最初に押さえたいこと

事業目的は、広ければ広いほど安心というものではありません。現在行う事業を確実に押さえ、近い将来に予定している事業と「ひょっとしたら関わるかもしれない業務」を分け、許認可がある場合は申請先の取扱いまで確認して整えると判断しやすくなります。

「この業務も目的に入れた方がよいのか」「許認可を取るなら、この書き方で足りるのか」。会社設立の準備では、こうした微妙な判断が意外と多くあります。この記事では、事業目的を広くするか狭くするかではなく、自社に必要な範囲を整理するための視点を解説します。

株式会社の場合、「目的」は定款に必ず記載しなければならない事項の一つです。会社法第27条でも、目的は株式会社の定款の絶対的記載事項とされています。

会社設立時に決める以上、現在予定している事業だけでなく、今後の展開もある程度考えておきたいところです。

ただし、「将来やる可能性が少しでもある事業をすべて入れておけば安心」と単純に考える必要はありません。大切なのは、現在の事業、将来の事業計画、許認可との関係を整理し、自社に合った事業目的を設計することです。

会社法を確認する
図解|まずは「今やる・近くやる・ひょっとしたら」で分ける
今やる事業

設立後すぐに売上や契約が発生する本業。まずここを確実に整理します。

近い将来にやる事業

開始時期や商品・サービスがある程度見えている事業。設立時に含めるか検討します。

ひょっとしたら関わる業務

依頼が来るかもしれない、関連するかもしれない段階。独立した事業として行う予定があるかを確認します。

定款の事業目的で迷いやすい3つのライン

この章で扱う主なポイントは以下のとおりです。

  • 今すぐ行う事業はどこまで具体的に書けばよいか
  • 関連業務として扱うかもしれない事業は入れるべきか
  • 将来やる可能性があるだけの事業まで書く必要はあるか

事業目的を決めるときに難しいのは、明らかに行う事業よりも、「関連して扱うかもしれない」「将来やる可能性がある」といった境界部分です。すべてを入れるのではなく、現在の事業との関係や計画の具体性を見ながら整理することが重要です。

登記上の「具体性」と、事業計画の具体性は別の話です

ここでいう「具体性」は、設立時にどこまで将来事業を盛り込むかを判断するための実務上の目安です。法務省は会社法施行後、会社の目的が具体的かどうかという観点からの登記審査は行わないとしています。一方、適法性や明確性の観点からの審査は維持されるとの整理が示されています。

法務省の整理を確認する

今すぐ行う事業はどこまで具体的に書けばよいか

現在行う予定の事業については、第三者が見てもおおむねどのような事業なのか理解できるように整理しておくことが実務上重要です。

会社法施行後は、会社の目的について「具体性」そのものは登記申請時の独立した審査対象とされていません。一方で、法務省は、目的の適法性や明確性の観点からの審査は会社法施行後も変わらないと説明しています。

したがって、「細かく具体的に書かなければ登記できない」という意味ではありません。むしろ実務では、登記だけを基準にするのではなく、許認可の申請先、金融機関、取引先など第三者が見たときに、自社の事業内容を説明しやすい表現になっているかという視点も大切です。

法務省も、目的の具体性を登記審査の対象としない一方、目的の記載が抽象的すぎる場合には、許認可や取引で不利益が生じる可能性があると注意を促しています。

一方で、実際の業務を細分化しすぎて、一つひとつ定款に書き込む必要があるとは限りません。重要なのは、「細かければよい」「広ければよい」ではなく、実際の事業を必要な範囲でカバーできているかという視点です。

法務省の最終報告を確認する

関連業務として扱うかもしれない事業は入れるべきか

本業に関連する業務であっても、「関係があるからすべて入れる」と考える必要はありません。

判断するときは、その業務が現在予定している事業から自然に発生するものなのか、それとも別の事業として展開する可能性があるものなのかを整理すると分かりやすくなります。

たとえば、建設工事を行う会社が、工事に必要な資材を自社で仕入れるだけなのか、それとも将来的に資材販売そのものを事業として行う予定なのかでは、検討の意味が異なります。

「取引の中で触れる可能性がある」というだけで目的を追加していくと、事業目的が増え続けてしまいます。反対に、具体的な収益事業として展開する予定が見えているのであれば、設立時に検討しておく意味があります。

「関係するかどうか」だけでなく、その業務を会社の事業として行う予定がどこまで固まっているかを見ることがポイントです。

将来やる可能性があるだけの事業まで書く必要はあるか

将来行う可能性のある事業を事業目的に含めること自体が問題というわけではありません。

会社設立後に新たな事業を始める可能性が具体的に見えているのであれば、あらかじめ検討しておくことで、後から目的変更が必要になる可能性を減らせることがあります。

ただし、「いつか興味がある」「知人から話が来るかもしれない」といった程度まで含めていくと、際限がありません。

目安としては、次のような状況にあるかを確認すると整理しやすくなります。

  • 開始時期がおおむね想定されている
  • 事業計画の中に組み込まれている
  • 必要な設備や人員を検討している
  • 許認可や届出について調べ始めている

「具体性のある将来計画」は、目的の登記上の必須要件という意味ではありません。あくまで、設立時に将来事業を盛り込むかどうかを判断するための実務上の目安です。

将来性を考えることと、思いつく事業をすべて列挙することは別です。自社として実際に検討している事業を中心に整理するとよいでしょう。

事業目的を広く書けば安心とは限らない3つの理由

この章で扱う主なポイントは以下のとおりです。

  • 思いつく事業を並べるだけでは会社の事業内容が分かりにくくなる
  • 「念のため」と「具体的な事業予定」は分けて考える
  • 後から追加できるからこそ設立時に全部を詰め込む必要はない

将来の変更を避けたいという理由から、事業目的をできるだけ広くしたくなることがあります。しかし、事業目的は数を増やせば安全になるものではありません。一方で、現に行う事業まで目的から外してしまうのも避けたいところです。

判例上、会社の目的の範囲は、定款に掲げられた事業そのものだけに機械的に限定されず、その目的を遂行するために必要な行為も含めて判断されるとされています。そのため、「目的に同じ言葉がない」というだけで取引が直ちに無効になると考えるのは適切ではありません。

広くするか、狭くするかではなく、「現在の本業を説明できること」と「現実的な将来計画を見落とさないこと」の両方を意識すると整理しやすくなります。

思いつく事業を並べるだけでは会社の事業内容が分かりにくくなる

事業目的を考えていると、「念のためこれも」「将来やるかもしれないからこれも」と項目を増やしたくなります。

しかし、関連性の薄い事業まで大量に並べると、会社が実際に何をするために設立されたのかが第三者から分かりにくくなることがあります。

目的の「具体性」は登記申請時の審査対象ではありませんが、法務省は、具体性を欠く目的については、許認可や取引で一定の不利益が生じる可能性があると案内しています。

そのため、事業目的を検討するときは「多い方が安心」という基準だけでなく、「自社が何をする会社なのかを説明できるか」という視点も持っておく必要があります。

現在の事業を中心に、必要性のある将来事業を加える。この順番で考えると、必要以上に事業目的が膨らむことを防ぎやすくなります。

「念のため」と「具体的な事業予定」は分けて考える

事業目的を決めるときは、「念のため入れておきたい」という気持ちと、「実際に事業として行う予定がある」という事情を分けて考えることが重要です。

たとえば、飲食店を開業する人が「将来、店の商品をインターネットでも販売したい」と考えているのであれば、食品販売や通信販売まで事業展開として検討する余地があります。

一方、「何か売ることがあるかもしれない」という程度で、あらゆる販売業を並べる必要があるとは限りません。

重要なのは可能性の有無だけではなく、その可能性がどこまで事業計画になっているかです。「半年後に始める予定」と「いつかできればよい」では意味が違います。事業開始の時期、取扱商品、取引方法などを少し具体化してみると、定款に盛り込むべきか判断しやすくなります。

なお、この「具体性」は登記上の必須要件を意味するものではありません。設立時点で将来事業を目的に入れるか判断するための実務上の整理基準です。

後から追加できるからこそ設立時に全部を詰め込む必要はない

会社設立後でも、必要な手続きを行えば事業目的を変更することは可能です。

そのため、近い将来に行う予定の事業であれば設立時に検討しておく意味がありますが、「後から絶対に変更できない」と考えて可能性のある事業をすべて盛り込む必要はありません。

もちろん、変更には株主総会での定款変更の決議や変更登記などの手続が必要になります。株式会社の目的変更登記にかかる登録免許税は、原則として3万円です。

一方で、必要な目的まで外してよいわけでもありません。判例では、会社の目的の範囲は、定款に記載した個々の事業だけでなく、その事業を遂行するために必要な行為まで含めて柔軟に判断されています。

そのため、「定款に同じ言葉がないから契約が直ちに無効になる」と過度に心配する必要はありませんが、現に行う本業を定款の目的から説明しにくい状態は、許認可、契約、金融機関との取引などで確認が必要になる可能性があるため、設立時に整理しておくと安心です。

設立時には、現在行う事業と実際に計画している将来事業を整理する。その後、事業計画が変化した場合には必要に応じて目的を見直す。この考え方の方が、実態に合った定款を維持しやすくなります。

迷った事業を入れるか判断するための3つの視点

この章で扱う主なポイントは以下のとおりです。

  • 現在の事業と実際につながっている業務か
  • 将来の事業計画として具体性があるか
  • 許認可や届出で事業目的の確認が必要になる業務か

「入れるべきか分からない」と感じたときは、感覚だけで決める必要はありません。現在の事業との関連性、将来計画の具体性、許認可との関係という3つの視点から整理すると、自社にとって必要な事業目的が見えやすくなります。

現在の取引を確認

誰に、何を提供し、どこから売上が生じるかを整理します。

→
将来計画を確認

開始時期や準備状況がある程度固まっているかを見ます。

→
許認可を確認

申請予定があれば、定款目的に関する申請先の取扱いを確認します。

現在の事業と実際につながっている業務か

最初に確認したいのは、その業務が現在予定している事業とどのようにつながっているかです。

単に同じ業界に属するだけなのか、実際の取引の中で継続的に行う可能性があるのかによって、検討の優先度は変わります。

たとえば建設会社の場合、「工事をする」という本業のほかに、資材販売、設計、管理など関連する業務が考えられます。しかし、すべての建設会社がこれらを独立した事業として行うわけではありません。

そこで、次の3点を言葉にしてみると整理しやすくなります。

  • 誰から依頼を受けるのか
  • 何を提供して対価を得るのか
  • 本業とは別に売上が発生するのか

事業目的は業界の業務一覧を作るものではありません。自社が実際に行う事業から考えることが基本になります。

将来の事業計画として具体性があるか

将来事業を入れるか迷った場合は、「やる可能性」だけではなく「計画がどこまで固まっているか」を確認します。

たとえば、「将来ECサイトも運営したい」と考えている場合でも、商品が決まっている、仕入先を探している、開始時期を検討しているなど具体的な準備が進んでいれば、設立時に事業目的として検討する理由があります。

反対に、「会社が軌道に乗ったら何か販売するかもしれない」という段階では、まだ事業内容そのものが固まっていません。

状況 検討の考え方
設立直後から行う 現在の事業として事業目的で適切に表せるよう整理します。
数か月後など開始予定がある 設立時に含めるか積極的に検討します。
将来構想として具体化している 事業内容と許認可を確認したうえで判断します。
可能性があるだけ 独立した事業として行う予定があるかをもう一段整理します。

ここでいう計画の具体性は、登記官が審査する「具体性」という意味ではありません。あくまで、自社が設立時にどこまで将来事業を盛り込むかを決めるための判断材料です。

許認可や届出で事業目的の確認が必要になる業務か

許認可が関係する事業では、通常の事業目的の検討に加えて、申請する制度との整合性を確認することが重要です。

すべての許認可で定款の目的記載が同じように扱われるわけではありません。 許認可ごと、さらには申請先の案内によって、定款や登記事項証明書の目的について確認される内容が異なることがあります。

たとえば労働者派遣事業について、厚生労働省の業務取扱要領では、定款等の目的に労働者派遣事業を行う旨の記載があることが望ましいとしつつ、他の目的項目から労働者派遣事業を行うと解釈できる場合には、明示的な記載を要しないとする取扱いが示されています。

一方、東京労働局の案内では、派遣事業開始に当たって定款に事業目的を追加する場合の表現として「労働者派遣事業」と案内されています。したがって、明示的な文言が必要かどうかは、申請先の最新の取扱いを確認することが大切です。

建設業許可では、許可の可否は、経営業務の管理体制、営業所の技術者、財産的基礎など、建設業法上の許可要件を総合的に審査して判断されます。定款の事業目的の文言だけで許可の可否が決まる制度ではありませんが、申請先によって定款や登記事項証明書の提出・確認が関係するため、目的の記載内容についても事前に確認しておくとよいでしょう。

このように、「会社を設立できるか」と「その事業に必要な許認可を取得できるか」は分けて確認する必要があります。

東京労働局の案内を確認する国土交通省の建設業許可案内を確認する

許認可が関係するときに設立前に確認したい3つのポイント

この章で扱う主なポイントは以下のとおりです。

  • 許認可によっては定款の事業目的が確認される
  • 同じような事業でも必要な表現は制度によって異なることがある
  • 申請先や専門家への確認は会社設立前に行うと手戻りを減らせる

許認可が必要な事業では、会社設立と許認可申請を別々の作業として考えないことが大切です。ただし、定款の目的がどの程度確認されるか、どのような記載が求められるかは制度や申請先によって異なります。

会社を作ってから初めて調べるのではなく、どの事業を行い、どの許認可が必要で、その制度では目的について何が求められるのかを設立前から確認しておくことで、手続の手戻りを防ぎやすくなります。

許認可によっては定款の事業目的が確認される

許認可が必要な事業を行う場合、申請時に法人の事業内容を確認するため、定款や登記事項証明書などの提出が求められ、その目的記載が確認される制度があります。

労働者派遣事業では、厚生労働省の業務取扱要領上、定款等の目的に労働者派遣事業を行う旨の記載があることが望ましいとされています。ただし、他の目的記載から労働者派遣事業を行うと解釈できる場合には、明示的な記載を要しないとする取扱いも示されています。

申請先によって案内の表現が異なることもあります。そのため、会社自体は設立できたとしても、これから申請する許認可との関係で事業目的の追加や整理が必要になる場合があります。

「登記できる表現なら、どの許認可でもそのまま使える」とは限りません。一方で、「許認可があるなら必ず細かな目的記載が必要」と一律に考える必要もありません。

許認可制度では、それぞれの根拠法令や申請先の取扱いに基づいて事業内容が確認されます。会社設立だけを基準に事業目的を決めるのではなく、設立後に予定している手続まで見ておくことが重要です。

同じような事業でも必要な表現は制度によって異なることがある

「許認可が必要なら、この言葉を書けばよい」という共通の万能表現があるわけではありません。

許認可は、それぞれ根拠となる法律、対象となる事業、申請先、審査内容が異なるためです。

労働者派遣事業

目的から派遣事業を行うことが読み取れるかが確認され、申請先の案内によっては「労働者派遣事業」という表現が示されています。既存の目的で読み取れる場合の扱いもあるため、申請先の最新案内を確認します。

建設業

定款の目的文言だけで許可の可否が決まる制度ではありません。経営業務の管理体制、営業所の技術者、財産的基礎などの要件を総合的に確認します。定款や登記事項証明書が申請書類として関係する場合もあるため、目的の記載についても申請先に確認すると安心です。

食品関係の営業

扱う食品や営業形態によって、営業許可や営業届出などの扱いが異なります。厚生労働省は現在も営業許可・営業届出に関する情報と食品衛生申請等システムを案内しており、具体的な記載方法等は管轄保健所へ問い合わせるよう案内しています。

なお、2024年4月1日には、食品の規格基準の策定などを担う「食品衛生基準行政」が厚生労働省から消費者庁へ移管されています。食品営業の具体的な許可・届出については、現在公開されている国の案内と、実際の営業施設を管轄する自治体・保健所の取扱いを確認することが重要です。

食品営業規制の案内を確認する食品衛生申請等システムを確認する食品衛生基準行政の移管を確認する

申請先や専門家への確認は会社設立前に行うと手戻りを減らせる

許認可を予定している場合は、会社を設立してから確認するより、定款を作成する段階で確認しておく方が効率的です。

会社設立後に、予定している許認可の申請先から、定款や登記事項証明書に記載された目的との整合性について修正・追加を求められることがあります。その場合は、許認可の根拠法令や申請先の取扱いを確認したうえで、必要に応じて定款変更や変更登記を検討します。

法務省も、目的が具体的かどうかについては登記審査を行わない一方、抽象的な目的の記載によって許認可や取引で不利益を受ける可能性があると案内しています。

確認するときは、次の内容まで整理して伝えると、相談もしやすくなります。

  • 実際に行う業務
  • 開始予定時期
  • 取得予定の許認可
  • 将来予定している関連事業

会社設立と許認可を一つの流れとして考えることが、余計な手戻りを防ぐポイントです。

「入れるか迷う」を具体例で考える3つのケース

この章で扱う主なポイントは以下のとおりです。

  • 建設業を予定していて資材販売にも関わるかもしれないケース
  • 飲食店を始めて将来は食品販売や通販も考えているケース
  • 本業に関連する管理・仲介・コンサルティングまで行うか未定のケース

事業目的は、抽象的な説明だけでは判断しにくいものです。ここでは、「今すぐやるわけではないが、関係するかもしれない」という典型的な場面を例に、何を確認して事業目的を考えればよいのか整理します。

建設業を予定していて資材販売にも関わるかもしれないケース

たとえば、設立後に建設工事を請け負う会社を予定しているものの、将来的に建築資材の販売をする可能性もあるケースです。

まず分けて考えたいのは、「自社工事に使うために資材を仕入れること」と「資材そのものを商品として第三者へ販売すること」です。

前者であれば建設業務の一環として行われる取引かもしれません。一方、資材販売を独立した収益事業として予定しているのであれば、事業目的として検討する意味が出てきます。

建設業では、軽微な建設工事のみを請け負って営業する場合を除き、建設業法に基づく許可が必要です。国土交通省は、軽微な建設工事について、建築一式工事では工事1件の請負代金が1,500万円未満の工事または延べ面積150平方メートル未満の木造住宅工事、建築一式工事以外では500万円未満の工事と案内しています。金額には消費税・地方消費税が含まれます。

ただし、建設業許可は定款の目的文言だけで許可の可否が決まるものではありません。一方で、申請先によって定款や登記事項証明書の提出・確認が関係するため、許可申請を予定している場合は申請先の手引きや窓口で確認するとよいでしょう。

このケースでは「建設業許可のために、実際には行わない資材販売まで念のため記載する」のではなく、資材販売そのものを自社の事業として行う予定があるかを分けて考えます。

飲食店を始めて将来は食品販売や通販も考えているケース

飲食店を開業する人が、「店内で提供するだけでなく、将来は自社商品を販売したい」と考えるケースもあります。

この場合、まず現在予定している飲食店営業と、将来予定している食品販売・通信販売を分けて整理します。

たとえば、数か月後には焼き菓子を商品化し、オンラインショップで販売する計画まで決まっているのであれば、設立時から将来事業として検討する合理性があります。

一方、「評判が良ければ何か販売するかもしれない」という段階なら、まだ具体的な事業内容が定まっているとは限りません。

食品関係の事業は、扱う食品や営業形態によって、営業許可や営業届出などの扱いが異なります。実際の営業では、「何を、どこで、どのように製造・販売する予定なのか」まで整理し、管轄する自治体・保健所へ確認することが重要です。

本業に関連する管理・仲介・コンサルティングまで行うか未定のケース

本業に近い言葉だからという理由で、「管理」「仲介」「コンサルティング」などをまとめて事業目的に入れたくなる場合があります。

しかし、似た言葉でも実際に行う業務は大きく異なることがあります。

たとえば、自社の商品やサービスについて顧客へ助言することと、第三者から報酬を受けて独立したコンサルティング事業を行うことは同じではありません。

また、「仲介」という言葉についても、何を仲介するかによって関係する法律や許認可が変わる可能性があります。人材に関する業務であれば、職業紹介や労働者派遣など、業務の仕組みによって確認すべき制度そのものが変わります。

そのため、「本業と関係がありそう」という理由だけで広げるのではなく、次の点まで具体化してみることが大切です。

  • 誰に対して
  • 何を提供し
  • どのような形で報酬を得るのか

業務の実態が見えてくると、事業目的に独立した項目として盛り込むべきか、それとも現時点では本業との関係をもう少し整理すればよいのか判断しやすくなります。

定款を作る前に整理しておきたい3段階

この章で扱う主なポイントは以下のとおりです。

  • まず現在行う事業を書き出す
  • 次に具体的な将来計画と「ひょっとしたら」を分ける
  • 最後に許認可との関係を確認して事業目的を整える

事業目的をいきなり文章にしようとすると、何を書けばよいのか迷いやすくなります。先に事業内容を3段階で整理し、その後に定款の表現を検討すると考えやすくなります。ひな形を探す前に、自社の事業を言葉にすることから始めましょう。

まず現在行う事業を書き出す

最初に、会社を設立した直後から実際に行う事業を書き出します。

この段階では、定款らしい文章にする必要はありません。

「住宅のリフォーム工事を受注する」
「飲食店を経営する」
「企業向けにWebサイトを制作する」

といった形で、普段の言葉で構いません。

さらに、「誰から仕事を受けるか」「何を提供するか」「何によって売上が発生するか」を整理すると、事業の輪郭が明確になります。

この作業は、会社が実際に行う事業と定款の目的との関係を整理するうえでも重要です。判例上、会社の「目的の範囲」は、定款に記載された事業を形式的にそのまま行う場合だけに限定されるものではなく、定款上の目的を遂行するために必要な行為も含めて判断されます。

したがって、定款に同じ表現が一字一句書かれていないからといって、取引が直ちに目的外となるわけではありません。

一方、現に行う事業を定款の目的から説明しにくい状態は、許認可、契約、金融機関との取引などで確認が必要になる可能性があるため、設立時に整理しておくとよいでしょう。

最初からインターネット上の事業目的例を見てしまうと、自社では行わない業務まで必要に見えてしまうことがあります。

まず自社の事業を書き、その後に適切な表現へ整える。この順番にすると、ひな形に事業を合わせるのではなく、事業に定款を合わせやすくなります。

次に具体的な将来計画と「ひょっとしたら」を分ける

現在の事業を書き出したら、将来やりたい事業を整理します。

ここで重要なのは、すべてを同じ扱いにしないことです。

具体的な計画として整理しやすい例
  • 半年後に通販を開始する予定
  • 翌年度から別の事業を開始する計画がある
  • 必要な許認可についてすでに調査している
まだ可能性の段階にある例
  • 依頼が来たら対応するかもしれない
  • 将来興味がある
  • 関連業務なので触れる可能性がある

この整理をするだけでも、事業目的に何を盛り込むべきか考えやすくなります。

「将来やるかもしれないから入れる」のではなく、「どこまで実際の予定になっているか」を確認することがポイントです。

なお、この「具体的な将来計画」という区分は、登記上の目的に具体性が要求されるという意味ではありません。設立時の判断を整理するための実務上の区分です。

最後に許認可との関係を確認して事業目的を整える

現在の事業と将来事業を整理したら、最後に許認可との関係を確認します。

この順番が重要です。

先に「この言葉なら許認可が取れるらしい」といった記載例を集めるのではなく、自社の業務内容を整理したうえで、どの許認可・届出・登録が関係するのかを確認します。

労働者派遣事業では、目的から派遣事業を行うことが読み取れるかが確認され、申請先の案内によっては「労働者派遣事業」という表現が示されています。

建設業許可では、定款の目的文言だけで許可の可否が決まるわけではなく、経営業務の管理体制、営業所の技術者、財産的基礎などの許可要件を総合的に確認します。一方で、定款や登記事項証明書が申請書類として関係する場合もあるため、目的についても申請先の取扱いを確認しておくとよいでしょう。

食品関係では、営業形態によって営業許可や営業届出の扱いが異なります。国の案内に加えて、営業施設を管轄する自治体・保健所への確認が重要です。

制度によって確認事項が異なるため、設立後すぐに許認可申請を予定している場合は、定款を確定する前に申請先や専門家へ確認しておくと手戻りを減らせます。

「会社を作る作業」と「営業を始めるための手続」をつなげて考えることで、より実態に合った事業目的を設計できます。

後から困らない事業目的にするために大切な3つの考え方

この章で扱う主なポイントは以下のとおりです。

  • ひな形ではなく自社の事業計画を基準にする
  • 広いか狭いかではなく必要な範囲を考える
  • 設立と許認可を別々に考えず一緒に準備する

事業目的に唯一の正解となる一覧があるわけではありません。同じ業種でも、現在行う事業、将来計画、必要な許認可によって検討内容は変わります。自社の計画を基準にし、設立後の手続まで見据えて考えることが、後から困りにくい定款につながります。

ひな形ではなく自社の事業計画を基準にする

事業目的を考えるとき、他社の定款やインターネット上の記載例は参考になります。

ただし、そのままコピーすることを前提にするのはおすすめできません。

同じ「建設業」「飲食業」「IT事業」であっても、実際に提供するサービス、取引相手、将来展開、取得する許認可は会社ごとに異なるためです。

記載例を見る前に、次の内容を整理してみてください。

  • 設立直後に何をするのか
  • どこから売上を得るのか
  • 1~2年程度で予定している事業はあるか
  • 許認可が必要な事業はあるか

そのうえで記載例を確認すると、「この表現が自社に必要か」という視点で比較できます。

ひな形に会社を合わせるのではなく、自社の事業計画を先に決め、それを表すために定款を作るという順序が大切です。

広いか狭いかではなく必要な範囲を考える

事業目的について「広く書くべきか、狭く書くべきか」と考えると、判断が難しくなります。

本当に確認したいのは、広さそのものではなく、自社に必要な範囲が含まれているかです。

現在行う事業が抜けていれば見直しが必要ですし、近いうちに具体的に予定している事業を最初から検討することにも意味があります。

判例上、会社の目的の範囲は、定款に掲げた個々の事業だけに限定されず、その目的を達成するために必要な行為も含むとされています。したがって、目的に同じ文言がないというだけで取引が直ちに無効になると考える必要はありません。

一方で、「ひょっとしたら関係するかもしれない」というだけで、関連業務を際限なく増やす必要もありません。

迷ったときは、「この会社は、この業務を事業として行う予定があると言えるか」という視点で考えてみると整理しやすくなります。

それでも判断しにくい場合は、事業そのものがまだ整理できていないか、許認可との関係を確認する必要がある可能性があります。

設立と許認可を別々に考えず一緒に準備する

会社設立を先に終わらせてから許認可を調べるより、設立準備の段階から両方を並行して考える方が、手戻りを防ぎやすくなります。

会社法上、株式会社の目的は定款の絶対的記載事項です。

一方、実際に営業を始めるためには、事業によって別途許可・届出・登録などが必要になることがあります。また、定款目的との関係がどの程度確認されるかも制度や申請先によって異なります。

労働者派遣事業のように、申請先の案内で目的への記載や、目的から事業内容が読み取れることを確認される制度もあれば、建設業許可のように、定款の目的文言だけでなく、複数の法定要件を総合的に審査する制度もあります。

食品営業についても、営業許可・営業届出に関する国の案内を確認しながら、実際の申請・相談では営業施設を管轄する自治体・保健所への確認が重要です。

そのため、設立準備では「定款をどう書くか」だけで終わらせず、「設立後、何の事業を、どの手続を経て始めるのか」まで一続きで整理することが重要です。

事業目的の一文で迷っている場合でも、その背景には事業計画や許認可の判断が隠れていることがあります。設立後の営業開始まで含めて確認しておくことで、自社に合った定款を作りやすくなります。

まとめ

定款の事業目的は、将来の可能性をすべて詰め込めば安心というものではありません。一方、現に行う事業まで削ってしまえばよいわけでもありません。現在の事業、将来の事業計画、許認可との関係を順番に整理することが大切です。

  • 事業目的は、現在実際に行う事業を出発点に考える
  • 「関係するかもしれない」と「事業として行う予定がある」は分けて整理する
  • 将来事業は、開始時期や準備状況などを実務上の目安として検討する
  • 許認可が関係する場合は、制度や申請先によって定款目的の取扱いが異なるため、定款を確定する前に確認する
  • ひな形をそのまま使うのではなく、自社の事業計画に合わせて事業目的を設計する

「この業務まで入れておくべきか」「今後取得する許認可を考えると、この内容でよいのか」と迷う場合は、目的の文章だけを見るのではなく、実際に予定している事業と設立後の手続を一緒に整理することが重要です。

特に、現在の事業と将来事業の境界が曖昧な場合や、会社設立後すぐに許認可申請を予定している場合は、定款を確定する前に整理しておく価値があります。

事業目的がまだ言葉になっていない段階でもご相談いただけます

「今やる業務は決まっているけれど、関連業務をどこまで入れるか迷っている」「将来の事業も考えているが、まだ完全には固まっていない」という段階でも大丈夫です。

相談内容がまとまっていなくても大丈夫です。
まずは現在の状況を伺い、今行う事業、今後予定している事業、許認可との関係を一緒に整理します。お手元に事業計画や参考資料があれば確認がスムーズですが、資料がそろっていない段階でもご相談いただけます。

HANAWA行政書士事務所では、会社設立だけでなく、その後に予定している許認可も踏まえながら、事業内容の整理をお手伝いしています。「今やること」「近いうちにやること」「関係するかもしれないこと」を整理してから定款を決めることで、設立後の事業展開まで見据えた準備につなげやすくなります。

HANAWA行政書士事務所に相談する

よくある質問

定款の事業目的は多めに書いておいた方がよいですか?
多ければ安心とは限りません。現在行う事業を出発点に、近い将来に具体的に予定している事業、許認可との関係を整理し、自社に必要な範囲を検討すると分かりやすくなります。「関係するかもしれない」というだけの業務は、独立した事業として実際に行う予定があるかをもう一段整理してみるとよいでしょう。
将来やるかもしれない事業も定款に入れるべきですか?
将来事業を事業目的に記載すること自体は可能です。開始時期、商品やサービス、設備・人員、許認可の調査状況などを整理し、単なる可能性なのか、実際の事業計画になっているのかを分けて考えると判断しやすくなります。
事業目的は具体的でないと登記できませんか?
会社法施行後、会社の目的が「具体的かどうか」という観点からの登記審査は行われません。一方、法務省は適法性や明確性の観点からの審査は維持すると整理しています。また、目的が抽象的すぎる場合には許認可や取引で不都合が生じる可能性もあるため、登記だけでなく設立後の利用場面まで考えて表現を整えることが大切です。
許認可を取る予定がある場合、定款の事業目的は重要ですか?
許認可によって、定款や登記事項証明書の目的が確認される程度や求められる表現が異なります。労働者派遣事業のように目的から事業内容が読み取れることが確認される制度もあれば、建設業許可のように複数の法定要件を総合的に審査する制度もあります。設立後すぐに申請予定がある場合は、定款を確定する前に申請先の最新の取扱いを確認すると手戻りを減らしやすくなります。
建設業許可を取るなら、工事や関連業務を細かく全部書く必要がありますか?
建設業許可は、定款の事業目的の文言だけで許可の可否が決まる制度ではありません。経営業務の管理体制、営業所の技術者、財産的基礎などの要件を総合的に確認します。一方で、申請先によって定款や登記事項証明書の提出・確認が関係するため、実際の事業内容を整理したうえで申請先へ確認しておくとよいでしょう。
食品販売や通販を将来考えている場合はどう整理すればよいですか?
まず、飲食店営業と、製造・販売・通信販売など将来予定している事業を分けて整理します。食品関係は扱う食品や営業形態によって営業許可・営業届出などの扱いが異なるため、「何を、どこで、どのように製造・販売するか」まで整理し、営業施設を管轄する自治体・保健所へ確認することが重要です。
事業目的が後から足りなくなった場合は変更できますか?
会社設立後に事業目的を変更することは可能です。株式会社では、定款変更のための株主総会の決議や変更登記などが必要になります。近い将来に開始する予定がある事業は設立時に検討し、その後に事業計画が変わった場合は必要に応じて見直すという考え方が実務的です。
相談するときに、事業内容や必要な許認可が完全に決まっていなくても大丈夫ですか?
大丈夫です。まずは現在行う予定の事業、将来考えている事業、取引の仕組みなど、分かる範囲から整理できます。許認可が関係する可能性がある場合も、現在の状況を伺い、確認した方がよい制度や申請先を整理していきます。資料がそろっていない段階でもご相談いただけます。

確認に使用した主な公的情報

制度や申請先の取扱いは変更されることがあります。実際の手続では、最新の公的情報と管轄窓口の案内をご確認ください。

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