、文案作成・意思形成支援・財産確認・関係整理への関与を行いません。

4

実務の進め方

4-2. 最初に必ず確認する4者

利益相反確認では、最初に次の4者を分けます。この4者がすべて同一であれば利益相反リスクは比較的低いですが異なる場合は注意が必要です。

① 相談してきた人
「最初にご相談いただいたのはどなたですか」
② 本人
「業務の対象となるご本人はどなたですか」
③ 費用を払う人
「報酬・実費はどなたが負担されますか」
④ 利益を受ける人
「遺言・契約で財産や権限を得る方はどなたですか」
相談者 本人 費用支払者 利益を受ける人 リスク
本人 本人 本人 本人の希望する相手 低〜中
長男 母 長男 長男 高
甥 叔母 叔母 甥 高
友人 本人 友人 友人 高
行政書士 本人 本人 行政書士 本マニュアル上は受任不可
施設職員 入所者 入所者 施設職員 高
任意後見受任者候補者 本人 本人 任意後見受任者候補者 高

4-4. 利益相反の程度を分類する

低
本人主導・受益者関与薄い→通常記録で進行
中
費用支払者が本人以外だが本人意思明確→本人単独面談・記録強化
高
受益者が相談主導・本人が依存→受任保留・複数回面談・弁護士連携検討
極高
財産管理者が財産取得・強い依存→原則受任回避・弁護士連携
受任不可
行政書士自身が受遺者または包括受遺者→関与しない
5

ヒアリング項目

5-2. 本人への質問

項目 質問例
相談意思 「今回の相談はご自身で希望されましたか」
財産承継 「誰に財産を残したいですか。なぜその方に残したいのですか」
不利益者 「この内容で不満を持つ方はいますか」
死後事務受任者 「死後事務を誰に頼みたいですか」
任意後見受任者候補者 「判断能力が低下した場合、誰に代理を頼みたいですか」
圧力・変更・断る自由 「誰かに急かされていますか」「気持ちが変わった場合、変更できることを理解していますか」「この依頼をしない選択もあることを理解していますか」

5-4. 行政書士自身が関与する場合の自己確認

⛔ 自己確認で受任不可とすべき事項
  • 行政書士自身が受遺者になる
  • 行政書士自身が包括受遺者になる
  • 行政書士自身が遺贈を受けることを前提に本人の意思整理に関与する
  • 行政書士自身が財産管理者であり、かつ本人財産を取得する設計になっている
確認事項 確認すべき内容
就任理由・代替者 なぜ自分がその役割を担うのか。他に適任者はいないか
報酬・預り金 報酬は明確か・過大ではないか。預り金管理方法は透明か
報告先・監督 誰に報告するか。第三者チェックを設けるか
役割集中・受遺 遺言執行・死後事務・財産管理が集中しすぎていないか。自分が財産を取得する構造になっていないか
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判断フロー

利益相反確認・受任可否フロー

①
相談者・本人・支払者・受益者を確認
4者が一致しているか整理する
②
4者が不一致の場合:利害関係を整理し本人単独面談
受遺者予定者・費用支払者を退席させ本人から直接確認する
③
本人意思が明確か確認
明確な場合:記録を厚くして受任検討。不明確な場合:受任保留・弁護士連携
④
行政書士自身が受遺者になるか確認
受遺者になる場合:本マニュアル上受任不可。文案作成・意思形成支援・関係整理への関与を行わない
⑤
利害対立が顕在化した場合:即停止し弁護士連携
「自分に多く取得させたい」「他の相続人を説得してほしい」等の偏った具体的要望が出た時点で当事者間の利害に影響する関与を停止する
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作成・確認する書類

書類 目的
利益相反チェック表 相談者・本人・支払者・受益者・受任者を整理
本人単独面談記録 本人意思が独立していることを記録
同席者確認票 同席者の関係・発言・受益関係を記録
報酬支払者確認書 本人以外が支払う場合の理由・同意を記録
受任範囲確認書 行政書士が対応する範囲としない範囲を明確化
業務停止記録 利害対立が顕在化したため停止した経緯を記録
弁護士連携記録 紛争性・利益相反を理由に連携した経緯を記録
行政書士兼任説明書 行政書士が遺言執行者・死後事務受任者等になる場合
関与不可記録 行政書士自身が受遺者となる等、受任不可と判断した記録
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文例・記載例

文利益相反確認を行う説明文例
→

誰が相談しているのか、誰が費用を負担するのか、誰が財産や権限を受けるのかを確認する必要があります。これは誰かを疑うためではなく、ご本人の意思を守り後日のトラブルを防ぐための確認です。

文受遺者予定者が主導している場合
→

今回の遺言で〇〇様が財産を受け取る可能性がある場合、利益相反の疑いを避けるため遺言内容は必ずご本人と直接確認します。ご本人が自分の言葉で誰に何を残したいのか・なぜそうしたいのかを説明できることが必要です。

文本人以外が報酬を支払う場合
→

報酬を〇〇様が負担されること自体はあり得ます。ただしこの業務はご本人の意思に基づいて進めるものです。費用を支払う方が遺言や契約の内容を決めることはできません。

文行政書士自身への遺贈希望が出た場合
→

お気持ちはありがたく受け止めます。しかし私自身が財産を受け取る内容の遺言や契約については、職業倫理・利益相反の観点から本マニュアル上は受任できません。私が受遺者となることを前提とした文案作成・意思形成支援・関係整理には関与できません。必要であれば独立した専門家へご相談ください。

文利害対立が顕在化したため業務を停止する場合
→

本日のご相談では、相続人間で取得内容について意見の違いがあることが分かりました。この段階で行政書士が当事者間の利害に影響する書類作成や事実整理を続けると、いずれか一方の利益に関与したと受け止められるおそれがあります。当職としては本件について、当事者間の利害に影響を与える形での書類作成・事実整理・関与は行わず、弁護士への相談をお勧めします。

面談記録例:受遺者予定者が同席している場合

面談日:2026年5月23日/本人:山田花子/同席者:甥 山田太郎
相談内容:公正証書遺言作成支援
利益相反確認:太郎氏は受遺者予定者となる可能性あり。本人単独面談を10:20〜10:50実施。
本人発言:「太郎に頼まれたわけではありません。太郎は10年以上、通院や買い物を手伝ってくれました。太郎に預金の大半を残したいです。」
当職説明:太郎氏が受遺者予定者であるため本人意思確認を慎重に行う必要があること、親族から反発が出る可能性があること、行政書士は紛争性がある当事者間の交渉・調整・代理的関与を行えないことを説明。
判断:本人は受遺者・財産内容・理由を自分の言葉で説明。次回、相続人調査・財産目録・公正証書遺言案の検討を行う。紛争性が高まる場合は弁護士連携。

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他士業・関係機関との連携

連携先 場面 理由
弁護士 親族間で意見対立がある 行政書士は紛争性がある当事者間の交渉・調整・代理的関与を行えない
受遺者予定者が相談を主導し、他親族が反発している 遺言無効・不当誘導の紛争リスク
財産管理者が財産取得者でもある 損害賠償・返還請求等の可能性
行政書士自身への遺贈希望が出た 本マニュアル上は受任不可。独立専門家への相談を案内
一方当事者から偏った具体的要望が出た 当事者間の利害に影響する形での関与が危険
司法書士 不動産登記・民事信託登記が関係 登記申請代理は司法書士領域
成年後見申立に関し代理申立や裁判所対応が必要 司法書士・弁護士の業務範囲に応じて連携
地域包括等 本人が同席者に強く依存、通帳を親族が管理 不当介入・経済的虐待の可能性
任意後見受任者候補者への依存が強い 第三者的な福祉・専門職関与が必要
公証役場 受遺者予定者が関与・高齢・判断能力に不安 本人意思確認・証人・公証人判断
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新人が間違えやすいポイント

① 相談に来た人を依頼者だと思い込む
失敗例
甥が相談に来たため甥を依頼者として叔母の遺言文案を作成した。
正しい対応
遺言者本人は叔母。叔母本人から直接相談意思を確認し本人と業務委任契約を結ぶ。甥は関係者として扱い文案決定者にしない。
② 費用を払う人の希望を優先してしまう
失敗例
長男が報酬を支払うため長男の希望に沿って母の遺言内容を整理した。
正しい対応
報酬支払者は記録するが文案内容は本人と直接確認する。支払者が内容に介入する場合は受任保留または弁護士連携を検討する。
③ 受遺者予定者の同席を当然に認める
失敗例
財産を受け取る予定の友人が同席したまま遺言内容を確認した。
正しい対応
受遺者予定者には退席してもらい本人単独面談を行う。
④ 行政書士自身が受遺者になる
失敗例
長年支援した本人から「先生に財産を残したい」と言われ関与を続けた。
正しい対応
本マニュアル上は受任不可。文案作成・意思形成支援・財産確認・関係整理には関与しない。独立した専門家への相談を案内するにとどめる。
⑤ 複数相続人の相談から一方支援へ移ってしまう
失敗例
最初は全員から相談を受けたが途中から長男だけの希望に沿って書類を作成した。
正しい対応
利害対立が出た時点で当事者間の利害に影響を与える形での書類作成・事実整理・関与は行わず弁護士連携を案内する。
⑥ 財産管理者が受遺者でも問題ないと考える
失敗例
友人が通帳を管理しその友人に全財産を残す遺言を作成支援した。
正しい対応
本人単独面談・財産管理記録・通帳確認・第三者確認・弁護士連携を検討。疑義が強ければ受任を控える。
⑦「制度説明なら続けてよい」と思い込む
失敗例
相続人間で対立が出ていたが「一般的な説明だけです」と言って個別案件の面談を続けた。
正しい対応
個別案件について当事者間の利害に影響する説明・整理・文案作成は行わない。弁護士相談を案内する。
⑧ 任意後見受任者候補者と成年後見人候補者を混同する
失敗例
「後見人候補者」とだけ記録し任意後見受任者候補者なのか成年後見人候補者なのかを確認しなかった。
正しい対応
両者を分けて記録し、それぞれ本人意思・利害関係・財産取得予定・親族関係を確認する。任意後見は本人が契約で選ぶ制度。成年後見は家庭裁判所が選任する法定後見制度である。
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トラブル予防策

11-1. 「誰のための業務か」を書面化する

本業務は山田花子本人の意思に基づき、山田花子本人の遺言書作成支援を目的として行うものであり、同席者または報酬支払者の利益を実現するためのものではない。

11-3. 同席者の役割を限定する

同席者ができること 同席者がしてはいけないこと
日程調整・移動補助・資料持参 遺言内容を決める
事実補足・聴力・視力補助 本人の代わりに回答する・本人に回答を指示する
事務連絡 他親族を説得するよう依頼する・条件交渉や調整を依頼する

11-6. 利害対立が出た後は「止まる」運用を徹底する

⛔ 即停止すべき発言の例
  • 「私が多く取得する内容で作ってください」
  • 「弟を説得してください」
  • 「母にはこの内容で署名させます」
  • 「相手にこの条件を伝えてください」
  • 「揉めないように先生がまとめてください」
  • 「相手には知らせず進めたい」
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ケーススタディ

CASE 1

受遺者予定者が遺言作成を依頼してきた場合

相談内容

甥Aから電話。「叔母Bは独身で子もいない。私に全財産を残したいと言っているので遺言を作ってほしい。費用も私が払う」。

初期リスク
項目 判断
相談者・費用・受益者 全て甥A→利益相反・極めて高い
本人意思 未確認
意思能力 高齢のため確認必要
正しい対応
  • 電話では概要のみ聞く。甥Aに「本人意思確認が必要」と説明する
  • 初回面談はB本人を依頼者として扱い、本人確認・意思能力確認を行う
  • 甥Aを退席させ、B本人単独面談。財産・受遺者・理由を自分の言葉で説明できるか確認する
  • 他の相続人候補を確認。紛争性が高ければ弁護士へ連携する
  • 進める場合は公正証書遺言を検討する
✅ 受任可の条件

Bが自分の言葉で説明できる・A退席後も同じ意思を示す・Aに残す理由が具体的・費用支払いをBが理解し同意・既に争いがない・面談記録を詳細に作成

CASE 2

行政書士が死後事務受任者かつ遺言執行者になる場合

相談内容

おひとりさまC。親族とは疎遠。「先生に遺言作成・遺言執行・死後事務・家財整理を全部お願いしたい」と希望する。

正しい対応
  • C本人から直接意思確認。なぜ行政書士に頼みたいか記録する
  • 役割を分解して説明し各契約の報酬を分けて明示する
  • 預り金管理方法・家財処分リスクを説明する
  • 報告先または第三者確認者を検討する
  • 弁護士・司法書士・税理士との連携体制を説明する
  • 行政書士自身が受遺者になる話が出た場合は、その時点で本マニュアル上は受任不可として扱う
CASE 3

友人が財産管理をしており、遺言で財産も取得する場合

相談内容

独居高齢者D。友人Eが通帳を管理し日常の支払いをしている。Dは「Eに全財産を残したい」と希望。Eが相談予約・面談に同席。

正しい対応
  • Eから概要を聞くが文案は作らない
  • D本人と単独面談。DがEへ残す理由を自分の言葉で説明できるか確認する
  • 通帳管理の経緯・支出記録・財産管理契約の有無を確認する
  • 疑義が強ければ弁護士へ連携。行政書士単独で遺言作成支援を進めない判断も検討する
CASE 4

相続人全員から相談を受けた後、一部相続人の希望が強くなった場合

相談内容

父F死亡後、長男G・次男H・長女Iが相続手続の相談に来た。当初は全員協力的だったが長男Gが「自分が多く取得する内容で協議書を作ってほしい。弟妹には先生から説明してほしい」と依頼。

⛔ 即停止。弁護士連携。

一方当事者から偏った具体的要望が出た時点で利害対立が顕在化したものとして扱います。当事者間の利害に影響する協議書作成・事実整理を行わず弁護士相談を案内します。

当初は皆様からのご相談として伺っていましたが、現在は取得内容について利害対立が出ています。この状態で協議書作成や事実整理を続けると一方の利益に関与したと受け止められるおそれがあります。ここから先は弁護士にご相談ください。

CASE 5

行政書士へ遺贈したいと言われた場合

相談内容

見守り契約をしている高齢者Jから「先生にはいつも世話になっているので遺言で預金の一部を先生に残したい」と言われた。

⛔ 本マニュアル上は受任不可
  • その場で受けない。「自分が受遺者となる内容には本マニュアル上関与できない」と説明する
  • 文案作成・内容整理・財産確認・関係整理をしない
  • 独立した専門家への相談を案内するにとどめる
  • 面談記録に発言と対応を残す
CASE 6

任意後見受任者候補者が受遺者にもなる場合

相談内容

本人KはLを任意後見受任者候補者にしたい。同時に遺言でLに預金の大半を残したいとも希望。相談予約・送迎・資料準備はLが行っている。

正しい対応
  • K本人と単独面談。KがLに任意後見・財産を残したい理由を別個に確認する
  • 任意後見契約と遺言は別制度であることを説明する
  • 財産管理・支出記録の有無を確認し親族反発リスクを説明する
  • Kが自分の言葉で説明できない場合は受任保留とする
  • 必要に応じ弁護士・公証役場と連携する
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実務チェックリスト

受任前利益相反確認チェックリスト

  • 最初に相談してきた人・本人・報酬支払者・財産を受け取る人を確認した
  • 死後事務受任者候補・遺言執行者候補・任意後見受任者候補者・成年後見人候補者・財産管理受任者候補・通帳印鑑管理者を確認した
  • 同席者の受益関係を確認した
  • 本人単独面談を行い本人が自分の言葉で希望と理由を説明した
  • 同席者の誘導がないか・報酬支払者が文案内容を決めないことを確認した
  • 行政書士自身が受遺者・包括受遺者となる構造がないことを確認した
  • 親族間対立・一方当事者からの偏った具体的要望が出ていないか確認した
  • 利害対立が顕在化している場合は当事者間の利害に影響する関与を停止した
  • 利益相反レベルを判定し受任可否または範囲限定を判断した
  • 弁護士連携の要否を判断した
  • 面談記録・説明記録を作成した

受任を控えるべきケースチェックリスト

  • 本人意思が確認できない・本人が同席者の指示でしか回答しない
  • 受遺者予定者が退席を拒む
  • 費用支払者が文案内容を決めようとする
  • 財産管理者が受遺者で支出記録がない
  • 親族間で既に対立がある・一方当事者から偏った具体的要望が出ている
  • 行政書士に親族説得を求めている
  • 行政書士自身が財産を受け取る構造になっている
  • 本人に圧力・虐待・経済的支配の疑いがある
  • 弁護士連携が必要な紛争性がある
14

確認テスト

Q1利益相反確認で最初に分けて確認すべき4者を挙げなさい。
A

相談してきた人・本人・費用を払う人・利益を受ける人。

Q2受遺者予定者が相談を主導している場合、最初に何をすべきか。
A

本人確認と本人単独面談を行い本人が自分の言葉で誰に何を残したいのか・なぜ残したいのかを説明できるか確認する。受遺者予定者が文案を決定してはいけない。

Q3行政書士が遺言執行者や死後事務受任者になることは常に禁止か。
A

常に禁止ではない。役割が集中すると報酬・預り金・支出・報告の透明性が問題になりやすい。本人への説明・報酬明確化・記録化・第三者連携・紛争時の弁護士連携が必要である。

Q4行政書士自身が受遺者または包括受遺者になる場合、どう対応すべきか。
A

本マニュアル上は受任不可として扱う。これは職業倫理・リスク管理上の運用であり法令上の一般的禁止と同一ではない。文案作成・意思形成支援・財産確認・関係整理には関与しない。独立した専門家への相談を案内するにとどめる。

Q5親族間で意見対立がある場合、行政書士は調整してよいか。
A

調整してはいけない。当事者間の利害が対立している場合に交渉・調整・代理的関与を行うことはできない。弁護士へ連携する。

Q6複数相続人から相談を受けた後、一部相続人の希望が強くなった場合、どう対応すべきか。
A

一方相続人の希望に沿って他の相続人を説得したり条件調整したりしてはいけない。利害対立が出た時点で当事者間の利害に影響を与える形での書類作成・事実整理・関与は行わず弁護士連携を案内する。

Q7民法108条は遺言書作成支援に直接適用されるか。
A

通常直接適用されるものではない。民法108条は代理に関する規定であり遺言書作成支援は遺言者本人による単独行為の支援である。ただし同条の根底にある本人の不利益防止という考え方は、終活業務の利益相反確認において重要な実務感覚となる。

Q8「後見人候補者」とだけ記録することの問題点は何か。
A

任意後見受任者候補者と成年後見人候補者は制度上異なるためどちらなのかが不明確になる。任意後見は本人が契約で将来の受任者を選ぶ制度。成年後見は家庭裁判所が選任する法定後見制度である。利益相反確認では両者を分けて確認する必要がある。

この回の要点

利益相反確認とは「誰が相談しているか」ではなく「本人の意思・財産・生活上の利益と、周辺者や行政書士自身の利益が衝突していないか」を受任前に見抜く実務である。

終活業務では、相談者・本人・費用支払者・受益者・死後事務受任者・遺言執行者・任意後見受任者候補者・成年後見人候補者が異なる場合必ず利益相反を疑う。本人単独面談・報酬支払者確認・同席者の受益関係確認・行政書士自身の兼任確認を行い、本人意思が独立して確認できない場合や紛争性がある場合は受任を控え弁護士へ連携する。

特に、行政書士自身が受遺者または包括受遺者となる案件は、本マニュアル上は受任不可として扱い、文案作成・意思形成支援・関係整理には関与しない。

📖 次回(0-8)への接続

次回0-8では報酬・実費・預り金の説明を扱います。利益相反は報酬・実費・預り金の不透明さによってさらに悪化します。死後事務費用・葬儀費用・家財処分費用・専門職報酬・預り金管理が大きなトラブル要因になります。

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